「このリストがこんなに埋まってるの、初めて見たわ」
土曜日。レイチェル達の部屋にもとうとう、休暇中に学校に残るかどうかのリストが回って来た。いつもなら1枚の半分程度に収まっていたはずのリストは、既に3枚目に突入している。このリストにある名前は女子生徒だけとは言え、たぶん、男子のリストも同じだろうなとレイチェルは想像した。
「そう言えば、学校でクリスマス休暇を過ごすのって初めてよね」
「去年や一昨年だって、ディメンターや継承者が居なければ残りたかったけどね!」
そうだった。学校に残るのもいいよねと言っていたのに、何だかんだとあまり嬉しくない理由で帰宅することになったのだ。けれど、今年はそう言った危険もないし、何より例年以上に豪華な────とは言ってもレイチェルはいつものホグワーツのクリスマスを知らないけれど────クリスマスパーティーが開催されるのだ。帰宅して見逃してしまったら絶対に後悔する。
リストの最後へ自分の名前を書き加えると、今年は学年と名前以外にも記入が必要な欄があることに気が付いた。『クリスマス・ダンスパーティーへの参加』。……勿論、『希望する』だ。
「リサがすごく迷っていたわ。発表が急だったでしょう? クリスマス休暇は、家族でオーストラリアに行く予定が入っていたんですって」
「えっ……それは、どっちを選んでも残念よね……」
「まあ、夏の時点ではわかんなかったから予定入れちゃうわよね。休暇なわけだし」
「私なら、どちらを選ぶかしら……?って、つい考えてしまったの。……まあ、私には教えてくれなかっただけで、お父様やお兄様はパーティーのこともご存知だったみたいだったけれど」
エリザベスの溜息に、レイチェルも悩んだ。パーティーと海外旅行、レイチェルならどちらを選ぶだろう?
そう言えば、おばさんも「クリスマスはきっと学校に残りたくなるはずだ」なんて笑っていた。もしかしたら、おじさんから聞いてパーティーのことを知っていたのかもしれない。
パーティーはものすごく楽しみだ。ダンスパーティーなんて入学してから初めてだし、きっと卒業までにも今回以上に大掛かりなものはきっとないだろう。でも、旅行だってきっとずっと楽しみにしていたはずだ。とは言え……せっかく買ったドレスも無駄になってしまうし、選ぶならやっぱり今年しかないパーティーだろうか?
「いいなあ。私もパーティーに行けたらいいのに」
チョコレートファッジを齧りながら、ジニーが溜息を吐いた。
城中の話題を攫っているクリスマス・ダンスパーティー。でも、自分の意志だけで行くかどうかを決められるのは4年生以上だけだ。3年生以上は、上級生から招待されないと参加できない。
「ジニーはクリスマスはどうするの? やっぱり、家族で過ごすの?」
パーティーに参加しなくても学校に残ることはできるけれど、いつものクリスマス休暇だと下級生は大半が帰宅する。去年と一昨年は“特殊な事情”のせいで上級生もほとんどが帰宅したけれど、例年でも残るのは半分くらいらしい。
「うーん……学校に残ろうかな。私以外は皆残るだろうし……この間の夏に会ったばかりだから、パパ達もビルやチャーリーのところに行くってこともないだろうし。エジプトやルーマニアに連れて行ってもらえるならともかく、隠れ穴でパパとママとパーシーと4人で過ごすって、そんなに楽しくなさそうだもの」
確かに、ジニーの家族構成を考えると“家族みんなで過ごす”のはそもそも難しいのだろう。兄弟達が残るのならば、友人達が帰宅してしまったとしても寂しい思いをすることもなさそうだ。レイチェルがそんなことを考えていると、ジニーがニッコリした。
「レイチェル、写真撮って来てね!たっくさん!」
「写真って、パーティーの?」
「うん! 見るだけでもきっと楽しいもの」
「わかったわ」
確かに、パーティーの写真を残しておくと言うアイディアは素敵だ。クリスマスの飾り付けに関して、毎年ホグワーツの教授陣はかなり力を入れている。今年は外国からお客様が来ているし、きっといつも以上に華やかだ。それに、皆がドレスアップする機会と言うのもなかなかない。
「できたら、その……ハリーのドレスローブ姿、撮って来てもらえたら嬉しい」
「うーん……頑張ってみるけど……あんまり期待しないでね」
薄っすらと頬を染めるジニーに、レイチェルは眉を下げた。
まさか『ジニーが写真を欲しがっているから撮らせてくれ』と頼むわけにもいかないだろうし、かと言って一緒に写真を撮ろうと気軽に誘えるほどはまだハリーと親しくない。恋する乙女のささやかな願いはいじらしいと思うし、できれば叶えてあげたいけれど……。
「ジニー、その……いいの? その、彼が……」
彼が他の女の子とパーティーに行っても、と口に出すのは躊躇ってしまった。
答えなんて、聞かなくてもわかりきっている。好きな男の子が他の女の子をパートナーに選んで踊るなんて、嬉しいわけがないのだ。
「本当はね、ハリーを誘ってみようかなって思ったの。ハーマイオニーと一緒に。私がハリーと、ハーマイオニーがロンと行ったらちょうどいいんじゃないかって。でも……ハーマイオニーに断られちゃったのよね」
「あっ……」
「それって……他の人と行くことに決まったから?」
かなり迷っている様子だったハーマイオニーに、クラムと行くよう勧めたのはレイチェルだ。
どうしよう。クラムの応援をしたかっただけなのに、ジニーの邪魔をしてしまったかもしれない。そんなつもりはなかったのに────。レイチェルは青ざめたが、ジニーは不思議そうな顔で首を横に振った。
「えっ? ううん。ハーマイオニーは、こっちから誘うのは嫌だって言ったの。ロンとハリーが誘ってきたとしたら4人で一緒に行っても構わないけど、ロンは自分のことは女の子として見てないからたぶんそれもないだろうって」
「……それって、いつの話?」
「えっとね……木曜の夜」
ジニーの言葉に、レイチェルは思わずホッと息を吐いた。よかった。どうやら時系列的には、クラムの誘いよりジニーの提案の方が先だったようだ。クラムのパートナーになったことは、ジニーの提案を断ったこととは無関係なのだろう。
「まぁね、ハーマイオニーの言うこともわかるの。ロンの奴、ハーマイオニーが誘ったら『仕方ないからパートナーになってあげる』みたいな態度とりそうだもの」
「……それ、照れ隠しじゃなくて?」
「勿論そうよ。でも、だからってムカつかないわけじゃないわ」
ジニーがフンと鼻を鳴らした。相変らず、兄に対するジニーの意見は辛辣だ。
ジニーの兄でもあり、ハーマイオニーの親友でもあるロン・ウィーズリー。あまり話したことがないから、実は彼についてはよく知らない。……たぶん、彼女達に気を許しているからこそ遠慮がないと言うことなのだろう、とレイチェルは想像した。それより、今はハリー・ポッターについてだ。
「でも、あの……その方が誘いやすいって言うのはわかるけど……4人で行くことにこだわらなくても……ハーマイオニーがお兄さんと行かないとしても、ジニーだけでもハリーを誘ってみるって言うのは……やっぱり、難しい?」
レイチェルが躊躇いがちに尋ねると、ジニーは視線を落とした。好きな男の子をパートナーに誘うなんて、とてつもなく勇気が要ることは、レイチェルにもわかる。自分も男の子に積極的に声をかけられるタイプではないので、本当にすごくよくわかる。
「それも考えたけど……」
でも、ジニーが一緒にパーティーに行きたい相手は今や憧れの的の代表選手で、今この瞬間にも誰かが彼をパートナーにと誘っているかもしれない。後悔しないためにも、きっと勇気を振り絞った方がいい。……なんて、他人の事ならそう考えられても、レイチェルがジニーの立場だったらなかなか動けないだろうけれど。
「……だって、きっと、断られるもの。ハリーが私のこと何とも思ってないことくらい、知ってる。そうしたら、気まずいでしょ。私、『親友の妹』なのよ。ハリーとロン、この間ようやく仲直りしたばっかりなのに」
「でも……」
仲良しの2人が長らく喧嘩をしていたことは、レイチェルも知っている。彼らの間に波風を立てたくない、と言うジニーの優しさもわかる。でも、それまで何とも思ってなかったとしたって、ハーマイオニーみたいに誘われたことで意識する場合だってある。断られるかどうかなんて、実際誘ってみないとわからない。もしかしたらオーケーが貰えるかもしれないのに────。
「それにね……たぶん、ハリー、好きな人が居るのよ。誰かはわからないけど……でも、私じゃないことは確かなの」
ジニーがポツリと呟いた。感情を押し殺したようなその表情に、レイチェルは心臓がギュッと締めつけられるのを感じた。胸が痛くて、何だか泣きたいような気持ちになった。でもきっと、泣きたいのはジニーの方だ。俯いたジニーの肩がとても小さく見えて、レイチェルはぎゅっとジニーを抱きしめた。
「……私が男の子なら、絶対ジニーに申し込むのに」
「本当に?」
熱を込めて言うレイチェルに、肩口でジニーがクスクス笑う。
ジニーはずっと────レイチェルがジニーと仲良くなる前から、ずっとハリーに恋をしている。きっとハリーだって気づいているだろう。
こんなに可愛くて、自分のことを想っている女の子が居るのに。……いや、これはジニーの友人だからそう考えてしまうことで、身勝手な考え方かもしれない。ハリーにだって意志や感情がある。自分に好意を向けてくれている人が居るとわかっていたって、他の人に惹かれてしまうのはどうしようもない。ジニーも、ハリーも、誰も悪くない。
でも……やっぱり、こんなに一途に彼を想い続けているジニーには、報われてほしいと思ってしまう。
「ねっ、私のことより、レイチェルは?やっぱりセドリックと行くの?」
明るいジニーの声に、レイチェルは視線を泳がせた。
目をキラキラさせてレイチェルを見るジニーの期待に応えられなくて申し訳ないけれど、言うまでもなくレイチェルのパートナーは未定のままだ。
「レイチェル。大丈夫? 何だか元気がないみたいだけれど……」
心配そうに表情を曇らせたエリザべスが、レイチェルの顔を覗きこむ。談話室へと戻ってきてからと言うものの、レイチェルはソファにぼんやりと座ったままだった。ふかふかのクッションを抱きしめて、暖炉の中の炎を眺める。パチパチと音を立てて跳ねる明るいオレンジ色の炎は、ジニーの髪を思い出させた。
「んー……ちょっとね。人間関係って、なかなか上手く行かないなあ、と思って」
レイチェルは目を閉じ、ソファの背もたれへと体を投げ出した。ハリーに好きな人が居る。ジニーから聞かされたその情報が、レイチェルには何だか上手く飲み込めずにいた。意外と言うか、衝撃と言うか、とにかく驚いていた。
考えてみれば彼ももう4年生なのだし、好きな女の子の1人や2人居てもおかしくないのだろうけれど……初めて会った日の、小さな男の子の印象が抜けないせいかもしれない。
何となく、ハリーはいつかジニーのことを好きになるんじゃないかと、そんな風に思っていた。
そうなってほしいと思っていたし、実際きっと自然とそうなる可能性は高いような気がしていた。
ジニーの恋心は、傍目に見てもとてもわかりやすい。出会った頃から、ジニーはおしゃまで溌溂とした魅力的な女の子だった。でも、ハリーのことになるといつもの快活さが嘘のように真っ赤になって上手く話せなくなってしまって、そんな様子はいかにも恋する乙女と言う雰囲気でとても可愛らしかった。だからきっと……ハリーだって、ジニーの好意には気づいているだろうと思う。彼本人が気付いていなかったとしても、周りは気づいていたはずだ。ハーマイオニーや、ジニーの兄であるロン。
一般的に、恋愛に関して興味を持つのは女の子の方が早いから────レイチェルは女の子のくせにそう言ったことに興味がなさすぎるとパメラによく呆れられるけれど────彼はまだ、そう言ったことには興味がないだけなのかと思っていた。興味がないと言うか、面倒くさいと言うか。
でも、ジニーは可愛い。1年生の頃は周りと比べても一際小柄で、小さくて華奢な女の子だったけれど、3年生となった今ではあの頃より随分と背も伸びた。自分を好きで居てくれる異性の存在は、少なからず意識してしまうだろう。だからいつかきっと、ハリーだってジニーを好きになるだろうと……彼が好きになるとしたら、それはきっとジニーだろうと思っていたのだ。
『ジニーの魅力にちっとも気づかないとしたら、ハリー・ポッターに見る目がないんだわ』
以前ジニー本人にもそう伝えたけれど────あの頃はハリーのことを嫌っていたからジニーは彼のどこがそんなに好きなのか理解不能だったし、正直ジニーにはもっと良い人が居るんじゃないかとも思っていたけれど────レイチェルはそう考えていたし、ジニーの恋を応援していた。
今では、ジニーがどうして彼に惹かれたのか、レイチェルにも何となくだけれどわかるし……ジニーと彼はお似合いだと思う。ジニーとハリーが並んで踊っているところを想像すると、とても可愛いカップルに思えた。
でも、ジニーは彼の前ではジニーらしく振舞えなくなってしまうから……もしかすると、その魅力が彼の前でだけ発揮できていないのかもしれない。ジニーがジニーらしくできれば、彼だってきっとジニーのことを好きになるのに。
それにしても────その、ハリーの好きな人って一体誰なのだろう?
彼と1番仲の良い女の子と言えば、間違いなくハーマイオニーだろうけれど……ジニーの口ぶりからして、彼女ではなさそうだった。他のグリフィンドールの女の子だろうか? もしや、クィディッチのチームメイトの誰か?
無意識のうちに、小さく溜息が出た。そもそも、彼の交友関係をほとんど知らないのだから、考えたところで意味がない気がする。ようやく友人になったとは言っても、やっぱりレイチェルはハリーのことを全然知らない。
そもそも、ハリーに好きな人が居ると言うのは確かなのだろうか? ハーマイオニーからそんな話を聞いたことはないし、ジニーの勘違いと言う可能性もある。……いや、でも、たとえハーマイオニーがハリーの想い人を知っていたとしても、彼女はレイチェルにそれを勝手に話したりはしないだろう。
「あれ? そう言えば、パメラは?部屋に居るの?」
「いいえ。少し出掛けてくるって言っていたけれど……」
そんな会話をしていたら、ちょうど談話室の入り口からパメラが入って来た。ぐるぐるとマフラーを首に巻き付け、コートの肩には雪が積もっている。鼻の頭も赤い。レイチェル達に気が付くと、パメラは急ぎ足でこちらへとやって来た。
「ヤバい!外寒すぎ! ちょっと、火に当たらせて!詰めて、レイチェル」
「パメラ、冷たい! どこに行ってたの?」
「まあ、ちょっとね。あっ、そうだ。私、パートナー決まったから」
暖炉の火に手をかざしながら、パメラが言った。何でもないことのような口調だったが、レイチェルの頭から憂鬱を吹き飛ばすには十分だった。レイチェルは驚きのあまり、ポカンとパメラの横顔を見つめた。エリザベスも驚いた表情で固まっている。
「パートナーって……えっ? パーティーのパートナーよね? 誰と行くの?」
「レイチェル達は知らないと思うわ。ダームストラングの男子。あっ、言っとくけど勿論友達として行くのよ。私にはマークが居るし」
パメラも誰かパートナーを見つけなければいけないとわかったのは、つい昨日のことだったはずだ。それなのに、もう決まったなんて。レイチェルがぼんやりしすぎなのか、パメラの行動力がありすぎるのか。……もしかしたら、その両方かもしれない。
「……どうやってそんなに早くパートナーを見つけたの?」
「ダームストラングの女の子にね、こう聞いてみたわけ。『あなた達の学校に、誰か学校に恋人を残して来てる男の子は居ない?』って」
要するに、恋人は居るけれど事情があって恋人とはパーティーに行けない人間同士、一緒に組むことにしたらしい。なるほどと、レイチェルは舌を巻いた。恋人が居るパメラはパートナーを見つけるのは難しいんじゃないかと思ったけれど、そんな方法があったなんて。
「向こうだってどうせパートナーにするなら、同じ学校の子より『訪問先で会った女の子』の方が気が楽でしょ。対抗試合終わっちゃえばもう会わないわけだし。私も、ホグワーツの男子をパートナーにすると後々めんどくさそうだからイヤ」
それは、レイチェルにも何となくわかる。ホグワーツの男子が相手だと、パーティーだけ一緒に行ってもらってもう用は済んだからさようなら、と言うのはやりにくそうだ。その男の子をパートナーに誘いたい女の子が居たら、面倒なことにもなりかねない。
「そう言えば、クロディーヌもパートナー決まったのよ。ボーバトンで1番ハンサムな男の子!」
さすがだ。レイチェルは最早、驚く気にもなれなかった。……やっぱり、こう言うときはそれまでの経験値が物を言うのかもしれない。パメラのパートナーが決まったと聞いてちょっと焦りかけたけれど、2人と比べても仕方ない気がしてきた。レイチェルとはペースが違うのだ。
「レイチェルも、そろそろ真剣にパートナーのこと考えなきゃまずいわよ。実はもう決まったって言うなら別だけど」
そんな考えを見透かしたかのようなパメラの言葉に、レイチェルはギクッとした。
勿論、決まっていないどころか、誘われてすらいない。でも、パメラやクロディーヌのフットワークが軽すぎるだけで、ほとんどの女の子はまだパートナーが決まっていないはずだ。レイチェルが多数派だ。
「でも、ほら、今日と明日は週末だし……」
「甘い!!」
週末くらいはのんびり過ごしたいと言うレイチェルのささやかな主張は、パメラの鋭い声によって遮られた。今の、マクゴナガル教授に似ていた。全く糖蜜タルトよりも甘いと、パメラは大げさに首を振った。今度はスネイプ教授にちょっと似ていた。
「あのね、この週末がチャンスだって思ってる子は多いと思うわよ。休日だから、皆、時間に追われずに自由に過ごしてるでしょ。それって、授業がある日より誘いやすいし、誘われやすいってこと! 平日だと、話がしたいって声をかけるにも目立っちゃうでしょ!」
「あっ……」
言われてみれば。授業がある日は、女の子は特に固まって行動することが多いし、男の子からすると声がかけにくいかもしれない。一緒に居る友人達にもわかってしまうのは嫌だろうし。特に教室移動の最中だったりすると、誘われる側も急いでいたりするから、なおさら呼び止めにくいだろう。
「エリザベスだって、午前中スリザリンの男子に呼び出されてたわよね」
「……断ったわ」
眉を寄せて呟いたエリザベスにも、レイチェルは驚いた。レイチェルがジニーと会っている間に、そんなことがあったなんて。
「ヴぉくも、パートナー見つけなければいけない。困ってたので、彼女が誘ってくれて助かりました」
夕食の時間、パメラはレイチェル達にパートナーを紹介した。休日だからかダームストラングの制服は来ていないけれど、レイチェル達よりもずっと背が高い、落ち着いた雰囲気の青年だ。初対面の相手を前に緊張するレイチェル達に、青年はニッコリと笑いかけた。
「ヴぉく、君達、知ってます。黒髪のあなた。綺麗な人だと僕の友人が話してました。それに君は……ホグワーツの代表選手の彼女」
「えっと……彼女じゃないの」
スープを口へと運んでいたレイチェルは、危うく咽そうになった。
もしかして、クラムやフラーだけでなく、ボーバトンやダームストラングの人達みんなにそう誤解されているのだろうか……?
「いつも2人で居るんだから、誰だってそう思うわよ」
「確かに2人では居るけど、別に恋人だって誤解されそうなことはしてないわ」
話好きらしい青年は、ダームストラングについて色々と話してくれた。授業や校舎、肖像画やクィディッチ────。レイチェル達が満足してレイブンクロー塔へと戻ると、いつもの週末と比べて談話室に居る人数が多いような気がした。……これもパメラが言っていたみたいに、ダンスパーティーの影響なのだろうか?
「ねぇ、聞いて!チョウったら、もう3人の男子から申し込みがあったのよ」
「マリエッタ!」
暖炉の前では、5年生の女の子達がおしゃべりをしていた。クスクス笑うマリエッタに、チョウが赤くなる。そんなチョウ達のグループを、近くに座った男子生徒がチラチラと気にしているのがわかった。……もしかしたら、彼は4人目かもしれない。
「ねぇ、ロジャー! 私のことパーティーに連れてって!上級生が招待してくれたら行けるんでしょ!お願い!」
「残念だけど、俺達が踊るのはさすがに身長差がありすぎて難しいと思うぞ」
「老け薬でどうにかするわ!当日だけ伸ばすもの!」
「いや……その方法は、マクゴナガルが良い顔しないだろ。あと10センチ背が伸びたら踊ろうな」
「べ、別にロジャーとダンスがしたいわけじゃないんだから!勘違いしないで!」
壁際のソファでは、ロジャーが2年生の女の子にパートナーにしてくれるようせがまれていた。真っ赤になって大きな瞳を潤ませる彼女はとても可愛い子だったが、ロジャーとはかなり身長差がありそうだ。ハイヒールを履いたとしても、背の高いロジャーが相手だと踊りにくいだろう。
「そう言えば、ダンスパーティーってことは、当然ダンスがあるのよね……? 私、踊れない……」
あまりにも今更、レイチェルは重要なことを思い出した。パートナーのことばかり心配していたけれど、パートナーが無事に見つかったとしても、レイチェルは踊れないのだ。ちゃんとしたダンスのステップなんて習ったことがない。
「寮ごとにダンスのレッスンをするって先生方が仰っていたわ。週明けに掲示が出るはずよ」
レイブンクローは火曜日のはずだとエリザベスが教えてくれたので、レイチェルはホッとした。監督生のエリザベスは、レイチェル達より先に知らされていたのだろう。よかった。ちゃんとした練習の機会が用意されているのなら安心だ。
「やっぱり、お菓子かなあ……?」
「飲み物の方がよくない?」
「でも、飲み物だと食事のときその場で混ぜなきゃでしょ? お菓子の方が食べさせやすいよ」
「あの薬ってどれくらい効果あるんだろ? 当日までに効き目切れちゃうよね」
「とりあえずパートナーにするって約束さえもぎ取れば……」
近くを通りかかった5年生の女の子達が、そんな会話をしているのが聞こえた。たぶん、誰かに惚れ薬を盛る相談だ。エリザベスが溜息を吐いて立ち上がり、彼女達を摘発しに行った。監督生は休日も仕事があって大変だ。
「リサ、結局パーティーと旅行、どっちにするか決まったの?」
「それがどうしよう、パドマ。まだ悩んでて……素敵なパートナーが見つからなかったら旅行ってわけにいかないかなあ」
「私なら迷わずパーティーだけどなあ」
「それは、だって、パドマならたくさん男子に誘われるからでしょ!私はパドマみたいに美人じゃないもの!」
近くのソファでは、4年生の女の子達が話しこんでいた。リサとパドマだ。どうやら、休暇の過ごし方についての悩みはまだ結論が出ないらしい。その隣のソファでは、3年生の女の子達が興奮した様子ではしゃいでいた。
「えーっ!ルーナ、パーティーに誘われたの!?相手誰!?」
「ボーバトンの人だよ。友達として、一緒に行って欲しいって言われたんだ。学校に残してきた恋人が心配しちゃうから、同い年くらいの女の子は誘いたくないんだって」
「それなら私が行きたかったぁ!いいなぁー!」
談話室に居る女の子達の誰もが、ダンスパーティーの話題に夢中だった。この様子だとパメラの言う通り、この週末の間にどんどんパートナーが決まってしまうのかもしれない。どこかソワソワとした楽しげな空気に、レイチェルはほんの少しだけ、焦りを感じ始めていた。
……ハーマイオニーやジニーを心配するより、自分のことを考えるべきかもしれない。