アリスの恋(4)

「セドリック?」

放課後、エリザベスと約束した図書室へと向かって歩いていたら、中庭のベンチにセドリックが座っていた。本を読むでもなく、ただ、座っている。何かと忙しい彼がこんなところで1人で居ると言うのは珍しくて。今なら話しかけても大丈夫だろうかと、そんな淡い期待が胸を膨らませる。

「どうしたの? こんなところで……何か、用事?」
「ああ、うん」

私の問いかけに、セドリックは小さく頷く。誰かを待っているのだろうか。マフラーに顔を埋めるようにはしているけれど、鼻の頭が赤いから、もう随分前からここに居たのかもしれない。こんな寒い日に、ただじっと外に居たら凍えてしまうのに。彼が風邪を引いてしまうんじゃないかと心配していると、セドリックが微笑んだ。

レイチェルを待ってるんだ」

何でもないことのようなその口調に、そうなの、と小さく相槌を打つ。
と言うことは、もうすぐあの子がここに来るのだろうか。セドリックとおしゃべりはしたいけど、あの子とは会いたくない。自分勝手だとわかっているけれど、仲の良さを見せつけられてるみたいで、気分が悪いから。

「セド!」

その場を去ろうと歩き出したら、向こうからあの子が走って来た。息を切らして、焦った様子で。
私の存在には気づかない様子で、横を通り過ぎていく。駆け抜けて行く。セドリックの元へ、真っ直ぐに。
私の、好きな人のところへ。

「ごめんね、遅くなって……! フィルチに捕まりそうになっちゃって」

背中に聞こえる、あの子の声。聞きたくないと思うのに、耳が勝手に会話を拾ってしまう。申し訳なさそうなあの子の声に、いいよ、とセドリックが返す。しょうがないなって言いたげなその響きに、ぎゅっと胸が締め付けられる。
私と話す時は絶対、セドリックはあんな風な声は出してくれない。

「セド、なんか顔色青ざめてる? ……って、やだ、冷たい!大丈夫!? 私が待たせたから!?」
「そんなに待ってないよ」
「嘘! ちょっと、何これ、指! 氷みたいになってるじゃない! 手袋! 手袋、いる!? あ、マフラーも!ちょっと待って、今……」
「いいよ、レイチェル。僕は平気だから。レイチェルが風邪引くよ」

彼の体温を、簡単に確かめられるのね。簡単に、彼に触れられるのね。私は、彼とたったひとひらの言葉を交わすことさえ、緊張して上手くできないのに。いつだって皆に引っ張りだこの彼がたった1人のために時間を割いてくれる。その1人に、私はなれないのに。それもこれも、貴方には全部、当たり前のことなのね。

「先に行っててくれてよかったのに……!」

その言葉はきっと、あの子にとっては思いやりだったのだろう。けれど────ひどく無神経に感じて、ぎりと唇を噛みしめた。
違う。そんな言葉じゃない。彼がほしかったのはきっと、そんな言葉じゃない。
ただ、一言、ありがとうって……待っていてくれてありがとうって言ってあげてよ。
セドリックはずっと、待ってたのよ。この寒い中、ずっとあなたを、あなただけを待ってたのに。どうして、そんな彼にかけるのが、もっと優しい言葉じゃないの。どうして。どうして。

どうして。

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