エリザベスはひとりぼっち(3)

大広間での一件があってから、エリザベスはますます孤立していった。
少し美人だからってお高く留まっている、高貴な家柄のお嬢様。純血主義で、マグル生まれを見下している。
周囲がエリザベスをそう評価していることはエリザベス自身も感じていたが、その誤解を解く方法がわからなかった。教室の真ん中で演説でもすればいいのだろうか? それとも、1人1人を呼び止めて違うのだと説明して回る? プライドの高いエリザベスには、そのどちらもできそうにない。

「行きましょ、レイチェル! 早くしなきゃ朝食を食べ損なっちゃう!」
「あ……待ってパメラ、私まだ準備が……!」

パメラに腕を引かれているレイチェルが、困った顔でエリザベスを振り返る。
パメラは宣言通り、エリザベスとは関わらないことに決めたようだった。食事も別々、授業も別々。部屋ではエリザベスを空気のように扱う。当然、パメラと仲良しのレイチェルとも気まずくなってしまった。
1年生の空気が悪いのを察して6年生が仲を取りなそうとしてくれたけれど、却って逆効果だった。自分が悪いくせに上級生に告げ口したと、そんな風に勘違いされてしまったのだ。レイブンクローの女の子達はエリザベスのことを軽蔑し、全面的にパメラの味方をすると決めたようだった。
レイブンクローだけじゃない。女の子と言う生き物は不思議なもので、その人のことをよく知らなくても、誰かから話を聞いただけで大嫌いになれる。友人の多いパメラと仲違いすると言うことは、その友達をも敵に回すと言うことだった。
パメラの友達。その友達。そのまた友達。いまやエリザベスは、1年生の女の子のほとんどから嫌われていると言っても過言ではなかった。

「ミス・プライス。早く組みたまえ」

これまではただ人数の都合で余っていただけだったけれど、エリザベスは同級生達から意図的に避けられるようになってしまった。
唯一スリザリンと合同の薬草学だけは、スリザリン生が親しげにエリザベスを誘ってくれたが、そのせいで疑惑が深まってしまうのでエリザベスには嬉しくなかった。「やっぱりね」と言うような視線が突き刺さるたび、泣きたくなる。
エリザベスは純血主義じゃない。あからさまにマグルやマグル生まれを馬鹿にするあの上級生達や、この子達とは違う。そう言いたいけれど、結局他にペアを組む相手の居ないエリザベスは彼女達の手を取るしかない。彼女達と話せば、他の寮生達の視線は厳しくなる。悪循環だ。
ペアを組まなければいけない授業の度、エリザベスは教室の隅でじっと息を潜めてスカートを握り締める。誰がエリザベスと組むのか、ハッフルパフの女の子達がヒソヒソと押し付け合う。エリザベスとペアになるのはちょっとした罰ゲームか何かなのだろうか? エリザベスは堪らなくみじめだった。

「エリザベス。一緒にやろう」
「……セドリック」

唯一エリザベスと進んでペアになってくれるのが、ハッフルパフのセドリック・ディゴリーだった。
黒髪にグレーの目をしたハンサムで、とても優しい男の子だ。エリザベスが女の子達から仲間はずれにされていることに気づいて、心配して声をかけてくれた。人見知りのエリザベスは、やっぱり最初は素っ気ない態度を取ってしまったけれど、それでもセドリックはまた声をかけてくれた。ハッフルパフとの合同授業では、最近ではセドリックと組むことが多い。
一人ぼっちのエリザベスには、セドリックの存在がとてもありがたかった。

「セドリック、またあの子と組んだの?」

授業が終わってエリザベスが1人で廊下を歩いていると、そんな声が聞こえてどきりとした。思わず近くの柱の影に隠れる。前を歩いているのは、ハッフルパフの女の子達とセドリックだ。女の子達は、確かパメラの友達だ。さっきの魔法薬学で、セドリックがエリザベスとペアになったことが不満なのだろう。

「あの子、パメラのことマグル生まれだからって馬鹿にしたんでしょ。どうしてスリザリンにならなかったのかしら」
「私、前に1回ペアになったけど、こっちが話しかけてもつまらなそうだったし……なんかお高く止まってるって感じ」

違うのに。エリザベスはギュッと拳を握り締めた。パメラのことを馬鹿にしたのは、エリザベスじゃない。上手くおしゃべりできなかったのは、初対面で緊張していたからだ。見下してなんかいない。エリザベスは皆と仲良くしたいと思っているのに。
悔しかったけれど、それ以上にエリザベスは不安だった。セドリックは何を答えるのだろうか。エリザベスに親切にしてくれるのは、もしかしたらあの噂を知らないからかもしれない。エリザベスはパメラのことを穢れた血だなんて言っていない。でも、噂では言ったことになってしまっている。セドリックは、エリザベスの言葉とあの女の子の言葉、どちらを信じるだろう? あの子の言葉を信じたら、エリザベスはセドリックに嫌われてしまうだろうか。それとも。
それとも、もう噂なんてとっくに知っていて、可哀想なエリザベスに同情してくれているだけなのだろうか?

「その話は、僕も聞いたけど……そんな、嫌な子には見えないよ。何かの誤解なんじゃないかな」

緊張するエリザベスの耳に届いたのは、そんな言葉だった。
呆然と立ち尽くすエリザベスを残して、声は段々と遠ざかって行く。誰も居ない廊下に、エリザベスは座り込んだ。
石の床は冷たいのに、頬がとても熱い。胸がうるさいくらいに高鳴っている。
セドリックはエリザベスを庇ってくれたのだ。誤解だと言ってくれた。嫌な子じゃないと、言ってくれた。
エリザベスはとても幸せな気分だった。教科書を胸に抱きしめる。パメラに無視をされたって、女の子達からヒソヒソ悪口を言われたって、セドリックがそう思ってくれるなら、明日もまた頑張れる。温かいバスタブに浸かったみたいに、指先まで熱が広がって行くようだった。

エリザベスは、セドリック・ディゴリーが好きだ。
セドリックが、とても好きだ。

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