07:30 起床:レイブンクロー寮

レイチェルグラントの朝は、ルームメイトの羽根ペンの音から始まる。

「あら。レイチェル、起きたのね。おはよう」
「……おはよう、エリザベス」

カーテンは開いているとは言え、白く曇った朝の空はまだ薄暗い。こっちを振り返って上品に微笑むエリザベスに、レイチェルは瞼を擦りながら返事を返した。朝からピンと背筋を伸ばして机に向かう姿は、まさしくレイブンクロー生の鑑と言えるだろう。温かなベッドに名残惜しく別れを告げて、レイチェルはルームスリッパを引っ掛けて隣のベッドへと向かう。

「パメラ、パメラ。起きて。もう時間よ」
「んー……」

布団にくるまって身を縮めているパメラの肩を揺する。放っておけば、恐らく授業が始まるギリギリまで寝てしまうだろう。無理矢理ブランケットを剥ぎ取ると、パメラは肌寒さに身を震わせながらむくりと起き上がった。ここがどこだかわからないと言いたげにキョロキョロと辺りを見回して、パメラは深く深く溜息を吐いた。

「スネイプに書き取り罰受ける夢見ちゃった」

げっそりとそう呟くパメラに、レイチェルは思わず噴き出してしまった。夢の中でまで勉強をする羽目になったなんて、気の毒だ。しかも、パメラが毛嫌いしているスネイプ教授まで登場したなんて。艶やかなブロンドをイライラと掻きあげたパメラは、今もなお机に向かっている勤勉なエリザベスへと視線を向けた。

「絶対、エリザベスの羽根ペンのせいだわ! 何とかならない?」
「試験まで2ヶ月を切ってるんですもの。1秒だって瞼を閉じているのが惜しいわ」
「次に生まれ変わる時には、魚になれるようにって神様にお願いすれば? 死んでも瞼を閉じなくて済むわよ」

遠慮のないパメラの皮肉に、エリザベスがムッとしたように眉を寄せた。険悪な雰囲気を漂わせる2人に、レイチェルは顔を引きつらせた。試験勉強と寝不足のストレスは、タッグを組んで精神を蝕む。どちらの言い分もわかるけれど、レイチェルは朝っぱらから喧嘩に付き合うのも仲裁するのも遠慮したい。

「エリザベスみたいな生徒のために、早朝から図書室を開けるべきだと思うわ」

作家の母親を持ち、羽根ペンの音と隣り合わせで育ったレイチェルにとってはあまり気にならないけれど、一般的に言って羽根ペンが羊皮紙を削る音が目覚ましと言うのは、あんまり気分がいいものではないだろう。レイチェルは溜息交じりに呟いて、ワードローブに掛けていた制服を手に取った。すっかり春めいてきたと言っても、朝はまだまだ寒い。白いブラウスは肌に触れるとひんやりと冷たい。セーターとローブを着れば大分温かく感じるけれど、それでもやっぱりベッドが恋しくなってしまう。

「今日って何の授業だっけ」
「パメラ達は占い学、魔法薬学、魔法史。全部2時限続きよ。私はマグル学」
「じゃあ髪を結ばなきゃ。レイチェル、そこのヘアゴム取って。スミレ色のやつ」

のろのろと制服に着替え、仕上げにネクタイを結ぶ。うっかり髪の先が薬液に浸かっていたなんてことになったら最悪なので、レイチェルも髪をできるだけ高い位置でまとめた。蛇口から零れる水はまるで氷のように冷たくて、指先が凍えてしまいそうだ。けれど、顔を洗えば気分も少しはスッキリする。

今日もまた、1日が始まるのだ。

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