12:45 昼食:湖畔

「あー、もう、スネイプの奴ムカつく! なーにが『おお、貴重な毒ツルヘビの皮が……』よ! そんなもん仕入れる余裕があったらコンディショナーの1本でも買えっての!」

魔法薬学の教室を出たパメラは、やっぱり不機嫌だった。無理もないと思いながら、レイチェルはその後ろを追う。もっとも、魔法薬学の授業の後にパメラがご機嫌だったことなんてレイチェルの記憶にある限りは1度もなかった気がするけれど。あけすけすぎる言い草を、エリザベスがたしなめた。

「『教授』をつけて頂戴。確かに、言い方は厳しいけれど……説明をしっかり聞いていなかった貴方だって悪いのよ。貴方が失敗してしまったところは、スネイプ教授は注意するようにって仰ってたんだもの……」
「お説教はよしてよ、エリザベス!」

正論と言えば正論なのだけれど、パメラはうんざりしたように顔を顰めるだけだった。その様子に、エリザベスがムッとしたように眉を寄せる。……ああ、また始まった。レイチェルは小さく溜息を吐いた。言い返そうと口を開いたエリザベスのローブの袖を引っ張り、注意を引く。喧嘩になってしまう前に、話題を逸らした方がよさそうだ。

「天気がいいから、ランチは外で食べない?」

ね、と愛想よく笑いかける。それはあながち、その場を誤魔化すためのでまかせと言う訳ではなかった。空は勿忘草に澄み渡り、薄い雲の切れ間からは柔らかな陽光が差し込んでいる。当然、パメラとエリザベスも二つ返事で了承した。大広間に行って食べ物をいくつか調達すると、レイチェル達は湖畔へ向かった。

「あ」

適当な日陰を探して歩いていると、急にパメラが何かに気がついたように立ち止った。それから、レイチェルとエリザベスの腕を掴むと、グイグイと元来た方向へと引っ張って行ってしまう。一体どうしたのだろうと疑問符を浮かべていると、パメラは周囲に聞こえないよう声を潜めて囁いた。

「スリザリン生が居る。あっちで食べましょ」

なるほどとレイチェルは苦笑した。マグル生まれのパメラを見つければ、彼らはまた絡んでくるかもしれない。楽しいランチの時間を台無しにされてしまうのは遠慮したい。しばらく歩いていると、ちょうど良さそうな場所を見つけたので、レイチェル達はそこに座って、さっき調達してきた食糧の包みを広げた。

「そう言えば、言ったっけ?」
「何を?」

湖面が太陽を反射して、キラキラと光っている。ゆるやかな風が頬を撫でていくのも心地良かった。頭上の葉がサワサワと揺れ、木漏れ日が地面をまだらに照らしている。そんな穏やかで美しい空間にすっかりくつろいでいると、かぼちゃジュースを啜っていたパメラが思い出したように言った。

「ほら、私達は午前中、あのインチキ……ああ、はい、わかったわよエリザベス……あー、トレローニー教授の占い学だったでしょ。今、水晶玉の授業なんだけど……エリザベスったら、水晶玉の中に何か見えたんですって。何だっけ? ドラゴンの赤ん坊?」
「そうなの? すごい!」
「ええ……」

素直に感心すると、エリザベスははにかんだように微笑み、白い頬をほんのりと染めた。まだ1年目なのに、水晶玉なんて本格的なものを扱っているなんてすごい。時間割の関係で占い学を取れなかったレイチェルにはよくわからないけれど、以前本で読んだところによれば、水晶玉は勉強すれば誰にでも占えると言うわけではないらしいし、きっとすごいことなのだろう。

「エリザベスったら、『才能がある』って、あの人のお気に入りなのよね。将来は高名な占い師になるだろう、なんて言われてたわ! まあ、あの先生の予言が当たるなら私は今学期中に死ぬらしいから、その姿は見れないと思うんだけど」

真面目くさった顔で言うパメラに、レイチェルは思わず吹き出してしまった。そう言えば、パメラは最初の授業のときにそんな予言をされたらしいけれど、今のところいたって健康そうだ。それにマクゴナガル教授が言っていたけれど、トレローニー教授の生徒への死亡予告は毎年恒例のデモンストレーションらしい。だからつまり、心配ないと言うことだろう。

「水晶玉って楽しそう。私も占い学を取れればよかったんだけど」
「マグル学はどうだったの? 何だか予定が変わったとかで、朝食の席で浮かれてたじゃない」

そうだった。魔法薬学の前に2人にも話そうと思っていたのに、遅刻しかけてしまったせいでできなかったのだ。一体何から話せばいいだろう。今日の素敵なマグル界訪問について想いを馳せたレイチェルは、ふとあることを思い出し、ギュッとパメラの手を握った。

「ねえパメラ、お願い! 今度あなたの家に行ったら、冷蔵庫の中を確かめさせて!」
「ええ、何それ……そんなお願い初めて聞いた……」

困惑したように眉を寄せるパメラに、レイチェルは今日のマグル学であったあれこれを話して聞かせた。マグル生まれのパメラにしてみれば、レイチェルが何をそんなに興奮しているのかいまひとつ理解できない様子だったし、レイチェル以上にマグルの事情に疎いエリザベスはレイチェルの口から飛び出す単語がちんぷんかんぷんな様子で首を捻っていたけれど、2人が熱心に耳を傾けてくれたので、レイチェルはとても満足だった。

そうこうしているうちに予鈴が鳴り、楽しいランチの時間は終わりを告げた。

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