20:15 放課後:階段
夕食を終えたレイチェルは、変身術の教室へと向かっていた。試験範囲の内容について、マクゴナガル教授に質問したいことがあったからだ。さて、大広間から変身術の教室に行くにはいくつかの階段を使う必要がある。そしてホグワーツの階段と言うのは、実に気まぐれなものだ。
「きゃっ……」
「うわっ」
地響きのような音を立てて突然動き出した階段に、レイチェルは慌てて手すりを掴もうとした。が、運悪く階段の真ん中を歩いていたせいでほんの僅かの差で叶わなかった。伸ばした指先は空を切り、体勢を崩したレイチェルは膝をステップの角に打ち付けてしまった。多少痛みはあったものの、そのまま転がり落ちずに済んだのは幸運だろう。しばらくして階段が止まると、レイチェルの少し前を歩いていた────彼はどうやらちゃんと手すりに掴まることができたらしい────上級生が駆け寄って手を貸してくれた。
「……大丈夫?」
「……ええ、たぶん。どうもありがとう」
顔を上げて、レイチェルはその上級生が知っている顔だと言うことに気づいた。パーシー・ウィーズリーと同じで、知り合いなわけではなく、やっぱり一方的に顔を知っているのだ。困ったような苦笑を浮かべているのは、グリフィンドールのクィディッチチームのキャプテン、オリバー・ウッドだ。ウッドはレイチェルの手を引いて立ち上がらせると、落ちてしまった鞄を拾い上げて埃を払ってくれた。
「珍しいな。この階段は滅多に動かないのに」
「ええ……」
その通りだった。だから、安心して真ん中を歩いていたのに。よく動く階段なら用心もするけれど、この階段は1ヶ月に1度くらいしか動かない。そのわずかな確率に、よりによって当たってしまうなんて。レイチェルがじっと階段を睨みつけていると、ウッドもつられるように視線を落とした。
「もしかして、膝、擦りむいた?」
「あー……そうみたい、です」
言われて、自分の足へと視線を移す。それほど痛みもないので気づかなかったけれど、膝のあたりから少し血が滲んでしまっていた。まあ、わざわざ医務室に行くほどでもないし、放っておけば治るだろう。レイチェルがそう結論付けていると、ウッドはローブのポケットを探り、何かを取り出した。
「これ、あげるよ。よかったら使って」
手の平へと乗せられたのは、1枚の絆創膏だった。マグル製品で……確か傷口に貼るテープみたいなものだった気がする。パメラもいつもポーチの中に入れている。クィディッチ選手は練習で怪我をすることも多いから、ウッドも日頃から持ち歩いているのかもしれない。
「ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ、気を付けて」
急いでいるのか、そう言い残すとウッドはさっさとどこかへ行ってしまった。その背中を見送り、レイチェルはせっかくなので絆創膏を傷口へ貼ってみることにする。貴重なマグル製品なのに使ってしまうのはもったいない気もしたけれど、本来の用途に役立てるべきだろう。粘着部分同士をくっつけてしまわないよう気をつけながら、レイチェルはペタリと絆創膏を自分の膝に貼ることができた。うん。よくわからないけれど、これできっと正しいはずだ。レイチェルは自分の膝を見て満足した。
でも、やっぱりプラグとか冷蔵庫とか、もっといかにもマグルっぽいものの方が面白い。そんなことを考えながら、レイチェルは変身術の教室へと急いだ。