ジョージの言葉が、頭の中をぐるぐる回る。
残念って何だろう。言葉の通り受け取るのなら、レイチェルがジョージが自分を好きだと勘違いしてほしかった……と言うことになる。どうして、そんな勘違いをしてほしいと思うのだろう? やっぱり、慌てるレイチェルをからかうのが面白いから? そうでないとしたら────。

「ねぇ、レイチェル。ジョージと何かあった?」

談話室のソファに座って呪文集を読んでいたら────とは言っても内容は全然頭に入って来てはいなかったけれど────いつの間にか隣にクロディーヌが座っていた。しかもたった今考えていたことを当てられたので、レイチェルはぎくりとした。

「ど、どうして……」
「だって今日の貴方、明らかに様子が変だったもの」

肩を竦めるクロディーヌに、レイチェルは押し黙った。自覚はある。今日もまた魔法薬学の授業があって、今度はちゃんとジョージが出席していた。いつも通りにしようとはしたのだけれど……ジョージに話しかけられたとき、レイチェルはアルマジロの胆汁の入った瓶をひっくり返しそうになったし、芋虫の輪切りを必要以上に細かく刻んでしまった。

「キスでもされた?」
「キッ……、そんなのしてないわ!してない、けど……」

されそうにはなった。ボーバトンとダームストラングの選手団が来た日だから、もう2週間以上前のことだ。ジョージは寝ぼけていたんだろうけれど────あのときレイチェルが急いで教室を出なければ、もしかしたらキスされていたんだろうか。思い出して、レイチェルは頭を抱えた。

「ねぇ、クロディーヌ……私が今から言うこと、笑わないって約束してくれる?」
「それは内容によるかしら。努力はするわ」

1人で悩んでいても解決できそうにないから、誰かに聞いてほしい。でも、笑い飛ばされたらどうしようと言う不安もある。レイチェルがボソボソと言えば、クロディーヌはニッコリ笑ってみせた。ちょっと迷ったが、レイチェルは覚悟を決めることにした。

「……あのね。ジョージって…………私のこと、好きなのかもしれない……」

言いながら、段々と自分の声が小さくなっていくのを感じた。やっぱり、いざ言葉にしてみるとものすごく自意識過剰に思える。でも、こんなことを相談できる相手なんて、他に思い当たらなかった。エリザベスはともかく、パメラやアンジェリーナ達に知られたら絶対に大はしゃぎする。

「ふぅん。それで?」
「それで?って……」

レイチェルは肩透かしを食らったような気持ちになった。クロディーヌは笑わなかった。だから何だと言いたげな、不思議そうな表情がレイチェルを見返す。答えを待たれているのがわかって、レイチェルは視線を泳がせた。

「だから、その……そうだとしたらどうしたらいいかって…………困ってるの」

そう。困っているのだ。戸惑っているし、動揺している。
自分ではおかしなことを言っているつもりはないのだけれど────クロディーヌがあまりにも落ち着き払っているから、奇妙なのはレイチェルの方なんじゃないかと思えてくる。

「どうして困るの?」
「だ、だって……ジョージは友達だし……確かに、今までも思わせぶりだなって感じることはあったけど、からかわれてるだけなんだろうって思ってて……」

そうかもしれない、と思ったことは何度かあった。でも、そのたびに動揺しているのはレイチェルばかりで、ジョージは平然としていて。だから、レイチェルが勝手に意識してしまっているだけなのだろうと思っていたのに。

「私……自分がジョージのことをどう思ってるのか、よくわからないの」

レイチェルをからかって面白がっているだけで、ジョージの言動に深い意味や意図はないのだろうから、レイチェルも気にしないようにしようと。……実際その通り振舞えていたかどうかはともかく、そう言い聞かせていた。だから、やっぱりそこに何か意味や意図があったかもしれないと考えると、かえって混乱してしまう。

「あら? 私には、貴方も結構ジョージを意識してるように見えたけど」
「確かに……気にはなるけど……」

楽しげに笑うクロディーヌとは反対に、レイチェルはますます困って眉を下げた。
髪に触れられたり、ほとんど密着した状態で耳元で話されたり。あんな風にされたら、意識してしまうのは仕方がないような気がする。相手が誰だったとしてもだ。ただ単に気になると言う意味なら、ハリー・ポッターの方がよっぽど気になる。

「友達としては良くても、恋人にするには生理的に無理ってこと?彼が自分とキスしたいって考えてたり、触れられたりするのは気持ち悪くてゾッとするとか」
「そんな風には……思わないけど……」
「なら、とりあえず2人で過ごしたりデートしてみて、それから好きになれそうかどうか考えてみたら?まさか、男の子とデートするのが初めてってわけでもないでしょ?」
「えっと…………」

セドリックとはよく2人で出掛けるけれど、あれはデートにカウントされるだろうか。たぶんされない。
相談相手を間違えたかもしれない。恋愛経験豊富なクロディーヌならと縋りたくなってしまったけれど、クロディーヌの想定よりもレイチェルの経験値が下回っている。レイチェルが言葉に詰まると、クロディーヌは理解できないと言いたげに息を吐いた。

「貴方が何に悩んでるのかわからないわ。話はすごくシンプルに思えるけど。ジョージは貴方のことが好きで、貴方も彼が嫌いじゃない。恋人としては魅力的どうかが知りたいなら、こんな風に悩んでるより、実際に色々試してみた方が早いじゃない」
「好き……なのかどうかは、まだわからないわ。別に、デートに誘われたわけじゃないし……」
「でも、貴方はそう思ったわけよね。つまり、そう思うような“何か”があったんでしょ?」

レイチェルは躊躇ったが、小さく首を縦に振った。
確信は持てないけれど。たぶん────そうなのだと思う。ジョージは、レイチェルのことを好き……なのかもしれない。誰に対してもああで、相手の反応を面白がっていると言う可能性も捨てきれないけれど、でも、ジョージはそんな人じゃない……と思いたい。

「私に言わせれば、貴方がジョージを好きかどうかなんて、そんなに深く考える必要ないのよ。だって、向こうは貴方のこと好きなんだもの。試してみて振ることよりも、何もないうちから避ける方がよっぽと可哀相よ」
「そう……かも、しれないけど……」

クロディーヌの言う通り、ほとんどよく知らない相手なら、それがきっと1番わかりやすいのだと思う。知らない上級生にデートに誘われたとしたら、レイチェルもたぶんそうする。でも────ジョージは友達だ。好意を持たれてるとわかれば戸惑うし、中途半端なことをして気まずくなるのは避けたい。

「前に、好きな人が居るって言ってたわよね。その彼とは上手く行きそうなの?」

静かな声で問いかけられて、レイチェルは驚いた。クロディーヌが言っているのは、たぶんウッドのことだ。そう言えば以前、好きな人が居ると打ち明けたんだっけ。興味がなさそうだったのに、覚えていたのが何だか意外だ。

「……諦めることにしたの。吹っ切れた……とまではいかないかもしれないけど、自分の中では納得してるわ」
「なら、何も問題ないじゃない」

上手く行くどころか、ウッドはもう半年も前に卒業してしまって、それ以降ワールドカップの会場で1度会ったきりだ。そもそも諦めると決める前から、恋人になりたいとか、デートをしたいと強く願ってはいなかった。……ウッドが誘ってくれたとしたら、嬉しかったと思うけれど。

「今はまだその彼以外は考えられない、ってことなら、確かにジョージと付き合うのは難しいと思うけど。別にすぐ結婚するってわけじゃないんだし、もっと軽く考えてみたら?」
「う……」

クロディーヌの言う通り、深刻に考え過ぎなのかもしれない。既に彼氏が居るパメラや、レイチェル以上に潔癖気味なエリザベスは別として、レイチェルの周りでも誰それが付き合ったとか別れたとか話を聞くことがある。もっと気楽に考えてみた方がいいのかもしれないけれど……やっぱり、何だか難しい。性格の問題なのか、それとも単に慣れてないせいなのだろうか?

「それに、大好きで大好きでたまらないって相手を恋人にするのって個人的にはあんまりお勧めしないし」
「どうして?」

レイチェルははてと首を傾げた。誰でもいいから彼氏が欲しい、と言っている子が居るのは知っているけれど、レイチェルはどうせならやっぱり好きな人と付き合いたい。そんな考えが伝わったのか、クロディーヌはクスクス笑ってみせた。

「アイスクリームと同じよ。自分が熱くなってるときの方がおいしいけど、その方が溶けるのも早いの。まあ、人によるんだろうけど……私は、自分が追いかける方だと疲れちゃうのよね」

だからそうやって悩むならジョージはオススメ、とクロディーヌは綺麗に微笑んでみせた。

 

 

 

15歳の冬。レイチェルには好きな人ができた。
いつから好きだったのかは、自分でもよくわからない。自覚したのがそのタイミングだっただけで、たぶんもっと前から意識していたのだろうとも思う。憧れや尊敬とも似ていたけれど、やっぱり少し違って。今思い返してみてもあのときの感情はたぶん、恋だった。
優しくて、頼りになって。いつだって夢に向かって真っ直ぐで、そのためにひたむきに努力していた人。いつもは大人びているのに、クィディッチのことになると小さな子供みたいに目をキラキラさせる。楽しそうな無邪気な笑顔。ふっと目元を細めたときの柔らかい表情。試合中の凛々しい横顔。シュートをセーブしたときの得意げな顔。頭を撫でてくれるときのちょっと雑な手つき。全部好きだった。誰かのおまけとしてじゃなく、レイチェルレイチェルとして見てくれた人。
好きなところばかり印象に残っているのは、彼のことをよく知らないまま終わってしまったせいなのかもしれないけれど、とても素敵な人だった。ただ見ているだけで、想いを伝えることもなかったけれど、レイチェルは彼に、オリバー・ウッドに恋をしていた。

確かにあのとき、恋をしていた。ウッドが好きだった。今もまだ好きなのかどうかは、レイチェルにはよくわからない。

まだ次の恋なんて考えられない────なんて失恋の痛みに浸れるほど、レイチェルとウッドとの間にはドラマチックな何かがあったわけでもない。そもそもウッドは、レイチェルが彼に恋をしていたことに気が付いてもいなかっただろう。知っていたところでレイチェルが誰とデートしようが、ウッドにとってはどうでもいいんじゃないかとも思う。クアッフルのニスの厚みとか、箒の小枝の整い具合とかの方が、ウッドにとってはよほど重大な関心事のはずだ。

ただ見ているだけで、独りよがりだったかもしれないけれど、恋をしていた。だからこそ、わかることがある。ジョージに対しての感情と、ウッドに感じていた気持ちとは、明らかに違う。

もしもクロディーヌが言っていたみたいに、ジョージにデートに誘われたり、キスがしたいと言われたとして────考え過ぎかもしれないけれど────そのとき、レイチェルはどうしたらいいのだろう? そのときになってみないと、実際どう感じるかはわからないけれど……何となくその場の雰囲気に流されてしまいそうで怖い。

「なあ、レイチェル。昨日のマグル学のノートって借りてもいいか?」
「……また? いいけど……来週の授業までには返してね」
「助かるよ。ありがとな」

レイチェルはジョージのことが好きだ。勿論、友人として。下級生の頃は苦手意識があったけれど、今では大切な友人だと思っている。
男の子としては……わからない。考えないようにしていたから。でも、ジョージは優しい男の子だ。セドリックみたいに誰にでも親切、と言うのはちょっと違うけれど、困っている下級生を助けてあげているところなんかを時々見かける。レイチェルに対しても、何だかんだと気遣ってくれる。……ジニーと同じ扱いなんじゃないかと疑ったこともあったけれど。
ジョージは、と言うかフレッドとジョージは女の子に人気がある。ジョークが好きで楽しい。クィディッチをしてるときがこっこいい。笑顔が可愛い。あんな男の子が恋人だったらきっと楽しい。そんな風に。友人だからとレイチェルが意識的に考えないようにしていただけで……たぶん、男の子としても魅力的なんだろうと思う。

「ジョージったら、またレイチェルにノート借りたの?」
「俺だけじゃない。俺とフレッド」
「なお悪いわね。2人も居るんだから、ノートくらいどっちかが取りなさいよ」
「嫌だったら断っていいんだからね、レイチェル。こんな人達、落第させておけばいいのよ!」
「おいおい、それが友達に言う言葉かよ?」

ウッドがまだ在学していた頃。アンジェリーナやアリシアと親しげに話しているところを見ると、ちょっと羨ましくて、寂しかった。他の誰か知らない女の子が相手だと、尚更胸が苦しくなった。でも、こんな風にジョージが2人と居るところを見ても、気持ちがざわついたりはしない。仲が良いなあと思うだけだ。

「またね、レイチェル!」
「ええ。またね」

友達だから、異性としては見られない……と言うのも、たぶん違う。ジョージのことを、多少なりとも意識してしまっている自覚はある。セドリックとなら手を繋いでもハグをしても平気だけれど、ジョージ相手だと緊張する。……悔しいけれど、ドキドキもする。

そう、ドキドキするのだ。でも……それは“相手がジョージだから”ではないんじゃないかとも思う。

くすぐられると笑ってしまうし、いきなり誰かが柱の陰から飛び出してきたら驚く。それと同じな気がする。動揺するようなことをされたから動揺した。たぶん、相手がフレッドやロジャーでも同じように動揺してしまったような気がする。びっくり箱みたいなものだ。次もまた開けたら何か起きるんじゃないかと、気になってしまう。今みたいに周りに誰かが居るときなら、レイチェルはジョージを前にしても多少落ち着いていられる。
だから、やっぱり。自分がジョージのことをどう思っているのか、レイチェルにはよくわからない。

「あれ? これ、オリバーじゃん」

金曜日の朝食の席。レイチェルが寝ぼけ眼で日刊預言者新聞を読んでいると、隣に座っていたロジャーが紙面を覗きこんできた。ロジャーの頭で記事が見えなかったけれど────その言葉で、レイチェルの頭は一気に覚醒した。

「えっ? オリバーが? どこに?」
「ほら、ここ」

ロジャーの言うオリバーとは、たぶんレイチェルも知っているオリバー・ウッドのはずだ。ロジャーの指差したところを見れば、確かに……スポーツ面に載っていた写真に、ウッドらしき姿があった。パドルミア・ユナイテッドとアップルビー・アローズの試合に関する記事だ。

「もう公式戦に出たの?」

記事を読んでみると、試合の終盤にキーパーが怪我をして、2軍のウッドが代わりに出場したらしい。そして見事ゴールを守り切り、チームの勝利に貢献した。記事の後の方には、小さく顔写真も載っていた。『期待の新人キーパー』なんて紹介されている。
レイチェルは口元が綻ぶのを感じた。デビュー戦を見に行くと言う目標が叶わなかったのはちょっと寂しい。けれど、思っていたよりもずっと早くウッドにチャンスが巡って来たことは、とても素敵なことだ。

レイチェルってパドルミア・ユナイテッドのファンだっけ?」
「えっ……? どうして?」
「いや、なんか。妙に嬉しそうな顔してたから」
「……知り合いの良いニュースは、嬉しいもの」

不思議そうに自分を見るロジャーに、レイチェルは冷静を装った。表情が緩んでいた自覚はあるけれど、そんなにわかりやすかっただろうか……。何はともあれ、ウッドの活躍は嬉しい。レイチェルは写真に折り目がつかないよう丁寧に折りたたんで、新聞を鞄の中へしまった。後でスクラップをしようと思ったからだ。

ウッドのことが、好きだった。たぶん、恋だったと思う。

諦めようと、忘れると決めたけれど……もしかしたら今でもやっぱりまだ、好きなのだろうか。
写真の中のウッドの笑顔を見た瞬間、レイチェルは確かに心臓が軽く跳ねたのを感じた。胸がきゅっと締めつけられるような、胸の中にじわりと柔らかく熱が灯るような、あの覚えのある感覚だ。

やっぱり、ジョージに感じている気持ちはウッドに向けていたものとは違う。でも────ウッドへの気持ちも以前とは変わって来ている。

ほんの半年前までは、ウッドのことで頭がいっぱいだった。廊下ですれ違えば心臓が跳ねて、名前を呼ばれただけで嬉しくて。笑いかけられれば胸が苦しくなる。OWL試験の前だと言うのに、ぼんやりとウッドのことを考えてしまったりして、勉強に集中できなくて困ったりもした。でも、今は。
以前のように頭から追い出そうとしなくても、ウッドのことを考える時間は減った。こんな風に写真を見たり、名前を聞いたり。きっかけがあると、また浮かび上がってはくるけれど。気持ちの温度も、大きさも。以前とはもう変わってしまっているのがわかる。
このまま時間が過ぎ去っていけば、いつかはウッドの写真を見ても何とも思わなくなるのだろうか。……寂しい気がするけれど、たぶんそうなのだろう。

今、自分の目の前に居ない人のことをずっと考え続けるのは、きっと難しいのだ。とても。

 

 

 

頭の中はこんがらがっていたけれど、のんびりと悩んでいる暇はない。
第1の課題はもうすぐそこまで迫っている。今はジョージやウッドのことよりも、セドリックが危険な課題をどうやってクリアするかの方が、緊急かつ重大な問題だ。

「あの人、また図書室に来てるの?」

埃っぽい革表紙の本から顔を上げて、ハーマイオニーが怪訝そうな表情になった。その視線の先を追って、レイチェルはああと納得した。そこには、見覚えのある青年の姿があった。遠目でも目を引くダームストラングの制服は、ヴィクトール・クラムだ。

「彼も調べものじゃない? だってもう、課題まであと数日しかないんだもの」

レイチェルとハーマイオニーも、いつも通り図書室で勉強する約束はしたものの、調べていることはお互い対抗試合の対策に関してだ。レイチェルはセドリックの、ハーマイオニーはハリー・ポッターの応援と言う違いはあるけれど。それに、とレイチェルは続けた。

「彼、本が好きって言ってたもの。読書家なら、ホグワーツの図書室は魅力だと思うわ」
「本が好き。そうね。本“が”好きなだけだから、自分のせいで図書室がうるさくても構わないってことね」

ハーマイオニーは辛辣だった。第一印象がよほど尾を引いているらしい。一応、クラムとサインの一件に関しては誤解だったと伝えたのだけれど……やっぱり印象は悪いようだ。クラムがと言うより彼を追いかけている女の子達のクスクス笑いが、かもしれないけれど。

「ねえ、ハーマイオニー……その、ハリーは大丈夫? 課題が近づいて、不安なんじゃ……」
「うーん、そうね。不安って言うか……ピリピリしてるわ。周りの態度もああだから、仕方ないけど」

苦笑するハーマイオニーに、レイチェルはやっぱりと溜息を吐いた。4年生が17歳の3人に混ざって課題に挑むなんて、不安に決まっている。それなのに、今のホグワーツは彼を応援するどころか、完全に敵対ムードなのだから、神経を尖らせるのも当然だ。

「ロンとも仲直りしたいはずなのに、意地を張って口を利かないの。……全く、2人とも頑固なんだから」

呆れたような口調とは裏腹に、ハーマイオニーの表情は柔らかい。困ったようなその笑みが何だか大人びて見えて、レイチェルはその表情に引き込まれてしまった。いつもの可愛らしい笑顔と違って、何だか一瞬、ハーマイオニーがとても綺麗に見えたからだ。

「ハーマイオニー……何だか最近、大人っぽくなったわよね」
レイチェルったら、どうしたの? 急に」
「んー……今ね、そう思って」

この間会ったときは、前歯を小さくしたから印象が変わったのだろうか、と思ったけれど。最近の彼女は、夏休み前と比べて雰囲気が変わった気がする。背も伸びた。ハーマイオニーだけでなく、ジニーもだ。もっともこれは、レイチェルの身長がもう止まってしまったからそう感じるのかもしれない。そのうち、ジニーにも抜かされるのかもしれないと思うと何となく寂しい。

「じゃあね、レイチェル。何かいい呪文を見つけたら教えて」
「ハーマイオニーもね」

結局、今日の調べ物もあまり上手くいかなかった。何か役立ちそうな呪文が見つかれば、セドリックに教えてあげようと思っていたのだけれど、これと言った収穫はなしだ。
そんなことを考えながら廊下を歩いていたら、向こうにセドリックの姿を見つけた。誰かと親しげに話している。顔は見えないけれど、あの後ろ姿は─────。

「あれ? レイチェル
「……今のって、ロジャーよね。……セドって、ロジャーとそんなに仲良かった?」

こっちに気づいたセドリックに、レイチェルは不思議に思って尋ねた。
セドリックとロジャーは何と言うか、仲が悪いとまではいかないけれど……ロジャーが一方的にセドリックをライバル視していて、あまり親しかった記憶がない。でも、さっき話していた2人は随分と楽しそうに見えた。

「NEWTクラスになってから、魔法史が一緒なんだ。それで、よく話すようになって」
「魔法史……ねえ、もしかしてセド、授業の度にロジャーにノート貸してたりする?」
「毎回じゃないよ。そうだな……3回に2回くらい」

……それは、ほとんど毎回と言っていいんじゃないだろうか。レイチェルは思わず眉を寄せた。ロジャーは明るくて楽しいし、レイチェルも友人としてロジャーが好きだけれど、要領がいいと言うか、ちゃっかりしているところがある。

「でも、デイビースには去年、よく競技場の予約を調整してもらってたんだよ。僕は監督生としての仕事もあって、時間がうまく取れなかったから」
「ロジャーが?」
「去年はお互いキャプテンになったばかりで戸惑ってたし、一応ライバル同士だから、お互い何て言うか……距離感を測りかねてたけど。今年はリーグも休みだから、変に敵視する必要もないしね」

そう言ってセドリックは微笑んだ。
一体いつの間にと少し驚いたけれど、考えてみれば2人ともクィディッチが好きだから話が合うのだろう。ロジャーがセドリックをライバル視していなかったら、きっともっと早く仲良くなっていたはずだ。何にしろ、友人が増えるのは素敵なことだ。何だかレイチェルまで嬉しくなった。

「あっ、レイチェル! ねえ、明日のホグズミードどうする?」

夕食の前に荷物を置きに部屋に戻ると、パメラとエリザベスはホグズミード休暇の相談の最中だった。何だかバタバタしていたせいで忘れそうだったけれど、そう言えばもう明日に迫っているのだ。

「絶対買わなきゃいけないのは、ドレスに合わせるアクセサリーとコスメよね!他は?」
「私、薬局に行きたいのだけれど、構わないかしら。レイチェルは?」
「私、文房具屋さんが見たいの。あと、紅茶の残り少ないんじゃなかった?」
「それにバスボム!そろそろ新作が出てるはずでしょ!」

3ヶ月ぶりの外出は、もちろんレイチェルも楽しみだ。しかも、今回は買うものがたくさんある。いつも以上に充実したウィンドウショッピングになるはずだ。ホグズミード休暇はいつだって楽しいけれど、今回はきっととびきり楽しいだろう。

「そう言えば聞いた?パトリシア、例の7年生と上手くいきそうみたい。明日初デートだって!」
「よかったわ。ずっと片想いしてたものね」
「逆に、リリーはライアンと別れちゃったらしいから。リリーと話すときはその話題出しちゃダメよ」
「えっ? あんなに仲良さそうだったのに!?」

パメラが教えてくれた同級生の恋愛事情に、レイチェルは驚いた。
6年生になってから、以前にも増して周囲の人間関係の変化が目まぐるしい。その速さに追いつけなくて、戸惑ってしまう。けれど、他の人から見れば自分も似たようなものなのかもしれない。レイチェルだって夏休み前まではジョージとこんなに親しくはなかったし、クロディーヌとも友達じゃなかった。
新しい友達が増えたり、友達から恋人に変わったり。あるいは喧嘩別れしてしまったり。嬉しい変化もあれば、寂しい変化やもどかしく感じてしまうような変化もあって。何だか少し、不安にもなる。
今がとても楽しいから、こんな時間が続いてほしいと思ってしまうけれど。その今さえも、刻一刻と、きっとどこかで何かが変わっている。

楽しくても、悲しくても、退屈でも。時間は止まることなく、ただ先へと進むのだ。

明日もいつも通りに

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