三大魔法学校対抗試合。
その歴史は古く、記録が残っている中で最も古いものでは13世紀の初めに開催されていたことがわかっている。ただし、これはあくまで記録が遡れる限りであり、12世紀の後半には既にその原型に近いものが行われていたと言う説が有力だ。まだ魔法学校が現在の11校に統合される以前の時代。魔法の伝承は親や祖父母から子供へと言った家庭の中で、あるいは数人の子供を集めて教える私塾によって行われるのがが主流だった。マグルの間ではヨーロッパの各地で紛争が勃発していたこともあり、教育を受けるためとは言え、子供が親元を離れることを望む家庭は多くはなかった。また、現在でこそそれぞれの魔法学校は魔法省によってさまざまな公的な補助が行われているが、当時の魔法学校はあくまでも数多ある教育機関の1つに過ぎなかった。その金銭的な負担もあり、子供を魔法学校に通わせて1日中魔法を学ぶことに没頭させることを良しとするのは、子供に魔法を授ける伝手を持たないマグルか、一部の裕福な魔法族に限られていた。
しかしその状況は、魔法界全体にとって好ましくはなかった。我が子を手放したくない親心から、あるいは経済的理由から、家庭内で魔法を教育する選択をした全ての魔法使いが、子供が生きていくのに必要な魔法の全てを教えられるわけではないからだ。魔法を不得手とする魔法使い、あるいは魔女の家庭に生まれた子供は十分な教育を受けられることができず、魔法学校を卒業したマグル出身の生徒と比較しても、その差は歴然だった。
『魔法の素養を示した全ての子供が、豊富な知識を持った専門家からの質の良い教育を一律に受けられること』────即ち、魔法学校の就学率の上昇。それこそが、当時の魔法界全体の課題だった。そこで、既に魔法教育機関としての基盤を確立していたボーバトン、ダームストラング、ホグワーツの3校が、それぞれの魔法学校の教育の質の高さを広く知らしめる目的で行ったのが、三大魔法学校対抗試合の始まりだと言われている。

「……最初の頃は、ものすごく危険な課題ってわけじゃなかったのね」

手元にある本のページを捲り、レイチェルはそこに描かれた挿絵を眺めた。道を塞ぐ大岩を消失させたり、氾濫する川の流れを堰き止めたり────中にはトロールと戦うと言ったような危険なものもあるけれど、どちらかと言えば実用的な魔法を主に使うことが想定されている課題だ。開催も、5年ごとではなく、2年に1回くらいのペースで行われていたらしい。
対抗試合の評判の効果か、あるいは魔法省の政策が実を結んだ結果か、就学率は目に見えて上昇した。魔法族の子供が学校に通うことは一般的になり、その当初の目的は達成された。本来ならその時点で開催する必要性はなくなったのだろうけれど、魔法学校同士の交流へと目的を変えて、伝統して続くうちに────まあ、何と言うか、エンターテインメントとして段々と派手に、そしてライバル校同士の見栄の張り合いもあって課題の内容も過激になっていったのだろう。

────確かに、これは死人が出てもおかしくなさそう。

また次のページを捲って、レイチェルは顔を引きつらせた。1592年、『エルンペントの腹の下に隠された宝を奪う』。このときはエルンペントに踏み潰された選手の1人が重傷。1612年、『追いかけて来る吸魂鬼から箒で逃げる』。このときは危うく選手の1人が「吸魂鬼のキス」を受けそうになるが当時の校長が辛くも阻止。1657年、アクロマンチュラの毒で選手が15歳の選手が死亡。1717年、『バジリスクから卵を奪う』、このときは13歳と17歳の選手2人が石化。その他にも、ゾッとするような危険な課題ばかりだ。そして確かに、中止が決まるまでの数回は、全て死者か重傷者を出している。
そして1792年、課題に使ったマンティコアが暴走し、選手全員が死亡したことによってとうとう対抗試合は中止された。
何だか目眩がしそうになってきたが、レイチェルはふとその次に書かれていたコラムに目を留めた。
『対抗試合の公正なる選者 炎のゴブレット』────対抗試合100回目を開催する記念として17世紀に導入された魔法具。それまでは各校の校長や教授が選手を決めていたけれど、以降はゴブレットが選手を選抜するように規則が改正された。読み進めるうちにふと頭に浮かんだ疑問に、レイチェルはページを遡った。……やっぱりだ。死者が出るようになったのは17世紀以降。レイチェルは更にページを遡り、歴代の代表選手達のリストの年齢へと目を通した。こっちもやっぱり。14歳や13歳の選手が参加しているのは、17世紀以降。つまり、炎のゴブレットによって選手が選ばれるようになってからだ。

「……だから年齢制限が設けられたのね」

レイチェルは呟き、溜息を吐いた。
危険な課題だから年齢制限があると言うのは納得できるようでいて、同時にひどく不公平なようにも思えた。毎年開催されるのならばともかく、5年に1度しかないのだ。希望者は誰でも立候補できるようにして、若すぎると思った生徒は選ばなければいいのに、と少し不思議に思っていた。……それでもやっぱり、選ばれなかった下級生から不満は出るだろうけれど。
今回もゴブレットが選者の役割を務めるのかはわからないけれど、たぶんそうだとしたら……ゴブレットが選ぶ代表選手に相応しい資質は、レイチェル達が思うのとは少し違うのだろう。だから、年若く、経験不足な下級生でも選ばれてしまう可能性がある。それを防止するための措置なのかもしれない。

「……いけない、もうこんな時間!」

遠くから予鈴が聞こえてきたことで、レイチェルは慌てて本を閉じて鞄の中へとしまった。
セドリックが立候補すると聞いたから、気になって空き時間に図書室に調べに来たのだけれど、借りるだけのつもりだったのにすっかり読みふけってしまった。すぐに次の授業に向かわないと、新学期早々遅刻で減点なんて嫌だ。レイチェルは図書室を出て、急ぎ足で階段を駆け下りた。
思った通り、いや思っていた以上に危険な課題ばかりで、やっぱり心配だ。でも、と思い直す。中止されたのが1792年……つまり、約200年ぶりの開催だ。あれだけ死者が出た大会なのだから、たぶん反対の声も多数あっただろう。それなのに、今回開催すると言うことは、ダンブルドアの言う通り万全の安全対策が取られるはずだ。過去の試合でも、未成年でも課題をクリアした選手だって居たし、今回に限っては17歳以上ならば問題ないと魔法省が決めたのだ。
だからきっと、セドリックなら大丈夫。

 

 

「あら、レイチェルじゃない」

階段の気まぐれに巻き込まれずに済んだおかげで、どうにか間に合った。授業が始まる3分前に魔法薬学の教室へと足を踏み入れたレイチェルは、そこで意外な人物に声をかけられた。レイチェルと同じ、レイブンクローのネクタイ。走って来たせいで髪が乱れてしまったレイチェルとは違い、完璧に整えられたプラチナブロンドが肩口で揺れる。微笑むその顔立ちは、文句のつけようのない美人だ。

「クロディーヌも魔法薬学とってたのね」
「ええ。せっかく受講資格があるんだし、受けておこうかと思って」

もう授業開始までそう時間はないのに、教室の中は空席が多い。スネイプ教授はOWLで優をとった生徒だけにしか受講の継続を許可しないので、たぶん元々の人数が少ないのだろう。
誰か他に知り合いは居るだろうかと、レイチェルは視線を巡らせた。前方の席にセドリックが居る。全体的にはスリザリン生が多いようだ。想像はしていたけれど、あまり仲の良い友人は居ない。ちょっと残念に思っていると、また教室のドアが開いて誰かが入って来たようだ。つられてそちらを振り返ると、そこにはレイチェルの予想外の人物が立っていた。

「ど、どうして貴方がここに居るの!?」

言ってから、レイチェルはハッとして口元を押さえた。驚いて思わず口に出てしまったけれど、今のって、すごく失礼な言い方だったかもしれない。でも、だってまさか彼も魔法薬学の授業を取っているなんて思いもしなかったのだ。グリフィンドールのネクタイに、ネクタイに負けないくらい真っ赤な髪。双子のウィーズリーのどちらか────フレッドはここに来る途中アンジェリーナと居るのをみかけたからたぶんジョージ────はレイチェルの言葉に肩を竦めてみせた。

「どうしてここに居るかって、授業を受けにさ。それ以外にあるかい?」
「ええ……ええ、そうよね。ごめんなさい……」

ジョージは気を悪くしたわけではなかったようだけれど、レイチェルは素直に謝罪した。まさか悪戯をするためにわざわざやって来ることもないだろうし、普通に考えればジョージも授業を受けに来たに決まっている。けれど────。

「……ジニーから、あなた達2人で合わせて6ふくろうだったって聞いたんだけれど……」
「ジニーお嬢さんは随分おしゃべりだな。困ったもんだ。兄貴のプライバシーを何だと思ってるんだ?」

まさか、その6ふくろうの中に魔法薬学が入っているなんて────しかも授業を受けられると言うことは評価は『優』に間違いない。いくら魔法薬学が苦手だとは言え、あのエリザベスですら、あれだけ勉強しても魔法薬学は『優』がとれなかったのに!

「まあ、それには深ーーーい事情があってだな……おっと。親愛なるスネイプ教授のご登場だ」

ジョージの言う通り、ちょうど授業開始のベルと共にスネイプ教授が教室に入って来たので、それ以上おしゃべりを続けることはできなかった。出席を取っている間も────やはり彼はジョージで合っていたようだ────スネイプ教授のNEWTに関しての演説の間も、レイチェルはジョージの存在が気になってしまって何だか落ち着かなかった。

「ねえ。あの、答えたくなかったらいいんだけれど……6ふくろうの内訳を聞いても良い?」

ローリエの葉を磨り潰しながら、レイチェルは隣で鍋をかき混ぜているジョージへと問いかけた。今までずっと魔法薬学はハッフルパフとの合同だったのでジョージとペアで大鍋を囲んでいるのは何だか奇妙な気分だったが、聞きたいことがある今は好都合だ。グツグツと沸騰する鍋の音や材料を刻む音が重なり合うせいで、小声ならば多少のおしゃべりはかき消されてしまう。

「俺が魔法薬学、呪文学、防衛術。フレッドが変身術、薬草学、防衛術だ」

成績のことを同級生に聞かれるは嫌だろうかと思ったが、ジョージはあっさり教えてくれた。名前の上がった科目を頭の中に思い浮かべて、レイチェルは眉を寄せた。NEWTクラスの継続をするのに成績で足切りがある科目は、ちょうどよく、全て、見事に網羅されている。……狙ってやったとしか思えない。

「そんな気はしてたけど……やっぱり、わざと手を抜いたのね」
「そんなことするわけないだろ。ただ、成績が足りないと受けられない科目を重点的にやっただけさ」

同じことじゃないか、とレイチェルは溜息を吐いた。要するに、成績に関係なく受講できる科目はあえて勉強しなかったと言うことだろう。しかも良い成績をとらなければいけない科目は双子で分担して、お互いに試験勉強の負担が最低限で済むように。1人あたり3ふくろうと聞くとひどい成績に思えるれど、結局フレッドとジョージ2人合わせれば今まで受けていた教科は全て継続できることになる。この双子のことだから、きっと偶然ではなく計算の上なのだろう。

「……もしかしてその6科目って、魔法薬学以外も全部『優』だったりする?」

もしやと思ってレイチェルが尋ねてみれば、ジョージは鍋の火加減を見るのに集中しているフリをして答えなかった。
……ウィーズリー夫人が怒るはずだ。ふくろうをとれた科目は全部『優』で、あとは全て不可なんて。どう考えてもおかしい。不可だった科目は、最初から勉強する気がなかったのが丸わかりだ。

「貴方達なら、真面目に勉強すれば全科目『優』だってとれたんじゃないの……?」
「おいおい、買い被り過ぎだぜ。別に手を抜いたってわけじゃないぜ。ただ、そうだな……OWLの勉強よりも、集中したいことがあったんだ」
「……集中したいこと?」

OWLを控えた5年生が試験勉強以上に集中したいこと────一体何だろう?クィディッチ?確かにフレッドとジョージは優秀なビーターだけれど、ウッドほどクィディッチに熱中しているイメージはない。レイチェルが首を傾げると、ジョージが微笑んだ。

「君には、夏休み中に助けてもらったしな。放課後、話すよ」

ちょうどスネイプ教授が近くまでやって来たこともあり、おしゃべりはそこで切り上げることになった。
話しこんでいた割りに、薬の調合は順調だった。……悔しいことに、いつも以上に。ジョージの手際がいいせいだろう。油断ならない目つきで鍋の中身を見下ろすスネイプ教授に、レイチェルも大鍋を撹拌するのに真剣にならざるを得なかった。

 

 

 

レイチェルとしても、夏休みに預かっていたあの包みのことは気になっていたのだ。
だから放課後、図書室で薬草学のレポートを書いているところにやって来たジョージに話をしようと言われて、断る理由はなかった。聞かない方が心穏やかでいられるんじゃないだろうかと、ほんの少しだけ迷いはしたけれど。

「夏休み中、君に預かってもらってたのはこれなんだ」

そう言ってジョージがテーブルの上に広げてみせたのは、どうやら悪戯グッズのようだった。図書室の薄暗いランプの明かりでなければ目がチカチカしそうな、どれも色鮮やかで楽しげなパッケージだ。花火の詰まった箱に、本物そっくりの杖。それにお菓子のような小さな包みが何種類か。そのどれもレイチェルは見たことがないものばかりで、同じロゴが印字されていた。

「『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ』?」
「俺達のブランドさ」
「……これ、全部、貴方達が作ったの? ……触っても大丈夫?」
「勿論」

すごい。前々から悪戯するのにオリジナルの魔法を編み出しているのは知っていたけれど、まさかこんなにたくさんのものを発明していたなんて! 並べられた杖の1本に恐る恐る触れてみると、ポンと音を立ててゴム製のニワトリに変わった。ガアガアと鳴く声が辺りに響き渡りそうになり、レイチェルはマダム・ピンスが飛んでくる前に慌てて杖を振って鶏を黙らせた。そして、今度は鳴き出しそうにない別の包みを手に取った。見た目からして、中身はヌガーのようだ。

「これは何?」
「ベロベロ飴さ。詳しくは企業秘密だけど、肥らせ呪文を応用して……食べると、舌が膨らむ。最近の実験だと、少なくとも1メートルくらいまでは」

それは、下手をすると窒息してしまうのでは……? レイチェルは顔を引きつらせ、そっとテーブルへと戻した。可愛らしいパッケージに反して、かなりの危険物のようだ。悪戯で片付けていいレベルなのか疑問は残るものの────こんな小さなお菓子にそれほど強い効果を持たせることができるのは、とても難しいと言うのはレイチェルにもわかる。

「これはまだ、試作品の一部なんだ。いずれは、もっとたくさん種類を増やす予定でさ。俺とフレッドで、悪戯専門店をやろうと思ってるんだ」

だから、商品開発のためにもどうしても魔法薬学のNEWTクラスを受ける必要があったのだと言う。
確かに、調合した魔法薬を販売をするには専門の資格が必要で、それを取得するにはNEWTで一定以上の成績を修める必要がある。専門家に頼んで調合してもらうと言う手もあるのだろうけれど、大量生産するのならどう考えても自分達で調合できた方が色々と融通が利くだろう。

「そうなの。上手く行くといいわね」

ただの悪戯好きだと思っていたフレッドとジョージが、そんな目標を持っているとは思っていなかったので驚いたが、一方でどこか納得している自分が居た。確かに、この双子ならできる気がする。むしろ、この上なくぴったりな進路に思えた。
レイチェルが改めて彼らの発明品をじっくりと眺めていると、ジョージが驚いたような表情でレイチェルを見つめているのに気がついた。

「……どうかした?」
「いや……馬鹿馬鹿しい、とか言うかと思った」
「貴方達って、他人を楽しませたり、関心を掴むの上手だもの。向いてると思うわ」

どちらかと言うと、フレッドとジョージが魔法省に入って書類仕事なんかをしている姿の方が想像がつかない。自分が食べるのは遠慮したいけれど……どれも、とても興味深い、高度な魔法ばかりだ。この研究に没頭していたと言うのなら、OWL試験の勉強が手につかなかったのもわかる。
ジョージは照れたように視線を泳がせていたが、やがて小さく溜息を吐いた。

「……問題は、資金面なんだよな」
「資金?って……お店を開くための?」
「ああ。うちの経済状況を考えると、親父に投資してもらうって言うのは難しい……チャーリーやビルに頼めば協力してくれるかもしれないけど、何しろ店を開くってなると大金が要る。だから対抗試合の賞金は、俺達にとってまたとないチャンスなんだ。1000ガリオンあれば、それを元手に商品を作って増やせる……そう思ったのに、年齢制限と来た」

まさかここで対抗試合の話題が出て来るとは思わなかったので、レイチェルは瞬いた。
どうやら、ジョージも対抗試合に立候補するつもりのようだ。確かに、お店を開くとなると、レイチェルには想像もつかないような金額が必要になるのだろう。

「たったの数ヶ月なんだぜ……老け薬を使えば何とかなるか?」
「ダンブルドアなら、それくらい予想してると思うけど……」
「だろうな。でも、ただ何もせずに指を咥えて見てるくらいなら、当たって砕けた方がマシさ」

まあ、もしレイチェルがジョージの立場だったとしても、やっぱり諦めきれないかもしれない。学生が1000ガリオンの大金を手にするチャンスなんて、めったにないのだ。経験不足を理由にされても、同じ6年生でも17歳なら立候補できるのだから、納得するのは難しいだろう。

「どうにか、スネイプの研究室から老け薬の材料を失敬するしかないな」
「その計画の相談には乗れないけど……」

教授の研究室に忍びこむのも、そこから貴重な魔法薬の材料を勝手に拝借するのも、明らかな規則違反だ。とは言え、思いつく限りのことを試してみないと諦めきれない、と言うジョージの気持ちも理解できる。フレッドとジョージにとっては、願ってもないチャンスなのだろう。

「単に老け薬の材料が手に入ればいいだけなら、何とかなるかも。うちのパパ、一応魔法薬関係の仕事だから……たぶん、一般的な市場価格よりはかなり安く手に入ると思うわ」
「本当かい!?」

目を輝かせるジョージに、レイチェルは躊躇いがちに頷いた。
正直、規則を破るために協力すると言うのはあまり気が進まないけれど……2人の夢を応援したい気持ちもある。それにジョージの口ぶりからして、どんな手段を使っても老け薬の材料を手に入れるつもりなのだろう。教授の私物を盗むなんて危険な方法よりは、レイチェルが問題のないやり方で手配した方がいくらかマシな気がする。

「ありがとな、レイチェル。助かるよ」
「パパに聞いてみないとわからないけどね。あんまり期待しないで」

まあ、たぶん大丈夫だろう。夏休みに家に帰って来たとき、レイチェルが魔法薬学のOWLで優をとったことをとても喜んでいたので、たぶん頼めば深く考えずに聞いてくれる気がする。社員割引だとかなり安いと以前聞いたような記憶があるし。
そんなことを考えて、再びレポートへと視線を落とすと、ふと髪を軽く引っ張られるような違和感があった。シャツのボタンにでも絡まってしまったのだろうかと顔を上げると、ジョージがレイチェルの髪を一筋、指で掬っているのが目に入って、レイチェルは驚いた。

「綺麗な髪だよな」

そう呟くジョージに、レイチェルはいよいよ混乱した。糸くずか何か付いているのを取ってくれた可能性を考えたけれど、違うらしい。セドリック以外の男の子にそんなことを言われたのは初めてだ。髪なら、パメラのブロンドや、エリザベスの巻き毛の方が綺麗だと思う。パメラがヘアケアに人一倍うるさいので、同じシャンプーを使っているレイチェルもそれなりの髪質だとは思うけれど────。

「…………ありがとう?」

結局、どうにか返せた言葉はそれだけだった。
急に髪に触られて戸惑ったが、まあ夏休みだとセドリックに髪を乾かしてもらったりすることもあるし、そう大騒ぎするほどのことでもないのかもしれない。たぶん、ジョージの方もジニーにそうするのと同じような感覚なのだろう。きっとそうだ。

「ディゴリーにも、こんな風に触らせるのかい?」

そう納得しかけたレイチェルに、ジョージが笑ってみせた。からかうようなその口調とは裏腹に、その笑みが何だか妙に大人びて見えて────ジョージがその場から居なくなってしまっても、レイチェルは金縛り呪文をかけられたようにその場から動けなくなってしまった。心臓が、今更にうるさく鳴り始める。

頬が、熱い。

ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ

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