December 1994

 

1994年、12月。初恋が散って泣いた時、側に居てくれたのはドーラだった。

 

その年のクリスマスには盛大なダンスパーティーがあったけれど、まだ2年生の私を誘ってくれる男の子なんて居るはずもなく、私にとっては無関係のことだった。けれど、“彼”にとっては違う。下級生だけが乗っているホグワーツ特急に揺られて家へと帰った私は、クリスマスのごちそうもプレゼントもそっちのけで自分の部屋に閉じこもっていた。

「ず、ずっと、好きだったの」

顔は涙でぐしゃぐしゃで、声は泣きすぎてガラガラ。そんな妹の様子に、クリスマスだからとケーキを片手に帰宅したドーラは驚いていた。いつもならドーラが帰って来たらすぐに玄関まで迎えに行くのに、来ないからと心配したらしい。けれど、残念ながら部屋から出る気になれなかったのだ。

「にゅ、入学してすぐの頃、階段にはまって困ってたら、『大丈夫?』って手を貸してくれて。それで、時々、宿題とかも、わかんないところ、教えてくれて。すごく、優しくて」
「あんたと言い私と言い、どんくさいのは一体誰に似たのかしら」

ドーラが首を傾げながら、クッションを抱きしめてしゃくり上げる私の背中を擦ってくれる。手紙に書いていたから、ドーラは私に好きな人が居ることは知っていて、失恋したと聞いてもそれほど驚きはしていないようだった。むしろ、ドーラに言わせれば「たかが」失恋ごときでクリスマスをボイコットしている私に半分呆れているようだった。

「それで? 何で失恋したってわかったの」
「ク、クリスマスに、ダンスの相手にチョウ・チャンを誘ったって」
「そりゃ、誰か誘わないわけには行かないでしょ。代表選手なんでしょ? 一人で踊るなんて無理なんだから」
「そ、……そうだけど……」
「悲しいのはわかるけど、言わなきゃ伝わるはずないじゃない。相手はマッド・アイってわけじゃないんでしょ?」

悔しいけれど、ドーラの言う通りだった。私は貴方が好きですと、ちゃんと伝えたわけじゃない。パーティーに一緒に連れて行ってとお願い出来たわけでもない。ただ見てただけ。好きだっただけ。何にもしてないくせにうじうじ泣いているだけなんて、悲劇のヒロイン気取りと笑われても仕方ない。でも。

「私、セドリックのこと、すごく好きだったの」

この恋が叶うなんて思ってたわけじゃない。セドリックが私を好きになってくれるなんて思ってたわけじゃない。寮の後輩だから、親切にしてくれてただけだ。私がちょっとトロいから、放っておけなかっただけだ。17歳で大人びていて、背が高いセドリックと、12歳のチビが釣り合うはずがない。けれど、それでも、セドリックに恋人ができてしまったと言うのはショックだった。

「まあ、初恋は実らないものだって言うしね」
「…………ドーラも?」
「まあ、うん、そんな感じね。はっきり失恋したってわけじゃないけど、もう10年以上も会ってないし」

食べる?とドーラが買ってきたケーキを一切れ差し出す。ドーラは既に3切れ平らげたようだった。母さんが作ったごちそうは食べ損ねてしまったから、今更お腹がすいて来た。ベッドから体を起して、ドーラの隣へと座る。艶々した大きな赤いイチゴが乗ったショートケーキは、食べて食べてと誘ってるみたいだ。

「……でも、セドリックの相手がチョウでよかったなって思うの」

甘ったるいはずのホイップクリームは、涙が混ざって少ししょっぱい。それでも卵とミルクがたっぷり入ったふわふわのスポンジは優しい味がして、ほんの少しだけ優しい気持ちになれる気がした。苦い紅茶と一緒に最後の一口をごくんと飲み込む。

「チョウは可愛いし、優しいし……クィディッチの選手もやってて……皆の憧れなの。チョウなら、とってもお似合いだと思う」

今頃、きっと、二人は綺麗なドレスローブを着て、上級生達の前で踊っているんだろう。帰宅する前に見た大広間は、つららがキラキラ光って、真っ白でとても綺麗だった。きっと、パーティーの間はもっともっと綺麗なんだろう。

「私もパーティー行きたかったな」

3年生の女の子の中には誘われてパーティーに行った女の子も居るみたいだけれど、2年生は誰も行ってない。ダンスが踊りたいわけじゃないけど、パーティーは行きたかった。もっとも、誰か誘ってくれなきゃパーティーなんてつまらないんだろうけど。フォークをくわえたまましょんぼりと肩を落としていると、ドーラが私の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。

「あんたも可愛いわよ。それに、いい子だし。あと数年したら、きっと男の子がほっとかないわ。まあ、私ほどじゃあないけどね?」

そう言ってドーラは、ぎゅっと目を瞑って、豚の鼻へと変えて見せる。他の部分はいつものドーラのままだから、すごくへんてこな顔。思わず悲しいのも忘れて、笑ってしまった。そりゃあ、今は涙でぐちゃぐちゃのひどい顔だけど、いくら何だって、今のドーラよりは可愛いはずだ。
それからホグワーツに戻って、私はセドリックに告白した。言わなければ何も伝わらない。結果はもちろん「ごめんね」だったし、ちょっと泣いたけど、それでもちゃんと伝えられたことに満足だったし、ドーラは頑張ったねと手紙で褒めてくれた。
そしてその半年後、セドリックの死に泣いた私を慰めてくれたのも、やっぱりドーラだった。

いつだって私が嬉しい時や悲しい時に、側に居てくれたのはドーラだった。

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