丸い木枠に張られた布の上を、細い金色の針が絶え間なく動いている。布の表裏を行ったり来たりするたび、針穴に通された鮮やかなレモンイエローの糸が美しい波を作り出していた。濃紺のコットンリネンに咲き乱れる大輪の薔薇。蔦や葉の間に隠れる、小さな鳥やリスや野ウサギ。レイチェルが瞬きをする間にも、針は美しく繊細な刺繍を描き出していく。サイドテーブルの上に置かれたスケッチブックに描かれているものと、そっくり同じ。驚くほど緻密なその図案を編み出したその人物は、白いシーツの上でベッドボードに背中を預けていた。

「あの小さかったセディが、もう17歳なんてねぇ」

私も年を取るはずだわと、悪戯っぽく微笑む。そうすると、目元に刻まれた皺が深くなり、穏やかそうな顔立ちをより優しげに見せた。色素の抜けた銀色の髪は、頭の後ろでゆったりとバレッタでまとめられている。淡い水色のショールの隠された肩は、以前よりもほっそりとしていて華奢になったように思えた。

レイチェルもすっかり綺麗になって。2人が部屋に入って来た時、セディは一体どこのお嬢さんを連れて来たのかと思ったわ」
「ありがとう。セドはともかく、私と会うのは久しぶりだもの。わからないのも無理はないと思うわ」

年長者にありがちな賛辞に素直に笑みを浮かべて、レイチェルは肩を竦めた。
この人が小さく見えるとしたら、たぶん、レイチェルが大きくなってしまったからなのだろう。実際、最後に会ったのはもう2年以上も前のことだ。セドリックほどではないものの、成長期の真っただ中に居たレイチェルは、あれから随分と背も伸びた。

「それにしても、びっくりしたよ。いきなり入院だなんて」
「少し熱っぽかっただけなのよ。それを、お隣のマグレガーさんが大げさに心配してね」

セドリックの祖母が体調を崩して聖マンゴに入院したとディゴリー家に知らせが入ったのは、一昨日の夜のことだった。詳しい検査をした結果ただの夏風邪だとはわかったものの、セドリックの祖母は元々少し体が弱い。仕事があるおじさんと、どうしても外せない用事があるおばさん。忙しい2人の代わりに、セドリックとレイチェルが様子見をかねてお見舞いに来たのだった。
レイチェルと血縁関係はないし、今でこそあまり会う機会もなくなったが、小さい頃はレイチェルもよく面倒を見てもらった。いつもディゴリー家に預けられていたレイチェルは、この人が訪ねて来た時には一緒に遊んでもらったし、おばさんが忙しい日にはセドリックと一緒にこの人の家に預けられたことも何度かあった。もしかしたら、自分の祖父母よりもよく会っていたかもしれない。料理やお菓子作り、それに編み物や刺繍なんかの家事魔法の名人で、そして、とても優しい人だ。

「そう言えば、セディ。聞きましたよ。ドラゴンキーパーを目指しているって。セディがルーマニアに行ってしまうなんて、寂しくなるわ」
「なれたら、の話だけどね。難関って言われてる仕事だし……」
「あらあら、何を言うの。おばあちゃんの可愛いセディ坊やが選ばれなかったとしたら、その人達はよほど見る目がないんでしょうよ」

“可愛いセディ坊や”。懐かしいその響きに、セドリックが照れくさそうに頬を掻く。その呼び名からもわかる通り、セドリックの祖母は昔からセドリックをとても可愛がっていた。セドリックがたった1人きりの孫だと言うのも理由だろう。それに、例のあの人と戦って亡くした夫────セドリックの祖父に、セドリックはそっくりらしい。若い頃の写真を見せてもらったことがあるけれど、とてもハンサムな人で、確かにレイチェルの目から見ても今のセドリックとよく似ている。

レイチェルは? 将来は何になるつもりなのかしら?」

久しぶりの祖母と孫の対面に水を差さないようにと、ぼんやり刺繍の出来上がりを見守っていたレイチェルは、その問いかけに顔を上げた。
将来の夢。少し前までは、大人達に聞かれると「まだ考え中なの」とどこか後ろめたい気持ちで誤魔化すことしかできなかった問いだけれど、今では答えは決まっている。

「忘却術士になりたいと思ってるの」
「忘却術士に?」
「ええ」

レイチェルはニッコリ笑った。忘却術士になる。それが、昨年の学期中にようやく決まったレイチェルの目標だ。
せっかく魔法薬学が得意なのだから父親みたいに魔法薬の研究職につけばいいのにとか、女の子なんだから同じ魔法省勤めでも事務仕事の方がいいんじゃないかとか、親戚には色々言われたけれど、変える気はない。
魔法の存在を知ってしまったマグルは、忘却術を行使される。ただ忘れさせるだけのこともあるけれど、修正する記憶があまりにも膨大な場合は、抜き取った記憶の代わりに魔法使いの作った記憶を入れるのだが、それがマグルにとっては“奇妙”すぎて日常生活に戻るのに支障が出るマグルも多いと聞く。そんな現状を少しでも変えたい。魔法と出会ったせいでマグルのその後の人生が狂ってしまわないように。

「そう。あなたは昔から、マグルの脳みその中には何が入っているかって知りたがっていたものね」

穏やかな口調で感慨深そうにそう言われて、レイチェルは何とも言えない気持ちになった。
小さい頃のことも知られていると言うのは、子供じみたわがままも、当然、幼少期のレイチェルが大人の目を盗んでマグルの村に行っては困らせていたことも知られているわけで。大人達にとっては、子供だったのだからと笑い話で終わらせることも、その当人にとっては何となくばつの悪い気持ちになるものなのだ。

「マグルと言えば……2人は覚えてるかしら? 貴方達が5歳のとき、マクレガーさんの家の畑に────」

悪戯っぽい笑みで語られた話は、やっぱりレイチェルにとっては記憶になくて。幼少期の自分達の子供らしい勘違いは、微笑ましいようで、何だか気恥ずかしい。セドリックも同じだったらしく、そっと視線を交わして小さく笑った。
この夏にまた誕生日を迎えて、レイチェルは16歳になった。セドリックに至っては、あと3か月後には成人する。自分はもう大人だなんて自信はまだ持てないけれど、昔に比べたら背だって伸びたし、あの頃よりはずっと多くのことを知っていると思う。この人から見れば、レイチェルも、そしてセドリックもまだまだ子供で、5歳の頃と大して変わらないのかもしれない。
もう子供じゃないのよと言いたくなるけれど────子供扱いされることは、不思議と不快ではない。ただ、ほんの少し照れくさくて、くすぐったいような気持ちになるのだった。

 

 

「付き合ってくれてありがとう、レイチェル

受付のある1階へと戻るべく廊下を歩いていると、ふいにセドリックが呟いた。癒士が回診に来たので、レイチェル達は邪魔にならないようにと引き上げることにしたのだ。向こうから歩いて来た奇妙な症例の猫────頭からトナカイの角が生えている────へと気をとられつつ、レイチェルはお礼を言われるようなことじゃないと肩を竦めた。

「私も会いたかったもの。それに、私達はちょっとくらい風邪引いたって平気だけど……お年寄りはなかなか治りづらいらしいし、こじらせると肺炎になったりするって言うしね」
「そうだね。思ったより元気そうで安心したよ」
「“セディ坊や”がお見舞いに来てくれたのが嬉しかったのよ、きっと」

そんな会話をしながら、レイチェルはちらりと等間隔に並んだ窓へと視線を向けた。薄い板ガラスの向こうには、抜けるような青い空と緑の山々、そして美しい田園風景が広がっている。とは言え、それが魔法によって作られた見せかけの景色であることをレイチェルは知っていた。地理上の位置で言うのなら、ここは大都会ロンドンの真ん中だ。この建物のすぐ外には、コンクリートでできたビルや、ごみごみした人混みが広がっている。その事実にほんの少し名残惜しさを覚えたものの、さすがに病気の人をお見舞いに来た帰りにマグルの街が見たいなんてダダをこねるほどレイチェルは分別がないわけではないつもりだ。来た時と同じに外来用の暖炉を使い、レイチェル達はまっすぐにオッタリー・セント・キャッチポールへと帰ったのだった。

「ああ、もう! 早く姿現しを覚えたい」
「同感」

ディゴリー家の暖炉の調子がよくないので久しぶりに自分の家の暖炉を使ったけれど、最近掃除していなかったせいであちこち煤だらけだ。そもそも母親は姿現しを使うから、レイチェルくらいしか使わないのである。咳き込みながら暖炉から這い出したレイチェルに、後からやって来たセドリックも真顔で頷く。

「あれ?ふくろうが来てる」

レイチェルがスカートの煤を払うことに必死になっていると、セドリックが呟いた。その言葉に顔を上げれば、確かに窓のところにふくろうが2羽止まっていた。見たことのないふくろうだ。友人の誰かのペットでもない。丸い金色の目玉がじっとレイチェルとセドリックを見つめている。
まさか。まさか────。とうとう“あれ”が届いたのだろうか? 硬直するレイチェルをよそに、セドリックはさっさと窓際へと近づいて、ふくろうの足から封筒を外している。

「やっぱり、OWLの結果だ。ほら、レイチェルのも」

宛先と差し出し人を確認して、セドリックがレイチェルを振り返った。その手には、2通の封筒が握られている。離れていても読みとることができた「レイチェルグラント様」、それから「魔法試験局」の文字。レイチェルはたった今出て来たばかりの暖炉へと後ずさり、首を横に振った。

「ダメ……無理……私、見れない……」

頭の中に、去年の進路指導のときにフリットウィック教授に言われた言葉が蘇る。
『忘却術士になりたいのなら、最低でも変身術と呪文学は優をとらなければ』────もしダメだったら、どうしよう? 涙目になって弱弱しく呟くレイチェルに、セドリックが苦笑した。

「あんなに早く来ないかってやきもきしてたじゃないか」
「そうだけど……!」

結果が気になっていたのは確かだけれど、いざ手元に届いてしまうと見るのが怖い。
今か今かと待っていたときは来なくて、どうして油断しているときに限ってやって来るのだ。せめて少しでいいから、きちんと心の準備がしたかったのに。

「はい。こっちがレイチェルのだよ」

顔の前へと差し出された封筒を、レイチェルは恐る恐る受け取った。1ミリのズレもなく真っ直ぐに押された厳めしい封蝋を爪の先でのろのろと剥がす。中に入っていた折り畳まれた羊皮紙を摘まんで、しげしげと見下ろした。こんな羊皮紙1枚に自分の将来の可否が記されているのだと思うと、暗澹たる気持ちになる。
すうっと息を深く吸って、ゆっくりと吐く。そして、レイチェルはとうとう意を決して中を開いた。

普通魔法使いレベル試験

レイチェルグラントは次の成績を修めた。

天文学 良
魔法生物飼育学 良
呪文学 優
闇の魔術に対する防衛術 良
マグル学 優
薬草学 良
魔法史 良
魔法薬学 優
変身術 優
古代ルーン文字 可

レイチェルはぱちりと瞬きをして、もう一度、見間違いをしているところはないかと最初から最後まで目を通した。何と言うか、正直────予想していたよりも、ずっと良い成績だ。4科目も優がある。
筆記があまり上手く行かなかったマグル学も、忘却術士を目指すなら必要だと言われていた呪文学も。それに、魔法薬学だ。忘却術士になる夢とは無関係だが、これで今年の魔法薬学を履修することができる。何せスネイプ教授は優以上の生徒にしか履修させてくれないのだ。

「セド……セド、私、今年も無事に魔法薬学を受けられそう! セドはどうだった?」
「え? ああ、うん、僕もだ……」

レイチェルは弾んだ声で知らせたが、セドリックの反応は何だかいまひとつだ。羊皮紙を見つめたまま、何だかショックを受けたような顔でぼんやりしている。セドリックに限ってまさかとは思うけれど────もしかして、思ったよりも結果が良くなかったのだろうか?

「見てもいい?」
「うん……」

レイチェルは自分の試験結果を差し出し、代わりにセドリックの手にあった羊皮紙を受け取った。自分の成績を見られるのはちょっと恥ずかしい気もしたが、一方的にセドリックの結果だけを見ると言うのは不公平だ。羊皮紙の上には、レイチェルのものと全く同じかしこまった書体が並んでいる。

普通魔法使いレベル試験セドリック・ディゴリーは次の成績を修めた。

天文学 優
魔法生物飼育学 優
呪文学 優
闇の魔術に対する防衛術 優
マグル学 優
薬草学 優
魔法史 優
魔法薬学 優
変身術 優
古代ルーン文字 優

「……さすがセド」

レイチェルは思わずほうっと息を吐いた。あまりにも完璧すぎて、最早からかう気にもなれない。一瞬でも心配して損をした。これが思ったよりも悪い結果だなんて言うのなら、レイチェルはこの先セドリックと友好な関係を続けていく自信はない。セドリックならOWLでもいい成績をとるだろうとは思っていたけれど、ここまでだなんて。

「おじさんに見せたら大はしゃぎしそうね。『セド、お前はディゴリー家2人目の魔法大臣になるぞ!』とか?」
「言いそうだからやめて……」

想像したのかどこかげんなりした顔をしたセドリックに、レイチェルは思わずくすくす笑った。
レイチェルはもう一度、自分の手元に戻って来た成績表を見直した。そりゃあもちろんセドリックには負けるけれど────と言うか最初から勝てるなんて思っていなかった────レイチェルもなかなかの成績じゃないだろうか? 10ふくろうで、そのうち優が4つだ。少なくとも、学年でも上から数えた方が早いことだけは間違いない。
うん。いい結果だ。最高の結果じゃないかもしれないけれど、レイチェルにとっては満足だ。セドリックもようやく実感が湧いて来たのか、結果を眺める口元にはわずかに笑みが浮かんでいる。レイチェルは羊皮紙で口元を隠したまま、ひそりと囁いた。

「頑張ったわよね? 私達」
「そう思うよ。これで、僕達も無事NEWT学生だ」
「そうね。これでもう、いつふくろうが来るかってビクビクしなくていいんだわ」

そうしてどちらともなく顔を見合わせてくすくす笑い、ハイタッチを交わしたのだった。

 

 

 

「えっと……魔法薬学と、変身術はたぶん一緒よね。後は何の授業をとるの?」
「んー……マグル学は続けようと思う。レイチェルもだよね」

試験の結果を保護者たちにも見せ、「大いによろしい」と労いの言葉をもらった2人は、引き続きセドリックの部屋で試験結果とにらめっこをしていた。とは言っても、別に試験の反省をしているわけではなく、来年度の時間割について考えるためだ。少なくともレイチェルにとっては、NEWTクラスからは自分に必要だと思う授業だけを選択できると言うのはとても楽しみだったのだ。

「そうね。後は呪文学と、薬草学と、防衛術と……天文学も。古代ルーン文字は、どうしよう……」
「魔法史は?」
「やめる。セドは続けるの?」
「うん。と言うか……せっかくだから、僕は今履修してる科目は全部続けようと思う」
「全部!?」

何でもないことのようなセドリックの口調に、レイチェルはぎょっとして目を見開いた。
NEWTクラスになると、授業内容は専門性が増して難しくなるし、課題も多くなると聞く。それを10科目だなんて────いや、でも、セドリックならできるのかもしれない。レイチェルには無理そうなので、見習う気はないけれど。
とは言え、どの科目をやめるかと言うのはもう少し考えてみたほうがいいのかもしれない。セドリックだけじゃなく、親友達にも意見を聞いてみてからにしよう。

「それにしても、マグル学で優が取れたのって奇跡だわ。私、筆記試験が全然わからなかったもの」
「ああ、最後の問題だろう? 僕も時間が足りなかった……後でもう一度解いてみたけど、それでも教科書を見ながらじゃないと難しかったよ」

夏休みに入ってからと言うものの、レイチェルもセドリックもなんとなくOWLの話を避けていたけれど、結果が届いて、しかも2人とも「期待以上」だった今となっては、心おきなく試験の思い出話に浸ることができる。それぞれの試験中の出来事や、一緒に受けた同級生に起こったこと。

「それでね。マグル学の試験で、私、地下鉄に乗ったの。駅までの道はマグルに教えてもらって……券売機ってわかる? おじさん。あれでね、パディントン駅までの切符を買って……1人きりでマグルの街を歩くのなんて初めてだったから、本当にドキドキしたわ」

その日の夜は、2人が無事に試験をパスしたことのお祝いだった。テーブルには所狭しと2人の大好物ばかりが並び、ここのところ忙しかったおじさんも帰宅して、久しぶりに賑やかな食卓になった。おばさんが腕によりをかけたごちそうに舌鼓を打ちながら、レイチェル達は大人達にも試験の話を聞かせた。

「僕はロイヤル・コヴェント・ガーデンって駅だったよ。やっぱり1人1人少しずつルートが違うんだね。駅までは1人で辿りつけたけど……最後に、魔法試験局に繋がってる電話番号が表示されたじゃないか。あれがわからなかった」
「私、あっちはわかったわ。でも、じゃあセド、どうやって電話をかけたの? あの電話がなければ、帰りの移動キーの場所を教えてもらえないじゃない」
「あー……困ってたら、知らない女の子が声をかけてくれて、教えてくれた」
「ふーん。あ、ねえ、ママ、そこのドレッシングとって」

特に大人達の興味を惹いたのは各教科の実技試験の話だった。筆記試験に関してはおじさん達が学生の頃とほとんど変わらないようだったが、やっぱり時代が違えば試験のやり方も違うらしい。中でもマグル学の試験内容は大人達にとっても予想外だったらしい。

「生徒をマグルの街に行かせるだなんて、試験局も思いきったことするのねぇ。私達のときは校外での試験はしなかったのに」
「僕も過去問を調べてみたいけど、今回が初めてだったみたいだよ。それに母さん、ちゃんと危険がないようにって試験官が1人1人着いてたから」

心配そうに眉を下げるおばさんを安心させるように、セドリックがニッコリ笑う。サラダのレタスを咀嚼しながらそんなやりとりを聞いていたレイチェルは、校庭に吸魂鬼がうろうろしているホグワーツよりはマグルの街の方がよほど安全なのではないかと思った。
OWL試験繋がりと言うことで、おじさんやおばさんが学生の頃の思い出話にも花が咲いたが、確かにレイチェル達が受けた試験とは結構違う。とは言え、一方で昔から変わらないこともあるようだ。

「トフティ教授はお元気だった? あの方、私達が学生の頃も試験官をされてたのよ」
「マーチバングス女史はどうだ? あの人なんか、ダンブルドアが学生の頃から試験官だって話だしなあ」
「えっ……お年寄りだなあとは思ったけど、そんなに?」

レイチェルは試験のときに会った厳しそうな目つきの老婦人を思い浮かべた。ダンブルドアでさえかなりの高齢なのに、それより更に高齢だなんて。と言うか、ダンブルドアにOWLを受けていた頃があったと言うのが不思議な気がする。考えてみれば当たり前なのだけれど、想像がつかない。

「何はともあれ、セドもレイチェルも、本当に頑張ったわね。お疲れさま。2人とも賢くていい子に育ってくれて、私達は鼻が高いわ」

デザートのトライフルを取り分けながら、おばさんが微笑んだ。改まってそんなことを言われてしまうと、なんだか照れくさくて、レイチェルは思わずセドリックと顔を見合わせた。レイチェル達学生にとっては一大イベントだったOWL試験だけれど、どうやら大人達にとってもそれは同じらしい。

「しかし、油断はいかんぞ! NEWTはOWLよりもずーっと難しい。そうとも!」
「まあ、エイモスったら。いいじゃない、今日くらいはそんな脅すようなことを言わなくたって。それに、少し飲み過ぎよ」
「なーに。まだファイア・ウィスキーをたった5本だ。ちっとも酔ってなんかないさ」
「母さんの言う通りだ。飲み過ぎだよ、父さん」

レイチェルも思わず真顔になった。OWLの結果が届いた日にNEWTの話はやめてほしい。
妻からたしなめられ、息子に冷たい視線を向けられたたおじさんは、ばつの悪そうな表情で渋々ウィスキーの瓶をテーブルへと戻す。それから気を取り直すようにコホンと咳払いをした。

「あー……試験のお祝いと言うわけじゃないが、2人にいい知らせがある」
「いい知らせ?」
「そうだ」

おじさんはそこでもったいつけるように言葉を切った。悪戯を思いついた少年のような表情だ。一体何だろう。最近何だかやけに忙しそうだし、もしかして昇進したのだろうか?そうでなければ、また旅行の計画とか? レイチェルがわからないと首を捻っていると、その反応に満足したのかおじさんは、ニッコリ笑ってみせた。

「ワールドカップの決勝戦のチケットが手に入ったぞ!」
「えっ!? すごい!!」
「本当!?父さん!」
「ああ、本当だとも!」

思いもよらない知らせに、セドリックが頬を紅潮させる。レイチェルも驚いた。
4年に1度のクィディッチのワールドカップ。しかも決勝戦のチケットだなんて、ものすごく手に入りにくいはずなのに。しかも今回は、開催地はイギリスだ。行きたいけれど、きっとチケットが入らないとセドリックが残念そうに溜息を吐いていたのは記憶に新しい。
あっと言う間に話題はOWL試験からワールドカップへと移り、クィディッチ談議が白熱し出す。全員のデザートのお皿が空っぽになって、食後のココアを飲み干しても、おじさんとセドリックは12年前のイングランド対フランス戦の話に夢中だった。

夜が更けるまで、ディゴリー家のダイニングには笑い声が溢れ、レイチェルも楽しい団欒を過ごしたのだった。

OWL試験の結果

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