自分以外の誰かの心の中を想像するのって、すごく難しいことだ。
表情や仕草、それに声色なんかからわかることもあるけれど、思っているのとは正反対なことばかり言ってしまう人も、辛くても隠すのが上手な人も居る。ドラゴンとの試合を前にしたセドリックの不安にレイチェルは気が付くことができなかったし、ジョージがレイチェルのことをどう思っているのかも全然わからなかった。10年以上も一緒に過ごしていてもセドリックの考えが何でもわかるわけじゃないし、ジョージのことはセドリック以上にわからない。わからないけれど……だからこそ、少しずつ知っていきたい。
相手の気持ちが見えないと不安になってしまうから、レイチェルの方も、ジョージに伝わるよう努力したい。照れくさくても、嬉しいときは嬉しいと言葉にしよう。恋人同士としての振舞いがどんなものなのかはまだよくわからないけれど、きっとそれくらいならできるから。少しずつ、楽しい時間を積み重ねていけたらいいなと思う。
そう。自分以外の誰かの心って、そう簡単には理解できないものだ。でも────今目の前に座っているペネロピーが困っていることは、誰の目にも明らかだった。

「ねえ、ペニー。それってパーシーからの手紙よね?……何か、悪い知らせだったの?」

朝食の席でペネロピーが受け取った手紙が彼女の恋人からのものであることは、差出人を確かめたときの表情から想像がついた。花が咲くように綻んだ笑顔はとても可愛い。しかし────手紙を読み進めるうちにその表情は曇り、今やその顔色は真っ青だった。

「パーシーが……ダンスパーティーに来るって」
「えっ? だって、お客様を招待はできないって……」

ペネロピーの話によれば、パーシーは審査員のクラウチ氏の下で働いていて、忙しい彼の代理としてパーティーに出席することになったらしい。だからペネロピーを当日エスコートできる、と言う知らせだったようだ。

「久しぶりに彼と会えるのよね? しかも、クリスマスに……それって、その、素敵なことじゃないの?」

躊躇ったものの、レイチェルはそんな疑問を口にした。
だって、ペネロピーはすごくパーシーに会いたがっていたのに……。恋人の仕事が忙しすぎてなかなか会えないことを、ペネロピーはとても寂しがっていた。それなのに、どうしてこ青ざめるのだろう?

「会いたかったわ!でも、どうしよう。私、もう別の人と一緒に行くって約束しちゃった……」
「あ……」

そう言えばそうだ。良い知らせだけれど、あまりにもタイミングが悪い。今更『恋人が来るからやっぱりパートナーを解消してほしい』と言い出したのでは、誘ってくれた相手も困ってしまうだろう。

「なんか、それってすっごく勝手じゃない? ちょっと考えたら、もうペニーに自分以外のパートナーが居るはずだってわかるじゃない。急に言われてもペニーは困るだけだって気づかなかったわけ?」
「パメラ!」

遠慮のないパメラの言葉に、エリザベスがギョッとしたようにパメラの口を塞いだ。レイチェルもハラハラしたが、ペネロピーは困ったように眉を下げて微笑むと、静かに首を振った。

「いいの。パメラの言う通りだもの。忙しい、忙しいって……最近の手紙はそればっかり。私だって忙しくないわけじゃないし、会って相談したいことだってあるのに。去年は自分だってNEWTで頭が一杯で、私のことはほったらかしだったのに……そんなことはもうすっかり忘れて、私の忙しさなんて自分に比べたらちっとも大したことないって思ってるんだわ」
「そんな……」
「……大切にされてないってわかってるのに、ひどいって思うのに、嫌いになれないの。久しぶりに会えるってわかって、すごく嬉しい。パーシーにドレス着たところ、見てもらいたかったんだもの。……馬鹿みたいよね」

ペネロピーが鼻を啜った。自嘲するようにそう呟く姿に、レイチェルまで胸が痛くなった。
1人で考えたいから部屋に戻る、とペネロピーはほとんど何も食べず大広間を出て行ってしまった。NEWTの試験勉強で寝不足のせいなのか、その足取りはふらついているように見えた。何だか心配だ。

「やっぱり、遠距離恋愛って難しいわよねー」

スコーンを齧りながら、パメラが気の毒そうに言った。やっぱり、それが原因なのだろうか。困った人だと文句を言ってみせることもあったけれど、レイチェルの知る限り、パーシーの話をするときのペネロピーはいつも優しい表情をしていた。パーシーの話を聞くのが好きなのだ、とも。でも……さっきのペネロピーは、とても辛そうだった。

「でも……パメラとマークだって遠距離だけど、上手く行ってるでしょ?」
「私達はほとんど最初からそうだもの。ペニー達みたいに急に遠距離ってなると、すっごく大変だと思うわよ」

それは、レイチェルにも何となく想像がつくけれど……。元々、2人は寮も学年も違ったから四六時中一緒だったわけではないけれど、それでも同じ校内だ。会おうと思えばいつでも会えただろう。でも、今のペネロピーはもう何ヶ月もパーシーと会えていない。

「すぐ会える距離なら、ちょっとしたことで喧嘩したって、すぐ仲直りできるけど。手紙じゃ上手く伝わらないことや、飲み込んじゃうことだってあるでしょ。今まで通りじゃ上手くいかなくなるわよ。会えないと不安になるし、不満だって溜まるもの。話を聞いてる限り、パーシーは変わらなさすぎ。あの2人って、いつもペニーばっかり我慢してるように見えるもの」

その言葉を聞いて、レイチェルは何だか気持ちがざわつくのを感じた。
恋人同士の場合とは違うかもしれないけれど……セドリックも、卒業したらルーマニアに行ってしまう。遠く離れた場所に居ると言うことは、今まで当たり前だったことができなくなると言うことだ。他愛のないおしゃべりをしたり、ちょっとした冗談で笑い合ったり。
……やっぱり距離が離れてしまうと、気持ちも関係も、それまでとは変わってしまうのだろうか?

 

 

 

ふくろうが運んで来たのは、憂鬱な知らせだけではなかった。
朝食を終えて部屋に戻ると、エリザベス宛に荷物が届いていた。両手で抱えなければ持てないような、大きな箱が2つ。検知不可能拡大呪文で無理やり詰め込まれていたのか、蓋を開けると中身がどんどん溢れ出した。水色に白、ピンクにライムグリーン。視界に広がるとりどりの色彩に、レイチェルはフレッドかジョージが悪戯でカナリアの大群を送りつけてきたのかと思ったが────よく見ればそれは、たくさんのドレスだった。

「わあ……素敵! もしかしてこれ、全部ジニーに?」
「好みがわからなかったから、とりあえずサイズが合いそうなものを送ってもらったの……大丈夫かしら?」
「きっと気に入るわ! 本当にありがとう、エリザベス」
「そんな……お礼を言われるようなことじゃないわ。我が家でクローゼットの奥にしまわれているより、誰かに袖を通してもらった方がいいですもの」

箱の中身は、ジニーのためのドレスだ。エリザベスが昔着ていたもののはずだけれど、大切に保管されていたからかどれも新品同然に見える。10着……いや、20着以上あるかもしれない。そんな会話をしているうちにベッドの上にドレスの山が築かれはじめていたので、レイチェルは慌てて箱の蓋を閉じた。

「わあ、すごい! 本当にこの中から選んでいいの?」

ちょうど、午後にはジニーとの約束があった。
ちょっとしたブティックが開けそうな数のドレスを見て、ジニーは驚き、それから頬を紅潮させた。エリザベスは心配していたが、1番上にあった1着を胸にあててみているのを見る限り、サイズはちょうどよさそうだ。

「パートナーのドレスローブの色はわかる?」
「うん。黒だって」

それなら、どんな色のドレスを選んでも大丈夫だろう。はしゃいだ様子で1着1着のデザインを確かめているジニーの姿は微笑ましい。が、そんな会話がきっかけで、ジニーに話さなければいけないことがあったのを思い出してしまった。

「あのね……ジニー」
「なぁに?」
「あの……私、ジョージにパーティーに誘ってもらって……その、一緒に行くことになったの」

そう、パートナーだ。顔を合わせる機会がなかったのもあって、ジニーにはまだジョージのパートナーになったことを言っていなかった。……いや、機会がなかったなんて言うのはただの言い訳かもしれない。伝えるのを後回しにしてしまったのだ。“兄のガールフレンド”としてのレイチェルをジニーがどう思うかわからなかったから。

「言うのが遅くなってごめんね。その、ジニーは嫌かもしれないけど……」
「嫌だなんて、そんなわけないじゃない!」

勢いよく否定してくれたジニーに、レイチェルはホッとした。よかった。どうやら、ジニーと気まずくはならずに済みそうだ。今更ジョージ以外とパーティーに行くことは考えられないけれど、そのせいでジニーとの関係にヒビが入ってしまったらと思うと不安だったから。

「フレッドはアンジェリーナを誘ったの。2人とも、なかなか女の子を見る目があるじゃないって感心してたのよね。それに比べて、ロンってば……」

可愛らしい笑顔を浮かべていたジニーの表情が翳り、段々と険しいものに変わった。何か嫌なことを思い出したのか、深い溜息を吐き出す。が、それについて話題にする気はないのか、気を取り直すように弾んだ声でレイチェルへと問いかけた。

「うーん、どれも可愛くて迷っちゃう。ねっ、レイチェルはどれがいいと思う?」
「んー……そうね、私はこの水色のドレスが好き」

淡い水色のドレスは、色はハーマイオニーのドレスと似ているけれど、生地や装飾のせいかまた違った印象だ。ハーマイオニーのドレスはシルバーのラインやビジューが華やかだったけれど、これはオーガンジーを重ねてふんわり広がったスカートや背中を編み上げているリボンが可愛い。

「それに、この紫色のも。あと、こっちの黄色のドレスもジニーらしくて可愛いと思うわ」

薄紫色のドレスは、同じ色の糸でチュール生地が1枚重なっていて、そこに花の刺繍がしてある。それに、明るいレモンイエローのドレスは大ぶりな花のコサージュがいくつも縫い付けられていて、元気で明るいジニーの雰囲気にぴったりだ。

「どうかしら?」
「うん……素敵だと思う……」

ジニーの胸にドレスを当ててみる。やっぱり、よく似合いそうだ。ジニー自身もそう思ったのか、照れたように微笑んでみせた。けれど────じっと鏡を眺めているうちに、どうしてかその表情は翳ってしまった。

「……『私らしくて可愛い』、って……それってやっぱり、子供っぽいってことよね」
「子供っぽいってことはないと思うけど……」

確かに、レイチェルが自分のドレスを選ぶときにこのドレスがあったら候補に入れたかと聞かれると、「可愛すぎる」と却下したかもしれない。でも、ジニーにはよく似合っていて可愛いし、逆にレイチェルやパメラが選んだドレスを着たとしたら、ジニーの魅力を上手く引き出すことはできないだろう。いや、そもそもパメラのドレスは同い年のレイチェルですら着こなす自信はないけれど……。

「でも、その……ジニーはまだ3年生なんだし、背伸びして大人っぽいデザインを着るよりも可愛い雰囲気のドレスの方がいいんじゃないかって、エリザベスも言ってたわ」

そもそもここにあるものは、エリザベスが昔着ていたものだけあって、可愛らしいドレスばかりだ。「上品」「清楚」「可憐」────そんな感じの。ぴったりと体に沿ってそのラインを強調するような大人びたドレスに憧れる気持ちはレイチェルにもよくわかるけれど、今のジニーにはやっぱり可愛らしい雰囲気の方が合っているんじゃないかと思う。

「……レイチェルは、ハリーが誰をパートナーにしたか知ってる?」
「えっと…………その、聞いたわ。パーバティ・パチルを誘ったって」

唐突にジニーが口にした言葉に、レイチェルはギクッとした。レイチェルからは振らないようにしていた話題だったけれど、やっぱりジニーも知っていたのだ。もしかして……そのことでジニーは落ち込んで、自信を失くしてしまっているのだろうか?

「実はね……私、ハリーに誘われたの」
「えっ?」

予想外の言葉に、レイチェルは驚いた。ハリーが、ジニーを誘った? あれ、じゃあパーバティをパートナーにしたと言うのは周囲の誤解なのだろうか? でも……好きな人とパートナーになることができたにしてはジニーの表情は暗い。

「ううん……“ハリーに”誘われたわけじゃないわ。だって、私に『ハリーとパーティーに行けば』って言ったのはロンだから。ハリーはそれを、黙って聞いてただけ。『私とハリーと、ロンとハーマイオニーで行けばちょうどいい、どうせ他に私達を誘う人も居ないだろうから』ってね。本当……信じられないくらい、紳士的な誘い方だったわ」

続けられた言葉に、レイチェルは顔を引きつらせた。それは……ジニーの言葉が事実なら、いくら好きな人が相手だったとしても、素直に喜ぶのは難しいかもしれない。

「あの……じゃあ、その、ジニーは……ハリーのこと、断っちゃったの?」

レイチェルは戸惑った。ジニーがどんなにハリーのことを想っているかは知っている。何と言うか、まあ、とても失礼な誘い方だったのだろうけれど、せっかく好きな人に誘われたのに断ってしまうなんて……ジニーは後悔しないのだろうか? こんな風にダンスパーティーが行われるなんて、次はいつになるかわからないのに。

「だって、もうネビルと行くって約束しちゃったし……ううん、そんなのは言い訳よね。もし、ハリーが『僕と一緒にパーティーに行ってほしい』って誘ってくれたら、ネビルとの約束を断ってハリーと行くって言ったかも」

憂鬱そうなジニーの様子に、レイチェルは何と声をかければいいかわからなかった。確かに、もう約束をしてしまった相手が居たら、後から誘ってきた人への返事は躊躇うだろう。レイチェルだって、ジョージが誘ってくれたのがジュリアンに承諾した後だったら、きっと相当に悩んだはずだ。

「えっと……その、あんまりロマンチックな誘い方じゃなかったって言うのは、わかったけど……」

状況を整理しよう。以前、ジニーは『ハリーには好きな人が居る』と言っていた。レイチェルはてっきり、それはパートナーになったと噂のパーバティ・パチルのことだと思った。しかし、今聞いた話によれば……ハリーがパーティーに誘ったのは、パーバティーよりジニーが先だ。

「つまり、ハリーの『好きな人』ってジニー……?」
「違うわ」

レイチェルが導き出した結論は、ジニーによってキッパリ否定された。「……そうなら、嬉しかったけど」ジニーの声は震えていた。鳶色の瞳は潤み、鼻の頭は赤くなってしまっている。

「たぶん、ハリー、本命に断られたのよ。それで、私を誘って……それも断られたから、パーバティを誘ったんだと思うわ。……パーバティがオーケーしたって言うのは、びっくりしたけど」
「でも、その……それって想像でしょう? ジニーこそが本命だったから誘ったって可能性も……」
「ありがとう。でも、違うわ。……わかるもの」

レイチェルは実際のやりとりを聞いたわけじゃないから、知ったようなことは言えないけれど……ジニーを誘ったと言うことは少なからずジニーに好意があるからなんじゃないだろうか? 少なくとも、パートナーとして一緒にパーティーに行っても良いと思うくらいに。

「……ハリーが私を女の子として見てないことくらい、知ってたわ。だから、ハリーから誘ってもらえるかもなんて、夢見たりしなかった。それなのに……『誰も居ないから君でいいや』なんて扱いは、いくら何でもひどいと思わない? もしかしたら私には既にパートナーが居るかも、なんて、きっと考えすらしなかったのよ」
「それは……あの、ほら、ジニーは3年生だし……」
「ええ、そうよね。わかってる。私が、まだ3年生でチビだから!女の子としての魅力に欠けてるって、そう思ってるからよ」

ジニーは吐き捨てるような口調だった。3年生でパーティーの参加資格がないジニーはパートナーが居ない可能性が高いから、と言う意味だったのだけれど……。何を言ってもジニーを傷つけてしまう気がして、レイチェルは言葉に詰まった。

「それに、私が、ハリーのことが好きだから。……ハリーと行けるなら、大喜びでオーケーするに違いないって思われたのよ。本当に……馬鹿にしてるわ」

いくら何でも、ハリーがジニーに対してそこまで残酷なことを考えていたとは思えないけれど……ハリーのことが好きだからこそ────無神経と言うか、デリカシーのない言動にジニーはきっと深く傷ついたのだろう。……もしかしたら、ハリーの方は単に照れ隠しだったのかもしれないけれど、だとしてもジニーにはショックだったはずだ。レイチェルはジニーの背中を擦りながら言葉を探した。が、レイチェルが何か言う前にジニーは俯いていた顔を上げた。

「だからね、私、思ったの。ハリーのことなんて忘れて、思いっきりパーティーを楽しむべきだって。せっかくパーティーに行けるのに、メソメソして楽しめないなんて損じゃない」

吐き出したらスッキリした、と照れくさそうにジニーが笑う。その様子はすっかりいつものジニーに見えて、レイチェルは戸惑った。もしかして、無理をして明るく振舞っているのだろうか?だとしたら心配だ。レイチェルでは恋愛相談の相手には頼りないかもしれないけれど、せめて話を聞くくらいはさせてほしい。

「ネビルは私とパーティーに行きたかったわけじゃなくて、ただパートナーが必要だっただけ。私も、パーティーに連れて行ってくれるならネビルでなくても良かったからお互い様だけど。でも、せっかくならネビルに私を誘ってよかったって思わせたいし……」

そう思ったけれど、ジニーの表情は落ち着いた。レイチェルは予想外の言葉に驚き、恥ずかしくなった。勝手にジニーを気の毒に思って慰めの言葉を探していたけれど、どうやらジニーはそんなもの必要としていない。

「何て言うか、つまり……皆を見返してやりたい気分なの」

レイチェルが思っていたよりも、ジニーはずっと強い。レイチェルなら、そんな風に上手く気持ちを切り替えられるだろうか? ……いや、きっとぐるぐると後悔ばかりして、落ち込んで、パーティーの間も引きずってしまう。ジニーの悪戯っぽい笑顔がひどく眩しく見えて、そして改めてそんなジニーを魅力的だと思った。

「だから……その、私らしくないドレスの方がいいって言うか……いつもと違うものに挑戦してみたくて……無謀だと思う?」

頬を染めたジニーが、上目遣いでレイチェルを見た。
小柄で元気いっぱいで、可愛らしい印象のジニー。だからレイチェルも、そんなジニーの雰囲気に合いそうなドレスを勧めてしまった。もしもジニーが、今の自分に自信をなくしてしまっているのなら、そのままで充分魅力的だと伝えたかった。でも、今のジニーはそんな風に悲観したり、自棄になっているわけじゃない。原動力は悔しさだったとしても、前向きに、新しい自分に挑戦しようとしているのだ。

「そう言うことなら……私よりも頼りになりそうな人達を呼んでもいい?」

 

 

 

ジニーのドレスは、総勢7人の意見によって選ばれることになった。パメラ、エリザベス、アンジェリーナ、アリシア、ハーマイオニー。それにレイチェルとジニーだ。ドレス選びを手伝ってくれるよう頼むと、友人達は喜んで協力してくれた。
綺麗なドレスは見ているだけでも楽しいし、みんなで選ぶとなるともっと楽しい。ああでもないこうでもないと言い合いながら、たっぷりと時間をかけて選び抜かれた1着は、シンプルな黒いドレスだった。

「ジニーの赤毛は濃いから、黒いドレスにもよく映えるわ!」

そのドレスを推したアリシアがそう言って胸を張った。
飾りはレースだけの黒いドレス。せっかくなのだしもっと華やかな色をと、レイチェルは最初に候補から外していたものだ。でも、実際に合わせてみると黒いドレスはジニーの肌の白さや鮮やかな赤毛を引き立てる。そして、いつもよりもずっと大人びた印象だ。とは言え、露出の少ないデザインだし、スカートがふんわり広がっているからか、無理に背伸びをしている印象にはならない。

「このドレスなら、靴は黒かな?」
「黒なら、足首を大きめのリボンで結ぶタイプのものがあったはずだわ。このドレスとよく合うの」
「赤はないの? 黒ずくめより、どこかに差し色があった方がよくない?」
「髪はアップにして、イヤリングは派手なやつがいいよね。揺れる感じの……うーん、ゴールドもいいけど、やっぱりビジューかな。ドレスがシンプルだしね」
「あっ、髪飾りこれいいんじゃない」
「アイシャドウは……黒だと大人っぽすぎるし、ゴールドかな? ラメがたっぷり入ったやつ! リップも思い切って真っ赤にしてみる?」
「リップよりグロスの方がいいんじゃない?ベッタリ赤くしちゃうと、たぶん浮くよ」
「私、ゴールドのラメが入ったグロス持ってる! いちごジャムみたいなやつ。あれ貸してあげる」

着せ替え人形よろしくドレスを着せられ、アンジェリーナが髪を整えたところで、せっかくだからメイクもしてみようとパメラが言い出し、走ってレイブンクロー塔まで道具を取りに行った。もはや本人そっちのけで盛り上がっている上級生達にジニーは圧倒されていたが、それでも皆が選んだドレスを気に入ってくれたらしく嬉しそうな笑顔を見せてくれた。

「やっぱりこれ、すごく可愛い!」

プライス邸から届いた荷物は、ジニーのドレスだけではなかった。もう1つの箱には、レイチェル達の靴やバッグなどの小物が入っていた。ようやくダンスパーティーに着ていくものが全て揃ったので、レイチェル達は早速自前のドレスやアクセサリーと合わせてみることにした。
綺麗な水色のエナメルのパンプスは、想像通りドレスの色と合ってとても素敵だ。が、鏡で後ろ姿を確認しようと体の向きを変えようとしたらふらついて転びそうになり、レイチェルはひやりとした。……ハイヒールは本番までに練習した方がいいかもしれない。

「ねえ、レイチェル。どっちがいいと思う?」
「んー……写真だとパープルの方が合いそうだと思ったけど、実際見てみるとドレスとちょっと色味が違うのね。私はボルドーの方が好き」
「やっぱりそうよね! ボルドーにしようっと!」

ドレスに縫い付けられたビーズや、アクセサリーのビジューがキラキラ光るのを眺めていると、気持ちが華やいでくる。いよいよダンスパーティー本番が近付いてきたのだと実感して、レイチェルは何だかワクワクした。

「2人とも、問題はなさそう?」
「ええ。ありがとう、エリザベス」
「勿論!すっごく気に入ったわ!」
「なら、着替えた方が良いわね。汚したら大変ですもの」

ドレスや靴を脱いで元通り箱の中へ片付けても、パーティーへの期待まではしまいこむことはできない。夕食のときも、そして寮に戻ってからも、3人はまたパーティー当日のことについて話しこんだ。ヘアアレンジやメイク、それに当日の準備について────。

「あっ……私、今日中に本返さないといけないんだった!」

おしゃべりに夢中になっていたらすっかり夜は更けていて、レイチェルは慌てて図書室に駆け込んだ。
もう消灯時間も近いのに、休暇だからかまだ廊下には人が多い。そして行き交う生徒達のほとんどが、やっぱりダンスパーティーの話に夢中だった。

「ねえ、聞いた? ハリー・ポッターのパートナー、パーバティ・パチルだって!」
「セドリックのパートナーはチョウでしょ?」
「クラムのパートナーって結局誰なんだろうね」

下級生の女の子達のそんな噂話が聞こえて、レイチェルは再び昼間のジニーとの会話を思い出した。
ハリーの『好きな人』は、本当にジニーじゃないのだろうか? あれだけはっきり否定するからには、もしかしたらレイチェルには言わないだけでジニーには何か確信するような出来事があったのかもしれないけれど……でも、「きっとこうに違いない」と考えたことも、意外と外れていたりすることもある。少なくともレイチェルの場合はそうだった。
ハリーも本当はジニーを誘いたかったのに、照れくさくて上手く誘えなかったとか……。そうならいいな、と思う。今回のダンスパーティーに関しては────上手く行かなかったみたいだけれど、やっぱりレイチェルとしてはジニーの恋は報われてほしいと思ってしまう……。
そんなことを考えながら廊下を歩いていたら、角を曲がったところで向こうにセドリックの姿を見つけた。チョウも一緒だ。2人が一緒に居るはほとんど見たことがなかったけれど、すごくお似合いと言うか……セドリックってやっぱりすごく背が高いんだな、と2人が並んだところを見てレイチェルは改めて気が付いた。チョウが小柄なのも知っていたけれど、背が高いセドリックと並ぶとますます華奢に見える。
会話が終わったのか、2人の距離が離れた。セドリックはそのままハッフルパフ寮の方向へ、そしてチョウはレイブンクロー寮の────つまり、レイチェルと同じ方向に。

「あっ、レイチェル。もしかして、今から寮に戻るところ?」
「ええ」

一緒に戻りましょう、とニッコリ笑うチョウに、レイチェルも微笑み返した。
……セドリックとチョウって、2人だとどんな話をするのだろう? ちょっと気になったけれど、わざわざ質問するのも失礼な気がする。

「ダンスパーティーの話をしてたの。セドリック、代表選手でしょ? 私達、最初に皆の前で踊らないといけないらしくて……」
「そうなの? 大変ね……」

と思ったら、チョウの方から教えてくれた。代表選手と言うことは、ハーマイオニーとクラムもだろうか? それに、フラーとロジャーや、ハリーとパーバティも。フラーとロジャーはともかく、ハリーやクラムは……大勢の前で踊ると言うのはあまり得意じゃなさそうに見える。それに、セドリックも。名誉なことなのだろうけれど、ちょっと気の毒だ。

「あ」

噂をすれば、向こうからハリーが歩いて来るのが見えた。ハリーもこっちに気が付いた様子だったので、レイチェルはいつも通りハリーに向かって手を振った。が────ハリーの方はいつもとは違った。手を振り返してはくれたけれど、すごく気まずそうと言うか……まるで逃げるように急いで立ち去ってしまった。お腹でも痛かったのかな、とレイチェルが不思議に思っていると、チョウが気まずそうに眉を下げた。

「あの、たぶん……私が居たせいだと思うわ……」
「チョウのせい?どうして?」

2人って、仲が悪かったのだろうか? 確かに、ライバルチームのシーカー同士だけれど……チョウはあの意地悪なバッジだって付けていなかったし、ハリーがチョウを避けるほど苦手に思っていると言うのは意外だ。

「その……ハリーに、パートナーに誘われたの。でも、そのとき私、もうセドリックにオーケーした後で……だから、断ったの」

内緒ね、とチョウが困ったように眉を下げる。予想外の理由に、レイチェルは動揺した。
ハリーが、チョウをパーティーに誘った。それは、ジニーよりも後の話だろうか?それとも、ジニーよりも前に? もしそうだとしたら────ハリーの好きな人は、チョウ?

レイチェル?」

ハリーのパートナーがパーバティ・パチルだと聞いて、レイチェルは驚いたけれど、同時に納得もした。
だって彼女は、ハリーの同級生だ。いつも授業も同じで、共通の友人だってたくさん居るだろう。学年が違うジニーよりもきっと、話をする機会がずっと多い。
でも、チョウは……チョウは、ハリーとは学年どころか寮も違う。ジニー以上にハリーとは接点がないはずだ。それなのに、どうして────?

レイチェル? 大丈夫?」

心配そうに顔を覗きこむチョウに、レイチェルはハッとした。ジニーを応援したいからと言って、こんな風に考えるのは、チョウに対してもハリーに対しても失礼だ。ハリーには誰が相応しいとか、誰を好きになるべきだとか、そんなのはレイチェルが決めつけることじゃない。レイチェルだってセドリックとの仲をあれこれ言われるのは困るのに。これでは、自分も同じことをしてしまっている。

「その……びっくりしちゃって。何て言うか、ちょっと意外だったから……」
「そうよね。私もびっくりしたもの。ハリーとは、ほとんど話したこともなかったから……」

そうなんだ……。レイチェルはギュッと胸のあたりを押さえた。小さな棘がたくさん生えた蔓で締めつけられているみたいに、心臓が苦しい。
どうしよう。ジニーに、このことを伝えるべきだろうか? 好きな人が誘いたかった相手が誰か、ジニーは知りたいと願うだろうか? いや、チョウはレイチェルを信用して打ち明けてくれたのだ。これはきっと、誰にも言わず、秘密にしておくべきだ。
ジニーの言う通り、ハリーの好きな相手はジニーではなかった。ハリーの想い人はチョウで────でも、チョウはハリーの誘いを断った。チョウはセドリックのパートナーになったから。セドリックがチョウを誘うことがなければ……レイチェルがあのとき、セドリックのパートナーになると約束していたら……チョウは、ハリーの誘いに頷いていたのだろうか?
ほんの少しタイミングが違ったら。何か1つ、歯車が変わっていたら、結果はきっと違っていて。もしかしたらジニーがハリーと笑ってパーティーに行くことができていたのかもしれない。
考えたところで、時間は巻き戻らないし、今更もしもを重ねたところで何も変わらない。セドリックも、チョウも、ハリーも、ジニーも。誰も悪くない。

だからこそ────やりきれなくて、胸が痛い。

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