エリザベスはひとりぼっち(5)

レイチェルとは仲直りできたし、普段の授業ではエリザベスはレイチェルと、パメラは他の誰かと組むようになったので、授業中みじめな思いをすることもなくなった。でも、全ての問題が解決したわけじゃない。
パメラは相変わらずエリザベスと口も聞こうとしないし、パメラがそうである以上、パメラと仲良しの女の子達もエリザベスを遠巻きにしていた。レイチェルもパメラとエリザベスの間に板挟みになっているせいで、今まで以上に気を遣わせてしまっている。このままではいけないと言うのは、エリザベスにだってわかっていた。

「あの……パメラ、私、貴方と話したいことがあるの……」

パメラと2人で話せるようタイミングを見計らって部屋に戻ると、パメラはベッドに寝転がってマグルのファッション雑誌を読んでいた。勉強はしなくていいのだろうか……? エリザベスは少し心配になったが、今は話すべきなのはそれではない。パメラはしばらく無視を決め込んでいたけれど、エリザベスがベッドの前から動くつもりがないことを察したのか、気だるげにベッドから起き上がった。

「何の用? プライス家のお嬢様は私なんかと口も聞きたくないんじゃなかった?」

明るいブルーの瞳が、鋭い視線でエリザベスを睨みつける。刺々しい言葉に、エリザベスはまた胸が痛くなった。
エリザベスはそんなこと言ってない。誤解だ。どうして、そんなことを。
エリザベスはギュッと拳を握り締めて、涙が溢れそうになるのをどうにか耐える。そうして、必死に喉の奥から言葉を絞り出した。

「……っ、話したくないのは、貴方の方でしょ……!」
「は?」
「そうでしょ……! だって貴方、ずっと、私のこと無視して……私の言い分なんて聞こうともしなかったじゃない!」

悲しいのを通り越して、エリザベスは何だか段々腹が立ってきた。
パメラは確かに、あのスリザリン生の言葉で傷ついたのだろう。でも、エリザベスだってパメラのせいで傷ついた。
仲間外れにされて、皆にクスクス笑われて、悪口を言われて、寂しかったし悔しかったし悲しかった。
「穢れた血」と、パメラをそう呼んだのはエリザベスじゃないのに。あのスリザリン生と話していただけでエリザベスもそうなのだと決めつけて、エリザベスと話もしてくれなかった。そのせいで、皆にも誤解された。
エリザベス・プライスは純血主義で、マグル生まれを見下していると! この上もなく恥ずべき、不名誉なことだ。

「私、純血主義なんかじゃないわ! マグル生まれだってことを理由に、誰かを馬鹿にしたことなんて1度だってない! あの時、確かに私が一緒に話してた人は、貴方のことをひどい言葉で侮辱したけど……! 私は、それに同調したり、笑ったりなんて、してないわ! お嬢様、お嬢様って、生まれで人を差別してるのは貴方の方でしょう!?」

声の限りに叫び上げる。言い終えて、肩で息をした。こんな風に大きな声を出したのは、エリザベスの人生で初めてのことだった。大声を出すのははしたないと、お母様にいつも言われていたのに。
それに────こんな風に喧嘩腰にするつもりではなかったのに。しまったと我に返ったエリザベスがパメラを見ると、驚いた顔でエリザベスを見返していた。

「何だ、エリザベス。あなた、ちゃんと自分の言いたいこと言えるんじゃない」

感心したようなパメラの言葉に、今度はエリザベスが目を丸くする番だった。ぽかんと空いてしまった口を、はしたないと慌てて閉じる。そんな様子がおかしかったのか、パメラが豊かなブロンドを揺らしてクスクス笑ってみせた。レイチェルと居るときのような、友達に見せるあの笑顔だ。さっきまでの緊迫した空気は、いつの間にかどこかへ消えてしまっていた。

「いっつもお人形みたいに愛想笑いしてるだけで、おしゃべりしてても全然楽しくなさそうだし。つまらなそうな子って思ってたけど、違ったみたいね。こっちも色々誤解してたみたいで、ごめんなさい。あと、無視も……うん。ルームメイトなのに、やりすぎだったかも。レイチェルやアイリーン達にも迷惑かけちゃったし」
「わ、私の方こそ……その……誤解を解こうと努力しなかったし……ごめんなさい」

あっさりとパメラが謝罪を口にしたので、エリザベスは拍子抜けしてしまった。と同時に、申し訳なくなった。誤解されるような状況だったことは間違いないのだ。そして、それを訂正しなかった。エリザベスにだって非はある。今日だって、本当はエリザベスが謝ろうと思ったのに、先に謝られてしまった。
エリザベスが反省して俯いていると、視線の先にパメラの手が差し出された。顔を上げると、パメラがニッコリ微笑んでいる。

「じゃあ、おあいこってことで。よろしくね、エリザベス。私、あなたのこともっとよく知りたいわ」
「わ、私も……貴方や、レイチェルと仲良くなりたいわ。よろしく……パメラ」

エリザベスもおずおずと手を伸ばす。何だか気恥ずかしくて、頰が熱くなった。どうやらパメラの方も照れくさかったらしく、握手したまま2人で顔を見合わせてクスクス笑ってしまった。

仲直りしたことを2人でレイチェルに報告に行くと、よかったと嬉しそうに笑ってくれた。それから、顔をくしゃくしゃにして目を潤ませていた。思っていた以上にレイチェルは2人のことを心配していたらしい。何だか申し訳なくなって、エリザベスはレイチェルにも謝罪をしたが、レイチェルは気にしないでと首を振ってみせた。

「仲直りできたのなら、それでいいの。私、2人はきっと仲良くなれるって思ってたんだもの」
「私達3人、親友になれると思うわ!」

きっぱりそう言ったパメラにエリザベスは驚いたが、パメラが言うと不思議と本当になるような気がした。夕食までまだ時間があったので、3人で一緒に城の周りを散歩することにした。今までできなかった分、他愛ないおしゃべりをしながら、木陰に座って湖を眺めた。太陽にキラキラと湖面が輝き、緑の草が風に揺れている。

「綺麗ね」
「ええ……とっても素敵」

ホグワーツの景色は、こんなにも美しかっただろうか。きっとレイチェルやパメラと一緒だからだとエリザベスは思った。
頬を撫でる風に、エリザベスはそっと目を閉じる。明日からはもう、部屋のドアを開ける前に深呼吸することも、不安な気持ちで食事の席を探すことも必要ない。皆のおしゃべりをみじめな気持ちで聞くこともない。

エリザベスはもう一人ぼっちじゃない。

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