08:20 朝食:大広間
大広間に着くと、まだ比較的早い時間だからか席には余裕があった。パメラとエリザベスは、今日提出の占い学のレポートの答え合わせをするとかで他の3年生の女の子達の方へと行ってしまったので、レイチェル1人だ。誰か知り合いは居ないだろうかとレイブンクローのテーブルを見渡していると、向こうから誰かがレイチェルに手招きをした。
「おはよう、レイチェル」
「おはよう、チョウ。マリエッタも」
ニッコリ笑いかけてくれるチョウは朝から爽やかだけれど、マリエッタはまだ眠そうだ。試験勉強で寝不足なのだろう。レイチェルもまだ眠い。眠気覚ましに飲もうと紅茶にせっせと砂糖とミルクを混ぜ入れていると、トーストにジャムを塗っていたチョウが可愛らしく小首を傾げた。
「ねえレイチェル。変身術の去年の筆記試験って何だった?」
「ええと……待って……確か……」
まだ覚醒しない頭を働かせて、レイチェルは必死に記憶を手繰り寄せる。実技試験は、コガネムシをブローチに変えることだったような記憶があるけれど────それで確か、セドリックはオパールのように美しく輝く石のブローチを作ったとかで教員室で褒められていた気がする────筆記試験の内容は何だっただろう。やたらと細かい問題が出て苦戦させられたことは覚えているけれど、具体的な出題内容に関してはさっぱりだ。
「ごめんなさい、ちょっと思い出せないわ……エリザベスならたぶんちゃんと覚えてると思うから、後で聞いてみるわね」
「ありがとう。 助かるわ」
「やった! これで変身術はバッチリね!」
エリザベスが覚えていなかったとしても、セドリックが覚えているだろう。成績が優秀な人達と言うのは、なぜだか終わった試験のことも忘れたりしないものなのだ。レイチェルがそう言うと、チョウがホッとしたように微笑み、マリエッタもパッと顔を輝かせる。レイチェルはそんな2人を微笑ましく思いつつも、ぬか喜びさせてしまわないよう一言つけ加えておくことにした。
「でも、マクゴナガル教授って同じ問題は出さないから、去年の試験だけじゃ意味ないかも」
毎年出題される重要な理論なんかもあるにはあるけれど、全く同じ出題はされない。空欄になる箇所が変わっていたり、前年とはまるで違う切り口で出題されたりと、過去の試験をただ解いて丸暗記しただけでは完璧には答えられないようになっている。過去問をやったからバッチリだと胸を張っていたスリザリン生が撃沈していたのは記憶に新しい。勿論、何となく傾向は掴めるし、模擬試験としては使えるだろうけれど……。レイチェルの忠告に、マリエッタはガッカリしたように溜息を吐き、チョウはしょんぼりと肩を落とした。
「私、変身術苦手なの……実技は不安だから、筆記で頑張らないと……」
「試験まではまだ時間があるし……マクゴナガル教授は意地悪な出題はしないから大丈夫よ」
「ええ、そうね……頑張るわ。ありがとう、レイチェル」
朝1番に防衛術の教室のあのニンニク臭は大変そうだな……。ぼんやりとそんな感想を抱きながら、レイチェルはトーストを齧った。