エリザベスはひとりぼっち(2)
その次の日から授業が始まって、エリザベスの予想通り何となく3人で行動することになった。けれど、どちらかと言えばパメラとレイチェルが一緒に行動しているのにエリザベスがくっついていると言うのが正しかった。
魔法薬学でも妖精の呪文でも、2人組が必要なときはレイチェルとパメラが組むことになる。3人組だとどうしても誰か余ってしまうから、最初のうちはレイチェルが順番に組もうと気遣ってくれていた。けれど、魔法使いの常識を知らないパメラが色々と「やらかし」そうになるので、見張っておく必要があると考えたらしかった。勿論、エリザベスとパメラがペアになると言う選択肢もある。けれど、何度かその組み合わせでやってみたところ、パメラのよく言えば天真爛漫な、率直に言えば遠慮のない物言いはエリザベスはどうにも気詰まりだった。
だから、エリザベスはいつも同じように余った誰かと組むことになる。しかし、人見知りのエリザベスは彼らの前では上手く話すことができなかった。クラスメイト達と、どんな話をすれば仲良くなれるのかわからない。たまにパーティーで同年代の子供と会うことがあっても、大抵は向こうからエリザベスの興味のありそうな話を振ってくれて、エリザベスの話を楽しそうに聞いてくれて……こんな風に、まだ話している途中で「もういいや」なんてつまらなさそうに言われたことなんて、1度だってなかったのに。箒に乗るのは怪我が心配だからと禁止されていたし、いつも仕立て屋さんを呼んでいたから、ファッション雑誌なんて読んだことがない。流行のレコードも、新発売のお菓子もよく知らない。
お嬢様だからって、気取っている。せっかく話しかけても、全然会話が広がらなくてつまらない子。
そんな風に周りから思われているのがエリザベスにもわかって、とても悲しくなった。
腫れものを触るように扱われ、エリザベスが段々孤立していくのに対して、パメラはどんどん友人を増やしているようだった。パメラは勉強はいまひとつのようだったけれど、たくさん冗談を言うし、よく笑ってよく喋る。勉強はできるけれど、黙り込むエリザベスには友達ができない。
今までずっと、エリザベスの周囲は大人ばかりだった。同年代の女の子達と、家同士のしがらみを抜きに接するのはほとんど初めてと言っていい。既にマグルのプライマリースクールで同年代の子供と接してきたパメラと比較すれば、社交性の面で大きく差が出てしまうのは当然だと。けれど、当時のエリザベスはそれを知らなかったので、ただただ焦りが募るばかりだった。
「やあ、エリザベス」
「おはよう、エリザベス」
同学年の女の子達との関係はギクシャクしていても、可愛らしいエリザベスに上級生や男の子達は親切だった。
ホグワーツ特急で出会ったスリザリン生達も、エリザベスを見かけると話しかけてくれた。レイブンクローの上級生達からもスリザリン生については色々と忠告されたけれど、どんなに嫌な人が多くったって、この人達はエリザベスに親切にしてくれたのだからいい人だ。エリザベスはそんな風に思っていた。
その日もいつもと同じはずだった。大広間の入口で声をかけられたエリザベスは、授業や天気なんかの当たり障りのない会話を交わしていた。大人ばかりに囲まれていたエリザベスにとっては、同年代の女の子達の流行の話題や男の子の噂よりも、こっちの方がずっと気が楽だ。友達はどんな子なのか────後になって考えるときっと相手が聞きたかったのはエリザベスではなく「プライス家のお嬢様」の交友関係についてだったのだろうけれど────と聞かれたエリザベスがレイチェルとパメラのことを話すと、スリザリンの上級生は同情するように言った。
「気の毒にな、穢れた血と同室なんて。スリザリンに来ればそんなことなかったのに。まあ、プライス家ならレイブンクローに組み分けられるのは仕方ないか」
エリザベスは驚いて言葉を失った。だって、まさか、そんな、「穢れた血」なんて下品な侮辱の言葉を実際に口にする人が居るとは思わなかったのだ。
プライス家は何百年も家系図を遡れるような純血家系だ。エリザベスは多くの偉大な魔法使いを輩出した血筋を誇らしく思っている。そしてこの血が絶えないよう守っていかなければいけないとも。
けれど同時に、マグル生まれを見下すのは下品で恥ずかしいことだと教えられた。純血主義────マグルを下等だと蔑み差別することは、例のあの人やグリンデルバルドのような、邪悪な闇の魔法使い達と同じで、絶対にしてはいけないことなのだと。
エリザベスがショックのあまり黙り込んでいると、スリザリンの上級生は二言三言言ってどこかへ行ってしまった。
いい人だと思ったのに、まさかあんなことを言うなんて……。エリザベスは何だか裏切られたような気持ちになって、悲しくて、泣きたい気持ちになった。
「……あなた、あの人達と仲良いの?」
そしてエリザベスにとって運の悪いことに、そこにパメラが通りかかった。朝食時の大広間なのだから、他にも多くの生徒が今の会話を聞いていたに違いない。信じられないとでも言いたげに顔を歪めていたパメラは、戸惑うエリザベスを鋭い視線で睨みつけた。
「マグル生まれで悪かったわね。もう話しかけたりしないから、安心して!」
そう言ってパメラは踵を返すと、大広間から走って出て行った。「パメラ!」パメラよりも少し遅れてやって来たレイチェルは訳がわからないようだったが、慌てて名前を呼んでその後を追いかける。
誤解だ。エリザベスはそんなこと思っていない。けれどきっとパメラやレイチェルは、エリザベスのことも家名を鼻にかけた純血主義の嫌な奴だと思っただろう。まさか、自分がそんな風に思われるなんて。何よりも恥ずかしいことだと教えられていたのに────。
エリザベスは呆然と立ち尽くした。今日はきっと、人生で1番最悪の日だ。
呆然とするエリザベスに、黒いふくろうが手紙を運んできた。エリザベスのふくろうだ。その足に括り付けられた白い封筒を受け取って裏返すと、そこには兄のギルバートの名前があった。
ホグワーツでの生活はどうだい?友達はたくさんできたかな?
兄の見慣れた筆跡が踊る手紙を握り締めて、エリザベスはぽたりと涙を零した。
エリザベスには友達が居ない。ホグワーツにはこんなにたくさんの生徒が居るのに、エリザベスは一人ぼっちだ。