<第8回>進路
「リスナーの皆さん、こんばんは! 今夜も私達と一緒に魔法界の不思議を見つけましょう!パーソナリティは私、ホグワーツ魔法魔術学校4年、レイブンクロー寮所属のレイチェル・グラントと」
「同じくハッフルパフ寮所属、セドリック・ディゴリーです。皆さんの応援に支えられてここまでやって来た番組も、残すところあと3回です。なんだかあっと言う間だったね」
「そうね。全然実感が湧かないもの。でも何だか、今日のテーマを見ると、そろそろ終わりに向かってきたって感じがするわ」
「確かにね。今日のテーマは進路についてです。ホグワーツを卒業した後、卒業生達は一体どんな道に進むのか? 魔法界にはどんな仕事があるのか? ホグワーツ生にとって憧れの職業は一体何か? そんな疑問を解き明かしていきたいと思います」
「マグルのご両親はきっと、いきなり自分の子供に『私忘却術士になるから!』とか『水中人の研究者になる』って言われたらびっくりするのよね? 私、マグルの職業や資格って何があるのかって全然わからないもの」
「魔法界にはあってマグル界にないものや、その逆もたくさんあるしね。クィディッチ選手なんて言うのはマグル界にはない職業だろうし……」
「庭小人駆除検定なんて言うのもきっとないわよね。魔法省の役人なんかはきっとマグルにも似たようなものがあるんだろうけど……マグルの職業一覧の本とかってないのかしら」
「探せばきっとあるよ。マグル生まれの生徒用に、魔法界の職業目録はあるらしいから」
「本当?今度探してみるわ。あ、そろそろCMみたい……それでは、皆さんもぜひご一緒に、タイトルコールをどうぞ!」
「「ホグワーツ生の、ここだけの話!」」
<CM>
「正直私、今日のテーマって気が重い。……と言うか、荷が重い気がするわ」
「卒業後の話になるからね。僕達だとわからないことも多いけど……でも、わかる限りの話をすれば大丈夫だよ。マクゴナガル教授もそう言ってたから」
「進路なんてまだ決められない。だって、OWLすら受けてないのよ。魔法省に入りたい!って思っても、OWLを7科目以上パスできなきゃその時点でもう無理じゃない……」
「じゃあ、まずはその辺りの説明から行こうよ。質問も来てるし……ラジオネーム、菖蒲さんからです。ありがとうございます。ホグワーツは卒業後、どのようにして就職するのでしょおうか?NEWTの成績が悪い場合は就職浪人、なんてこともあるのでしょうか?』 ……ほら、レイチェル、台本持とう」
「はぁい……『多くの生徒はホグワーツを卒業後就職しますが、その進路を決めるにあたって2つの壁を越えなければいけないと言われています。1つめはOWL。これは通称で、正式名称は普通魔法レベル試験と言います。ホグワーツでは5年生の学期末に受験します。試験は科目単位で行われ、これでそれぞれの教科ごとに定められた成績を取れないと、6年生からはその科目を選択できません。2つ目の壁はNEWT。こちらも通称で、正式名称はめちゃくちゃ疲れる魔法テスト。魔法界の就職においては、この試験の成績が重視されます。どちらも、通常の学内での学期末試験とは違って、魔法省によって定められている公的な試験です。魔法試験局から派遣された試験官によって厳正に行われます。試験内容は教科によって実技や筆記とさまざまですが、やり直しなしの一発勝負です』。まさに人生をかけた大勝負です……。当然NEWTで大失敗すれば就きたい職に就けず、就職浪人することもあります……」
「レイチェル、そんなに暗くならないで……OWLをパスしなきゃNEWTクラスは受けられないって言っても、先生によっては授業を受けさせてくれるし、テストに合格すればNEWT試験の受験資格ももらえるらしいから、OWLに失敗したから進路が閉ざされるってわけでもないって聞いたよ。それに、全ての職業がNEWTの結果に左右されるわけでもないし」
「そうだけど……それでもやっぱりNEWTの結果がいい人と悪い人が居たら普通はいい方を採るじゃない……それに倍率の高い仕事だと、NEWTだけじゃなくOWLの結果まで遡ったりするんでしょ……? あーもう、本当、考えるだけで憂鬱になるわ」
「えーと、じゃあ、明るい話題に変えよう。レイチェルは、ホグワーツ生にとっての憧れの職業って何だと思う?」
「憧れの職業?」
「うん。僕が友達と話をしてると出るのは、クィディッチ選手や闇祓い、ドラゴン使い、それから呪い破りなんかが人気なんだけど……女の子はどうなのかなって」
「んー……その4つは確かにそんなに人気がないかも。特に人気の職業って言うのはない気がするけど……癒師になりたいって言ってる子は何人か居るわ。あとは、デザイナーとか小説家とかジャーナリストとか……魔法動物関係の仕事に就きたいって言ってる子も居るし、自分のお店を持ちたいって言うのも割とよく聞く気がする」
「自分のお店って憧れるよね。自分が素晴らしいと思った商品を置いて、それを気に入ってくれる人の手に渡ったら……それってすごく嬉しいことなんだろうな」
「わかるわ! 私、そう言うお店、大好き。カフェでも雑貨屋さんでも、そう言う、作った人のこだわりとか理想がこめられているお店って、何だか空気がキラキラしてるの。見てるだけでもわくわくしちゃうもの。そんな空間が自分で作れたら、毎日うきうきして過ごせそう」
「レイチェルだったら、やっぱりマグルの製品を置くんだろうね」
「キラキラ光るペンとか、マグルの童話とか、電池とかね。んー……でも、それでお金を稼ぐってなると難しそう。セドは、やっぱり闇祓いになりたいの?」
「憧れはするけど……どうかな。父さんから話を聞いてると、憧れだけでやっていけるような仕事じゃないんだろうなって思うよ。レイチェルは?」
「私? まだ全然決まらないの。マグルに関わる仕事がしたいなあとは思うけど、どんな仕事があるかってよくわかってないの。魔法省にもマグル関係の仕事はあるけど、どの部署に配属されるかって自分じゃ決められないでしょ? それに第一魔法省に入れるのってすっごく優秀じゃないと無理だし……」
「まだ時間はあるし、ゆっくり探していけばいいんじゃないかな。きっとレイチェルのやりたい仕事が見つかるよ」
「うん……ありがと、セド。ごめんね、なんか暗くしちゃって」
「ううん。将来のこと考えると、不安になるよね」
「はっきり将来の夢や目標が決まってる人ってすごいなって思うわ。……あ、そう言えば、今出てきた職業って、リスナーさん達にも全部わかったのかしら?」
「レイチェルが言った職業はたぶん、どれもマグル界でもあるんじゃないかな……」
「セドの……セドの言った職業は、ないんじゃない?」
「そうだよね……えっと、簡単に言うと、クィディッチ選手はプロのスポーツ選手で、呪い破りは古代の魔法使いがかけた呪いを解いたり研究したりする仕事、ドラゴン使いはドラゴンの生態を研究する専門家で……闇祓いは魔法省の役人なんですが、闇の魔法使い……えーと、つまり、凶悪犯を捕まえるための特殊部隊です」
「基本的には、どれもすごく狭き門よね。なりたいって人はたくさん居るけど、なれるのは一握りってイメージ。まあ、100人も200人もクィディッチ選手や闇祓いが居たら、世の中おかしくなっちゃうものね」
「そうだね。じゃあ実際ホグワーツ生の就職先はどうなってるかってことだよね。これは入学パンフレットの82ページにも載ってるみたいだけど……このグラフの、『就職』『留学』『進学』はわかるけど……その他ってなんだろう?」
「そのまま、就職も留学も進学もしてないってことじゃない? 1割近くも居るって言うのがびっくりだけど……資産があったり、自分で会社を立ち上げたりお店を開いたり、フリーランスで仕事したり……あとは結婚して家庭に入ったり? うちのママも、たぶん就職はしてないって扱いだと思うわ」
「在学中にデビューしてそのまま小説家になったんだよね。歌手のセレスティナ・ワーベックも確かそうだったって母さんが言ってた気がする……」
「1位はやっぱり魔法省なのね。就職した人のうち3割も……やっぱり、たくさん採用するから? まあ、魔法省って言っても、闇祓いとして採用される人も居れば清掃員として採用される人も居るんだろうけど……」
「やっぱり社会を支える仕事だし、入省を目指す人は多いよね。特に学年が上がるにつれて、志望者が増えて行くイメージがあるよ」
「確かにそうかも……『やっぱり魔法省』に落ち着くのよね。レイブンクローは特に、卒業後に魔法省に入る人が多いみたい」
「堅実とか安定ってイメージも強いけど、その一方でイギリスの魔法界では一番、色々なことができる職場でもあるよね」
「頭脳労働の部署もあれば体力勝負の部署もあるし、魔法の腕が物を言う部署もあるしね。魔法事故リセット部隊なんて、ほんのちょっと間違えたら大惨事だもの」
「そう言う意味では、自分の強みを生かせる場所だと思う。だから、志望する人が多いんじゃないかな」
「確かに……魔法省じゃないとできないことってたくさんありそう。勿論、その逆に魔法省じゃできないこともあるんでしょうけど」
「2年前に卒業したハッフルパフの監督生で、やっぱり魔法省に入った人が居たけど……魔法省に入って何をしたいのか聞いたら、まだ決まってないって笑ってたのが印象的だったな。まだ決まってないけど、とりあえず世の中の役に立つことがしたい。それなら魔法省だって思ったって……元々、すごく優秀な人だったし、今は魔法運輸部で活躍してるって、父さんに聞いたよ」
「なるほどね。具体的に何かがしたいって無理に絞り込まないって選択肢もあるのね」
「うん。あ……もうこんな時間か。えっと、じゃあ、魔法省についての話はここまでにしようか」
「2位以降は結構ばらつきがあるのよね。グリンゴッツや聖マンゴはやっぱり採用数が多いから毎年数人は居るみたいだけど……あとは色々な企業やお店なんかに、それぞれ散らばっていくんだって上級生が言ってたわ」
「イースターの頃から、学校側に求人広告が来るらしいね。それを見て応募したり……求人を出してないところだと、自分でふくろうを飛ばしたりするって聞いたよ」
「お互いにとって効率のいい方法よね。だってホグワーツってまだ仕事に就いてない若者がイギリスの魔法界で一番多い場所だもの」
「魔法界の就職活動はマグルに比べるとずっと楽らしいね。逆に、ホグワーツ生がマグルの世界で就職や進学するとなると大変らしいけど……マグル生まれの卒業生だと、マグルの大学に進むことも多いらしいね」
「大変って、何が?」
「やっぱり、ホグワーツで習ってることは……マグルが学校で習うこととは違うからってことらしいよ。1年くらいは、マグルの内容に合わせた勉強をしないと難しいらしい。でも、そうやってマグルの大学に入って、マグルの暮らし方をしている卒業生も居るって話だよ。中には、魔法族の生まれの人も居るって」
「そうなの!? すごい……バーベッジ教授もそうなのかしら?」
「さあ……どうだろう。今度聞いてみたらいいんじゃないかな」
「あ、えっと、バーベッジ教授と言うのは、私達のマグル学の教授です」
「魔女だけれど、マグルとして暮らしたこともあって、すごくマグルのことに詳しいんだよね」
「……ねえ、ちょっと待って、セド。リスナーさん達は、マグルでもホグワーツのことを知ってくれてるけど、普通のマグルは勿論知らないのよね? 入学の書類に『ホグワーツ魔法魔術学校卒業』って書いても大丈夫なの? マグルの大学に入る時って、卒業校は関係ないの?」
「んー……僕も詳しくは知らないんだけど、魔法省がマグルから見ても不自然じゃない履歴書を作ってくれるって聞いたことがあるよ」
「そんな制度があるの? なあんだ。書類の審査をする人に錯乱の呪文をかけるのかと思っちゃった」
「錯……それは危ないよ、レイチェル」
「わかってるわよ。あ、ねえ、セド、そろそろ時間みたい」
「本当だ。……えっと、今夜の放送も、そろそろ終わりが近づいてきました。今夜は進路がテーマでしたが、いかがでしたでしょうか。少しでも皆さんにホグワーツ生の卒業後のイメージが伝わっていたら嬉しいです」
「次回のテーマは! ……実は、決まってないんです。あ、一応フォローしておくと、テーマが思いつかなかったわけではないらしいです。……ね?」
「フリートーク回と言うことで、今までの放送ではご紹介できなかった質問に答えていきたいと思います」
「たとえばセドへのファンレターとか?」
「そ……、れは、ないんじゃないかな……」
「冗談よ。えっと、番組ではまだまだリスナーの皆さんからのコメントを募集しています。ぜひお送りください」
「リスナーの皆さんの応援に支えて頂いたおかげで、この番組も残すところあと2回です。僕もレイチェルも最後まで精一杯頑張りますので、もう少しお付き合いください。お相手は、僕、セドリック・ディゴリーと」
「レイチェル・グラントでした。来週もまた、お会いしましょう!」
<エンディングテーマ:妖女シスターズ『バンシーに恋して』>
「この番組は、BBC、日刊預言者新聞、週間魔女の提供でお送りしました」