そのときは一体何ににているのかわからなかったが、今ようやくわかった。ローブの裾や荷物が何かに引っ掛かって引っ張られたときに似ているのだ。────しかも、思いきり強く。自分の意志と無関係に重心を無理矢理、そして唐突にずらされたせいでバランスを失って、ヒヤリとする。足元がぐらついて血の気が引く、あの感覚。しかも“これ”はそれで終わりではない。そのバランスが崩れた状態のまま、レイチェルの体をそのまま引きずっていく。しっかりと安定しているのは、たったの人差し指一本だけ。それなのにグルグル回転して、凄まじいスピードで前へと進む。たとえるのなら、安全装置なしに遊園地のティーカップとローラーコースターを同時に乗っているのに近い。
「……やっぱり私、移動キーって苦手」
地面にへたり込んだまま、レイチェルは口元押さえた。体調が万全な状態でも酔うこともあるのに、寝不足、しかも起きぬけの状態では気分が悪くなるのも当然だった。レイチェルがそんな状態になっているにも関わらず、酔った様子もないセドリックが気遣わしげにレイチェルを覗きこむ。
「レイチェル、大丈夫?少し休む?」
「正直、あんまり大丈夫じゃないわ……でも、ここよりも家に帰ってから休みたい」
「そっか……じゃあ、ゆっくり歩こうか。無理しないで、休みたくなったらすぐに言って。立てる?」
セドリックが差し出した手を借りて、レイチェルはフラフラと立ち上がった。軽く吐き気もあるし、ムカムカするしで気分は最悪だが、歩けないほどじゃない。そもそも、休もうにも落ち着いて横になれるような場所があるはずもないのだ。だって、森の中なんだから。ワールドカップの会場から移動した2人が今立っているのは、明け方のストーツヘッド・ヒルの真ん中だった。
「朝食を食べてからならまだマシだったと思う?」
「うーん……食べてすぐ移動することになったと思うから、どっちにしろ酔ったんじゃないかな」
「テントもおじさんが杖の一振りで片付けちゃったしね……楽しみにしてたのに」
「仕方ないよ。あんなことがあったんだし」
「わかってるわよ。私がおじさんでもそうするって納得してるけど……それでも、残念だって思っちゃう自分が居るの」
「きっとまた機会があるよ」
気分を紛らわせるために、セドリックとそんな他愛ない会話をする。足元の花を踏まないよう気をつけながら、レイチェルは落ちてきそうになる瞼を擦った。セドリックも欠伸を噛み殺している。空はようやく明るくなり始め、鳥達がピイピイ囀り出していた。はっきり時計を見たわけではないけれど、恐らく2人とも3時間も眠れていなかった。
そもそも本来なら、レイチェル達が移動キーを使うのはこんな時間ではなかったのだ。
帰りの移動手段としてディゴリー家が割り当てられていたのは、昼の11時頃の移動キーだった。他のストーツヘッド・ヒルへ移動する人達────たぶんジニーやハーマイオニー達ウィーズリー家一行やラブグッド家────と一緒だ。だから予定では少し遅めに起きてキャンプ場で朝食を済ませ、ゆっくりテントを片付けるだけの余裕があるはずだった。
しかし、実際にはレイチェル達はまだ薄暗いうちからおじさんに叩き起こされ、朝食にするはずだった食材は荷物の中だ。おじさんの表情は硬く、一刻も早く2人を家に帰らせたがっていた。間違いなく、昨夜のあの事件が原因だろう。おじさんだけではない。大勢の魔法使い達が、今すぐにキャンプ場を離れたいと魔法省の役人に詰め寄っていた。
「魔法省の人達、大変そうだったな……あれ、きっと移動キー局の人達だよね」
「魔法省の人もだけど……ダイアゴン横丁やホグズミードに行きたい人達も大変そうだったわ……」
恐らく魔法省側で何らかの特別な措置が取られたのか、臨時的に移動キーが増産された。本来使うはずだったあらかじめ時間と場所が決まっているものではなく、それぞれの行き先に応じてその場ですぐに発動する移動キーを作るやり方だ。混乱や混雑を避けるために、本当ならもっと時間や場所は分散するのが理想なのだろうけれど、そうも言っていられない事態なのだろう。とは言え、やはり一度にあまり多くの魔法使いを移動させるのは不可能なので、目的地によってはかなり順番を待つことになっていた。ストーツヘッド・ヒルに向かう人は少ないので、レイチェル達はスムーズに移動することができたのだ。
「父さんも……本当なら明日まで休暇だったのに」
セドリックが気の毒そうに言った。おじさんはレイチェル達用の移動キーを確保すると、自分は姿くらましで魔法省に向かった。おじさんの部署は直接的には会場の警備とは関わりはないはずだけれど────死喰い人が襲撃に危険な魔法生物を使用したのでなければ────今回のことを受けて色々対応があるのだろう。
「結局、何が起こってたのかよくわからないわ」
結局、朝になってもやっぱりおじさんはレイチェル達に昨夜の一件を詳しく話してくれることはなかった。身支度をするのに忙しくてそんな時間もなかったし、深刻そうで話しかけられるような雰囲気でもなかったのだ。その場に居たとは言え、避難していたレイチェル達に見えていたのはきっとほんの一部だろう。
とりあえず、家に帰ったら新聞を見てみよう。読めばきっと少しは理解できるはずだ。
……でもやっぱり、その前に少し眠りたい。ふあ、とレイチェルは小さく欠伸を噛み殺した。
30分後、レイチェル達が家に着くと、おばさんが真っ青な顔で駆け寄ってきた。
どうやら先に日刊預言者新聞を読んだらしく、ワールドカップに行った3人のことを考えて気が気でなかったらしい。2人の顔を見て安心したのか、おばさんの目に大粒の涙が浮かんだ。いつも優しい笑顔のおばさんがこんな様子を見るのは、レイチェルにとって初めてだった。
「ああ……セド、レイチェル……2人とも、本当にどこにも怪我はしていないのね? エイモスから、皆無事だと連絡はもらったけれど、それでも顔を見るまで心配で心配で……本当によかったわ、生きて帰ってきてくれて…………本当に、よかったわ……」
戸惑うレイチェル達に向かっておばさんは震える声で言い、2人を強く抱きしめた。
そうしてレイチェル達はようやく温かいシチューとパンの朝食にありつくことができた。帰って来て安心したせいか、スプーンを持ったまま意識が朦朧としてきたのでレイチェルは一度家に戻ることにした。寝不足と疲れ、そして久しぶりの自分のベッドだったこともあって、あっと言う間に眠りに落ちた。
「うわあ、嘘……私、あれから10時間以上も寝たの?」
ぐっすり眠り、次に目が覚めた頃にはもう夕方近くになっていた。どうやら自分で思っていた以上に疲れていたらしい。起きたらまた来るようおばさんから言われていたので再びディゴリー家へと向かうと、同じくよく寝てスッキリした顔のセドリックがソファで日刊預言者新聞を読んでいた。
「セド、それ、次私にも読ませて」
「ちょうど今読み終わったところだよ。はい」
「想像はしてたけど……魔法省の大失態だって、ものすごく攻撃的な記事ね……」
ここまで批判されているのは、シリウス・ブラックの一件以来だ。まあ、たった1年前の夏に死喰い人に脱獄されたばかりなのに────しかも結局まだブラックは捕まっていない────今度はその死喰い人達に集団で好き勝手されたのだから、論調が厳しくなるのもある程度は仕方ないのかもしれない。しかも、よりによって国内外問わず要人も多く来る、クィディッチ・ワールドカップ会場で。何年も前から準備して、万全の警備体制が敷かれていたはずなのにも関わらずだ。国際問題になってもおかしくない。
新聞もその辺りを槍玉に挙げていた。『魔法省のヘマ』……『犯人を取り逃がす』……『警備の甘さ』……『闇の魔法使い、やりたい放題』……『国家的恥辱』……過激な表現の数々が並んでいる。そしてやはり、記事にはレイチェルの知らなかった情報も載っていた。どうやらあの宙吊りにされていたマグル達は、あのキャンプ場の1つの管理人一家だったらしい。レイチェルは記事を読み進めた。
「魔法省の人は、死亡者は居ないって言ってたのに!」
レイチェルは悲鳴を上げた。死喰い人に殺されてしまった人が居るなんて、それじゃやっぱりあの闇の印はそれを知らしめるために作られたのだろうか? レイチェルはショックを受けたが、ふと記事の署名に気づいて顔を顰めた。────リータ・スキーター。独自のスクープも多い優秀な記者だけれど、魔法省や著名人への過剰な批判でも有名な人だ。となると、この記事の信憑性も少し怪しくなってくる。「ママが前言ってたわ。この人が書いてるのは新聞記事じゃなくて小説だって」
「父さんも似たようなこと言ってたな……本当かどうかわからないけど……」
「ああ、それ。私も聞いたことあるわ。『リータが書く魔法省に関する悪い“疑惑”の出所は、大体リータ本人だ』って奴でしょ? 前にヴァンパイアの撲滅に関する記事で批判されたときの」
セドリックが困ったように眉を下げた。やっぱり、自分の父親も働いている魔法省が批判されるのは複雑な気持ちなのだろう。レイチェルも同じだ。こんな記事は信じないと言ってしまいたい気持ちはあるけれど────やっぱり、こんな内容を読むと不安になってしまう。
「皆、無事だったかしら……どうしよう……気になるけど、暖炉を使うのは迷惑かも……」
「僕も迷った。母さんとも話したんだけど、今はどこの家もピリピリしてるだろうから連絡なしの暖炉はやめておいた方がいいって。あそこで会った皆にはふくろう便を書いたよ」
「そうよね。やっぱり、手紙にしておくのが無難よね……」
これからふくろうを飛ばしたのでは返事がいつになるかわからない。煙突飛行ネットワークに組み込まれている家なら、暖炉の向こう側に“呼びかけ”ればすぐ繋がるけれど、事前連絡もなしに一方的に呼びかけるのは失礼だ。よほど重要かつ緊急の用件か、相手が家族や親しい人ならともかく、友人達の家は本人が応答してくれるとは限らない。
仕方ない。じれったく思う気持ちはあるものの、レイチェルは会場で会った友人達1人1人に大急ぎで手紙を書いた。
1週間ぶりにおばさんの手料理を食べたせいか、夕食はいつも以上においしく感じた。食後のデザートのトライフルも食べ終えたレイチェルとセドリックは、そのままリビングでチェスをしていた。しかし、2人ともあまり集中してはいなかった。本当はチェスがしたかったわけではなく、2人の目的は別にあった。ここに居れば、おじさんが帰宅したときにすぐわかるからだ。6度目のゲームでレイチェルのナイトがセドリックのクイーンを粉砕したとき、ようやくエイモスおじさんが帰宅した。もうほとんど真夜中で、今日1日の忙しさを物語るようなひどく憔悴した表情だった。
「2人とも、話がある。こっちに来なさい」
遅い夕食を食べ終えると、おじさんはそう言って2人を振り向いた。レイチェルとセドリックは顔を見合わせ、おじさんの気が変わらないうちに急いでテーブルについた。ちょうど、疲れているみたいだから今日はもう話を聞くのは諦めようかと相談していたところだった。
「全てを話すことはできないが……昨夜の事件について、説明しておこう。私から話してもいいが、お前達もその場に居た当事者だ。既に知っていることも多い。新聞も読んだだろう。質問があれば、私が教えられる範囲で答える。何か気になっていることは?」
知りたいことは山ほどあったはずなのだが、いざ問いかけられると何から聞いていいものか迷ってしまう。レイチェルは視線を彷徨わせた。テーブルの隅に避けられた新聞には、さっきと見たときと変わらず白黒の闇の印がチカチカと点滅している。
「父さん。死喰い人達は、ワールドカップに来る誰かを狙ったの?」
セドリックが先に質問した。それはレイチェルも気になったことだ。あの場には対戦する両国の魔法省大臣を初めとして、国内外の要人もたくさん居た。おじさんは少し考えるような素振りを見せたが、やがて静かに首を振った。
「いや。アーサーや他の同僚とも話したが、その可能性はないだろう」
「どうして?」
「奴らが闇の印を見て逃げ出したことが理由だ。事前に襲撃を計画をしていたのなら、最後に闇の印を出すことは折り込み済みのはずなんだ。それなのに慌てふためいて逃げ出した……と言うことは、あれは奴らにとっては想定外のことだったんだ」
おじさんの言うことは論理的だ。確かに、あんなに派手なことをやらかした死喰い人達が闇の印を見た途端逃げ出したらしいことについては、昨夜聞かされたときも疑問に思った。けれど、レイチェルには1つ納得いかないことがあった。
「でも、変じゃない?事前に計画してないのなら、どうしてあんなに死喰い人が集まったの?」
あの場に居た死喰い人は、少なくとも5人や10人ではなかった。もっとたくさん────見たのは一瞬だったからはっきりとした人数はわからないけれど────居たはずだ。闇の印が上がったことは想定外だったとしても、襲撃自体は計画されていたと考える方が自然じゃないだろうか?
「えっと、私、あの夜考えたんだけど……その……ほら、あの、シリウス・ブラックが脱獄したまま、捕まってないじゃない? ブラックは例のあの人の腹心だったって言われてるし……ブラックが死喰い人達を先導したって可能性はないの?」
レイチェルは考え考え、言葉にした。12年越しにアズカバンから脱獄者が出たことと、その1年後に突然死喰い人達による事件を起こったこと。レイチェルにはこの2つが無関係だとは思えなかった。おじさんはレイチェルの意見を興味深そうな顔をした。「ブラックの関与に関しては、闇祓い達が調べている。……そしてレイチェル。考え方が逆だ」
「逆……?」
「死喰い人は、襲撃するために集まったんじゃない。ワールドカップを見るために、たまたま死喰い人が集まったんだ。魔法省の警備を破って入りこんで来たわけじゃない。奴らは元々、中に居たんだ。死喰い人としてじゃなく、ワールドカップを楽しむ観客として。昔の仲間に会って懐かしくなって、一騒ぎ起こしてやろうと考えた。同窓会気分でな。酒の勢いもあったんだろう……お前達が夏休みに学校の友達と偶然会って、せっかくだからとアイスクリームサンデーを食べるのと同じだ。奴らにとっては、他愛ないお遊びに過ぎないだろう」
「遊びって……遊びで、マグルを宙吊りにしたの? あんなに怖がってたのに?」
「そう言う連中なんだ」
おじさんが吐き捨てるように言った。レイチェルはいよいよ理解できなかった。
落ちたら死んでしまうかもしれなかった。小さな子供も居た。なぜ自分が浮いているかもわからず、マグルにとっては、とてつもない恐怖だったはずだ。それが、遊び? マグルをいたぶった理由が、自分達が楽しむため? ────目的を持った計画的な襲撃だった方が、まだマシだ。
「突発的にしろ計画的にしろ、奴らが信念と目的を持って行動していたのなら、闇の印を見て逃げ出すはずがないんだ。あれは“あの人”の……奴らのご主人様の象徴だからな。本来なら、死喰い人にとっては喜ぶべきものだ。それなのに、逃げ出した。なぜだかわかるか?」
「……“あの人”が復活したかもしれないと考えたから?」
「そうだ、セド。その通りだ」
セドリックが静かに言い、おじさんが鷹揚に頷いた。が、レイチェルには2人が何を言おうとしているのかわからなかった。しかし、さっき見当違いなことを言ってしまったばかりなので言い出すのが気まずくて口に出せずにいると、おじさんが穏やかに微笑んだ。
「レイチェル。奴らはあの印にご主人様の影を見て恐怖したんだ。そもそも、ワールドカップの会場に居た奴らは、“あの人”の復活なんて望んでいるはずがないんだ。“あの人”が失脚したとき、自分は無関係だと、あるいは脅されて仕方なくやったのだと、自分の意志に反して無理矢理従わされたと……ありとあらゆる言い逃れをして逃げのびた連中だ。“あの人”への忠誠を貫いた死喰い人達は今もアズカバンに投獄されている」
その話はレイチェルも知っている。
例のあの人は許されざる呪文を特に好み、その全てを行使していた。そのせいで、死喰い人として検挙された大勢の魔法使いの中には、本当に服従の呪文で従わされていた無実の人間も多く居た。だから当時の魔法省は死喰い人だと証明できた、あるいは自ら死喰い人だと認めた相手しかアズカバン行きにできなかったと。魔法史の教科書にも載っていた。
「奴らにもう一度“あの人”が居た頃を取り戻そうなんて信念はない。むしろそうなれば一番困る連中だ。とは言え、実際あれだけの死喰い人が野放しになっていたと言うのが浮き彫りになった。元々、全ての死喰い人が捕まっただなんて誰も信じてはいなかったが……なぜあれだけの数をみすみす取り逃がしたんだと、世間はそう考える。その責任は勿論、奴らの嘘を見抜けなかった魔法省にあると……我々としては頭が痛い所だ」
「でも……当時はそうするしかなかったんでしょ?」
「皆がそう考えてくれるといいんだが」
おじさんが深く溜息を吐いた。その表情には、隠しきれない疲れが滲んでいた。
それを見て、レイチェルはなんだか恥ずかしくなった。こんなに疲れているおじさんがわざわざ時間をとってくれたのに、結局レイチェルの考えは大人達の考えとは全然違っていた。見当違いもいいところだ。セドリックは理解できたこともわからなかったし、おじさんはレイチェルに呆れただろうか。不安になってその表情を窺っていると、そんな内心を見透かしたかのようにおじさんは優しく微笑んだ。
「今回の事で、お前達に奴らの行動の意図がわからなかったのは無理はない。……いや、むしろわかってほしくはない。それは決して、お前達の考えが足りないからじゃない。お前達が2人とも、素直で優しい子供だからだ。あんな卑劣で醜悪な価値観なんぞ、お前達には想像すらつかないんだと思うと、むしろ心底ホッとしたよ。……本当に、平和な世の中になった」
目を閉じて感慨深げに呟くおじさんに、レイチェルはセドリックと戸惑ったような視線を交わした。
「生き残った男の子の世代の子供達は平和ボケしている」なんて言われることもあるけれど、たぶんそれは事実なのだろう。レイチェルはこの一件で思い知らされたような気がした。
「それで、最後に本題だが」
気を取り直したようにおじさんが続けた言葉に、レイチェルは驚いた。
これからが本題? 今までのは違ったのだろうか? 死喰い人の襲撃以上に重要な話題なんて思いつかない。セドリックも不思議そうな顔をしている。2人の顔を見比べ、おじさんは気の毒そうな表情をした。
「計画的な襲撃の可能性は低いとは言え、全くないと断定はできんし、死喰い人達も取り逃がしてしまった。今の状況は非常に危険だ。つまり────結論として、2人とも残りの夏休みは外出禁止だ」
「えっ!?」
「そんな!」
外出禁止だなんて。去年もシリウス・ブラックのせいで、夏休みはほとんど外出できなかったのに。新学期が始まるまで、まだあと2週間もあるのに────。
隣でセドリックもショックを受けたように「クィディッチが……」と呟いている。そう言えば、クラムのプレーを見てウロンスキー・フェイントを試してみたいと張り切っていた。
レイチェルだって────別にこれと言った外出の予定はないけど────できればもう1回くらい、何かダイアゴン横丁に行く用事を作って、ついでにこっそりマグル側のロンドンに行きたかったのに。
外出禁止だなんて。レイチェルは落胆し、脱力してテーブルへと突っ伏した。
視線の先、テーブルの隅に置かれたままの新聞が目に入った。鮮明に切り取られた写真の中で、モノクロの空に浮かんだ不気味な髑髏がレイチェルを嘲笑うかのようにまだ瞬いていた。