11月になると、ハリーの毎日はますます忙しくなった。
ハロウィーンの夜にあった出来事をきっかけに、ハリーには新しい友人が増えた。何と、あのハーマイオニー・グレンジャーだ。彼女のおかげで、ハリーはどうにか連日のクィディッチの練習と課題をこなすことができていた。「ガリ勉で知ったかぶり」────そう苦手に思っていたのが嘘のように、ハーマイオニーは今ではハリーにとって大切な友人だ。けれど、ダイアゴン横丁で会ったあの女の子のことは、ハーマイオニーには話していなかった。これ以上ハリーの「人探し」について知る人間を増やしたくはなかったのだ。
「うちの学年だとこれで最後だな」
あれ以来、フレッドとジョージはハリーの言った条件に当てはまった女の子のリストを作り、1人1人ハリーに確認させてくれた。大広間での食事の時間や、休み時間の廊下、放課後の中庭や図書室。ロンと当てもなく彼女を探していたときとやっていることは同じはずなのに、2人のおかげでその「確認作業」は驚くほどスムーズだった。1人、また1人とハリーと同級生を引き合わせる2人は、まるで同級生達の居場所を把握しているかのようだ。
「一応確認だけど、レイブンクロー生って言うのは確かかい?」
「本人がそう言ってたんだ……間違いないはずだよ……たぶん」
ハリーはまごつきながら答えた。自分はレイブンクロー生だと、確かにそう言っていたのだ。嘘を吐いているとは思えなかった。そもそも彼女がハリーに嘘を教えるメリットもないだろう。嘘だったとしたら、一体何のために?
「さっきの人で、君達の学年の女の子は最後なの?」
「俺達の学年で、レイブンクローで、君の言った条件に当てはまる女子はな」
「正確に言うと、何人かは除いてる。エリザベスとかレイチェルとか……君がダイアゴン横丁に行った7月31日はそもそもイギリスに居なかったって話だからな。心配なら、一応確認するかい?」
ジョージの質問に、ハリーは静かに首を横に振った。2人がそう確認してくれた上のことなのだから、きっと間違いないのだろう。自分達だってハリー以上に忙しいに決まっているのに、協力している2人を疑っているわけじゃない。ただ────。
「何か気になることでもあるのかい?」
「えっと、その……実は……」
フレッドとジョージが引き合わせてくれた同級生のレイブンクロー生達の中に、この間アンジェリーナやアリシアと一緒に居た、あの女の子は居なかった。
あのときは、何となく違うんじゃないかと思ったけれど────こうやって何人もの女の子を見た後に改めて考えてみると、やっぱり彼女が1番似ていたような気がする。
「何だ。それなら本人達に聞いてみろよ。おーい、アンジェリーナ!」
ハリーが話し終えた次の瞬間、フレッドが談話室の向こう側に向かって呼びかけたので、ハリーはギョッとした。ちょうど、アンジェリーナとアリシアが肖像画を抜けて談話室へと入ってきたところだった。
「あの、僕……」
「ダイアゴン横丁で会ったってとこを言わなきゃいいさ。落し物を拾ったとか、適当に誤魔化しちゃえよ」
────仲良しのハーマイオニーにすら、話していないのに!
ハリーが焦ると、ジョージが小さく囁いてウインクした。確かに、それなら……それなら、不審に思われないだろうか?いや、でも……。
「何? どうしたの?」
「ハリーが君達に聞きたいことがあるんだってさ」
フレッドに手招きされて、不思議そうな表情のアンジェリーナとアリシアがこちらへ歩いてくる。フレッドがそう言ってハリーを示したので、2人の視線がハリーに向けられた。ハリーはやっぱりまだ戸惑っていたが、意を決して口を開いた。
「アー……その……前に僕のことをシーカーだって紹介した、君達の友達……わかる?」
「んー……そんなこともあったような……? いつだっけ?」
「ハリーがシーカーになった頃……ってことは9月?」
ハリーの覚悟もむなしく、アンジェリーナとアリシアはあまりピンと来てない様子だった。言われてみれば確かに、もう2か月近くも前のことで、しかもほんの数分会話しただけなのだ。覚えていなくても無理はないのかもしれないけれど。
「その……レイブンクローの女の子で、髪が長くて……おとなしそうな感じの……」
せっかくの手がかりを逃したくなくて、ハリーは言葉を重ねた。結構可愛い子だった、と続けようとして、ハリーは言葉を飲みこんだ。あとでフレッドとジョージにからかわれそうな気がしたからだ。ハリーが言葉を切って視線を泳がせると、アリシアがあっと声を上げた。
「わかった。それ、レイチェルのことじゃない?」
アリシアはきっとそうだと言いたげに表情を明るくしたが、ハリーは思わず眉を下げた。
“レイチェル”。その名前は、ハリーが1番最初に2人に教えてもらって確認した人だ。ハーマイオニーの口からよく名前を聞く、図書室で会う年上の友達。
「レイチェルっておとなしそうか?」
「パッと見た感じの印象だとそうじゃない?」
「まあ、フレッド達にはわからないかもね!悪戯で怒らせてばっかりだし?」
怪訝そうに言うフレッドに、アンジェリーナがクスクス笑う。ハリーは図書室で見た人物を思い浮かべた。あのお姫様みたいな、虫も殺せなさそうな人が、2人の悪戯に怒る────。どうにかその光景を想像しようとしてみたけれど、何だかうまくいかない。そして、どうにも話が逸れかけている気がする。
「えっと、その人はたぶん、違うんだ。レイチェルって、ハーマイオニーと一緒に勉強してる人だよね。それとも、君達の学年にはレイチェルって名前のレイブンクロー生が2人居たりする?」
「いいえ。1人だけよ」
「えー……? レイブンクローの女子で、私達の友達で……ハリーと一緒に会って……レイチェル以外……?」
「パメラかな?」
「パメラはそれこそおとなしそうって感じじゃないでしょ」
ハリーそっちのけで、4人は、ああでもないこうでもないと言い合いだした。思い当たる人物の名前が出ては、それは違うはずだと他の誰かによって否定される。知らない名前ばかり出てくる会話を、ハリーはぼんやりと聞いていた。
「ウーン……ごめん、ハリー。思い当たらないわ」
「また何か思い出したら伝えるね」
「アー……わかった。引き留めてごめん」
けれど結局、それらしい答えは出なかった。申し訳なさそうな表情になるアンジェリーナ達に、気にしないでと笑ってみせる。部屋へと戻る2人の背中を見送って、ハリーはガッカリと肩を落とした。結局、あの女の子の手掛かりは掴めないままだ。
「似てる女の子に会ったんなら、どうしてその子に直接聞かなかったんだ?」
「そのときは、別人だって思ったんだ……」
あまりにも当然なフレッドの質問に、ハリーは視線を泳がせた。
そう。あのときは違うと思ったのだ。だから結局、あのときの女の子の名前も聞いていない。今更後悔したところで遅いけれど、一瞬でも似ていると思ったのだから、あの場でアンジェリーナやアリシアに名前を聞いておけばよかった。ハリーが深く溜息を溜息を吐くと、フレッドが慰めるようにハリーの肩を叩いた。
「まあ、何だ。そう落ち込むな、ハリー」
「そうさ。俺達の学年じゃなかったってだけで……時間はかかるけど、きっとそのうち見つかるさ」
「クィディッチの試合で活躍する君を見たら、向こうから話しかけてくるかもしれないし」
「うん……そうだね。ありがとう」
任せておけと胸を張る2人に、ハリーもぎこちなく微笑んだ。
そうだ。来週には、ハリーのデビュー戦がある。そこでシーカーとして活躍するハリーを見たら、あの女の子もハリーのことを思い出してくれるかもしれない。
「────試合終了!ハリーがスニッチを取った!グリフィンドールの勝利!」
スニッチを握りしめた拳を、高く掲げる。競技場の全ての視線が、ハリーに向けられているのを感じる。
心臓がドクドクとうるさく鳴って、見上げた空の青さが目に痛いほどに眩しい。
あの女の子も、見てくれただろうか? あの日ハリーと会ったことを忘れてしまっていたとしても、きっとこの試合は来いるだろう。ハリーがスニッチを取ったところを、しっかりと見ていてくれたはずだ。
まだ見つけられていないだけで、きっとこの観衆の中に彼女も居るはずなのだ。