16:20 放課後:引き続き図書室

それから、1時間ほど経っただろうか。レイチェルとハーマイオニーがマグルの住居と魔法使いの住居の違いについて議論していると、本棚の間に丸顔の男の子の姿が見えた。レイチェルは知らない子だったけれど、グリフィンドールのネクタイだ。男の子はどうやらハーマイオニーに用事があったらしく、真っ直ぐにレイチェル達のテーブルへと向かって来た。

「ねえ、ハーマイオニー。マクゴナガルが君のこと呼んでたよ」
「えっ……ネビル、それ本当? だとしたら、すぐ行かなくちゃ……レイチェル、ごめんなさい」

気にしないでと笑って、今日の勉強会はお開きになった。せっかく盛り上がっていたところだったので、ちょっと残念な気もしたけれど……勉強会はまたいつだってできるのだし、マクゴナガル教授の用事の方が大切だ。ハーマイオニーは慌てて図書室を出て行ったので、1人残されたレイチェルは暇になってしまった。せっかく図書室に居るのだし、空いた時間は魔法薬学の課題にあてよう。レポートのテーマは今日の混乱薬の調合についてだ。せっかく実技でいい評価がもらえたのだから、レポートでもいい成績を取りたい。レイチェルが教科書や参考文献を片手に、せっせと羊皮紙に羽根ペンを走らせていると、ふと隣に誰かが立つ気配がした。

「ここに居たのか」

顔を上げると、そこには意外な人物が居た。ドラコ・マルフォイだ。普段はふくろう小屋でしか会わないので、こうやって図書室で会うのは不思議な気がする。何か用事だろうかとレイチェルが首を傾げていると、ドラコは鞄の中から1冊の本を取り出した。

「これ。読みたいと言っていただろう」
「えっ……ありがとう。わざわざ送ってもらってくれたの?」
「別に、大した手間じゃない」

ドラコの手に握られていたのは、先日ふくろう小屋で会ったときにレイチェルが読みたいと言った本だった。学校の図書室にも入っているのだけれど、予約がいっぱいでなかなか回って来ないのだ。確かに、家にあったはずだとは言っていたけれど、まさか本当に家から送ってもらってくれるなんて。レイチェルが嬉しいような、申し訳ないような気持ちでそれを受け取ると、ドラコは鞄からまた何かを取り出した。スミレ色の、小さな箱だ。

「それと……母上が菓子を送って来たんだが、部屋に置いておくとあいつらに全部食べられそうだったから」
「えっ……そんな………………どうもありがとう」

本だけでも申し訳ないのに、この上お菓子だなんて。レイチェルは遠慮しようとしたが、ドラコが無言のまま箱を突き出してくるので、受け取るしかなかった。後でお礼の手紙を書かなくちゃとレイチェルが考えていると、ドラコがレイチェルの手元の羊皮紙を覗きこんだ。

「……魔法薬学か?」
「ええ。今日の授業で出された課題」
「ふうん。やっぱり、3年生ともなると随分調合が複雑なんだな」

レイチェルの書いたレポートを拾い読みして、ドラコは感心したように呟いた。まあ、1年生の授業と比べたら扱っている魔法薬が難しいのは当然だ。そうでなければ困ってしまう。ドラコもレイチェルと同じく、魔法薬学は結構好きらしい。じっとアルファベットの羅列を追っていたドラコは、満足したのか踵を返した。

「あ、待って、ドラコ」

もう用は済んだとばかりに早足で立ち去ろうとする背中を呼び止める。振り返ったドラコの怪訝そうな表情に向けて、レイチェルは微笑んだ。何でもないような顔をしているけれど、口ぶりから言って、わざわざレイチェルを探してくれたのだろう。きっとドラコだって、試験前で忙しいはずなのに。

「本とお菓子、どうもありがとう。お母様によろしく伝えてね」
「……ああ」

去って行く小柄な背中を見送って、レイチェルは再び目の前のレポートへと集中することにした。読みたかった本にお菓子。予想しなかった形で楽しみが増えた。本は厚さから言っても、内容から言っても、寝る前の読書にちょうど良さそうだ。早速今日の夜に読もう。それに、試験前には甘いものはいくらあってもいい。

部屋に帰ったらパメラ達と一緒に食べようと、レイチェルは机の上に置かれた箱を大事に鞄の中へとしまい込んだ。

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