クリスマス休暇が終わり、新学期が始まっても、結局、ハリーの探し人に進展はなかった。
もう一体いくつの本棚を調べたかもわからないほど────ハーマイオニーはそれさえもしっかり把握しているようだが────3人でたくさんの本を読んだと言うのに、相変らずフラメルのフの字すら見つからない。ただでさえ先の見えない調べ物に加えて、ハリーには来たるべきハッフルパフ戦に向けて、クィディッチの練習の時間が以前の倍に増えていた。日に日に厳しさを増すウッドのしごきにはヘトヘトになったが、次の試合の重要さを考えればウッドの意気込みはハリーにも理解できた。勝利すれば、7年ぶりにグリフィンドールが首位に立つのだ。

「ねぇ、ハリー。あなたが言っていた、あの女の子のことなんだけど」

その日も雨の中での練習でずぶ濡れになったハリーが夜遅くようやく談話室へと戻ると、ハーマイオニーが暖炉の前でハリーを待っていた。辺りを見回してみても、ロンは居ない。どうやら先に部屋に戻っているようだ。そうして真剣な表情で切り出したハーマイオニーに、ハリーはぱちりと瞬きをした。

「私、その女の子って、レイチェルなんじゃないかと思うの」

練習ですっかり疲れきっていたせいもあって、ハリーはハーマイオニーが何を言おうとしているのか理解するのにしばらく時間がかかった。クリスマスに贈られた透明マントのこと、みぞの鏡のこと、次の審判にどうしてかスネイプが立候補したこと────。考えるべきことが山ほどあったせいで、あの女の子のことはほとんど忘れかけていた。

レイチェルって、君がいつも図書室で勉強してる人だよね」
「ええ」
「その人は違うよ」

正直、今は1秒でも早く部屋に戻って寝たい。早くこの会話を終わらせたいと言う苛立ちが滲み出てしまったせいか、いつになくキッパリとしたハリーの口調に、ハーマイオニーは怪訝そうな表情になった。

「どうして言いきれるの? ハリー、あなたはレイチェルには会ったことないでしょ? だって、私達が図書室に居る金曜日は、あなたはいつもクィディッチの練習じゃない」
「アー……えっと、その……前に1度君達が勉強してるのを見たことがあるんだ」

まさか、こうやって仲良しになる前に「ガリ勉で知ったかぶりのハーマイオニー・グレンジャーの友達」がどんな人なのか気になってコッソリ覗きに行った」なんて正直に言えるはずもなく、ハリーはモゴモゴと口の中で言葉を転がした。そんなハリーの様子にハーマイオニーは不思議そう顔をしたが、どうやら一応は納得してくれたようだった。

「でも、それって遠目に少し見ただけってことでしょう? 1度、ちゃんと会って確かめてみたら?」
「いいよ……だって、その人は絶対違うから」

時間が経つにつれて、確かにあの女の子の記憶はハリーの中でも随分とぼやけてきてしまっているけれど、あんな目を見張るようなすごい美人でなかったことだけはハッキリしている。条件だけ見れば、ブロンドでもないし、髪が長いし、レイブンクロー生だし、探しているあの女の子に当てはまってはいるけれど────でも、違うものは違うのだ。わかりきっていることを、わざわざ確かめる必要もないだろう。それに、会ってみたところであのお姫様みたいな人とハリーではロクに会話が続く気がしない。

「でも……」
「もういい? ハーマイオニー。僕、疲れてるんだ」

ハーマイオニーはまだ納得していなさそうだったけれど、ハリーはそこで話を切り上げた。ふあ、と欠伸を噛み殺しながら部屋へと向かった。また、「レイチェル」だ。そう言えば、あの図書室に行った日────つまりフレッドとジョージに相談した日、2人の口から最初に出たのも「レイチェル」だった気がする。アンジェリーナ達と言い、どうしてかあの女の子の話題になるとその名前を聞く機会が多いなと、疲れた体をベッドに横たえながら、ハリーは小さく溜息を吐いた。

 

 

「例の件。やっぱり、気になったからレイチェルに聞いてみたの」

それで話は終わったものだと、そんな会話をしたことすらすっかり忘れかけていたハリーは、数日後、再びハーマイオニーにそう切り出されてギョッとした。あれだけはっきりと違うと否定したのにと驚きもしたけれど、それよりもだ。

「僕が彼女を探してるって、言ったの!?」
「もちろん、直接ハッキリ聞いたわけじゃないわ」

あなたが秘密にしたがってることくらいわかってるわよと、ハーマイオニーが呆れたように言った。その返事には少しホッとしたが、やっぱり何だか心臓に悪い。ハーマイオニーの言う「レイチェル」は無関係だとわかっているからこそ、余計に。

「あなたが会ったその女の子は、1人でダイアゴン横丁に来ていたんでしょう? だから、 レイチェルに聞いてみたの。夏休みにダイアゴン横丁に買い物に行ったときのこと、さりげなくね。そうしたら、幼馴染やそのご両親と一緒だったって言ってたから。やっぱり、あなたの言ってたとおり、違ったみたい」

ハーマイオニーが残念そうに溜息を吐く。だからそう言ったじゃないかと文句を言いたいのをグッと飲みこんで、ハリーは深呼吸した。今、魔法史のレポートをほとんどそのまま写させてもらっているこの状況を考えれば、ハーマイオニーを怒らせるのは得策ではない。

「……もう、いいんだ。ハーマイオニー。あの女の子の話は忘れて」

ハーマイオニーがハリーのためを思って行動してくれたことは明らかだし、彼女の知識欲にはハリーにも大いに助けられているけれど、あの女の子に関しては話が別だ。ハリーは別にハーマイオニーに一緒に彼女を探してもらいたいとは思っていなかったし、ましてハリーの知らないところで勝手に探されるのはどちらかと言えば遠慮したい。

「それより、ニコラス・フラメルだよ。僕の探してる女の子のことなんて、気にしなくていいから」
「でも、その人のことだって探してるんでしょう? だったら……」
「別に、どうしても会いたいってわけじゃないし……どうだっていいんだよ。本当に」

言っていて、どうしてかチクリと胸を痛んだ。ハーマイオニーはまだ何か言いたげだったが、結局は調べ物に戻ることにしたらしい。
ハリーは羽根ペンを止めて、ぼんやりと窓の外を眺めた。別にどうしてもあの女の子に会いたいわけじゃない。それは本当だ。そもそも、きっとホグワーツに行けばすぐに会えるだろうと思っていて、こんなに見つからないなんて考えてもいなかったから。
それに、ここのところクィディッチの練習やフラメルのことで頭がいっぱいで、こうして話題に出されない限りはあの女の子のことを考える暇なんてなかった。フレッドジョージもやっぱり練習で疲れているから、2人に協力してもらっての人探しも中断したままになっている。ハリーがそうしてくれと言ったからだ。今はグリフィンドールの勝利やフラメルのことに集中したい。

「あっ……」
「どうかしたの?ハリー」
「いや……別に」

本から顔を上げたハーマイオニーに、ハリーは何でもないと誤魔化した。今、窓の外を通りかかった上級生があの女の子に少し似ている気がした、なんて。さっきの会話の手前、ハーマイオニーに伝えるのは、何となく気が引けた。でも、横顔しか見えないけれど、よく見たら首元のネクタイは緑だ。それに、ハリーの記憶よりも髪がかなり長い。明らかに別人だ。

そう。別に、あの女の子にどうしても会いたいわけじゃない。それなのに────こうして彼女に似た後ろ姿を目で追ってしまうのは、どうしてなのだろう。

別に大したことじゃない

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