September 1993

 

1993年、9月。期待に胸を膨らませて入学したホグワーツで、ドーラの存在は燦然と輝いていた。

 

魔法界の子供なら、誰もが指折り数えて待つその日。真紅の蒸気機関車に揺られて、辿りついた荘厳な美しい石造りの城。真新しい黒いローブの1年生の群れの中に、もちろん私も立っていた。
ドーラと同じ寮が良い。そう望んだ私の言葉をすんなりと聞き入れて、組分け帽子は私をハッフルパフへと入れてくれた。私の胸にあるネクタイは、かつてドーラが付けていたのと同じカナリアイエローだ。

「君、トンクスってことは、あのトンクスの妹だろ?」

他寮から下に見られることも多いハッフルパフ。そんな中で、最難関とされる闇祓いへと進んだドーラは、ハッフルパフの生徒達にとって憧れのようだった。その妹として、私は穏やかな気質のハッフルパフ寮で居心地良く過ごすことができた。

「七変化も、魔法の才能も。優秀な母親の血は全部お姉さんに行って、あんたには穢れた血の父親の分しか残らなかったみたいね」

そんな風にスリザリン生からからかわれることもあったけれど、気にならなかった。確かに私はドーラと違って魔法の才能には恵まれていなかったけれど、その代わりドーラに欠けている「お行儀良くする才能」があると家族には愛されていた。コンプレックスが欠片もないかと言われれば、もしかしたら多少はあったのかもしれない。けれど、そんな劣等感なんて霞んでしまうほど、ドーラのことが好きだった。

「ルーピン先生。質問してもいいですか」

ドーラはドーラ、私は私。でも、だからって私は勉強ができなくてもいいって言い訳にはならない。それに、あんまり私が落ちこぼれていると、ドーラの名誉まで汚してしまうような気がして、できる限り頑張らなければいけないとは感じていた。私の持ってきたレポートを読むルーピン先生の肩越しに、窓からディメンターの姿が見えた。ここまでは近づいて来れないとわかっていても、存在を感じるだけで憂鬱になる。

「シリウス・ブラックなんて、早く捕まっちゃえばいいのに」

ぽつりと小さく呟く。うんざりだった。気味の悪いディメンターが学校の回りを漂っているのにも、あの人って貴方の親戚なんでしょなんて同寮生から言われるのにも。会ったことすらない親戚のことでごちゃごちゃ言われるなんて楽しいはずがない。それに加えて。

「ドー……姉が、闇祓いなんです。まだ、研修中だけど。でも、ブラックが脱獄したせいで最近すっごく忙しそう」
「へぇ。すごいね。ここ数年は採用していないって聞いていたけれど、よほど優秀なんだろう」

ただでさえ忙しいドーラの手を煩わせると言うのは大変よろしくない。私への手紙の返事が遅れてしまうほど忙しいと言うのは大変よろしくない。思わず零してしまった愚痴に、ルーピン先生は感心したように息を吐いた。そう、ドーラはすごい。ちょっぴり誇らしい気持ちで微笑む私に、ルーピン先生は笑いかけた。

レイチェル。君は、将来何になりたいの?」
「……私?」
「そう。他の先生達からも、随分勉強熱心だって聞いてるからね」

ぱちりと目を見開いた。職員室でそんな会話がされていたと言うのは驚きだった。確かによく質問に行っているけれど、それはわからないところが多いからだ。勉強が苦手だから、置いていかれないように熱心になるしかないだけなのだ。

「……笑いませんか?」
「笑う? どうして?」
「……私、あんまり成績良くなくて、その……」
「まだ1年生じゃないか。それに、目標を高く持つのはいいことだよ」

まごついてもそもそと喋る私に、ルーピン先生は穏やかに笑いかける。
夢はある。けれど、それを夢だと口にするには、まだまだ私は力不足で、身の程知らずのような気がする。けれど、ルーピン先生なら馬鹿にしないかもしれない。

「……癒士になりたいんです。姉がそんな風に危険な仕事をしているから、少しでも支えられるように」

ドーラが闇の魔法使いと戦って怪我をしたとき、私のところに飛んで来てくれたら、すぐに直してあげられるように。でも、癒士になれる人は、ほんの一握り。闇祓いと同じくらい、狭き門。だから、ずうずうしい気がして、恥ずかしくて、父さんにも母さんにも言ってない。誰も知らない、私だけの夢。

「その強い気持ちがあれば、きっとなれるよ」

笑われはしなくても、無理だと言われてしまうかもしれない。そう思ったけれど、ルーピン先生はいつもの微笑みを浮かべたままで、優しい手つきでぽんぽんと私の頭を撫でてくれた。優秀な先生だと上級生が褒めているルーピン先生が、自分の夢を応援してくれたことに、ほっとした。

「お姉さんのことが大切なんだね」
「はい! ドーラは私達の自慢なんです」

笑って、胸を張る。ドーラが褒められると自分のことのように嬉しかった。ドーラの妹と、添え物のように扱われても、気にならなかった。だって他の人達にとってドーラのおまけでも、彼らの憧れるドーラにとっては、私はたった一人の大切な妹だったからだ。強くて、優しくて、楽しいドーラ。大好きな姉。

ドーラは私の、誇りだった。

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