ジョージのあの行動は結局、どう言う意味だったのだろう。
翌日の呪文学の授業で顔を会わせたときも、ジョージは何と言うか、いつも通りだった。席が離れていたせいもあるかもしれないけれど、別に話しかけられたりもしなかったし、視線が合うことすらなかった。どうしてジョージがこっちを見なかったとわかるかと言えば────授業中、ジョージを無意識に目で追ってしまっていたからだ。そう気付いて、レイチェルは頭を抱えた。ジョージは友人だけれど、一応異性で、男の子にあんな風に急に髪を触られるのも、髪が綺麗だなんて褒められるのも────もっとモテる女子なら、この程度のことで動揺しないのかもしれないけれど────少なくともレイチェルは慣れていないので動揺した。
とは言え、ジョージの態度を見ていたら、こっちばっかり気にしているのが馬鹿みたいに思える。たぶん、ジョージにとっては気まぐれと言うか……大した意味はなかったのだろう。前にもセドリックとの仲に関してジョージに言われたことはあったし、レイチェルをからかって反応を楽しんでいる節があるのも今に始まったことじゃない。
だからそう。レイチェルもさっさと忘れて、いつも通り過ごしていればいいのだろう。
わかっているのに、何だか妙にジョージのことを意識してしまう。
ジョージに提案した通り、ルーマニアに居る父親には手紙を出した。『薬を調合したいので、材料を送ってほしい』と────老け薬を作るためだと気づかれないように、いくつか関係ない材料も混ぜて。たぶん、送ったリストの内容からすると、ニキビを治す薬を作りたがっているように見えるはずだ。……まあ、一応向こうも本職なのでもしかしたらそんなカモフラージュはお見通しかもしれないけれど、バレたとしてもレイチェルに甘いから大丈夫だろう。天候に問題なければ10日程度で手紙が届くはずなので、早ければ3週間後くらいには返事と材料が届くはずだ。
だからジョージにそう伝えようと思ったのだけれど……手紙を出してから2日が経つと言うのに、レイチェルは未だにそれを果たせずにいた。簡単なことだ。呼びとめて、2、3分も話せば済む。向こうだって、たぶんレイチェルが言い出したことが今どうなっているか気になっているだろう。もしレイチェルが材料を手に入れられなかったとしたら、他の方法で手に入れなければいけないのだから。早く伝えてあげた方がいい。わかっているけれど……ジョージと顔を合わせて、いつも通りに振舞える自信がない。奇妙に声が上ずったりだとか、視線が泳いでしまったりだとか、何だか不自然な態度をとってしまいそうで……ジョージは他人の些細な変化でもよく見ているタイプだから、そうなったら絶対気づかれる。それを理由にまたからかわれたりするのも嫌だし、レイチェルばかり意識しているのを知られるのも嫌だ。
結局────直接話すのが難しいのなら手紙で伝えればいいのだ、と気づいたのはあれから3日後の放課後になってのことだった。
ジョージへ
連絡が遅くなってごめんなさい。
この間図書室で話した件だけれど、一昨日の朝にルーマニアに向けて手紙を出しました。
『頼みごと』が聞いてもらえるかはわからないけれど(たぶん大丈夫だと思うんだけれど)
問題がなければ、3週間くらいでこっちに送られてくるはず。
もしダメだったとしても手紙の返事は来ると思うから、その頃になったらまた連絡します。
手紙を書き終えて、封筒に入れて。そうして封蝋をしようとして────レイチェルは手を止めた。今捺そうとしているシーリングスタンプは、レイチェルがいつも使っているもの。ホグズミードの文房具店で買った、レイチェルの名前の頭文字と薔薇の花の図柄が入っているものだ。……一応、あまり人に知られない方がいい内容の手紙だし、イニシャル入りは避けた方が良さそうな気がする。
レイチェルは引き出しから別のシーリングスタンプを出して、封蝋の上へと捺してみた。細かい金色のラメが入ったパールピンクの封蝋の上に、大きめのハートのフレーム。その中には、交差した2本のミモザの花の図柄。そこで、レイチェルははたと気がついた。
何と言うか、見た目がすごく…………ラブレターっぽい。
レイチェルの気にしすぎかもしれない。別に、普段セドリックや友人達にだってこのスタンプを使っているわけだし。それに、チャーリー宛ての手紙にだって使ったことがある気がする。でも、何と言うか……今このタイミングで、この手紙をジョージ宛てに送るのはちょっと抵抗がある。封蝋がピンクだからそう見えるのだろうか……? もう1つ、薄紫に銀色のラメのものも持っている。そっちに変えれば……いや、想像してみてもあまり大差ない気がする。ミモザの花言葉って何だったっけ。
しげしげと封筒を見つめた結果、レイチェルは机の引き出しを開けた。最近あまり使っていないけれど、もう1個シーリングスタンプを持っていた気がする。確かちょっとポップなウサギの……ブーケを持ったウサギの周りにハートマークが飛び散っていた。ダメだ。レイチェルは引き出しを閉めた。
「うーん……」
以前ジョージに手紙を出したときはどうしたんだったっけ。確か、4年生の夏休みにも手紙のやりとりをしたことがあったはずだ。そのときはどうだっただろう。単にそこまで気にしていなかっただけだろうか。
……ああ、違う。思い出してきた。確か、あのときはもっと無難な────猫のシーリングスタンプを持っていたからそれを押したのだ。あれはどこにやったんだっけ。……そうだ、ジニーがとても気に入っていたみたいで……限定品でもう手に入らないものだったから、プレゼントしたんだった。
レイチェルは小さく溜息を吐いた。何だか、悩むのが面倒になってきてしまった。やっぱり、ちょっと気にしすぎのような気がする。たかがシーリングスタンプだ。そもそも、レイチェルが便箋のデザインやインクの色に凝るほど、チャーリーやセドリックは手紙の内容以外のところに情熱を注いでいないような気がする。レイチェルは友人から可愛い便箋やカードで手紙をもらうと嬉しいけれど、男の子と言う生き物は手紙なんて差出人と中身以外あまり興味がないのかもしれない。……ああ、でも、ドラコは割とこだわりがありそうな感じがするから、やっぱり人によるのだろう。ジョージは2人よりも細かいところに気がつくし、意外と見ているのかも……。やっぱりイニシャル入りのシーリングスタンプを使おうか? ああ、でも、何だかそれはそれで他の人に見られたら勘違いされそうだ。
「……ねえ、エリザベス。シーリングスタンプを借りてもいい?」
やっぱり、もう少し無難なシーリングスタンプを使いたい。レイチェルは振り返って机に向かって魔法史のレポートを書いているエリザベスへと声をかけた。エリザベスは確か、割とシンプルな図柄のものを持っていたはずだ。小鳥とか、フルーツとか。
「構わないけれど……あ、いえ、ダメだわ。私、今、自分のイニシャルが入ってるものしか持ってないのよ。家に忘れてきてしまって……パメラに借りるのはどうかしら?」
「私の? 別にいいけど、鳥のは持ってないわよ?」
「鳥? えっと、そこはこだわりないから……貸してもらえたら助かるわ」
エリザベスの言葉に、ベッドに寝転がってファッション誌を読んでいたパメラが起き上がる。パメラの質問を不思議に思いつつレイチェルが返事をすると、パメラは「なぁんだ」とちょっとガッカリしたような表情になった。
「ジンクスを試したいわけじゃないのね」
「ジンクス?」
「知らない?色々噂になってるじゃない。鳥のマークのシーリングスタンプは確か、『向こうから話しかけてもらえる』、だっけ」
「へー……」
そんなジンクスがあったなんて初耳だ。ちらりとエリザベスの方へ視線を向けると、やっぱり驚いたような顔をしていたのでレイチェルは何だかちょっと安心した。どうやら知らなかったのは自分だけではなかったらしい。
「なんか、誰それの恋がこうしたら上手くいったって、広まることが多いのよ。その時々で結構変わったりするから、私も全部は覚えてないけど。レイチェルもエリザベスも、本当こう言うの疎いわよね」
パメラの呆れたような口調に、レイチェルは視線を泳がせた。正直、意中の男の子に手紙を出す機会がなければあまり活用することのなさそうなジンクスなので、知らなかったところで特に困らなさそうだけれど……素直にそう言えば貸してもらえなくなってしまいそうなので、レイチェルは口をつぐんだ。
「シーリングスタンプなら、クロディーヌに言ってみれば?あの子確か彼氏変わるたびに使い分けてたはずだから、たぶん余ってるって言うか、使ってないのいっぱい持ってるわよ」
「ううん、大丈夫……」
パメラの提案にレイチェルは首を横に振った。わざわざ他の部屋にまで借りに行くほどは切迫していない。それに、パメラやエリザベスだから気軽に言い出せたけれど、クロディーヌに「シーリングスタンプを貸してくれる?」なんて言えるほど親しくない。
「そう? はい、じゃあこれ。シーリングワックスは?」
「自分のを使うから大丈夫。ありがとう」
パメラからキャンディーの空き缶を受け取って、レイチェルはその中を覗き込んだ。無造作に入れられたシーリングスタンプの図柄を、1つ1つ確かめていく。向かい合ってキスをしている2匹のネコ……ダメ。矢で射抜かれたハート……これもちょっと。キスマーク……ダメ。ああ、これならいいかもしれない。羽を広げた蝶の図柄は、綺麗だけど比較的シンプルだ。
「ジンクス、何だっけ。絶対他にもあったんだけど……あっそうそう! 『ピンクのシーリングワックスは恋が叶う』とか『薄紫のシーリングワックスは、相手と会える回数が増える』とか」
そうして、ようやく封蝋をやり直そうと封筒からさっき捺したものを剥がしたレイチェルは、パメラの楽しげな声にぴたりと動きを止めた。たった今まで知りもしなかったジンクス。それも、ホグワーツの女子だけで囁かれていいるものにどれくらい効果があるかなんてわからないけれど────。
「……ねえパメラ、やっぱりそっちも借りてもいい?」
新学期が始まって2週目が終わる頃になると、レイチェルはジョージのことを考えているどころではなくなってしまった。なぜって、とにかく忙しいのだ。NEWTクラスになってからの授業内容は、去年までよりずっと難しくなった。レイチェルを含め、多くの6年生は無言呪文の習得に苦戦させられていた。今までずっと呪文を声に出して唱えていたので、この新しいやり方にすっかり戸惑っていた。今のところ、たった1度でも無言呪文を成功させられたのは、セドリックにフレッドとジョージ、エリザベスやスリザリンのマイルズ・ブレッチリー────学年の中でもほんの数人だ。レイチェルは……レイチェルも、そろそろ成功させたい。1年生の頃に習ったような簡単な呪文でも、頭の中で唱えるだけとなると上手くいかないのだ。念じているつもりでも、つい小声で囁いてしまっていたりする。おまけに課題も多い。科目数が減ったことによって空き時間ができたし、シャールの世話もなくなったのに、ちっとも時間の余裕はできていなかった。
「レイチェル……ねえ、レイチェルったら。聞いてるの?」
「えっ?」
名前を呼ばれて、レイチェルはハッと顔を上げた。疲れていたせいか、ついぼんやりしてしまった。何だっけ。そうだ。確か、ハーマイオニーが最近始めた活動について話したいと言っていたんだった。
いつの間にかテーブルの上には箱が置かれていた。中には、色とりどりのバッジがたくさん入っている。レイチェルはその中の1つをつまみあげて、そこに書かれていた文字を見て首を傾げた。
「……『反吐』?」
「やっぱり聞いてなかったのね」
もう、とハーマイオニーが呆れたような表情になった。
「S、P、E、W! 『屋敷しもべ妖精福祉振興協会』よ」
「……団体名、他にもう少しいい候補なかったの?」
正式名称はともかく、略称があまりにもひどすぎる。胸につけて歩くことは遠慮したいデザインのバッジだ。レイチェルが思わず呟けば、ハーマイオニーもそこは自覚しているのか視線が泳ぐ。誤魔化すように、ハーマイオニーが咳払いした。
「私達の短期的目標は、屋敷しもべ妖精の正当な報酬と労働条件を確保すること。私達の長期的目標は、しもべ妖精の杖の使用禁止に関する法律改正。しもべ妖精代表を、魔法生物規制管理部に参加させること。……入会費が2シックル。それを活動資金にあてて、ビラまきやキャンペーンをしたいと思ってるわ」
熱の入った口調で語られた壮大な計画に、レイチェルはパチパチと目を瞬いた。
レイチェルが呆気にとられている間も、ハーマイオニーの演説は続いた。ワールドカップの会場で、主人であるクラウチ氏や他の魔法使い達がクラウチ家の屋敷しもべ妖精であるウィンキーに酷い態度だったこと。そして、しもべ妖精の歴史について調べて、現状を変えなければと思ったこと。
「これが、私の考えなんだけど……レイチェルは、今の話を聞いてどう思った?」
「私?」
「ええ。私の周りだと……特に魔法界で育った人達は、あんまりこの考えに賛成じゃないみたいなの」
「うーん……」
とりあえずたった今のレイチェルの感想を言うのならば、斬新な発想に驚いてしまって、賛成か反対か判断できる状態ではない、と言うのが1番近いような気がする。屋敷しもべ妖精と、『奴隷労働』────確かに言われてみるとその通りなのかもしれないけれど、レイチェルの頭の中でその2つの単語がうまく結びつかない。
「えっと……ハーマイオニーがしようとしてることって、その、屋敷しもべ妖精たちにあまり喜ばれないかもしれないわ。彼らは自分達が……『奴隷』だなんて、きっと思ってないもの」
「それは私も覚悟の上よ。だってそれは、彼らがずっと洗脳されてきたからでしょう? すぐには無理でも、状況が改善されれば、きっといつか気づくわ!自分達がいかに不当で、理不尽な扱いを受けて、魔法使いによって権利を侵害されていたかって!」
「えっと、落ち着いてハーマイオニー……マダム・ピンスが来ちゃうから」
またしても興奮した様子のハーマイオニーを、レイチェルは慌てて宥めた。ハーマイオニーが図書室でこんな風に大声を出すなんて珍しいことだ。どうやら、今のハーマイオニーは屋敷しもべ妖精のことになると我を忘れてしまうらしい。
「あのね、実は……私のママの実家には昔から屋敷しもべ妖精が居るんだけど」
レイチェルがそう切り出すと、ハーマイオニーの視線が怪訝そうなものに変わった。これまでハーマイオニーには言ったことがなかったけれど、今の彼女の考えからするとレイチェルも屋敷しもべ妖精の権利を侵害していることになってしまうのだろうか。レイチェルは考え考え言葉を口にした。「だから、私が赤ちゃんの頃も屋敷しもべの手を借りてて……ほら、知ってると思うけど私の家って、ママは家には居るけどずっと小説書いてるし、パパは仕事でルーマニアだし。ママの家の屋敷しもべ妖精……モプシーって言うんだけど。モプシーが赤ちゃんだった私の世話をしてくれてて……モプシーにとっては、『手伝った』わけじゃなくて、『自分がほとんど私の世話をした』って、すごく誇らしいことみたいなのよね。大変なこととか、難しいことを任されるほど、信頼の証で、役に立てて嬉しいって言うか……」
ハーマイオニーの主張によれば、大変なことをさせるのならばきちんと報酬を与えるべき、なのだろう。レイチェルにはなかった考えだけれど、たぶんそれは正しいのだと思う。ただ、その正しさを、当事者である屋敷しもべ妖精は、好意的に受け入れてくれないかもしれない。彼らには彼らの価値観があって、そのほとんどは今の────ハーマイオニーから見て“間違った状態”に満足しているから。
「上手く言えないけど、その、ちょっと…………先進的すぎるのかも」
誰かがやらなければこのまま何も変わらないと言うハーマイオニーの考えはもっともだ。本当なら、こう言った活動はたぶん学生だけでやるよりも成人の魔法使いの協力を得た方がスムーズなのだろうけれど────難しいかもしれないな、とレイチェルは思った。屋敷しもべ妖精が居る家と言うのは、大体お金持ちか旧家だから、その人達を相手取って「屋敷しもべ妖精への扱いが不当だ」と糾弾することになってしまう。それは、立場のある大人の魔法使いほど、ハードルが高いことかもしれない。
「ハーマイオニーが行動を起こそうって思ったのはすごく立派だと思うし……その気持ちはわかる気がするわ。中にはひどい扱いを受けてる屋敷しもべを居るって聞くもの」
夏休みを過ごしたプライス家の屋敷しもべであるフロプシーは、この上なく誇りに満ちていて幸福そうに見えた。エリザベスもギルバートも、フロプシーのことを気遣って、家族の一員のように思っているのが伝わってきた。プライス家ほどではないかもしれないけれど、レイチェルの母親の実家も概ね屋敷しもべ妖精との関係は健全だと思う。
「屋敷しもべ妖精を解放できるのって、主人だけだから……えっと、その、虐待……されていても、主人が“洋服”を与えない限りはそのままって魔法契約にはたぶん、ハーマイオニーの言うとおり、問題があるのかも」
でも、全ての魔法使いと屋敷しもべ妖精がそうではないことはレイチェルも知っている。主人と屋敷しもべ妖精の相性が悪い場合もあるらしいと聞いたことがある。たぶん、ハーマイオニーが見たと言うクラウチ家の屋敷しもべ妖精もそうだったのかもしれない。
「屋敷しもべが自分で喜んで仕えたいと思える主人を選べるようになるか……周りから見て、明らかにひどい扱いだったら、屋敷しもべ妖精を助けてあげられるような仕組みができたらいいのかも。お給料は、…………ごめんなさい、私もハーマイオニーに言われるまで、気にしたことがなかったわ。たぶん皆そうなの。渡さないのが普通だから、そうしてるだけで……渡すのが普通になれば、やっぱりきっとそうするんだと思うわ」
レイチェルは言いながら、何だか恥ずかしくなった。屋敷しもべ妖精が魔法使いのために無償で働いていることに関して、レイチェルは今まで疑問に思ったことがなかった。レイチェルが今まで会った屋敷しもべ妖精は、たまたま皆幸せそうだったから。中にはひどい扱いをする魔法使いが居ると、聞いたことがあったのに。「私もレイチェルみたいに、小さい頃から屋敷しもべ妖精を見てたら、こんな風におかしいとは思わなかったかもしれないわ。きっとこう言う、みんなが『そう言うものだ』だとか『これで問題ない』と思ってることを変えていくのって、すごく難しいのよ」
ハーマイオニーが慰めるように言って、小さく溜息を吐いた。
やっぱり、ハーマイオニーはすごいなとレイチェルは思った。このレイチェルの友人は、聡明で正義感が強くて、真っ直ぐで、はっきりと自分の意志を持っていて────どんなに困難なことでも、ハーマイオニーならいつかやり遂げてしまいそうな気がする。
「……マグル差別の撤廃やマグル関係の政策なんかも、そうらしいわ。魔法界育ちの人達だけでやってると、魔法族からは『点数稼ぎ』って叩かれたりするし、マグルのためにやったつもりでもマグル生まれの人からは『現状をわかってないから的外れ』なんて言われてしまったりするって」
「ああ……何だか、想像がつくわ。魔法界の人達のマグルへの認識って何て言うか……その……ズレてるもの」
「……もしかして、ワールドカップのときのこと言ってる?」
「ええ。だって、ひどかったもの。レイチェルも見たでしょ?」
悪戯っぽく笑うハーマイオニーと顔を見合わせて、思わずクスクス笑ってしまった。“マグル風”に見せようと工夫した結果は、レイチェルの目から見ても少し奇妙に映るものがあったけれど、マグル生まれのハーマイオニーから見ても同じだったらしい。
「本当はレイチェルにも活動に協力してもらえたらって思ってたんだけど……忙しそうね」
「そうなの。課題がすごく多くって……ごめんなさい」
残念そうに溜息を吐いたハーマイオニーに、レイチェルは申し訳なさに眉を下げた。ハーマイオニーがせっかくレイチェルの力を必要としてくれているのだから、手助けしたいのだけれど────セドリックが代表選手になったとしたら、たぶん課題の対策なんかで忙しくなるはずだ。対策自体をレイチェルが手伝えるかは正式なルールが出てみないとわからないけれど────何にしろ、今でも自分の課題だけでいっぱいいっぱいなのだから、SPEWの活動に積極的に関わるとした、セドリックを手伝う余裕はなくなってしまうだろう。
もしも代表選手がセドリック以外になったら────そうしたらハーマイオニーを手伝えるかもしれないけれど……いくらハーマイオニーが口が堅くても、セドリックが立候補することをレイチェルが勝手に人に言うのもよくないだろうし、もしもの話で期待させてしまうのも何だか申し訳ない。
「また『反吐』の勘誘かい?」
ふいにそんな風に声をかけられて、レイチェルは驚いた。振り向いた視線の先にあった鮮やかな赤毛に、レイチェルはドキッとした。フレッドとジョージの……どっちだろう? 机の上に置かれたバッジをしげしげと眺めていた双子のどちらかは、ふいにレイチェルに向かって笑いかけた。
「ああ、そうだ。手紙ありがとな、レイチェル」
「……どういたしまして」
どうやらジョージだったらしい。返事をしながら、レイチェルは思わず視線を逸らしてしまった。何だかやっぱり────まだ今はジョージの顔を見るのが気まずい。ここが図書室なのも良くなかった。忘れようと決めたはずなのに、どうしても、あのときのことを思い出してしまう。
「ねえ、レイチェル。ジョージと何かあったの?」
「ううん。別に……何もないの」
ジョージは何か用事があるのか、すぐに図書室を出て行った。不思議そうにハーマイオニーに聞かれて、レイチェルは静かに首を振った。……そんなに不自然な態度になってしまっていただろうか。
そう。別に何でもない。レイチェルの好きな人はウッドだし、あれはやっぱりジョージにとっては大した意味のないことだったのだ。ただ、気まぐれでレイチェルことをからかってみただけ。さっきの態度からも明らかじゃないか。
それなのに────レイチェルばかり意識してしまっているのが、何だか少し悔しい。