エリザベスはひとりぼっち(6)

エリザベス・プライスは入学したばかりの頃、同室のパメラ・ジョーンズが苦手だった。

生まれた環境も性格も価値観も、何もかもエリザベスと正反対のパメラは、エリザベスにはまるで理解できないことばかりだったからだ。エリザベスなら言わないことをパメラは言うし、エリザベスがすることをパメラはしない。
けれど、正反対だからこそ見習うところもたくさんある。エリザベスにはできないことをパメラはできるし、エリザベスに足りないものをパメラは持っている。そして、その逆もまた然りだ。

「嫌だ、エリザベスったらもうそのレポートやってるの!? それの提出期限って2週間も先じゃない!」
「2週間の間に何があるかわからないもの。出来る時にやっておかなくっちゃ。パメラ、貴方も魔法薬学は苦手なんだから、早めに取りかかるべきだわ」
「冗談じゃないわ!」
「貴方のために言ってるのよ、パメラ」
「ああ、もう! ほんとエリザベスって、先生みたい! 私のことは放っておいて!」

パンパンと手を叩く音が聞こえて、2人は振り返った。どうやら気づかないうちに部屋に戻ってきたらしいレイチェルが、呆れた顔をしてそこに立っていた。やれやれと溜息を吐くレイチェルに、エリザベスはサッと顔を赤くした。また頭に血が上ってしまった。どうしていつも、パメラを相手にするとこうなってしまうのだろう。

「はいはい、2人とも喧嘩しないの。エリザベス、パメラにはパメラのペースがあるんだし、放っておけばいいわよ」
「ええ……そうね。ごめんなさい」
「さっすがレイチェル!」
「……パメラもパメラよ。今時間があるのは事実なんだから、ちょっとでも進めておいたら? 提出期限ギリギリになって泣きついても助けないわよ」
「そんな!」

エリザベスはパメラの良いところをたくさん知っているし、パメラだってそうだろう。
でも2人だけだと、ついお互いの短所ばかりが目に付いてぶつかり合ってしまう。そんな時、2人の間に入って上手くバランスを取ってくれているのがレイチェルグラントだ。レイチェルが居なければ、きっとパメラと仲良くなることはできなかっただろうとエリザベスは思う。

「お母様がお菓子を送ってくださったの。後で皆で食べましょう? レポートが進んだら」
「あ、そう言えば私も……ハーマイオニーに薔薇のジャムをもらったの。紅茶に入れるとおいしいらしいわ」
「うーん……おいしいお菓子と紅茶は魅力的ね! よし、私もレポートをやるわ! ちょっとだけだけど!」
「パメラ……貴方って本当、調子がいいんだから」
「そこがパメラの長所よ、エリザベス。私、お茶の用意をしてくる」
「ありがと、レイチェル!」

エリザベスは以前、仲良しの上級生から「どうしてあの2人と仲がいいのか不思議だ」と言われたことがある。
女の子は似た者同士で固まることが多いけれど、パメラとエリザベスはまるで正反対だ。今では喧嘩も減ったけれど、下級生の頃は引き際がわからずに些細なことでよく言い争いになってしまっていた。今でこそすっかり仲裁が上手くなったレイチェルも、どっちの味方をすればいいのかとオロオロしていた。喧嘩しては仲直りの繰り返しで、どうしてあんなに反発するのに一緒に居るのかと同級生達にも不思議がられていた。
確かに、自分と似ている友達と一緒に居るのは心地いいし、エリザベスの気持ちをわかってくれるかもしれない。喧嘩だってしなくて済むだろう。けれど、似ていないからこそ見えるものや得られるものも確かにあって。正反対の価値観を持つ友人の存在は、エリザベスの知らない新しい風を吹きこんでくれるし、時には背中を押してくれる。

「あのねパメラ……私、セドリックにカードを贈ったわ」
「へぇ! 頑張ったじゃないエリザベス!」

レイチェルは知らないけれど、エリザベスの初恋はレイチェルの幼馴染のセドリックだ。
セドリックと仲の良いレイチェルのことを羨んだりしなかったと言えば、嘘になる。2人が一緒に居るところを見て嫉妬で苦しくなってしまったこともあった。

『あのね、さっきセドがね……』

エリザベスの気持ちにちっとも気づかず、無邪気にセドリックの話をするレイチェルに苛立ったし、当たり前のようにセドリックの隣に居るレイチェルをずるいと思った。
そのことで、以前パメラに相談したことがあった。「可哀想なエリザベス」────本音を言えば、たぶん心のどこかでそんな風に慰めてもらえることを期待していたのだと思う。けれど結果は、叱り飛ばされた。
幼馴染なのだから仲が良いのは当たり前だし、それにエリザベスが不満を言うのはおかしい。レイチェルは何も悪くないし、ずるくもない。羨ましいから仲良くしないでほしいなんて言うのはただのエリザベスのわがままだし、そう思うなら影でコソコソレイチェルを妬んでないで、レイチェルに直接言うべきだ。そんなひどいことは言えないなんて綺麗事を言うのなら、我慢しろ。全くの正論で、言い返す言葉もなかった。
とは言え、好きな人に自分よりも仲の良い異性が居ることに対してはパメラは大いに同情してくれて、気遣ってくれていることもエリザベスは知っていた。今回のバレンタインの件もそうだ。パメラに無理強いされなければ、きっとエリザベスはセドリックにカードを贈るなんて絶対にできなかっただろうから。

「それで!? 返事は? セドリックは何て!?」
「何も。だってバレンタインカードに宛名は書かないでしょう? もしかしたら筆跡でわかってくれるかもしれないって思ったけれど…………全然ですもの。これはもう貴方の言い方で言うと、『脈なし』ってことでしょう?」
「じゃあ何? 諦めちゃうの?」
「ええ」
「もうちょっと頑張ればいいじゃない。レイチェルはセドリックとはそんなんじゃないって本気で言ってるみたいだし、遠慮する必要なんてないんだから」
「そんなんじゃないわ」

パメラはなんだか納得していなさそうだったけれど、エリザベスの心は晴れやかだった。吹っ切れたとも言う。
セドリックがエリザベスに優しくしてくれたのは、セドリックが親切だからだ。エリザベスのことが好きだからとか、エリザベスが他の女の子より美人だからとか、そんな浮ついた理由じゃない。仲間外れにされたのがパメラや他の誰かだったとしても、セドリックは同じように手を差し伸べただろう。セドリックにとって、エリザベスはたくさん居る友人の1人だ。それは、今でもきっと変わらない。もしも、セドリックがほんの少しでもエリザベスの気持ちに気づいていたら……もしもエリザベスのことを女の子として意識してくれていたのなら、きっとあのカードがエリザベスからのものだと気づいてくれただろう。

「お待たせ。……2人で何話してたの?」
「別に! 大したことじゃないわ。占い学のあの先生がどうにかならないかしらって相談よ。レイチェルも一緒に考えてくれる?」
「遠慮するわ」

エリザベスは今でもセドリックが好きだ。たぶん、恋だと思う。けれど、そのせいでレイチェルと気まずくなってしまうくらいなら、エリザベスはセドリックに気持ちを伝えようとは思わない。たった1枚のカードに気持ちを込めて、エリザベスはこの恋を終わらせることに決めた。
エリザベスにとっては、セドリックへの恋心よりも、レイチェルとパメラとの友情の方がずっと大事だからだ。

「ねえ、次のホグズミードどうする?」
「私、またハニーデュークスに行きたいの。セドが教えてくれた、新商品のお砂糖でできた羽根ペンを買いたくて……。エリザベスは?」
「私は、この間の雑貨屋さんに行きたいわ。ノートを買いたいの」

時々喧嘩をすることもあるけれど、レイチェルとパメラはエリザベスの大切な親友で、エリザベスは2人が大好きだ。

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