アリスの恋(9)
彼女達は、私とも、私の今までの友人達とも違うタイプの女の子達だった。
華やかで、堂々としていて、自分に自信を持っていて。
自分では選ばないような大人っぽい服。香水。いつもより濃い色のマニキュア。そう言うものを教えられるうちに、何だか自分が前よりも強くなれた気がした。
「アリスは可愛いんだからさ、もっと自信持ちなよ!」
不思議なもので、私達は皆セドリックを好きなライバル同士のはずなのに仲が良かった。あの子と言うわかりやすい共通の敵を持ったことで、団結することができたのかもしれない。
最初にきちんと「警告」してあげたのだから、当然の罰なのだと彼女達は言う。罰として、あの子を困らせる。
私だって本当はこんなことしたくなかったのに。「警告」を無視したあの子が悪いの。
「アリス、なんか最近変わったね」
ルームメイトにそう言われても、大して気にならなかった。私に急に友人が増えたことが面白くないんだろう。
もしかしたら、私達があの子に嫌がらせしてることも、薄々勘付いているのかもしれない。少なくとも、エリザベスは気づいてる。この間会った時にそのことを聞かれて、証拠でもあるのって開き直ったら、エリザベスはひどくショックを受けたような顔をしていた。
「あの……」
「どうしたの、アリス」
「ん、とね……さっきの、ちょっと、やり過ぎじゃないかな……?って……」
さっきの、と言うのは私達があの子に仕掛けた悪戯のことだ。ちょっとゴムボールをぶつけて驚かせるだけだったはずが、タイミングが悪かったせいで、あの子は驚いて階段から落ちてしまった。
ねえ、と窺うように視線を巡らせれば、私と同じハッフルパフ生のリリーだけが躊躇いがちに頷く。
「まあ、階段から落ちたのはちょっとビビったけど、結局怪我もしなかったみたいだし……これくらいいい薬だって」
「そうそう。何度もチャンスあげたのに、全然聞かないんだもん」
「アリスは優しいからね。あの子に同情しちゃったんでしょ?」
何でもないことのように笑い飛ばされると、何だか彼女達が正しくて、自分が心配しすぎのような気がしてくる。
そうね。そうかもしれない。だって、こうなった原因はあの子にもあるもの。あの子が、セドリックにベタベタするから。あの子が、早いうちにちゃんと私達の忠告を聞いて、セドリックから距離を置いていれば、私達だってここまではしなかったのに。
「ねえ、アリス。まずいよ。最近、本当にやり過ぎだよ……」
休暇明けからしばらく経った日の夜、ルームメイトの皆が寝静まった頃、リリーが私に泣きついてきた。
そう思うなら直接言えばいいじゃないと言うと、青ざめて勢いよく首を横に振る。気持ちはよくわかるから、責められない。私だって、やり過ぎだとは思うけれど、それを彼女達には言い出せない。
クリスマス休暇にあの子とセドリックがデートしたらしいと言う話を聞いてから、あの子への嫌がらせはどんどんエスカレートしている。
私もリリーもここまでしたいわけじゃなかったし、もうやめたいと思っているけど、ただでさえ彼女達の気が立っているところに、今更私達がそんなことを言ったら、ますます怒らせることは間違いない。最悪、裏切り者扱いされて私達までターゲットにされるだろう。それが怖いから、抜け出すこともできなくて。
「セドは誰にでも優しいけど、曲がったことが大嫌いだし、意外と頑固だから。こんな風に大勢で一人を取り囲んで罵声を浴びせるような女の子のことは好きにならないわ。絶対ね」
あの子にそう言われたとき、私は違う、と叫びたくなった。
違う。違う、私はここまでしようとは思ってなかった。今だって、本当はここに来たくなんてなかった。私は、何も言ってない。あなたを罵倒してたのは、彼女達で、私じゃない。私は嫌だった。私とリリーは、私は違う。
────一体、何が違うって言うの?
「ムカつく!」
「何様のつもりなのよ!」
彼女達は、そう言ってあの子に対して怒っていたけれど、今度は私はそれに同調する気にはなれなかった。
とうとう、あの子に顔を見られてしまった。それもショックだったけれど、それ以上に、あの子の言葉に頭から冷水を浴びせられたような気がした。
あの子の言う通りだ。
ライバルのはずなのに、馴れ合っていられた私達。あの子と言う共通の敵を持つことで、団結していられた。それはきっと確かだ。けれど。けれど、もしかしたら、それだけじゃなくて。本当は、心のどこかでわかっていたのかもしれない。私は────“私達”は、きっと、誰もセドリックに選ばれることはない。
あの子が居るせいだと、彼女達はいつも言っていた。あの子がセドリックを独占している。あの子が居なければ、自分達にもチャンスはあるはずだと。
もしもそれが本当になったとしたら。彼女達の内の誰か1人が選ばれたなら、他の皆は祝福するのだろうか?
あの子は確かに、傲慢かもしれない。無神経だったかもしれない。でも、あの子は、卑怯なことは何一つしていなかった。こんな風に、影で人を陥れるようなことをしている人間が、あの子を責める権利があるの? あの子よりもセドリックに相応しいと、胸を張って言えるの?
ううん、違う。そうじゃない。
セドリックの隣に居たのが彼に釣り合う女の子なら、私は本当に納得できるの?
どうしようもなく、みじめな気分だった。
本当に卑怯なのは────ずるいのはどっちだ。私達は、私は、自分の自信のなさを、劣等感を、彼の目に留まらないことへの苛立ちを、あの子に押し付けて、憂さ晴らしをしていただけだ。
…………私、何をやってるんだろう。もしもセドリックがあの子から私達のことを聞いたら、どう思うだろう。きっと、軽蔑する。私はこんなことしたくなかったなんて言ったって、信じてもらえない。だって、彼女達と居ることは、強制されたわけでも、脅されたわけでもない。私の意志で選んだんだから。
やり過ぎだと思っていたのに、見ているだけで何もしなかった。せめて、勇気を出して彼女達を止めればよかった。止められないなら、せめて自分だけでも、そこで立ち止ればよかった。自分可愛さに、何もしなかった。どうせ無理だからと、仕方ないと言い訳して、何一つ動こうとしなかった。
……ああ、それって、私の恋心と一緒だ。セドリックはどうせ私なんて振り向いてくれないから、叶いっこないから。そう言い訳して見ているだけだったくせに。あの子に嫉妬したなら。彼への気持ちを諦められないなら、せめて彼に近づけるよう努力すればよかったのに。いつだって、一人じゃ何もできないのね。
あの子のことが嫌い。だけど。
それ以上に、今の自分のことが、大嫌いだ。