17:35 放課後:更に引き続き図書室

魔法薬学のレポートは、無事に完成させることができた。しかし、課題はこれで終わりではない。レイチェルは本棚の間を歩き回り、レポートの参考になりそうな本を探していた。締め切りはまだ先なので、それほど焦る必要はない。けれど、資料は早めに確保しておくに限る。うかうかしていると他の誰かに借りられてしまって、締め切り前に泣く羽目になるからだ。まあ、レイブンクロー塔を駆けずり回れば誰か書き終わった人が貸してくれるだろうけれど……最初から自分できちんと借りておくのが1番いいのは間違いない。

「ケルピー、ケルピー……」

ブツブツ唱えながら、本の背表紙に目を凝らす。マダム・ピンスに聞けば早いのだけれど、残念ながらカウンターには不在だった。たぶん、上級生と一緒に閲覧禁止の棚に居るのだろう。
─────あっ、あった。『水棲魔法生物の生態に関する一考察』。これなら、レポートの参考になるかもしれない。レイチェルは目当ての本を棚から抜き出し、パラパラとページを捲った。

「ごめん、そこ、いいかな」

すると、頭上からそんな声が降ってきた。どうやら気づかないうちに、レイチェルの後ろに誰か立っていたらしい。すぐ後ろに立たれているので顔やネクタイの色はわからないけれど、背の高さから言ってたぶん上級生だろう。

「すみません」

レイチェルは邪魔にならないよう2、3歩横へずれた。これで、レイチェルが邪魔で本の背表紙が読めないなんてことはないはずだ。再び手元の本へと視線を戻す。ええと、そう。ケルピー、ケルピー……。ページを捲っていくが、なかなか目的の内容は見当たらない。

「あれ? ない……参ったな。誰かが借りてったのか……? マダムは貸出中じゃないって言ったのに」

困惑したような小さな呟きに、レイチェルは顔を上げた。そして、声の主が知っている顔だったことに気がついた。とは言っても顔見知りなわけではなく、レイチェルが一方的に知っているだけなのだけれど。
すらりと背が高く、兄弟達と同じ燃えるような赤毛。銀縁の眼鏡をかけた神経質そうな容貌。そして、胸に輝くピカピカのPの頭文字のバッジ。グリフィンドールの監督生、パーシー・ウィーズリーだ。

「もしかして、これですか?」

貸出中じゃないはずなのに本棚に見当たらないと言うことは、図書室の中に居る誰かが持っている可能性が高い。テーブル席に居る他の誰かだと言う可能性もあるけれど、レイチェルが今手に持っているこの本かもしれない。

「ああ、うん……。それみたいだ」

レイチェルがパーシーに見えるよう背表紙を向けると、パーシーは戸惑いがちに頷いた。そして、困惑した表情のままレイチェルを見下ろすと、遠慮がちな声で尋ねて来た。

「君、その本借りる?」
「えっと……」

正直なところ、まだ決めていない。でも、ざっと見た限りかなり専門的なようだし、レイチェルが求めている内容とは少し違う気もする。どうしようかと返事に詰まっていると、パーシーはそれを肯定と受け取ったようだった。

「参ったな。この本、必要なんだ」
「あ、じゃあ……どうぞ。私は、どうしても必要ってわけじゃないので」
「ありがとう」

必要としている人が居るのにどうしても借りるほど、レイチェルはこの本に対して強い情熱があるわけじゃない。あっさり本を差し出すと、パーシーはホッとしたような、どこか申し訳なさそうな顔でそれを受け取った。てっきり、そのまま行ってしまうだろうと思ったのだけれど、パーシーはその場から動こうとせず、レイチェルをじっと見つめた。

「……何年生?」
「え? あ……3年生です」
「フレッド達と同じか。この棚に居るってことは、闇の魔術に対する防衛術だな。じゃあ今、ケルピーの辺り?」

まさしくその通りだったので、レイチェルは素直に頷いた。学年を聞いただけで、今の学習内容がわかってしまうなんてすごい。それとも、双子がやっているのを見ていたのだろうか? いや、あの2人はいつも締め切り前に要領よく課題を仕上げているから、今のタイミングでレポートに手をつけていると言うのは考えにくい。

「それなら、こっちの方が詳しいと思う」

レイチェルがそんなことを考えている間に、パーシーは本棚から1冊の薄い文庫本を探し当てていた。『水魔~水底からの誘い~』と書かれた本は、レイチェルもさっき探したはずの棚なのに見覚えがないタイトルだ。どうやら、分厚いハードカバーの間に挟まれていたので、見落としてしまったらしい。受け取った本をパラパラと捲ってみると、確かにさっきのよりずっとわかりやすくて、そしてレポートに役立ちそうな記述が載っていた。

「どうもありがとう」
「いや、それは僕の台詞だ。譲ってくれて助かったよ」

生真面目にそう返すパーシーに、レイチェルは本当にあの双子と兄弟なのだろうかと不思議に思った。やれ真面目だの堅いだのと言う双子の言葉は、彼らが悪戯ばっかりしているせいなんじゃないかとレイチェルは正直疑っていたのだけれど、どうやら誇張ではなかったらしい。お互いに必要な本を手に入れたので、レイチェルとパーシーはそこで別れてそれぞれの席へ戻った。マダムにお勧めを聞けなかったことで、かえって得をしてしまったかもしれない。椅子に座り、本と羊皮紙を広げる。

闇の魔術に対する防衛術は、正直あまり得意じゃない。でも、あのパーシー・ウィーズリー推薦の本があれば、今回のレポートに関してはきっと何とかなるだろう。

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