エリザベスはひとりぼっち(1)
今だからこそ言えること。エリザベス・プライスは入学したばかりの頃、同室のパメラ・ジョーンズが苦手だった。
多くの魔法界の子供がそうであるように、エリザベスはホグワーツからの入学許可証が届くまでの勉強は家庭で行っていた。ロンドン郊外にある、緑に囲まれた大きな大きな古いお屋敷。それが、エリザベスの生家であるプライス邸だ。四方10エーカーの森や原っぱは全てプライス家の土地で、その先に小さなマグルの村があるだけだ。当然、同年代の友達なんて居るはずもなく、話相手と言えば両親や年の離れた兄、そして屋敷しもべ妖精くらいのものだった。
いよいよホグワーツに出発する朝、エリザベスは楽しみ半分、不安半分だった。
「リジーは優しい子だもの。きっとたくさん友達ができるわ」
お母様はそう言ってほっぺたにキスをして送り出してくれたけれど、本当に友達ができるのだろうか? いじめられたりはしないだろうか? エリザベスは自分の胸から下を見下ろした。リボンと真珠が縫い込まれた、お気に入りのパステルブルーのワンピース。この服も少し、子供っぽかったかもしれない。そうでなければ、気取っていると思われてしまうかも。
混んでいる汽車の中でエリザベスが入れてもらえたコンパートメントは、今思えば運が悪いことに、スリザリンの上級生ばかりだった。この春にエリザベスと入れ違いでホグワーツを卒業した兄のギルバートは、口をすっぱくして「スリザリン生には気をつけろ」と言っていたし、エリザベスも勿論そうするつもりだったが、まだ皆制服を着ていなかったからわからなかったのだ。
まごつきながら名乗ったエリザベスが「あの」プライス家の1人娘だとわかると、彼らはとても親切にしてくれた。
プライス家は純血主義ではないけれど、それでもエリザベスが彼らの言う「高貴な血」の魔女であることは間違いない。薔薇色の頬をしたお人形のような1年生を、スリザリン生達はちやほやと褒めそやした。
あら、スリザリン生にだって優しい人も居るんだわ。お兄様ったら、脅かすんだから。
エリザベスはホッと胸を撫で下ろして、親切な上級生達に笑顔を向ける。汽車がホグズミード駅に到着する頃には、胸に渦巻いていた不安はすっかり溶けていた。
組分け帽子はエリザベスの望み通り、両親や兄と同じレイブンクロー寮を選んでくれたし、ここでもプライス家の名は大いにエリザベスを助けた。エリザベスの曾祖父は元魔法省大臣だし、兄は少し前までは彼らの先輩だったのだ。しかも、今は現役のクィディッチ選手。エリザベスの周囲に座った少年達は、プロの選手の練習方法や1日のタイムスケジュール、果ては好きな食べ物や趣味まで聞きたがった。
ここでも上級生に囲まれていたエリザベスは、楽しくホグワーツ初日の晩餐を楽しむことができた。が、部屋について、自分が同級生の輪の中に入り遅れたことを知ることになったのだった。
エリザベスの荷物は5人部屋に運び入れられていた。ベッドは窓際から2番目で、左隣のベッドはレイチェル・グラント、そして右隣はパメラ・ジョーンズ。
他にも同室者はアイリーンとジェーンが居たが、この2人は入学する前からの友達らしく、今も2人で布団の中に潜り込んでクスクス笑いながら内緒話をしている。きっと、ホグワーツ生活はこの両隣の2人と仲良くすることになるのだろうとエリザベスは思った。
「パメラ、これがさっき言ってた写真」
「うわあ、本当に動くのね。すっごい! これ、レイチェルの小さい頃? 可愛いわね!こっちがさっき言ってたセドリックね! ハンサムじゃない!」
「そう……? セドって写真映りがあんまりよくないの。今度パメラにも本物に会わせるわ」
「ってことは実物はもっとハンサムなのね! 楽しみ!」
けれどどうやら、2人は歓迎会の間に一足先に仲良くなったらしい。
エリザベスはレイチェルのことを知っている。さっき、上級生が小説家のロザリンド・アンチゴーネ・バングズの娘らしいと話していたからだ。エリザベスも、彼女の作品のファンだった。けれど、パメラのことは知らない。ジョーンズと言う家名にも心当たりはない。きっと、ハーフかマグル生まれなのだろう。
どうしよう、とエリザベスは戸惑った。一緒におしゃべりをしたいけれど、どんな風に話しかければいいのかエリザベスにはわからない。同い年の女の子と話したことなんて、ほとんどないのだ。
「ねえ、あなた! 名前は? 私、パメラよ! こっちはレイチェル」
「えっ」
俯いて考え込んでいたら、いきなり話しかけられたのでエリザベスは驚いた。キラキラした明るいブルーの瞳が、エリザベスを好奇心いっぱいに見つめている。レイチェルも興味を持ったのか、じっとエリザベスを見ていた。アイリーンとジェーンのおしゃべりもいつの間にか止んでいた。皆に注目されているのがわかって、緊張してしまう。エリザベスは毅然として見えるよう、背筋を伸ばして顎を引いた。
「あ……わ、私は、エリザベス・プライスよ」
「プライスって……あの、プライス家?」
焦ったせいか、パーティーのときのような気取った話し方になってしまったことをエリザベスは恥じた。
レイチェルが首を傾げてみせたので、エリザベスはぎこちなく頷いた。不思議そうな顔をするパメラに、レイチェルがレイブンクロー家系の名家なのだと説明する。けれど、パメラには今ひとつピンと来ないらしかった。
「ふぅん。つまり、お嬢様ってこと?」
その言葉に、エリザベスはムッとした。ずいぶんと無神経な物言いをする子だ。
けれどどうやらパメラには悪気がないようだし、初日から険悪なムードになるのも嫌だったので、そのまま口をつぐんだ。
夜が更けるまで、レイチェルとパメラは楽しそうにマグル界や魔法界についておしゃべりしていた。時々エリザベスにも話を振ってくれたけれど、エリザベスはやっぱり上手くその輪に入ることができなかった。
エリザベスの胸には、すっかり晴れたはずだった不安がまた立ち込めはじめていた。