「ねえセド、どっちがいいと思う?」

────正直、どちらでもいいんじゃないだろうか。
セドリックは両手に持った髪飾りを示して首を傾げてみせる幼馴染を見返した。どちらかが明らかに似合わなければ勧めようもあるが、この場合は完全に好みの問題だろう。しかし、それをそのまま口に出してしまうのは危険だとセドリックは知っている。

「どっちも似合うと思うよ」

セドリックは微笑んで返した。実際、どちらでも似合うだろうと思っているのは事実なので問題はない。己の意見を言わないと言う点では変わらないが、言い方ひとつで印象は変わる。セドリックの返事に、レイチェルは「参考にならない」と文句を言いつつも、機嫌を損ねた様子はない。
母さんもそうだけど、女の子ってどうしてこんなに買い物で迷うんだろう。セドリックはぼんやりと考えた。

「オレンジが一番可愛いけど、でも制服で使うならパープルの方がいいし……」

レイチェルは相変わらず、真剣な顔で悩んでいる。
セドリックはチラと壁に掛けられた時計を見た。うんうん唸りながら悩んでいるレイチェルは、かれこれ10分はその場から微動だにしていない。ちなみに店に入ってから10分ではない。セドリックがさっき時計を見てから10分だ。そしてそれだけ思案してもなお、どうやらまだ決まりそうにない。その間セドリックは何をするでもなく、カカシのように突っ立っているしかなかった。
僕、他の店見て来ていい?と言い出さないのは彼の母親による紳士教育の賜物と言える。ちょっと見るだけだからと言われて、素直にそれを信じて店の中まで付いて来てしまった己の軽率さを後悔した。こんなことなら、最初から別行動にしてクィディッチ用品店でも冷やかしてるんだった。

「そちらの商品、とっても人気なんですー。今日入ったばかりの新色でミントグリーンも可愛いですよ。あとやっぱり、ワインレッドも人気ですね」
「わあ、そっちも可愛い……!」

ホグワーツの生徒さんですか?そうなんですー。寮はどちらですか?レイブンクローです。あー、じゃあ赤は避けた方が良いも知れないですね────。
店員の登場により、レイチェルはセドリックの存在を忘却したらしい。きゃあきゃあと盛り上がっている2人に、セドリックは壁に凭れかかった。店内を回って暇をつぶそうにも、女の子向けの雑貨しか置いていない店にはセドリックの興味を惹くようなものは置いていない。キラキラしたものやパステルカラーで埋め尽くされた空間は、正直言ってあまり居心地がいいとは言えない。セドリックは浅く溜息を吐いてそっと目を閉じた。

 

 

「待たせてごめんね、セド。退屈だったでしょ?」
「そうでもないよ」

結局セドリックが無事店を出ることができたのは、それからさらに15分後だった。
申し訳なさそうに眉を下げるレイチェルに、気にするなと笑う。正直退屈だったし待ちくたびれたよと素直に言うこともできるが、謝罪を口にしている人間に対してそう返せるのは善良な彼には気が咎めた。

「結局どれにしたの?」
「どれって言うか……えっとね、3つ買ったの」
「……3つ?」

何でもないことだと言いたげな口調に、セドリックは口端を引きつらせた。増えている。ちらと視線を投げれば、確かに、1つだけ買ったにしては包みが大きいような気がする。結局全部買うのならあんなに迷った意味は何だったのかとか、言いたいことはあったが、とりあえずは。

レイチェル。そりゃ、お小遣いの範囲なら自由だけど……あんまり無駄遣いはよくないよ……」

正直さっき悩んでいたときはセドリックもそんなに迷うなら両方買えばいいんじゃないかと思ったが────確かにそう高いものではないのだろうけれど、だからと言ってあまり褒められた金の遣い方ではない。眉を下げるセドリックに、レイチェルはクスクスと笑ってみせた。

「違うわよ。全部私が使うんじゃないもの。せっかくたくさん種類があるんだから、おそろいで使おうと思ったの。パメラがパープルで、エリザベスがペールブルー。私がミントグリーン」

素敵でしょう、とレイチェルがはにかむ。
こう言う時、セドリックはレイチェルって女の子だよなあと思う。セドリックだって買い物は嫌いじゃないが、レイチェルみたいに似たような柄の服のどちらを買うか決めるのに1日迷ったりはしない。
可愛いノートが買えただけで1日中ニコニコしているし、欲しかった靴が足に合わなかっただけでびっくりするぐらい落ち込む。母さんの買い物は長いと父親はよく溜息を吐いているが、その気持ちは少しわかる。

「ねえセド、フローリアン・フォーテスキューに行かない? 待たせたお詫びにアイス奢ってあげる!」

セドリックを振り返ったレイチェルが、ね、と笑う。ふわりとワンピースの裾が広がった。
迷うのが楽しいと言う、女の子の買い物の楽しみ方はセドリックにはよくわからない。けれど、まあ、幼馴染の機嫌が良いと、セドリックの気分も悪くないのは確かで。
燦々とした日差しが、白い石畳を照らし出している。ああ、確かにこんな天気の中で食べるアイスクリームはおいしいだろう。

たまにはこんな日も悪くない。そんなことを思う夏の午後だった。

幼馴染と買い物

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