そうして目の前で繰り広げられるプレーに、レイチェルは瞬く間に引きこまれた。

学生のクィディッチだって十分すぎるほど楽しいし、魅力がある。特に近年はレベルが上がったと言われていて、卒業後すぐにプロとして活躍する選手だって出ているくらいだ。プロの試合観戦だって何度か連れて行ってもらったことがある。けれど、この試合は今まで見たどんな試合とも違っていた。
まず、スピード感が違う。それは単純にファイアボルトを使った飛行速度もだけれど、試合の展開がとにかく速い。滑らかに、素早く、かつ無駄なく。瞬く間に次々と味方の間でパスが回され、かと思えばブラッジャーを避け、クアッフルを奪われたかと思えばまた取り返す。迫る敵をかわし、またパス。

「あれはマレット!トロイ!モラン!ディミトロフ!またマレット!トロイ!レブスキー!モラン!」

バグマン氏が懸命に声を張り上げている実況も、とてもじゃないが選手の動きを解説するのには追い付かず、ボールを手にしているのが誰か叫ぶので手一杯だ。胸に付けたロゼットも同じように選手の名前を叫ぶので、レイチェルには二重になって選手の名前が聞こえた。
対する敵のチェイサーやキーパー、そしてビーターも、常に相手の1歩どころか2歩、3歩先を読むように動いている。お互いの味方の位置、敵の動き、ブラッジャーの軌道、そしてゴールとの距離。全てを把握し、予測した上での高度な駆け引きと、それを実現するための自在な箒捌き。視線も向けずに伝えられるほどの連携、正確なパス技術。無駄が削ぎ落されたパス回しは、選手達がやっているといかにも簡単そうに見えるけれど────あれほど高速で動いているのに、あんなにピッタリ相手の居る場所にパスが出せるなんて! レイチェルは、きっと選手達には普通の3倍はスローモーションに見えるか、そうでなければ3秒先の予知視ができるに違いないと思った。でなければ、あんな動きができるはずがない。

「トロイ、先取点! 10対0、アイルランドのリード!」

先にゴールを決めたのはアイルランド。計算し尽くされた軌道でクアッフルがゴールポストへ吸い込まれていくまさにその瞬間を、レイチェルはこの目ではっきりと見た。ブルガリアのキーパーもクアッフルの動きは読んでいたものの、間に合わなかった。アイルランドのサポーター達が────もちろんレイチェルとセドリックも────拍手と歓声に湧き、空中にはレプラコーンがまたしても輝く巨大なシャムロックを形作っていた。

「シーカーとしての能力で言えば、クラムに勝てる現役選手はたぶん居ない。全盛期のロデリック・プラムトンでも勝てたかどうかってレベルだ。けど、アイルランドはチェイサーがとにかく優秀だからなあ。学生の試合だと正直シーカーがずば抜けて上手ければ他がどんなにダメでも勝てるけど、プロの試合はそうでもないんだよな。スニッチよりも前にクアッフルで勝敗が決まってることも結構あるし。とは言え、苦戦してても逆転のチャンスが残されてるのは心強いし、点差がつく前に試合を終わらせることもできる……試合の鍵を握るのはやっぱりシーカーで、花形のポジションだってのは変わらないんだけど」

ギルバートが車の中でそんなことを言っていたが、レイチェルは今その意味を実感していた。
試合が始まってわずか10分で、アイルランドはもう3回も連続でゴールを決めていた。その流れを止めようと、ブルガリアのビーター達がブラッジャーをチェイサーに集中させ始めた。優秀なアイルランドのチェイサー達はブラッジャーを難なく避けたが、連携を崩されたことでクアッフルはブルガリア側に渡り、とうとう10点取りかえした。今度はブルガリア側のサポーターが熱狂した。そしてフィールドの片隅ではヴィーラが祝いの歌と踊りを始めて────レイチェルはハッとして隣に居るセドリックを見たが、セドリックは既に自分の指で耳を塞いでいた。

「次のワールドカップの規約には、きっと『マスコットにヴィーラは禁止』の一文が書き加えられるだろう……これじゃ試合に集中できん」

おじさんが苦笑交じりに言った。確かに、ブルガリアが得点するたびにこうなら、男性は試合に集中できないだろう。ずっと耳栓をしたまま観戦すればヴィーラの誘惑からは避けられるだろうけれど、それでは実況もサポーター達の盛り上がりも何も聞こえず、臨場感も半減されてしまう。

「クラムを見ろ!」

そんなとき、観客の誰かが叫んだ。レイチェルはクラムを探そうと視線を彷徨わせた。
────居た。クラムだけでなく、2人のシーカーはチェイサー達の間を急降下していた。スニッチを見つけたのだろうか? 今クラムがスニッチを捕まえれば、ブルガリアの勝利だ。万眼鏡で覗いてみたけれど、レイチェルの目には金色のスニッチは見つけられない。観衆が息を飲んで見守る中、2人のシーカーはどんどん地面へと近づいていく。あと2メートル……1メートル……50センチ────。

「地面にぶつかっちゃう!」

レイチェルは悲鳴を上げ、思わずレンズから目を背けた。次の瞬間、ドスッと鈍い音が響いた。恐る恐るピッチへと視線を戻すと、地面には予想通り地面には選手が倒れていた。が、緑のユニフォーム────アイルランドのシーカーだけでクラムは居ない。間一髪で衝突を免れたようだ。実況のバグマン氏は、リンチの様子を見るためタイムを取ると宣言した。つまり、まだ試合は終わっていない。

「スニッチは? 逃げちゃったの?」

せっかくあんな危険な競り合いをしてまで追いかけたのに、捕まえられなかったのだろうか。万眼鏡を覗きこんだままで居るセドリックへと尋ねてみると、セドリックはハッと我に返ったようだった。どうやら試合に見入っていたらしい。頬は紅潮し、目はキラキラと輝いている。

「違う……ウロンスキー・フェイントだったんだ! クラムは元々スニッチはまだ見つけてない……リンチを誘うために見つけたフリをしたんだ」
「今の、そう言う技なの?」
「そうだよ! かなり危険な技なんだ。すごい。実際の試合でこんなに鮮やかに決まるなんて……!」

レイチェルは万眼鏡はピッチに向けて構えたままだったことを思い出し、スローモーション再生をしてみた。セドリックの言った通り、『ウロンスキー・フェイント』の文字がレンズに現れる。レイチェルが目を背けていたところも、万眼鏡はしっかりと記憶していてくれた。最後の1秒で、クラムは箒の柄を引き上げ、間一髪のところで衝突を避けた。あとコンマ1秒遅れていたら、クラムも地面と激突していただろう────それくらいギリギリだ。まさに迫真のプレーだった。だからこそリンチも引っ掛かってしまったのだろう。レイチェルは胸が熱くなるのを感じた。どうやら貴重な瞬間を見逃してしまったらしい。

「リンチの怪我は大丈夫かな……」

セドリックが心配そうに言った。確かに、かなりのスピードで衝突したはずだ。幸い出血するような怪我や骨折はないようだけれど、脳震盪を起こしたらしい。魔法医が何人もリンチを取り囲み、魔法薬を飲ませている。リンチが回復して立ち上がると、アイルランドのサポーター達は熱心な声援を送った。
そうして試合が再開されたが、1度タイムを取ったせいか、流れはまた大きく変わった。ブルガリアのビーターに連携を崩されてしまっていたアイルランドだったが、タイムの間に作戦を練り直したのか、敵の妨害をものともしない一糸乱れぬ連携プレーを見せた。何と10回も連続で得点を決め、ブルガリアを大きく引き離した。130対10。まだスニッチが見つかっていない以上油断はできないが、逆転するのはかなり難しい点差だ。

「アイルランド!アイルランド!」

レプラコーンがまた上空にアイルランドのサポーター達はますます熱狂し、国旗を打ち振るった。レイチェルも手が痛くなるまで拍手し、声援に加わった。しかし、そうなるとブルガリアも必死だ。プレーは激しくなり、荒っぽくなっていった。
上空では一瞬たりとも目が離せないような試合が繰り広げられていたが、一方で、それ以外のところも大変な騒ぎになっていた。まずは、なんと審判がヴィーラに誘惑されてしまい、試合そっちのけでヴィーラの気を惹こうとしていた。他の魔法使いの助けですぐに我に返ったものの、ヴィーラを退場させようとして一悶着あった。しかし、問題を起こしたのはヴィーラだけではなかった。アイルランドのリードにより有頂天になったレプラコーンが上空に挑発的な言葉や下品なサインを作るので、ブルガリアの選手やサポーター達は憤っていた。とりわけヴィーラ達が激怒し、レプラコーンに向かって火の玉のようなものを投げつけていた。あまりの怒りに美しい顔は剥がれ、嘴の鋭い鳥の頭が見えている。これにはさすがにレイチェル達も無関心を貫くわけにはいかなかった。ヴィーラの投げつける火の玉で、グラウンドの芝が焦げたばかりか、スタンド席にも火の粉が飛んで来ているのだ。

「だから、ヴィーラを使うのはやめろと散々言ったのに」

おじさんが苦々しく溜息を吐いた。フィールドの向こうでは火の玉が審判の箒の尾に燃え移ってしまい、火事を引き起こしていた。魔法省の役人がヴィーラとレプラコーンを引き離そうと手を尽くしていたが、自制心を失った両者を前に苦戦しているようだ。

「危ない!」

セドリックが叫んだ。まさに、アイルランドのビーターがクラムめがけてブラッジャーを叩きつけたところだった。あまりに距離が近すぎたせいか、さすがのクラムも避け損なって、ブラッジャーはクラムの顔に勢いよくぶつかり、血が飛び散った。どうやら鼻が折れたようで、見るからに痛そうだった。

「あれじゃまともにプレーなんてできないわ」
「でも、タイムを宣言できるのは審判だけなんだ」

セドリックがやきもきしたように言った。審判は今、競技場の反対側だ。そして何より、箒を消火するのに必死のようだ。無理もない。クラムはローブの袖で顔を拭ったが、出血が止まらないせいかあまりに意味はないように見えた。
そして次の瞬間、なぜかクラムの目つきが鋭くなり、箒が急加速した。レイチェルはクラムが向かう方向へと視線を追った。リンチが急降下している。

今度はフェイントではなかった。とうとうスニッチを見つけたのだ。

スタジアム中の観客が、それぞれのシーカーの名前を叫んでいる。クラムの箒が通った軌跡には、止まらない血が点々と尾を引いていた。間に合わないかと思われた距離が瞬く間に縮んでいく。とうとう、クラムはリンチの後ろについた。いや、並んだ。2人のシーカーは更に加速して、地面へと迫っていく────そして────。

「ぶつかる!」

観客の悲鳴と歓声が響き渡った。レイチェルは今度こそ、見逃さないように目を凝らした。またしても、地面に衝突したのはリンチだけだった。さっきよりもギリギリの、まさに地面に背中が掠める距離で、クラムが半身を捻って間一髪のところで衝突を避けたのがわかった。そして、クラムの指先が金色に光る何かをしっかりと握り締めたのを。そして、再び空中へと舞い上がったクラムの手に握られたスニッチを審判が確認して、試合終了のホイッスルが鳴り響く。ブルガリアのサポーターだけでなく、クラムのプレーに魅了された観客達の大歓声、そしてアイルランドのサポーター達の嘆きが響き渡った。
ブルガリアの勝ち────アイルランドを応援していたレイチェルにとっては残念な結果ではあるけれど、それでも素晴らしい試合だった。ブルガリアへ賞賛の拍手を送ろうとして────頭上に輝くスコアボードの数字に、レイチェルは目を疑った。

「えっ?」

ブルガリア 160 アイルランド 170。
レイチェルは、スコアボードが間違っているのではないかと思った。けれど、点滅し続けている数字が訂正される様子はない。観衆も戸惑っているようだったが、徐々にアイルランドのサポーター達がざわめき始め、ついには歓喜の叫びを上げた。

「アイルランドの勝ち! クラムがスニッチを捕りました!しかし勝者はアイルランド!」

実況のバグマン氏でさえ、この結果に驚いているようだった。ようやくレイチェルもアイルランドの勝利を認識し、喉が痛くなるほどの歓声を上げた。レプラコーンが上空でブンブン飛び回り、金貨の雨を降らせている。何万人と言う観客がピョンピョンその場で飛び跳ねたり、足踏みをしたりするのが重なり合って、スタジアムが揺れていた。サポーター達は国旗を打ち振り、肩を組んでアイルランド国歌を歌い始めたため、競技場が爆発したかのようだった。その騒音に負けないよう、レイチェルは声を張り上げた。

「セド、何が起こったかわかった?」
「審判が火を消すのに必死で最後の3回はカウントできてなかったけど、アイルランドが得点してブルガリアに160点差をつけてたんだ。だから、スニッチの加点でも追いつけなかった。クラムがブラッジャーにぶつかった少し前から、スコアボードはちゃんと変わってたよ」

なるほど。審判の様子やヴィーラの火の玉に気を取られていたせいで、レイチェルもスコアボードを見逃していたらしい。レイチェルは再び万眼鏡を目に当てた。クラムは地面に着地し、魔法医たちが治療しようと群がっていたが、クラムはそれを拒否しているようだった。

「クラムは気づいてたのかしら? スニッチを取っても、ブルガリアは勝てないって」
「気づいてたと思うよ。と言うか……僕には、気づいたからこそ一瞬気をとられてブラッジャーにぶつかったように見えた」
「……勝てないってわかってて、それでも試合を終わらせることを選んだのね」

ギリギリで衝突を避けたクラムは、リンチが間に合わないことに気がついていたはずだ。つまり、あの時点ではまだ試合を終わらせずに引き延ばすこともできた。2度目の衝突となれば、リンチがすぐに回復するのは難しかったはずだ。でも、あそこでスニッチを捕ることを選んだ。引き延ばしても、ブルガリアの勝利はないと判断した。これ以上点差を引き離される前に終わらせた。

「世界最高のシーカーだよ」

セドリックがニッコリした。
選手達が箒を下り、貴賓席のボックスで表彰式が執り行われた。敗者のブルガリアの選手達は悔しそうだったが誇り高く堂々としていたし、勝者のアイルランドの選手達は晴れ晴れとした表情だった。2人のシーカーはそれぞれボロボロで、リンチはまだ目を回していたのか表情がうつろに見えたし、クラムは目の周りにくっきりと痣ができているようだった。魔法省大臣のコーネリウス・ファッジのよって巨大な金の優勝杯がアイルランドに授与されると、一際大きな祝福の歓声と拍手で競技場が巻き起こった。

「トロイ!マレット!モラン!リンチ!」

胸に付けたロゼットの叫び声も、次第に掠れたキーキー声へと変わっていた。
最後に、勝者のアイルランドチームが競技場を周回飛行してくれた。選手達の顔がよく見えるよう、試合中とは比べようもない、ゆるやかなスピードだ。レイチェルもセドリックもスタンドから身を乗り出し、選手に向かって大きく手を振った。またもやレプラコーンが飛び回り、空中に巨大なシャムロックが輝いている。降り注ぐ金貨がそこかしこに当たって跳ねていた。あちこちの杖先から放たれる花火が空を覆い尽くす。まるで夢のように美しい光景だった。

「ウロンスキーフェイントを見逃しちゃったのだけが本当に悔しい」

テントへの帰り道も、レイチェルはさっきの試合の余韻に浸っていた。楽しい気分のせいで、レイチェルの頬はさっきから緩みっぱなしだった。とは言っても、はしゃいでいるのはレイチェルだけではない。スタジアムから吐き出された観客たちは、子供も大人も、敵も味方も関係なく、皆まだ試合の興奮を引きずっていた。

「でも、肝心のスニッチを捕る瞬間はちゃんと見れたじゃないか」
「そうだけど……やっぱり残念よ。でも、セドや皆がクラムが優秀な選手だって絶賛してた理由が、試合を見てよくわかったわ!」

やっぱり、新聞の記事を読むのと実際に生で試合を見てみるのとは全然違う。まさにワールドカップの決勝戦にふさわしい、素晴らしい試合だった。レイチェルはきっと、何年経ってもこの感動を忘れないだろう。今日のクラムのスーパープレーは、何年も語り草になるに違いない。

「次のワールドカップにもクラムが出てくれたらいいな。現地で観戦できるかはわからないけど」
「きっとまた活躍してくれるわ。今18歳でしょ? 4年後ならまだ22歳だし。クラムより優秀なシーカーなんて、想像もつかないもの」

むしろ、年齢的に言っても経験から言っても、全盛期じゃないだろうか。そんな会話をしながら、ウッドのことがよぎった。4年後のワールドカップなら、ウッドも22歳だ。さっきウッドに言ったことがもしかしたら、本当になるかもしれない。もしそうなったら絶対生で試合を見たい。次の開催国はどこだっただろう。
そう言えば、とレイチェルの顔を見上げた。

「ねえ、セド。ワールドカップまで待たなくたって、ブルガリアならルーマニアの隣じゃない。クラムの試合、見れるんじゃない?」
「えっ?」

卒業後の進路に、セドリックはルーマニアのドラゴン研究所を志望している。難関だけれど、セドリックの優秀さを考えれば問題なく採用されるだろうと言うのがレイチェルの見通しだった。イギリスからだとブルガリアは遠いけれど、ルーマニアからならすぐだ。国際試合じゃなくたって、チケットさえ取れれば週末にでもクラムの試合を見ることができるだろう。

「そうか……。そうだね。クラムの試合が……うわあ、楽しみだな……」

セドリックはどうやら考えもしなかったらしく虚をつかれたような表情だったが、次第に顔を綻ばせた。その表情は本当に嬉しそうだ。まるでクリスマスプレゼントを前にした小さな子供みたいで、レイチェルはクスクス笑ってしまった。

「これでルーマニアに行く理由がまた1つ増えたわね」
「そうだね。頑張らないと」

冗談めかしてレイチェルが言うと、セドリックも微笑んだ。
ルーマニア。途方もなく遠いわけではないけれど、決して近くはない場所。次のワールドカップを迎えるとき、セドリックはきっとそこに居る。4年後。近くて遠い未来。
レイチェルは────レイチェルはどうして居るだろう。少なくとももうホグワーツは卒業して学生じゃないし、セドリックと一緒にルーマニアに行くこともない。忘却術士になりたいと思うけれど、自分にその適性があるのかどうかはよくわからない。夢は夢で終わって、全然違う仕事をしているかもしれない。4年後のワールドカップを迎えるとき、レイチェルはどんな大人になっているのだろう?
夜空に浮かぶ花火を見ながらそんなことを考えていると、レイチェル、とセドリックに名前を呼ばれた。

「次のワールドカップも、こうやってまた一緒に見れたらいいね」

4年後の自分、そしてセドリックや親友達が何をして、何を考えているのか。どんな大人になって、誰と一緒に過ごしているのか。そんなの、今のレイチェルにはちっとも想像がつかないし、どんなに考えたところで知りようもない。
全てが不確実なことのように思えて不安になるけれど、確かなこともないわけじゃない。少なくとも、4年後にはまたワールドカップが来る。クラムやウッドが出場するかはわからないけれど、きっとまた今日みたいに世界中の魔法使いが集まってお祭り騒ぎで、選手達は素晴らしい試合を見せてくれる。そう考えると、何だか気持ちがすうっと軽くなった。

「私でいいなら、喜んで」

実現できるかどうかなんて、今のレイチェルにはわからない。たぶん、セドリックにも。
今回みたいに運よくチケットが手に入るとは限らないし、そもそも仕事が忙しくて休みが取れないかもしれない。何か他の用事があって行けない可能性だってあるし、行けたとしても結局別の人と一緒かもしれない。ただの、他愛もない口約束だ。

それでも、未来に楽しい約束が1つでも増えるのは素敵だなと────そんなことを考えながら、レイチェルは幼馴染と並んで夜道を歩いた。

アイルランドVSブルガリア

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