クリスマスが近づいていると言うことは、学期末が近いと言うことだ。
レイチェル達の頭がダンスパーティーのことでいっぱいになっていても、教授達はそうはいかない。学期最後の週が始まった月曜日、教授達はどの授業でも憂鬱な告知をNEWT学生達に言い渡した。学期最後の確認テストの予告や、休暇中の課題について────。
「嘘でしょ。レポートの量、去年の倍近くある……」
「こんなのやってたら、パーティーなんて参加してる暇ないわよ!」
何だか、急に現実に引き戻された気分だ。クリスマスくらいのんびりさせてくれればいいのに。年を追うごとに増えるばかりの課題にはうんざりするけれど、まあ今年は皆学校に残るわけだし、力を合わせればどうにか乗り越えられるだろう。……たぶん。
「ねぇねぇ聞いて! 私、パートナー決まった!彼にオッケーもらえたの!」
「えー、よかった!おめでとう」
「私のことより……ね、例のグリフィンドールの人はどうなったの? もう返事した?」
「今日この後、約束してるの。……まあ、良い人そうだったし、オーケーしようかなって」
「ね、その人の友達でまだフリーの人って居ないか聞いてみて!」
「あ、私も! 誰か紹介してもらいたい!」
パメラの予想通り、どうやら週末の間に“パートナー争奪戦”にはかなり動きがあったようだった。パメラがこの場に居たとしたら、「ほらね!」なんて得意げな笑みを浮かべてみせただろう。近くの席に座った同級生達のそんな会話をぼんやりと聞いていると、その中の1人がこっちを振り向いた。
「レイチェルはもちろんセドリックと行くんでしょ?もう誘われた?」
「えっ?」
期待にキラキラした瞳を向けられて、レイチェルはたじろいだ。
急に話を振られたこと自体にも驚いたけれど、何より問題はその内容だ。レイチェルが、セドリックと一体どこに行くって────?
「セドとはそんなんじゃないわ。前にも言ったでしょ……ただの幼馴染だもの」
レイチェルは勢いよく首を横に振った。恐ろしい誤解だ。今のホグワーツには去年以上にセドリックのファンの子は増えているはずだから────実際セドリックは引っ切りなしにパートナーの誘いを受けているらしいし────もしもそんなデマが広まってしまったら大変だ。「わからないわよ。レイチェルはそう思ってても、セドリックの方は違うかも」
「ううん、セドもそんなこと考えてないと思うわ!全く!」
「えー?」
彼女達はセドリックをパートナーにと考えているわけではなさそうだけれど……セドリックのファンの子達もそう誤解してしまったらと考えると、ちょっと不安だ。本当なのか確認されるくらいならいいけれど、また反感を買ってしまう可能性だってある。噂話は甘く見ると痛い目に遭うのだ。
「見たか? ディゴリーの奴、また呼び出されてた。あれで何人目だよ」
昼食の後、魔法薬学の授業へと向かったレイチェルは、教室の中から聞こえてきたそんな会話に足を止めた。男子の声だ。授業の開始までには時間があるから、まだ誰も来ないだろうと思っているのかもしれない。……中に入るのは少し待った方がいいだろうか?
「20人か……もしかしたら30人くらいか?」
「ヤバくね? ロックハートじゃん」
「でもなんか、今のところ全員断ってるらしいぜ」
「ボーバトンのすげー可愛い子とかも居たんだろ? もったいねーよなー」
「俺なら絶対オッケーするのになあ。あーあ、なんでディゴリーばっかり」
「代表選手だからだろ。あと顔」
「身長もな。お前より3インチも高い」
「うるせー」
……セドリックがボーバトンの子にも誘われていたなんて、初耳だ。いや、どんな子に誘われたかなんてレイチェルに報告されても困るけれど。会話の内容からして、やっぱり今中に入って行くのはちょっと気まずい。とは言え、レイチェルもこの教室に用があるわけだし……。レイチェルはドアノブへと手をかけた。
「まあ、あいつ、どうせグラントと行くつもりなんじゃねーの?」
が、続けられた言葉にギョッとして離してしまった。まさか、男の子達にもそう思われているなんて。
女の子達が、レイチェルがセドリックと行くと考えているのは、まだいい。いや、完全に誤解だから全然よくはないのだけれど……セドリックにパートナーが決まってしまえば、誤解だったとわかるだろう。
でも────誰もがパートナーを探していて、タッチの差で上手く行ったり断られたりしているこの状況で、男の子達にまでセドリックのパートナーになるのだと思われているのだとしたら……ちょっと、かなりマズいような気がする。
たとえば、レイチェルにほんの少し気になっている男の子が居たとして。その人がいつも、とびきり美人で性格も優しくて頭も良くてクィディッチが上手な、そんな魅力的な女の子と噂になっていたら、勇気を出してその人を誘ってみようと思えるだろうか? いや、絶対に思わない。断言できる。
つまり────今の時点でセドリックと行くだろうと思われているレイチェルは、誰にも誘ってもらえないかもしれない。誤解が解ける頃には、もう皆、他にパートナーを見つけてしまっているかも。
でも、さっきみたいに直接話を振られたわけでもないのに、今あの男の子達に「セドリックとはパートナーになる予定はない」なんて宣言しに行くのは、間違いなく奇妙に思われる。彼らの中の誰かがレイチェルをパートナーに誘いたいと考えてくれているとしたら、そうする価値はあるかもしれないけれど……どう考えてもただの世間話だ。まさか本人に聞かれるとは思わなかったのだろう。
「……ねぇ、クロディーヌ。あの誤解ってどうやったら解けると思う?」
「んー……そうね。朝食のときに大広間の真ん中でセドリックに申し込んで、キッパリ断られたら誰の目にもあなたはフリーなんだってわかると思うけど」
隣で爪の甘皮を気にしているクロディーヌからは、興味がなさそうにそんな返事が返って来た。レイチェルは顔を引きつらせた。確かにその方法は、ものすごくわかりやすいだろうけれど……できればあまり実行したくはない。
「でも、セドリックの性格を考えると貴方の名誉を考えてその場ではオーケーしてくれそうだから、この方法じゃダメね」
そうだろうか。そうかもしれない。セドリックなら、レイチェルが断ったら恥をかくんじゃないかと気を遣って、もしくはパートナーが見つからないレイチェルに同情して、いいよ、なんて言ってしまいそうだ。そうなると、かえって誤解は広まるかもしれない。いや、実際にやる気はなかったけれど。
「現実的なところ、誤解が解けるのを待つより、あなたが自分から誰か誘った方が早いんじゃない?」
「うう……」
……やっぱり、その方法しかないのだろうか。いや、でも、皆が皆セドリックとレイチェルの仲を誤解しているわけではない……はずだ。その中から、たった1人、誰かがレイチェルを誘ってくれたら……誰かって一体誰が?
「あれ? 教室入れないのか?まだ鍵開いてない?」
「あ……えっと、大丈夫。先にどうぞ」
廊下の角から姿を見せた人物に、レイチェルは動揺した。
不思議そうなジョージの視線を避けるように、レイチェルはパッと目を逸らしてしまった。……今のは、感じが悪かったかもしれない。変に意識してしまうせいで、ジョージと顔を合わせるのが何だか気まずい。昨日のことだって、髪型を褒めるくらい友達なら普通のことだろうけれど……レイチェルは慣れていないのだ。ジョージはきっと、何とも思ってないんだろうけど。
……ジョージも、彼らと同じに、レイチェルがセドリックとパーティーに行くのだと考えているだろうか?
そんな疑問が首をもたげたけれど、口にすることはできなかった。今の状況でそれを聞くのはもう、自分をパートナーに誘って欲しいと言っているのとほとんど同じだ。ジョージの気持ちどころか、自分の気持ちすらわからないのに、思わせぶりなことを言うのはよくない気がする。
全く以て、馬鹿げた誤解だ。セドリックがレイチェルをパートナーに誘うはずなんてないのに。
「セド、あいつ、また女の子に呼び出されてさ。遅れるって伝言」
そのセドリックとは、放課後に図書室で会う約束をしていた。伝えてくれたセドリックのルームメイトにお礼を言って、レイチェルはルーン文字の教科書を開いた。セドリックに教えてほしいところがあったのだけれど、とりあえずそれ以外を先に進めておこう。
……こうやって2人で図書室で過ごしたりするから、誤解を生むのかもしれない。
確かに……確かに、他の女の子がセドリックと2人きりで勉強しているところは見たことがない。レイチェルとセドリックがよく2人で図書室に居ることは、同級生なら知っている。同級生どころか、最近は下級生にも「いつもセドリックと一緒に居る人」と認識されているだろう。だって、本当にただ勉強しておしゃべりしているだけで、隠すようなことなんてないから。
とは言え、いつも2人で勉強していると言うのは、いかにも「特別な関係」に見えやすいのだろうし、既に恋人同士か、今は違ってもいずれそうなるのだと誤解されるのも無理はない……のかもしれない。レイチェルだって、第三者として自分達を見たらそう勘違いするかもしれない。でも────セドリックとレイチェルの間には本当に、皆が期待するようなロマンスは存在しないのに。
……去年も同じことを考えた気がするな、とレイチェルはテーブルに突っ伏した。そう。それで、散々悩んだり落ち込んだりもしたけれど、結果的には今まで通りに過ごそうと2人で決めたのだった。周囲に誤解されるのを気にして距離を置くことはしたくないと、セドリックもレイチェルもそう思ったから。……まさか急にダンスパーティーが開催されて他にパートナーが必要になるなんて、あのときは予想できるはずもなかったし。誤解されたとしても気にしないと決めたのだから、誤解されるのも当然なのだろうけれど……今日から急によそよそしくしたところでたぶん今更手遅れだろう。本当に、誰もレイチェルのパートナーになってくれなかったらどうしよう。
「レイチェル。遅れてごめん」
セドリックが図書室に姿を見せたのは、その10分後のことだった。
図書室の入り口からたった少しの距離を歩くと言うそれだけのことでさえ、周囲の女の子の視線を集めていることに気が付いて、レイチェルはますます憂鬱な気分になった。
……やっぱり、セドリックが不必要にハンサムすぎるのが全ての原因な気がする。
しかも性格も良くてクィディッチ選手で学年トップで監督生で、おまけにホグワーツからたった1人選ばれた────今回は特例で2人だけれど────代表選手だ。女の子達の憧れを丸めてこねた何かが服を着て歩いている。あんなに素敵な男の子が側に居たら恋に落ちて当然と、たぶん周囲はそう考えているのだ。まあ、実際レイチェルの初恋はセドリックだったのでそれはある意味正しいのだけれど……。それに────セドリックは優しいから女の子を見た目で判断したりしないだろうし、レイチェル程度の女の子でも断らないだろう、なんて。きっとそんな風に。セドリックには何も責任はないけれど、やっぱりどう考えても原因はセドリックだ。
「気にしないで。ジョンが教えてくれたもの」
「でも……最近いつも遅刻だ」
「でもそれ、セドのせいじゃないでしょ」
セドリックは少し疲れた表情だった。もしかしたらパートナーの誘いを申し込まれたときに、また一悶着あったのかもしれない。人気者は人気者で苦労があるのだろうなとは思うけれど……パートナーが誰も見つからないんじゃないかと心配する必要がないのはやっぱりちょっと羨ましい。少なくとも、不安やみじめな気持ちになることはないだろうし。
「あのさ、レイチェル」
「何?」
ルーン文字の訳文を羊皮紙へと書き移しながら、レイチェルはセドリックの言葉を促した。が、セドリックはなかなか次の言葉を紡ぐことはなかった。長すぎる沈黙を奇妙に思って顔を上げると、どこか困ったように微笑んだセドリックと視線が合った。
「その……僕と、ダンスパーティーに行かない?」
…………今のは聞き間違いだろうか?
予想外の言葉に、レイチェルはまじまじとセドリックの顔を見返した。パートナーのことばかり考えていたから、幻聴かもしれない。けれど、セドリックの真剣な、そしてレイチェルの答えを待つようにじっと見つめるその瞳を見る限り、どうやら聞き間違いではないらしい。レイチェルは思わず首を傾げた。
「えっと…………変なこと聞くんだけど、本当にセド?」
レイチェルは先日のハーマイオニーの気持ちがようやく理解できた。あまりにも想定外の相手からパートナーに誘われると、まず相手が本物かどうか疑いたくなってしまうものなのだろう。相手が冗談やからかいでそう言うことを言いそうにないと、余計に。「本当にって?」
「……ここに来るまでに、誰かに貰ったお菓子とか食べなかった?」
「食べてないよ」
「そう……」
「あの……聞いてもいい? それって、友達として? それとも、ガールフレンドとして?」
「えっと………………友達として、かな」
やっぱりだ。もしやと思って尋ねてみれば、予想通りの返事が返って来た。せっかくのお誘いではあるけれど、それならレイチェルの答えも決まっている。困ったように眉を下げるセドリックに、レイチェルは勢いよく首を横に振った。
「無理よ、そんなの。2人でパーティーに行ったりしたら、今度こそ付き合ってないなんて誰も信じてくれなくなるもの」
友達としてパーティーに行く。それは、お互いに納得しているのなら選択肢の1つだろうけれど────レイチェルとセドリックの場合は難しい。今だって、実はこっそり付き合っているんじゃないかと誤解されているのだ。その度に否定しても、照れ隠しだと思われてしまったりする。2人でパーティーに行ったりしたら、今度こそそれが決定打になってしまう。レイチェルはともかく、セドリックがたくさんの女の子に誘われているのは周知の事実なのだから、「他に相手が居なかった」なんて言い訳もできない。
「……セドが私が他の男の子と踊るのがどうしても嫌で、皆に僕のガールフレンドなんだって紹介してくれるつもりなら、1晩真剣に考えてみるけど」
「それは……」
もしも、可能性は限りなく低いけれど、万が一、セドリックが照れ隠しでそう言ったのなら……つまりは、本当はレイチェルを女の子として誘ってくれたのなら、レイチェルだって────唐突過ぎて、ものすごく戸惑うけれど────もっと悩んでから答えを出す。……でも、何と言うか、セドリックの雰囲気を見る限り、たぶんそうじゃない。
「……セド、私にパートナーになってほしいわけじゃないでしょ? 考えるのに疲れちゃったのと、私と行くのが1番気が楽だから、もう私でもいいかなって考えちゃっただけ。違う?」
できるだけ責めているように聞こえないように気をつけながら、レイチェルはそんな推測を口にした。
セドリックの視線が戸惑ったように揺れる。どうやら当たっていたらしい。やがて、俯いた顔を覆った手の隙間から、小さな溜息が漏れるのがわかった。
「……ごめん」
「別に謝らなくていいけど……」
どうやら自己嫌悪に陥っているらしい幼馴染の姿に、レイチェルは苦笑した。
パートナー選びが難題なのは男の子だって同じだろうことは、レイチェルにも想像はつく。意中の相手が居たとしても、誘うのは勇気が要るはずだ。誘いやすい相手や、断らなさそうな相手、断られても気まずくならない相手に声をかけたくなるのは、仕方ない気がする。
それに────休み時間の度にほとんど毎回誰かに呼び止められて、パートナーに申し込まれて、場合によっては傷ついた表情をされたり泣かれたりしているのだとしたら、善良なセドリックにとっては精神的にかなり堪えるだろう。レイチェルで妥協してしまいたくなるのも、無理はないとは思うけれど。
「……お互い、もっと外に目を向けてみようって約束したじゃない」
そんな会話をしたのも、思えばもう半年以上前のことだ。遠い昔のことに思えるけれど。あの頃はセドリックへの感情が、恋なのか、それとも親愛なのかわからなくて悩んでいた。わからないから、試しにキスをしてみた日。……結局、今となってもはっきりとした結論は出せていないままだ。
「あのね、別にセドとパーティーに行くのが嫌なわけじゃないの……ただ、何て言うか、もう少し頑張ってみてからでもいいかなって思って……」
「そうだね。うん……レイチェルの言う通りだと思う」
セドリックが微かに微笑んだ。
実際、セドリックとパーティーに行ったとしたら、レイチェルはたぶん居心地良く過ごせると思う。でも、それはたぶん、いつも通りの幼馴染としてだ。せっかくの機械だし、できるなら女の子としてレイチェルを誘ってくれる男の子とパーティーに行ってみたいと思ってしまう。……まあ、そんな相手が現れてくれたら、の話だけれど。
「本当にごめん。ちょっと焦ってたんだ……ジョン達には、僕が早くパートナーを決めないと他の男子が困るって言われるし……」
「ああ……」
「たくさん誘われてるんでしょ? 誰か一緒に行きたい子は居なかったの?」
「だって……ほとんど話したことがない子も多いし……誰を選んだらいいか、わからないんだよ」
ものすごく贅沢な悩みだな、とレイチェルは溜息を吐きたくなった。
……まあ、セドリックらしいなとも思う。『1番人気のある女の子』とか『1番美人な女の子』から選ぼうと考えたっておかしくないのに、その発想を思いついてもいなさそうなあたりが。
「それにしたって……どうせなら、ヤドリギの下で2人きりになっても気まずくならない女の子を誘ったら?」
でも、だからってレイチェルと行くと言う選択肢をとろうとするのは、あまりにも極端すぎる。もしかしたら、セドリックに恋愛感情を抱いているたくさんの女の子達の中からたった1人を選ぶよりは、その方がフェアだと考えたのかもしれない。確かにフェアかもしれないけれど、セドリックを好きな女の子達にとっては全然納得いく結果ではないだろう。
「誰か居ないの? 気になる……とまではいかなくっても、笑顔が可愛いなとか、話してて楽しいなとか、もっと話してみたいなとか……」
たった1人特別な女の子として意識はしていなくても、あれだけたくさんの女の子に囲まれていたら、1人くらいはそう感じる相手が居てもおかしくはない気がするけれど。まるでとびきり苦い魔法薬でも飲んだみたいに、セドリックは難しい表情で黙り込んでしまった。が、数秒の沈黙の後に、小さく呟いた。
「…………チョウを誘ってみようかな」
「チョウ?……って、あのチョウ? チョウ・チャン?」
意外な名前に、レイチェルはパチパチと瞬いた。いや、チョウは可愛いと評判だから意外と言うのも変かもしれないけれど……セドリックとはあまり接点がない気がしたし、セドリックは美少女だと評判の女の子を気にするタイプでもないので、やっぱり意外だった。……ああ、でも、そう言えば前に「最近クィディッチの自主練習で顔を合わせる」なんて言っていたっけ。チョウもかなりのクィディッチファンだし、同じシーカー同士、話が合うのだろう。
「なら、急がないと。チョウってすごく人気あるのよ。もう、何人もの男の子に誘われてるって聞いたもの」
まだチョウが誰かの誘いを承諾したと言う話は聞いていないけれど、それも時間の問題な気がする。1度誰かと行く約束をしてしまった後だと、チョウはそれを破れるようなタイプじゃない。パートナーが決まってしまう前に、急いで申し込んだ方が良さそうだ。
「……そうだね。夕食の後に、チョウに声をかけてみるよ」
「頑張って。上手く行くように祈ってるわ」
「ありがとう」
チョウもセドリックもホグワーツでは有名人だから、2人がパートナーになったとしたら、学校中の話題を攫いそうだ。照れくさそうに笑うセドリックに、レイチェルも微笑んだ。が、セドりックはふいに何か心配事を思い出したかのように表情を曇らせた。
「その、僕の誘い方……と言うか、誘った理由って、やっぱりレイチェルには失礼だったよね。ごめん」
「……別に、失礼だとは思ってないわ。びっくりはしたけど」
まさかセドリックに誘われるとは思っていなかったから、そこに関しては本当に驚いた。あまりに驚いたから、惚れ薬でも飲んだんじゃないかなんて疑ってしまったし、「無理」なんて即答してしまいもしたし……レイチェルの方こそ失礼だっただろう。セドリックはせっかく誘ってくれたのだから、もっと言葉を選んだ方がよかった。たぶん、最初に言うべきだったのは「ありがとう」だったはずだ。
「パートナーのことを考えるのに疲れてたのは本当だけど……レイチェルでいいや、なんて妥協したわけじゃないよ。レイチェルとなら、一緒にパーティーに行ってもきっと楽しく過ごせるだろうって思った。本当だよ」
「…………ありがとう」
真剣な表情でそんなことを言われると、何だか照れてしまう。たった今したばかりの反省を活かすべく、レイチェルは微笑もうとした。が、ぎこちない笑い方になってしまったような気がする。……クロディーヌやパメラなら、こう言うときも動じないんだろうな、と思った。やっぱりこれも、経験が必要なのだろうか?
「私も……男の子にパーティーに誘ってもらったの、セドが初めて。友達としてでも、嬉しい」
言葉にするとちょっと恥ずかしいけれど、それが素直な気持ちだった。セドリックにとってはホグワーツの代表選手として参加する大切なパーティーだ。そのたった1人のパートナーに、レイチェルを選ぼうとしてくれたことは、とても光栄なことだ。
「レイチェルなら、きっと僕以外にも誘われるよ」
「……だといいんだけど」
「チョウ、とっても良い子よね。私も大好き」
「……まだ、オーケーもらえるかわからないけどね」
「セドならきっと大丈夫よ」
少なくともチョウは────チョウ本人は、セドリックと同じで相手に誠実に応えてくれるだろうし、申し込まれたことを言いふらしたりもしないだろう。……チョウを呼び出すところをチョウの友人達に見つからなければ、だけれど。マリエッタ達も良い子なのだけれど、ちょっとだけ噂好きなところがある。
チョウとセドリック。意外な組み合わせな気がしたけれど、想像してみると何だかすごく素敵なカップルになりそうだ。2人が上手く行ったら、ホグワーツ中の憧れになってしまうかもしれない。そして、自分がすんなりとそれを受け入れていることも、レイチェルにとっては少し意外だった。何と言うか……もっと、モヤモヤしたり、嫉妬したりするかと思ったのに。セドリックの口からチョウの名前が出たことに驚きはしたけれど、不思議と嫌な気持ちにはならなかった。無理に前向きに考えようとしなくても、2人が上手く行けばいいなと、素直にそう思える。
……あと、2人が上手く行くことで、レイチェルがセドリックとパーティーに行くと言う誤解が早く解ければいいなと思う。