アリスの恋(7)
夏が終わって、学年が1つ上がった。
誰もが予想していた通り、セドリックは監督生になって、クィディッチのキャプテンになった。夏休み中、新学期に会ったら絶対に言おうと決意していたから、「おめでとう」の言葉はすんなりと言えたと思う。
でも、それだけ。私のおめでとうなんて、彼が100個言われた祝福の言葉の1つでしかない。もしも一緒に監督生になれたら、なんて。私の淡い夢は叶うことはなかった。自分の成績を考えれば、当然のことだけれど。
皆がセドリックに一目置いて、下級生や女の子がセドリックに憧れの視線を向けるようになっても、セドリックは変わらない。相変わらず、穏やかな笑みを湛えていて、誰にでも優しい。
「セド!」
あの子も、相変わらず。
エリザベスはどうやら、私があの子を嫌っていること、あの子には言ってないみたい。エリザベスらしい、と思った。あの子を傷つけたくないんだろう。それとも、私に同情したのかもしれない。どっちだっていいけど。どうせ、エリザベスは私よりあの子の味方なんだから。
「あのね、今からグリフィンドールと合同授業でしょ? これ、アリシアに渡しておいて! お願い!」
マグル学の授業の終わり。鞄から取り出した本をセドリックへと差し出すあの子は、申し訳なさそうに眉を下げてはみせるけれど、彼がが断るかもしれないなんてちっとも考えてなさそうだった。
傲慢ね、と眉を寄せる。セドリックの都合は考えないの。彼は自分の頼みは聞いてくれて当然だと思ってるの。
断られてしまえばいいのにと思った。でも────優しいセドリックは「いいよ」とあっさり了承して、あの子の手から本を受け取る。あの子が去った後、私はすぐ側に居たセドリックへと声をかけた。
「大変ね」
あんな子と幼馴染で大変ね。幼馴染だからってただそれだけで、あんな傲慢な子のわがままを聞かなきゃいけなくて、大変ね。そんな思いをこめて、同情を投げかける。振り向いたセドリックは、何を言われたのかわからないらしく、不思議そうな顔をした。だって、と私は小さく呟いた。
「だって、セドリック、忙しいのに……さっきだって、スプラウト教授に呼ばれてたでしょ……? 本くらい自分で渡してって、断ってもよかったんじゃない……?」
心臓が、バクバクとうるさく音を立てる。────言った。言ってしまった。
心配に見せかけているけれど、実際は、ただの嫉妬だ。私は、セドリックに本当に用があってもなかなか声がかけられないのに。迷惑かもしれないって、躊躇ってしまうのに。あの子はあんなくだらない用事で、自分勝手に、セドリックを呼びとめるから。そんな、ただの八つ当たり。
「んー……でも、そんなに大した手間でもないしね。それに、レイチェルは僕が本当に余裕がないときは、こう言うこと頼まないから」
「そ……う、なんだ……」
セドリックに余裕がないとき。そんな状況が本当にあるのだろうかと、私には不思議な気がした。だってセドリックはどんなに忙しくったって、いつだって穏やかな笑みを浮かべて、いつだって皆に親切なのに。優しい彼のことだから、謙遜しているのかもしれない。
「それに僕も結構、レイチェルにはわがまま言ってるしね」
お互いさまなんだよと、セドリックが笑う。穏やかなその表情が真っ直ぐ見れなくて、俯いた。
どうして? どうして、あの子を庇うの?
セドリックは、わがままなんて、言わないじゃない。セドリックはいつだって、スマートに何でもこなしちゃうじゃない。
それとも、あの子になら言うの?あの子になら、余裕がないところも見せるの? どうして?
あの子のことが、好き、だから?