アリスの恋(3)

「すみませんが、これを渡しておいてもらえますか」

我ながら不純だとは思うのだけれど、セドリックが選択しているからと言う理由で私はマグル学を取っていて。
バーベッジ教授から渡されたプリントは、その授業で使うもの。マグル学の受講者はそんなに数が多くないし、スリザリン生は1人も居ない。だから今までならそれほど憂鬱ではなかったのだけれど、プリントを受け取るとき、私は嫌だなと思ってしまった。だって、マグル学って、あの子も受けているから。
できるなら、あの子に話しかけたくない。先生の頼まれごとなんだから、用件だけ言って、パッと終わらせちゃえばいいんだろうけど……でも、憂鬱。

「うわっ、ごめん……大丈夫!?」
「え、ええ……こちらこそ」

考え事をしながら歩いていたせいで、廊下の角で誰かとぶつかってしまった。腕に抱えていた羊皮紙がバサバサと床に散らばって行く。やってしまった! どうしよう、恥ずかしい。
慌てて拾い集めようと膝を折れば、頭の上から拍子抜けしたような声が降ってきた。

「何だ、アリスじゃない」

知っている声に顔を上げれば、そこに立っていたのはパメラだった。屈んだ拍子に、キラキラしたブロンドがさらりと揺れる。パメラが手伝ってくれたおかげで、ばらまいてしまった羊皮紙はあっと言う間に元通りの束になった。プリントをしげしげと眺めたパメラが不思議そうに首を傾げる。

「これ、マグル学?」
「うん、そうなの……皆に配ってって頼まれちゃって」
「うっわ、面倒じゃない? よかったら、レイブンクローの分、もらうわよ。ぶつかっちゃったお詫び」
「いいの?ありがとう。そうしてもらえると、助かるわ」

願ってもない申し出だった。そうしたら、あの子に直接会わなくて済む。と言うか、そうよね。誰か1人レイブンクローの人に渡して、後はよろしくって言ってもよかったんだわ。全然思いつかなかった。どうして私ってこう、トロいと言うか、要領が悪いんだろう。だから、ハッフルパフに選ばれたのかな。……勿論、ハッフルパフは大好きだけど。

「でも意外。アリスのママってマグルじゃなかったっけ?」
「あ、うん……その……魔法使いから見たマグルってどんな風なのかなって、気になって」

ふうん、とパメラが興味深そうな視線が恥ずかしくて、俯いた。嘘。嘘つき。見栄っ張り。
本当は、セドリックが談話室で偶然おしゃべりしてるのを聞いて決めたくせに。僕はマグル学にしようかなって、ただその一言だけで。本当は、占い学を取ろうと思ってたくせに。マグル学なんて、全然興味なかったのに。

「あ、レイチェルだわ」

パメラの言葉に、つられて視線を向ければ、遠く見える渡り廊下にあの子の姿があった。一緒に居るのは……双子のウィーズリーのどちらかだと思う。あの鮮やかな赤毛は間違いない。どっちかなのかは、私にはわからないけど。二人のファンの子達に言わせれば、よく見れば違う、らしい。
あの子と仲が良いのだろうか? 確かに、マグル学の授業でも時々おしゃべりしているのを見かけた気もする。……いつもセドリックばかり見ていたから、正直あまり覚えてない。
距離が離れているから、会話は聞こえない。けれど、2人の表情や雰囲気は何となくだけれどわかる。
赤毛の男の子が、悪戯っぽく笑って何かを言う。あの子はそれに無表情のまま返事をする。男の子があの子の耳元で何かを囁く。あの子は頬を赤く染めて、男の子に何か言い返す。

「なんか、なかなかいい感じじゃない?」

ニヤニヤと笑うパメラの言葉は、たぶんその通りで。
何だろう。あの子はセドリックと居る時よりも、ずっと「女の子」の顔をしているように見えた。ウィーズリーの双子のどちらかが、好きなのだろうか? あの子は、恋をしているんだろうか? あの、やんちゃで悪戯好きで、ムードメーカーで────セドリックとはまるで反対の男の子に。
それは、たぶん、喜ぶことなんだろう。だって、あの子がセドリックを好きじゃないなら、あの子は私のライバルじゃない。あの子がセドリックの隣に居ても、心配しなくていいってことだから。
私はきっと、安心するべきなのに。

何故だか私は、不安がりじりと胸を焦がすのを感じていた。

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