結局、それ以降あの女の子の手掛かりはないまま。慌ただしく日々は過ぎ、気づけば10月になっていた。

「ねえ、ハリー。僕、考えたんだけど、フレッドとジョージに相談してみるのはどうかな」

やっぱりレイブンクロー生ってだけで探すなんて無理だよと、ロンが溜息を吐く。
ロンはハリーの人探しに協力すると言ってくれて、その言葉通り、廊下や大広間でハリーの言った特徴に当てはまりそうな女の子を見つけては、こっそりとハリーに教えてくれていた。最初の頃はその場に居る大勢の生徒達の中からレイブンクロー生の女の子を探し出すのをゲーム感覚で楽しんでくれていたけれど、何十回と繰り返しても一向に成果が出ないのだ。いい加減うんざりしてしまうのも仕方ない。これに関してはハリーも申し訳なく思っていた。

「もしかしたら2人の友達だったりするかもしれないしさ。そうでなくても、僕達よりは上級生の顔はよく知ってるはずだし」
「うーん……でも、何て言うか、そんなに大ごとにしたくないんだよ……」
「もちろん、君の好きにすればいいけどさ。1か月経ってわかっただろ? このまま2人で探してたんじゃ、見つかりっこないよ」

親友のロンだから打ち明けることに抵抗がなかっただけで、誰かを巻き込んでまで見つけたいわけじゃないのだ。それにフレッドとジョージは陽気で楽しいが、一度きりの女の子を探しているなんて聞いたらからかわれそうで気が進まない。でもロンの言う通り、このまま続けて見つかる可能性は低いことはハリーにもわかっている。1日考えて、結局フレッドとジョージに相談することを了承した。

「何だい?俺達に頼みたいことって」
「優しいお兄様を利用しようとは。この対価は高くつくぞ、ロン」
「優しい兄なら対価を求めるなよ!頼みごとがあるの僕じゃない、ハリーだ」
「「ハリーが?」」

フレッドとジョージは声を揃えると、これまた揃ったタイミングでハリーを振り返った。そっくりな顔2つに興味深そうに見つめられて、ハリーは思わず視線を泳がせた。パチパチと爆ぜる暖炉の炎に、フレッド達の赤毛が照らされている。ハリーはその光のうつろいへと視線を彷徨わせていたが、意を決して話し始めた。

「実は僕、人を探してるんだ」
「へぇ。誰をだい?」
「夏休みに会った女の子で……でも、名前がわからない。ホグワーツに来てから探してみたんだけど、見つけられなくて……だから、君達にも手伝ってもらえたらと思って」
「なるほどな」

フレッドとジョージが承知したと言わんばかりにニヤッと笑った。2人の反応が思ったよりもずっとあっさりしていて、ハリーはほっと胸を撫で下ろした。からかわれるかもしれないなんて言うのは、ハリーの杞憂だったのかもしれない。

「寮はわかるのかい?」
「レイブンクローだって言ってた」
「学年は?」
「……それもわからない。たぶん、君達と同じくらい……もしかしたら2年生か、4年生かも」
「何か外見で覚えてることはあるか? ほくろがあったとか、ピアスをしてたとか」
「……ちょっと会っただけだから、あんまりよく覚えてないんだ。目立つようなほくろはたぶんなかったと思う……ピアスは、わからない。背は、僕より少し高かった。髪は長くて……金髪じゃなかった。でも日差しが強かったし、黒だったかブラウンだったかはあやふやなんだ……目の色も、覚えてない。そのときは、白いワンピースを着てた」

ハリーは改めて記憶の糸を手繰り寄せてみたが、もはやあの女の子の姿はぼんやりとした輪郭しかない。言葉を連ねるほどに双子が段々と難しい表情になっていくのがわかって、何だか落ち着かなくなった。つまり、とどちらか(たぶんジョージ)が神妙な表情で言う。

「結局、レイブンクローの女子だってことしかわからないってことだな」
「おいおい、レイブンクローに何人の女子生徒が居ると思ってるんだ? 俺達の学年だけでも20人近く居るんだぜ」

呆れたようにフレッドに言われて、ハリーは俯いた。確かに、2人に聞かれたことで改めて気がついたが、ハリーの言う条件だとその対象はざっと60人近く居ることになる。落ち込んだハリーの様子を気の毒に思ったのか、ロンがムッとしたように言い返した。

「何でだよ。金髪以外で、髪の長い女の子だってことはわかってるじゃないか」
「あのな、ロニー坊や。知らないかもしれないが、髪って言うのは伸び縮みするし色だって変えられるんだ。パトリシア・スティンプソンは去年まではブロンドだったけど、今は黒髪だぜ」

ハリーもロンも、あっと声を上げて顔を見合わせた。もしかしてこの1か月、あの女の子が見つからなかったのは、そのせいだろうか? 髪が短かったり、ブロンドだったりしたら違うと思って、ちゃんと確かめていなかった。もしもそうだったとしたら、どんなに探したって見つからないに決まっている。

「まあ、幸運にもその女子が夏休みと髪型も色も変わってないとするなら、だ。何人か心当たりがないこともない」
「とりあえず、俺達の学年から探してみるか。それで見つからなかったら、範囲を広げる。それでいいかい、ハリー?」
「もちろんだよ。ありがとう」

やっぱり引き受けるのはやめると言われてしまうかと思ったが、どうやら2人にとっては、手掛かりが少ない方がかえってこの人探しを面白そうだと感じてくれたらしい。心強いフレッドとジョージの言葉に、ハリーはニッコリした。

「レイブンクローの女子か。ブロンド以外……ってことはクロディーヌ嬢やパメラはとりあえず除外だな、相棒」
「そうだな。当てはまるのは……レイチェル、エリザベス。それにフォーセット。パッと思い出せないけどたぶん、他にも何人か居たはずだ。まあ、合同授業のときに見てみればいいんじゃないか?」

フレッド達の口から次々と出て来る知らない名前に、ハリーはそこでまたひとつ問題に気がついた。2人があの女の子を見つけてくれたとして────もしも彼女がハリーと出会ったことをすっかり忘れてしまっていたとしたら、どうやって確かめればいいのだろう?

「その人達の写真はある?」
「さすがにないな。アンジェリーナやアリシアあたりなら、もしかしたら持ってるかも。聞いてみるかい?」

フレッドの問いかけに、ハリーは勢いよく首を横に振った。いきなり写真を貸してくれなんて言ったら不審に思われるだろうし、そうなれば理由も話さなければいけなくなるだろう。アンジェリーナやアリシアは気の良いチームメイトだが、この件について彼女達に話したいとは思えなかった。

「写真はないけど……そうだな、レイチェルなら図書室に行けば居るんじゃないか?」
「ああ、そうだな。ハーマイオニーと一緒に居るから、すぐわかると思うぜ」
「ハーマイオニーと?」
「いつも2人で勉強してるみたいだからな」

ハリーとロンは、再び顔を見合わせた。あのハーマイオニー・グレンジャーに────友達!
ジョージが教えてくれたところによると、そのレイチェルと言うフレッド達の同級生とハーマイオニーは、いつも金曜日の放課後になると図書室で一緒に勉強しているらしい。そして今日はちょうど金曜日だ。

「あいつと仲良くできる人間が居るなんて、信じられないよ。あの知ったかぶりにイライラせずにいられるなんて、よっぽど心が広いか、耳が悪いか、そうじゃなきゃあいつそっくりのガリ勉のどれかだね」
「僕はガリ勉なんだと思うな」

廊下を歩きながらブツブツ言うロンの意見には、ハリーも同意だった。
暇だから行ってみることにしたものの、ハリーもロンもあまり期待はしていなかった。だって、あの規則規則とガミガミうるさい、お節介なハーマイオニー・グレンジャーと仲良しのレイブンクロー生だなんて! 絶対にハリーとは気が合わない。たぶん、あの女の子ではないだろう。興味があるのは、どちらかと言えば「あのハーマイオニーの友達とは一体どんな女の子なのか」だ。ホグワーツ特急で出会ったときから薄っすらとあった苦手意識は、先日の禁じられた廊下での一件以来、ハリーの中で根を張っていた。三頭犬に襲われかかるよりも退学の方がひどいと言い切る、あのハーマイオニーに友達なんて!

「居た。ほら、あそこ。ハーマイオニーだ」

図書室に着いてからしばらくして、ハリーは窓際の席にふわふわした栗色のくせっ毛の背中を見つけた。遠くてよく見えないが、フレッドとジョージの言っていた通り、誰かと一緒のようだ。気づかれないように本棚の陰に隠れて、そっと覗いてみる。そして、ハーマイオニーの向かい側に座っている相手の姿を見て────ハリーもロンもぽかんと口を開けた。
そこに座っていた人物は(ハリーは何となく、パーシーをそのまま性別だけ変えたような感じだろうと想像していたのだが)、ハリーの予想とは随分と違っていた。

「……彼女かい?ハリー」
「……ううん」

ひそひそと囁き声で問いかけるロンの頬も、心なしか赤い。
図書室の薄暗がりの中に浮かび上がるその少女の姿に、ハリーは昔見た古い映画に出ていたヒロインを思い出した。静かに本を読んでいる姿が、何だかまるで1枚の絵のようだ。ゆるやかに波打った真っ黒な髪、対照的に真っ白な肌。スッと通った鼻筋。視線を落としているせいで伏せられた睫毛は、瞬きをしたらバサバサと音を立てそうだ。いかにもレイブンクロー生らしく賢そうな、整った顔立ち。白い指が本のページを捲るその動作も、どこか洗練されている。どこかお金持ちのお嬢様か、おとぎ話の気位の高いお姫様みたいだ。少し近寄りがたい印象だけれど、とにかくものすごい美人だ。
すごい美人だけれど────でも、ハリーの探している女の子とは違う。

「違うよ。あの人じゃない」
「ああ……だろうね。あんな美人に会ったら、たとえ一瞬だったとしたって絶対忘れたりしないもんな」

ハリーがもう一度否定すれば、熱に浮かされたような口調でロンが呟く。確かにそうかもしれないけれど……ハリーはちょっとムッとした。
そりゃ、あんな風にお姫様みたいな、座っているだけでも目を引くタイプの美人ではなかったけれど、ハリーが会った女の子だって可愛かった。特に、笑った顔が。別に、可愛かったから探しているわけじゃないけれど……美人じゃなかったから顔を忘れてしまったわけじゃない。

「まあでも、よかったじゃないか、ハリー。こうやって、フレッドやジョージが教えてくれた女の子を1人1人確かめていけば、きっと見つかるよ」
「……うん。僕もそう思う。ありがとう、ロン」

でも、そう言って嬉しそうに笑うロンの顔を見たら、そんな苛立ちはどこかへ行ってしまった。
やっぱり、ロンの言う通り、フレッドとジョージに相談してよかった。廊下や大広間ですれ違うことを期待するよりも、この方がきっと確実だ。

グリフィンドール寮に帰ったら、フレッドとジョージに改めてお礼を言おう。それに、彼女────えっと、そうだ。“レイチェル”は、ハリーの探し人ではなかったと伝えよう。

図書室の姫君

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