下心のない優しさのなさ

そんなきっかけで、ハリーと私は友達になった。

「ね、ハリー。今日、こっそりうちに遊びに来ちゃえば?」
「無理だよ。ペチュニア叔母さんが許してくれると思えないし……」
「えーっ。うちの花壇で、また花が咲くか試してみたかったのに」
「………まだ言ってるの、それ」
「実験はまあ、今度でもいいけど。……もうちょっと話したいのに。私がハリーの家に行く……と、あのダドリーが居るのよね」

でも、表向きは今までと大して変わらない。理由はハリー自身も、私がハリーと仲良くしているのをダドリーに気づかれるのを心配していたから。さすがにダドリーも女の子相手に殴りかかったりはしないんじゃないって言ってみたけど、そもそもハリーが言うには、ダドリーやダドリーの両親はハリーが1人ぼっちでみじめに過ごしている方が嬉しくて、ハリーに味方ができることを喜ばないだろうってことらしい。ハリーの表情があまりに憂鬱そうだったから私はただ「そうなんだ」って相槌を打つだけだったけど、正直さすがにハリーの考え過ぎなんじゃないかと思った。だって、シンデレラの継母達じゃあるまいし、そんなことってある?

「学校で毎日話ができる相手が居るってだけでも、今までよりずっといいよ」

そう言ってハリーは笑ってみせたけど、私はちょっと気まずくなった。だって、つい数日前までは私も「ハリーの存在をほとんど無視するクラスメイト」の1人だったから。たぶん、あの日偶然ハリーが通りかからなければ、今もきっとこんな風に話すことはなかっただろうし。

「ダドリーって、家でもあんな感じなの?」
「ウーン……まあ、学校でほどひどくはないかな。ゲームをしたりお菓子を食べるのに忙しいから。ピアーズ達が来たときは最悪だけど……本当、ずーっと食べてばっかりだよ。昨日だって、こんなに大きいケーキをさ……」

ハリーが言うように、ハリーの叔母さん達がハリーを憎んでいるのかどうかは、私にはよくわからない。ハリーの叔母さんとは、実はちょっとだけ話したことがある。引っ越してきてすぐの頃にママとダーズリーさんの家の前を通ったとき────勿論そのときはそれが同級生の家だなんて知らなかった────ちょうどハリーの叔母さんが前庭の手入れをしていて、ママとすっかり話しこんでいた。素敵なお庭だってママが褒めたらパンジーの苗を分けてくれて、ちょっと神経質そうだなとは思ったけど、そんなに嫌な感じのする人じゃなかった。まあ、叔母さんが話してた「ダッダーちゃん」に関しては、てっきり悪戯好きな5歳くらいの男の子なのかなとは思ったけど。

ハリーの言葉を嘘だと疑うわけじゃないけど、ハリーの気のせいだといいなって思う。

でも、確かにこの学校で1番大きくて、でっぷり太ったダドリーと、小さくてやせっぽちのハリーを見ていると、食事の量にはかなりの差がありそう。私が思うに、ダドリーがあんまりわがままで意地汚いから、ハリーの叔母さん達はダドリーの面倒を見るのに忙しすぎてハリーに構えないんじゃないかしら。服も……ダドリーがサイズアップしすぎてすぐに新しいのを買わなきゃいけなくなっちゃうから、ハリーの分まで買えないだけ。新しい眼鏡を買ってもらないのも、ダドリーが乱暴してすぐ壊しちゃうから。眼鏡ってすごく高いらしいし。叔母さん達は本当はダドリーとハリーを同じくらい愛してるんだけど、問題児のダドリーと違ってハリーは賢いから、目を離しても大丈夫だって甘えてるんだわ。つまりそう、何もかもダドリーが悪いのね。ダドリーが居なければ、ハリーだってきっと友達と楽しく過ごせたのに。
その大きなケーキだって、きっとハリーは1切れしかもらえなくって、ほとんどダドリーが食べつくしちゃうんだろう。うちに遊びに来てくれれば、ママの焼いてくれたケーキを私の分もハリーにあげるのに。学校の中で、私自身がハリーのためにできることって、あまりにも少ない。

「ねぇ、レイチェル。あの子と仲良くするの、やめた方がいいよ」

ダドリーやハリーの叔母さんに気づかれちゃいけないから、2人で話すときはいつも人目を見計らっていたはずなんだけど。それでも、どうやら友人達の1人に見られてしまっていたらしい。やけに深刻な雰囲気でそう言われて、私はちょっと戸惑った。

「心配してくれてありがとう。ダドリーには見られないように気をつけるわ」
「ダドリーのこともだけど……急に言われても信じられないだろうと思って黙ってたけど、ハリーってちょっと気味が悪いんだもん」

彼女の話によれば、ハリーの周りでは不思議なことが起こることは、今までにも何度かあったらしい。
ハリーが世話してた金魚が青色に変わってしまったり、ダドリー達に追いかけられていたハリーが急に自分では登れないはずの高い場所に移動していたり。どうやら、学校の中ではハリー自身も十分「問題行動」(この場合ってこの表現で合ってるのかしら?)があると言うことになっていて、ハリーが腫れ物扱いされている理由はダドリーの存在だけではない、と言うことらしい。

「でも、そのせいで誰かに迷惑をかけたり、怪我をさせたってわけじゃないでしょ?」
「そうだけど……」

きっと彼女が求めている反応はこれじゃないだろうことはわかっていたけれど、私は何だかワクワクしてしまった。やっぱり、超能力か魔法みたい。たくさん転校して何百人って子供と出会ったけれど、魔法が使えるクラスメイトなんて初めて。

「……ハリーと話すの、すごく楽しいの。だから皆にも仲良くしてほしい、なんて言うつもりはないけど……少なくとも私は、ハリーとこれからも仲良くしたいって思ってる」
「……ああ、そう」

『別に、友達ってわけじゃないの』。『彼、いつも1人だから、放っておけなくて』。
そんな風に困った顔をしてみせた方が、きっと目の前の友人は安心するし、納得してくれる。頭の片隅ではそうわかっていたけれど、どうしてかそのときの私はそうする気分にはなれなかった。

「ねえ、まさかとは思うけど……もしかして、好きなの? ハリーが?」

怪訝そうな、それでいて馬鹿にした口調に、私はギュッとスカートを握りしめた。ハリー「なんか」を好きになるなんて皆から冷やかされて笑われて当然だと、はっきり言葉にしなくても彼女がそう考えているのがわかってしまったからだ。

「…………だったら何?」

だとしても貴方には関係ないでしょうと、私の方もわざと意地悪くて冷たい声を出した。
どうしてか、ものすごく苛立っていて、ひどく攻撃的な気分だった。理由はわからない。ハリーのことを侮っていたのは私だって同じだ。面倒事に巻き込まれたくなくて、ハリーが1人ぼっちなのを見ないフリしていたのだって同じ。ちょっとしたきっかけがなければきっと今もハリーを避けていたのだろうから、私に彼女を責める権利なんてない。でも、彼女がハリーを悪く言うことに、ものすごく腹が立っていた。

「……せっかく、アリスのために教えてあげたのに。後悔しても知らないから!」

そう。私はものすごく怒っていた。このことがきっかけで彼女と仲違いしてしまったとしても、クラスで仲間外れにされたって構わないって思うくらい。
でも、それはたぶん、ハリーのためだけじゃなくて。彼女が言ったみたいに、ハリーのことが好きだったから────好きな人を悪く言われたからと言うのとも、たぶん違った。

もしかしたら、あのときの私はただ、私が「特別」だと惹かれたハリーの不思議な力を、彼女がまるで何か良くないもののように言ったことが許せなかっただけなのかもしれない。

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