1996年、6月。ドーラが泣いているのに、私は何もできなかった。
魔法省が襲撃されて、例のあの人が復活した。不安を煽るようなことだらけの新聞の、何を信じればいいのか分からなかった。早く家に帰りたかった。ドーラに会いたい。闇祓いのドーラならきっと、何が起こっているのか知っている。
「ねえ、ドーラ。どうしたの?何があったの?」
私が帰宅したとき、ドーラは珍しく家に居たけれど、その顔は涙で濡れていた。何日も泣き腫らしているんじゃないかとわかるような、ひどい顔だった。久しぶりに見るドーラの涙に、私はうろたえた。ドーラが泣いたのなんて、いつ以来だろう。少なくとも、ドーラがホグワーツに入学してからは見たことがない。いつもドーラが私にしてくれるように、私よりも背の高いドーラの背中を擦る。ドーラは私の体ごとぎゅっと抱きしめた。
「シリウスは」
声が震えていた。いつもなら明るいショッキングピンクをしている髪は、暗い紫色へと染まってしまっている。こんなにも萎れてしまっているドーラを、私は今まで一度だって見たことがなかった。ドーラはいつだって、その髪の色みたいに明るくて、いつだって私を慰めてくれる方だった。
「シリウスは、無実だったのに。とうとう、それが証明されないまま、死んでしまった」
「どう言うこと?」
困惑する私に、ドーラは途切れ途切れに話してくれた。シリウス・ブラックのこと。不死鳥の騎士団のこと。グリモールド・プレイスのこと。ハリー・ポッターのこと。
情報があまりにも多すぎて、困惑した。冷酷な大量殺人犯だと思っていた人間が無実だったと言うことにも、ドーラがその人と一緒に働いていたと言うことも。そして、私の知る、ホグワーツの上級生達の名前がそこに加わっていることも。
「ねえドーラ、何が起こってるの? 私は、何を信じればいいの?」
何がなんだか、まるでわからなかった。出来の悪い喜劇でも見せられてるような気分だ。
例のあの人が復活しただなんて、信じられない。シリウス・ブラックが無実だなんて。しかも、その、騎士団の任務で死んでしまったなんて。ドーラがそんなに危険なことをしているなんて、嘘でしょう?ねえ、いくらワクワクするような冒険が好きだって言ったって、いくらなんだって限度があるじゃない。ねえ、ドーラ。そんな危ないこと、しないでよ。
「あんたは何も心配しなくていい。ダンブルドアさえ居れば、ホグワーツは絶対安全だから」
ドーラは有無を言わせない口調でそう言って、それからまた、何も話してはくれなかった。そして、まだ騎士団の仕事が残っていると言って、涙を拭って姿現ししてしまった。
ねえ、わからない。わからないよ、ドーラ。貴方は一体何を考えてるの? 貴方達は一体、何をしようとしているの?
私が子供だから、教えてくれないの? 子供だから、何もできないと思ってるの?
あの人ならわかるから、あの人なら、ドーラを支えてあげられるから。だから、ドーラは私じゃなくてあの人と一緒に生きることを決めたの?
ドーラの瞳に映るものが、私にはまだ見えない。