「ねえパメラ。これってやっぱり、“電気”で動いてるのよね?」

ガタガタと規則正しい振動が足元を揺らしている。ふとそんな疑問が浮かんだレイチェルは、真後ろに座っているパメラを振り返った。
「周りはマグルだらけなのだから、少しでも“奇妙な”言動をしないように」────パメラには口をすっぱくして言われているし、レイチェル自身もそうすべきだとは思っている。けれど、どうやら周りのマグルははしゃいでいてレイチェル達の会話なんて気にしていなさそうなので、少しくらいなら大丈夫だろう。

「えーっとね、私もテレビで一度見ただけだからよく覚えてないけど。確か電気じゃないの!」

上半身が固定されているせいか何だか首がうまく回らなくて見づらいけれど、パメラはニコニコと上機嫌で、これから起こることが楽しみで仕方ないと言った様子だ。弾んだ口調で告げられた言葉に、隣に座るエリザベスが不思議そうな顔をする。

「“気電”を使わない? マグルは大抵のものを“気電”で動かしているんでしょう?」
「“電気”だってば、エリザベス。あ、勿論、今この下のレールがゆっくり動いてるのは電気だと思うわよ!でも、何だっけ、一番てっぺんまで到着したら、あとは電気は使わないの!」
「電気を使わない? なら、 どうやって……」
「あ、ほら。2人とも、ちゃんと前を見なきゃ! しゃべってると舌噛むわよ!」
「え? ……ッ、」

パメラの言葉に正面へと視界を戻すと、目の前にぱっと青い空が開ける。足の裏がふわりと浮いて、全身が重力から解放される。箒で勢いよく地面から上昇して止まったときと同じ、あの感覚だ。ただし1つ違うのは、この“箒”は、レイチェルの意志で動いているわけではない。

「キャアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」

次の瞬間、猛スピードで────そして地面とほぼ垂直に落下していく“暴れ箒”にレイチェルは悲鳴を上げた。ごうごうと耳元で鳴る風の中、レイチェルは真っ白になりかけた頭を必死に働かせる。
パメラの言う通り電気じゃないのなら、このスピードは何を原動力に出ているのだろう。電気でも魔法でもないのなら、一体何がこの細いレールから弾き飛ばされないように守ってくれるのだろう?
急降下したかと思えば急上昇して、旋回して、また急降下。吹き飛ばされないよう体は乗り物に固定されているけれど、微妙に隙間があるせいで肩がガンガンぶつかる。縦にも横にも激しく振られて、レイチェルの血液がミルクだったらもうとっくにバターのように固まっているに違いない。このままじゃ、朝食べたベーコンエッグが胃の中から飛び出してきそうだ。怖い。脱線する。そうじゃなきゃぶつかる。怖い。どうか止まって。怖い。今すぐ安全な地面に降りたい。もうダメかもしれない────。

「……2人とも、グリンゴッツのトロッコや煙突飛行が平気なくせに、どうしてこれがダメなわけ?」

マグル製の暴れ箒の正式名称は、ローラーコースターと言うらしい。
パメラの立ててくれた予定通りマグルの遊園地へとやって来た3人が真っ先に向かったのが、ここで1番人気だと言うこのコースターだった。乗る前よりも生き生きしているパメラと対照的に、レイチェルはぐったりとベンチの背もたれに体を預けて空を仰いでいた。エリザベスはレイチェル以上に青い顔で口元を押さえて俯いている。

「あのトロッコだって、何も言われずに乗せられたらこうなるわ……」

レイチェルはパメラに差し出されたミネラルウォーターを1口飲んで、力なく呟いた。叫びすぎたせいで喉が痛い。
「どんどん混むから絶対最初に!」とパメラに言われるがまま乗りこんだけれど、これは本来きっと、たぶん、絶対に、朝1番に乗るような物じゃない。レイチェルはキッとパメラを睨み上げた。

「それに、あれは小鬼がちゃんと操作してるもの!きちんと制御されてるから安全バーなんていらないし、1回転して逆さになったりもしないわ!」
「こ……これっ、落ちたり怪我をしたりしたマグルは居ないの? どう言う原理で動いてるかもわからないものに、マグルはどうして笑って乗っていられるの……?」
「えー……“魔法で動いてる”だって十分わけわかんないでしょ……」

異議を申し立てるレイチェル達に、パメラが納得できないと言いたげに呟く。その瞬間、ベンチのすぐ後ろをまたコースターが通っていった。ごうっと吹き抜ける風と共に、マグル達の楽しげな悲鳴が遠ざかっていく。パメラの説明によれば、どうやらこれは電気で動いているわけではないけれど、レールから外れたり、乗った人が振り落とされないようきちんと設計されていて、“安全の保証された危険”を楽しむものらしい。そう聞いて少しは納得したものの、レイチェルはやっぱり釈然としなかった。初めから“そういうもの”だと知って心の準備ができていたら、レイチェルだって楽しむことができたかもしれない。けれど、騙し打ちみたいな形で乗せられたせいで、本気で恐怖を感じた。まだ心臓がバクバク言っている。

「貴方の悪戯好きは知っているけれど……この仕打ちはひどいと思うわ。私もレイチェルも、貴方が初めて煙突飛行を使ったとき、何も説明せずに、いきなり暖炉の中に飛びこませたりしたかしら? 私、本当に、驚いて……心臓が止まってしまうかと思ったのよ……」

震え声で言うエリザベスは涙目だった。コースターに乗っている間、叫ぶレイチェルと笑うパメラとは違い、エリザベスはひたすら静かだったので動じていないのかと思っていたのだが、どうやら恐怖のあまり声も出なかったらしい。そんなエリザベスの様子にさすがに反省したのか、パメラは申し訳なさそうに眉を下げた。

「ごめんごめん。だって、何も知らない方が絶対楽しめると思ったのよ……2人とも私より三半規管強そうだから大丈夫かなって……まさか、レイチェル達と遊園地に遊びに来る日が来るなんて思わなかったし……」

目を伏せて照れくさそうに呟くパメラに、レイチェルは思わずエリザベスと顔を見合わせた。マグルの街で遊びつくそう、と言う計画はレイチェルにとっては願ってもないことで────まるで未知の冒険に出掛けるかのように、期待に胸を膨らませていた。そうしたら、いきなりこんな洗礼を受けたわけだけれど。でも、もしかしたら、実は1番楽しみにしていたのはパメラだったのかもしれない。

「悪かったわ。もうしない。今度は、ちゃんと乗る前に説明するから。気分がマシになったら、次に行きましょ!他のアトラクションだって、すっごく楽しいんだから!」

ね、とパメラが困ったように微笑む。ようやく気分が良くなってきたレイチェルはもう一口水を含んだ。あまりの恐怖につい非難めいたことを言ってしまったけれど、さっきのローラーコースターだってパメラなりにレイチェル達を精一杯楽しませようとしてくれた結果なのだろう。……ただちょっと、レイチェル達の反応を予想するのに失敗してしまっただけで。となれば、あまり責めるのは可哀想だ。レイチェルは気を取り直して、笑みを浮かべた。

「……私、さっき通りがかったとき見かけたやつに乗りたいわ。あの、ピカピカ光ってた、小さい飛行機みたいなの」
「飛行機って……? あー、ロケット! あの上下に動くやつね!オッケー、あれなら酔ったりしないから!エリザベスは?」
「あの……その……さっき見た大きなティーカップも、乗り物なのかしら?」

エリザベスの方も気分は回復したらしい。パメラの言葉に、レイチェルはそっと胸を撫で下ろした。全ての乗り物がこんな風ならとても身が持たないと思ったが、どうやらそうではないようだ。それならきっと、レイチェルやエリザベスにも楽しめるものがあるだろう。

「この遊園地は何度も来てるの!だから、案内なら任せて!」

絶対楽しませてみせるからとパメラが胸を張る。その様子が何だか小さな女の子みたいで微笑ましくて────顔を見合わせてクスクス笑うレイチェルとエリザベスに、パメラは不思議そうな顔をした。
ベンチから立ち上がると、高くなった視界の分、さっきより遠くまで見渡すことができる。ここから見えるだけでも、いくつもの乗り物があるのがわかる。遠くに高くそびえた、無機質な金属が剥き出しのもの。カラフルにペイントされたもの。どれもレイチェルには見慣れないものばかりだ。マグルの作った遊び場を満喫すべく、レイチェル達は段々と増えて来た人々の群れに紛れた。
エリザベスが賛成してくれるなら、後でもう一度ローラーコースターに乗ってみよう。電気じゃない動力の正体が一体何なのか、もう一度乗ってみればわかるかもしれない。

 

 

 

楽しい1週間はあっと言う間に過ぎていった。
遊園地でめいっぱい遊んだ次の日は、レイチェル達は博物館へとやって来た。パメラ曰く、世界最大の博物館のひとつらしい。しかし、ここでもやはりマグル文化に詳しくないレイチェルとエリザベスは文化の違いに首を傾げることとなった。そもそも、レイチェル達魔法族はマグルの間で伝わっている歴史をほとんど知らないのだ。中世の魔女狩りひとつ例に取ってみても、マグルと魔法使いの間で伝わる歴史は正反対であることも珍しくない。マグルにとっては希少な展示物なのだろうけれど、レイチェルにはその歴史的価値がよくわからないのである。黄金のペンダントやトルコ石でできた蛇はともかく、どうして首から上がない彫刻や半分以上欠けたお皿がいかにも貴重そうに飾られているのかわからないと言うと、パメラは心底驚いたような顔をした。

「だって、どうして元通り修復しないの? 貴重なものなら尚更、できるだけ壊れてない状態に戻した方がいいでしょう? ただのお皿なら、直せばいいのに」
「あのねレイチェル、ものすごーーーーーーく昔のものなのよ!マグルには修復呪文も巻き戻し呪文もないの!欠片が残ってるだけでもすごいことなの!」
「ねえレイチェル、このアメジスト……12世紀に極悪人エグバートが小鬼から騙し取ったものじゃないかしら。激怒した小鬼が、付けた人が死んでしまうよう呪いをかけたって言う……紛失したとは聞いていたけれど、まさかマグルの世界にあったなんて。魔法省は把握しているのかしら?」

この博物館はどうやらレイチェル達には不向きだと気づいたパメラは、早々にその場を切り上げ、別の博物館へと連れて行ってくれた。豪奢な宝飾品が集められた部屋。そしてその次に向かったところにはたくさんの車。そして本物の飛行機なんかが展示されていた。眩いばかりに光り輝く宝石や、見たこともない乗り物の数々には、レイチェルとエリザベスも夢中になった。
その翌日に行ったのはロンドン動物園だった。これは、レイチェルやエリザベスにとってとても新鮮な体験だった。子供の頃に、本物のライオンやシロクマを見たがったセドリックと一緒にサバンナや北極に連れて行ってもらったことはあるけれど、こんな風にたくさん、世界のあちこちの動物を一度に見るのはレイチェルには初めてだった。特に、マグルの飼育員の号令で芸をする賢いペンギン達は、抱きしめたくなるくらい可愛らしかった。

「あんなに色々な種類の鳥が集められてるのに、ディリコールは居ないのね」
「マグルの間では絶滅したことになっているんですもの。魔法生物飼育学の授業で習ったでしょう?」

そうだっけ。エリザベスの言葉にレイチェルは思わずパメラを見たが、パメラもすっかり忘れていたらしく肩を竦めてみせた。何と返事をしていいか迷った結果、ハリネズミの群れを熱心に見つめることにしたレイチェルは、群れの中に1匹ナールが混ざっているのを見つけた。
その次の日にはマグルの街でショッピングをした。パメラお勧めの雑貨やお菓子に紅茶、それにマグルの間で流行の服やバッグ。あまりに素敵な物がたくさんありすぎたせいで買った物を両手に抱えきれなくなったレイチェルはエリザベスに呆れられたが、そんなエリザベスもアクセサリーショップで見つけたブローチをこっそり買っていたことをレイチェルは知っている。
そのまた翌日には、パメラはレイチェル達を大きな公園に連れて行ってくれた。“バドメントン”と言うマグル流の軽いスポーツやボート遊び、それにマグルの大道芸を見たり。とても充実した時間を過ごした。

「お嬢様方、フロプシーがお茶をお淹れになったのです」

そして今、レイチェル達はギルバートの運転でワールドカップ会場へと向かっている。
プライス家の所有する車は、古いマグル製のものを魔法によって改造したものだ。パメラ曰く「相当クラシック」らしく、艶のある深い青色と、全体的に丸っこいデザインが素敵だ。
ギルバートが座っている運転席と、その隣にある助手席。車の外から中の様子を見ることができるのはこの2席だけだ。後部座席は、誰も座っていないように見えるよう錯視の魔法がかかっている。初めてこの車を見せられたとき、レイチェルとパメラは最初に車に乗ったはずのエリザベスが消えてしまったのかと驚いた。実際の車の中は拡大呪文がかけてあるらしく、外から見るよりもずっと広い。悠に5人は座れるだろう高級そうな革張りのソファが2脚向かい合わせにすっぽり入っていて、中央にはコーヒーテーブルやミニバーまで完備されている。つまりまあ、今こうしてフロプシーがティーカップを宙に浮かせていても、外のマグルに見られることはない。

「見慣れると結構可愛いわよね」

パタパタ動くフロプシーの大きな耳を見ながら、パメラが呟いた。マグル生まれのパメラには屋敷しもべ妖精は奇妙な生き物として映ったようでおっかなびっくり接していたが、1週間経った今ではすっかり慣れたようだ。「うちにも欲しい」フロプシーがサーブしてくれたショートブレッドを摘まみながら、しみじみと付け加える。

レイチェルの家は屋敷しもべ居ないの?」

パメラの問いに、エリザベスがぎょっとしたような顔をした────まあ、一般的にはその質問は魔法界では無作法だとされているので、エリザベスの反応は自然かもしれない。「あなたの家の資産と血筋の確かさはいかほど?」と言う意味になってしまうからだ。とは言え、パメラの場合純粋な興味なのは明らかなので、目くじらを立てる必要もないだろう。お互いに育った環境が違うせいでわからないことがあると言うのは、この1週間で散々実感したことなのだから。

「ママの実家には居るから、私が小さい頃はうちにも手伝いに来てたけど……うちはしもべ妖精が必要なほどは広くないし、そもそもマグルの建てたものだし……」

元々はマグルの貴族が使っていた城でも屋敷しもべ妖精がついたりすることはあるらしいけれど、それにしたってレイチェルの生家である緑の切り妻屋根の家は新しすぎる。あと200年くらいあの家に魔法使いが住み続ければ、もしかしたら屋敷しもべ妖精が好むような住まいになるかもしれないけれど。もしくは、何らかの理由で母親が実家の屋敷しもべ妖精を相続することになるか。

「モプシー……あ、ママの実家の屋敷しもべ妖精ね。私が赤ちゃんの頃って、ママの仕事が一番忙しかった時期らしいの。で、パパはルーマニアでしょ? 昼間はおばさんが見ててくれてたけど、夜はそう言うわけにいかないし……実質モプシーが私の世話をしてくれてたらしいのよね。子守唄はあんまり上手じゃなかったらしいけど」

レイチェルは言って肩を竦めた。ミルクやおしめの世話は上手くできても、屋敷しもべ妖精のキーキー声は赤ん坊には耳触りだったらしい。そう言えば、しばらく母親の生家に行く用事もなかったせいで、モプシーにも会っていない。もし従妹達や叔父達の誰かが観戦に来ているとしたら、モプシーも会場に付いて来ているかもしれない。

「それにしても、席は離れてしまっているけれど、3人で一緒に観戦に来られるなんて嬉しいわ。競争率の高いチケットですもの。我が家も、本当ならお祖父様とお祖母様を連れてきて差し上げたかったのだけれど、自分達では手配できなくて……」
「特に決勝戦のチケットって、手に入れるのものすごく難しいらしいわよね。おじさんもすごく苦労したって言ってたもの」
「私はマークとご両親が誘ってくれたのよ。せっかくだからって」

エリザベスとギルバートの分は、さすがプライス家と言うべきか、なんと魔法省大臣からの招待らしい。そして、マークとは数年前にホグワーツを卒業したパメラの恋人である。こう言うイベントに恋人と一緒と言うのはちょっと羨ましい。レイチェルがぼんやりそんなことを考えていると、「そう言えば」とパメラが続けた。

「マーク達は姿現しするって言ってたけど、セドリック達はどうやって来るの?」
「移動キーだって言ってたわ。確か、ストーツヘッド・ヒルに設置場所があるって」
「オッタリー・セント・キャッチポールは魔法族が多いものね」
「未成年は姿現しが使えないからな。まあ、成人の魔法使いでも使えない奴も居るんだが……移動キーは大変だぞ。一度に大量に到着すると収拾がつかなくなるから時間をずらさなきゃいけない……運が悪いと2週間も前から待機だ」

ギルバートの言葉に、それならこんな風に車や馬車で来る人も多いのだろうかと思ったが、停める場所に限りがあるので無理らしい。エリザべスとギルバートは貴賓席の招待客なので特別に許可をもらっているのだと言う。まあ、そもそも箒以外に自家用の移動手段を持っているのなんて、魔法族の中でもごく一部だけれど。

「そろそろ着くぞ、お嬢さん方。降りる準備を」

促されて、レイチェルは窓の外を見た。つい15分前まではのどかな田園風景が広がっていたのに、いつの間にか霧深い荒地のようなところを抜けるところだった。なだらかな傾斜に生えた木々の隙間に、何百と言うテントが立ち並んでいるのが見える。レイチェルは、それがワールドカップの観戦に来た魔法使い達によるものだろうことに気がついた。遠目に見えるだけでも、アイルランドのシンボルカラーである緑や、ブルガリアの国旗と同じ色に塗り分けられているもの。それどころか、魔法でチカチカと閃光しているものもある。ギルバートはキャンプ場から遠ざかり、その先にある静かな、湿った窪地へと車を停めた。どうやらここが駐車スペースらしい。周りには、いかにも古めかしい馬車や、魔法省の紋章がついた車などが何台か停められていた。車から降りたレイチェルは、少し離れたところに見慣れた人影が立っていることに気がついた。

「車で来るって言ってたから、父さんがきっとここだろうって。やっぱり当たってた」

黒髪のハンサムな青年が、レイチェル達に親しげに笑いかける。どうやら到着を待っていてくれたらしい。確かセドリック達はそれこそ明け方に出発しなければいけなかったはずなのだが、その瞳はキラキラと輝いていて、少しの眠気も疲れも見当たらなかった。

「楽しかった?」
「とっても!! セドの方は? ジョン達が泊まりに来てたんでしょ?」
「楽しかったよ。でもきっと、今日ほどじゃないかな」

セドリックらしい言葉に、レイチェルは思わずクスクス笑った。さて、そんな熱心なクィディッチファンであるセドリックが、運転席から降りて来た青年がかのタッツヒル・トルネードーズのチェイサーだと言うことに気づかないはずがない。会えて光栄だと握手した2人は、昨年度のリーグの決勝戦について語り出した。

「お兄様ったら、クィディッチが絡むといつもこうなんですもの」

エリザベスが深く長く溜息を吐く。2人がクィディッチ談議に白熱しているその間に、フロプシーがレイチェル達の荷物をすっかり車の中から運び出してくれた。5分ほども話しこんだだろうか。そこでようやく2人はレイチェル達の存在を思い出したらしい。セドリックはばつが悪そうに頭を搔くと、レイチェルへと振り返る。

「行こうか。僕達のテントはあっちだよ」
「はぁい。ギルバート、送ってくれてどうもありがとう。2人ともまたね!今日もいい1日を!」
レイチェルもね!」

親友達に別れを告げて、レイチェルは1歩前を歩くセドリックの背中を追いかける。
向かう先のキャンプ場の方向からは、人々が賑わう楽しげなざわめきが聞こえてくる。すれ違う外国の魔法使いの見慣れないローブに、聞き慣れない言葉の響き。あちこちで、試合の勝敗の話題に花が咲いている。昼間なのに遠くからは爆発音がひっきりなしに聞こえ、花火も上がっていた。たぶん、マグル対策としては禁止されているのだろうけれど────お祭り特有のふわふわした空気に、何だか気持ちが弾んでくる。レイチェルは知らず頬が緩むのを感じた。
4年に1度。イギリスでは30年ぶりに開催される、クィディッチワールドカップ決勝戦。

マグルの世界はとても素敵だったけれど────魔法界にだって、また違った楽しみがあるのだ。

ドードー鳥とディリコール

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