火曜日の午前は天文学、それに午後は魔法史の筆記試験だった。
これについては、まあ─────おおよそ予想通りだった、と言っていいだろう。レイチェルは元々どちらの科目もそんなに得意ではないのだ。ベガとデネブを取り違えたような気がするし、巨人の戦争が魔法界に与えた歴史的意義についても建設的な意見を述べられた自信はない。
深夜の天文学の実技試験に関しても、さそり座の座標がずれてしまった気がする。それでもまあ、気になるところと言えばそれくらいなので、不合格にはならないだろう。たぶん。

水曜日の薬草学は、思ったほど難しくはなかった。マンドレイクの取り扱いと効能については解答欄が足りなくなるほど書きこんだし、実技試験の腫れ草の膿の採集も────あの強烈な石油臭に咳き込みはしたが────まあまあうまくいった。

心配していた木曜日の呪文学は、正直、運が良かったと言わざるを得ない。得意な問題ばかりが出たので、驚くほどスムーズに解答欄を埋めることができた。
実技試験に関しても、失敗らしい失敗はなかった。浮遊呪文ではガラス球を天井近くまで浮かせることができたし、成長呪文では小さなモルモットをアナグマほどの大きさにすることができた。これに関しては、以前かぼちゃの馬車を作りたくて練習したおかげだろうと思ったので、一体何が役に立つのかわからないものだとレイチェルは思った。試験官だったマーチバンクス教授も良い出来だと言ってくれたので、これならもしかしたら優が取れるかもしれないと、レイチェルはちょっとだけ期待してしまった。勘違いだったら恥ずかしいので、誰にも言うつもりはないけれど。

反対に、金曜日の古代ルーン文字では大失敗を犯してしまった。アイフワズとエーフワズの意味を取り違えたのだ。試験の終了間近で気づいて慌てて修正したけれど、ところどころ不自然な訳文になってしまっただろうし、何より解答用紙が二重線だらけでみっともなくなってしまった。
後悔は残るものの、終わった試験のことを考えている余裕はない。週末になると、レイチェル達はまた部屋にこもって残った試験のための追い込みに精を出した。

週明けの月曜日の試験は変身術だったが、これが近年稀に見るほど高難度の試験だった。
レイチェルは変身術は得意な方だと思っていたが、それでも頭を悩ませるような記述問題がいくつもあった。取り替え呪文の定義と、消失呪文の理論に関しては特に難しかった。試験が終わり昼食をとっている後も、複雑な理論がまだ頭の中をくるくる回っているような気がした。
筆記の意地の悪さに比べれば、実技は随分とマシに思えた。レイチェルの呪文は黄色いハンカチをワタリガラスに変えることができたし、そのカラスを檻の中のケナガイタチと取り替え、きちんと消失させることもできた。杖の振り方も間違えなかったし、満足のいく出来だった。

火曜日の魔法生物飼育学は────正直、あまりよく覚えていない。疲労のピークが来たのか、そもそも魔法生物飼育学への興味が薄いせいか、気を抜けば試験中だと言うのに頭の中に靄がかかり、意識が遠のきそうになった。これではいけないと、レイチェルは自分の腕をつねってどうにか眠気を追い払った。もっとも、それは筆記試験だけの話で、実技試験に関しては、鋭い鉤爪を持つヒッポグリフや炎を吐く火蟹を相手にしなければいけないので、一瞬たりとも気を抜くことはできなかった。パメラはうっかり火蟹の尾を踏んでしまい、危うくスカートに火が燃えうつるところだったらしい。

水曜日は防衛術の試験だった。レイチェルは正直、この科目に関してはあまり自信がなかったのだが、思ったよりもずっと落ち着いて解くことができた。特に忠誠の術と、それから守護霊の呪文に関しては、ルーピン先生が授業で特に詳しく説明してくれたので完璧に答えられただろうと思った。
実技試験に関しても、武装解除呪文や盾の呪文、それから色々な逆呪いをしっかり唱えることができた。ただ、くすぐりの呪文を盾の呪文で弾いたときに、呪いが隣のパトリシア・スティンプソンに当たって彼女の試験を中断してしまったのが気がかりだったけれど。

「とうとう明日で終わりね!」

試験を終えて部屋に戻ったパメラが、心底嬉しそうに言ってベッドに倒れ込んだ。
そう────明日の木曜日で、試験は終わりだ。そして、レイチェルの最後の試験はマグル学だ。
疲れが溜まっているのを自覚していたので早めに勉強を切り上げてベッドに入ったが、目が冴えてしまってなかなか寝付けなかった。試験初日を前にしたときと同じくらい、緊張していた。
大丈夫よ、と自分に言い聞かせる。大丈夫よ、だって、マグル学は他のどの科目よりも勉強したじゃない。そう、だから、きっと、大丈夫。
しかし、そんなレイチェルの期待は見事裏切られることになった。
翌朝、試験開始の合図と共に問題用紙を裏返したレイチェルは、その内容に絶句した。

1.次のマグルの道具や制度についてそれぞれ説明せよ。
a.掃除機
b.テレビ
c.電話
d.コンセント


これはいい。毎年出ている問題だし、特に目新しい単語も見当たらない。散々対策したので、そんなに難しくはない。

2.次の文章はマグルと電気の歴史に関して述べられている。本文を読み、後の問いに答えよ。


これもいい。過去問に似たようなものがあったし、じっくり考えれば解けるだろう。マグルと水道の歴史でなかったぶんだけ、むしろラッキーだ。個人的には、あっちの方が難しかった。

3.次の文章はイギリスにおけるマグル社会について述べられている。本文を読み、文中の空欄(1)~(20)までを埋めよ。

────これは一体何だ。こんな問題、見たことない。
どうやらマグルから見た現代イギリスの一般常識や教養のようだが────どうしよう。とりあえず目を通してみても、確信を持って答えられそうな問題が見当たらない。
とは言え、いつまでも問題とにらめっこしていても仕方ない。一度深呼吸して、レイチェルは羽根ペンを走らせ始めた。
予想通り、マグルの道具や電気に関しては難なく答えることができた。が、マグル社会の具体的なことなんて、授業でもほとんどやってない。確かに、教科書の端や、参考書の最後の方に簡単なコラムとして載っていたけれど、こんな問題、過去問ではなかったのに。
今のイギリスの女王の名前がエリザベス何世だったか、思い出せない。いや、もしかしたらエリザベスじゃなくてヴィクトリアだったかも。それに、イギリスの国旗って、こんなにごちゃごちゃしていただろうか? この斜めの赤い線は必要なんだっけ?
考え考え、何とか全て答えを埋めた頃には、試験終了まで残り15分を切っていた。
────大変だ。見直しの時間が足りない。
大慌てで自分の書いた解答にズレや間違いがないかを探し────「冷蔵庫」にいくつかスペルミスがあった────あと2行で全て見終わると言うところで、無情にも砂時計の砂が落ち切った。

「そこまで。試験は終了です。筆記用具を置きなさい」

マクゴナガル教授の厳格な声が響く。
…………終わってしまった。教授の元へと回収されていく自分の羊皮紙を、レイチェルは呆然と見送った。どうしよう。あんなに勉強したのに、全然手ごたえがなかった。全くもって自信がない。
どうしよう。マグル学、ダメかもしれない。レイチェルはそっと両手で顔を覆った。

「元気出しなさいよ、レイチェル。まだ実技試験があるじゃない」
「その実技試験が問題なのよ……」

昼食の時間、落ち込んでいるレイチェルをパメラが慰めてくれたが、憂鬱は晴れなかった。
過去のOWL試験の課題を見る限り、マグル学の実技試験の内容は年によってバラバラだった。時計の分解だったり、試験官の前でマグルの道具を使ってみせることだったり。傾向らしい傾向がないので、対策もできない。だから、筆記でしっかりと点を稼いでおきたかったのに。
実技試験と言えば、奇妙なことに、レイチェル達マグル学の受験生は昼休みの間にローブから私服に着替えるようにと指示された。占い学の試験を受ける親友達と別れ、一度レイブンクロー塔に戻って着替えると、レイチェルは重たい足取りで試験へ向かった。

 

 

「えー、今回の実技試験は、ホグワーツ内ではなく、ロンドンで行います」

試験官のトフティ教授に告げられた言葉に、5年生はざわめいた。どうやら、着替えたのはそのためだったらしい。
それから、試験に関する説明が行われた。教授の側に置かれた箱の中に入っている空き缶が、それぞれマグルの町への移動キーになっていること。行き先や時間は、受験生によってそれぞれ違うこと。けれど公平を期すために、出される課題の内容はほとんど同じになっていること。
説明の間に、マグルのお金が入った財布とドッグタグのようなものが配られた。変幻自在呪文がかけられていて、どうやらこれに、課題の内容が表示されるらしい。
課題がわからなければマグルに聞いてもいいけれど、魔法を使ったらその時点で失格。制限時間は1時間。無事にホグワーツに帰って来られたら合格。課題がどうしても達成できなかったり、ホグワーツに戻れなくなったりした場合は、ドッグタグを杖で叩けば試験官が回収しに来てくれる。
そんな注意事項を聞かされたあと、アルファベット順に名前が呼ばれた。1人、また1人と、同級生達の姿が段々と少なくなっていく。そしてとうとう、レイチェルの番になった。

「では、次。ミス・グラントじゃな」
「はい」
「そんなに緊張する必要はないでな。向こうについたら最初の課題が表示されるようにしてある。では、これを持ってくれるかの」

トフティ教授が安心させるように顔をしわくちゃにさせて微笑んだ。差し出された空き缶に触れると、淡く光り出した。移動キーが発動するのだ。触れた指先から、ぐっと、移動キーに向かって強く引っ張られる。ぐるぐると、視界がコマのように回転する。その不快感に、レイチェルはぎゅっと目を閉じた。

瞼を開けると、レイチェルはマグルの町の雑踏の中に居た。

正確には、どこか細い路地裏のようだ。昼間なのにビルの陰で薄暗く、人気がない。なるほど、確かにここならいきなりレイチェルが現れてもマグルには気づかれないだろう。
少し歩いて明るい大通りの方へと出ると、多くのマグルが通りを行き交っていた。自動車が引っ切りなしに目の前を過ぎて行き、クラクションの音が耳をつんざく。
ここは一体どこなのだろう────。レイチェルはきょろきょろと辺りを見回した。交差点のところに、通りの名前が書いてあるのが目に入った。オックスフォード通り。昼間なので様子が違うが、以前、イルミネーションを見に来た場所だ。
現在地はわかったけれど、これからどうすればいいのだろう。レイチェルは手に握り締めていたドッグタグを見た。さっきは何もなかったはずの場所に、文字が浮かんでいる。

『パディントン駅へ行け』

どうやらこれが、最初の課題らしい。聞き慣れない地名だけれど、駅と言うことは地下鉄を使うのだろうか。と言うことは、どこかから電車に乗らないと。レイチェルはきょろきょろと辺りを見回した。確か、このあたりには大きな駅があった気がするのだけれど。

「あの……すみません。私、迷ってしまって……駅はどちらですか?」

自分で見つけようとすると時間がかかりそうだったので、レイチェルは通りがかった初老の紳士に聞くことにした。紳士はいきなり話しかけられたことに驚いたようだが、特に怪訝な表情をするでもなく、立ち止ってくれた。

「駅ならこのあたりはたくさんあるが……お嬢さん、どこに行きたいんだね?」
「パディントン駅です」
「それならあっちのオックスフォード・サーカス駅からベーカールー線に乗るといい。乗り換えなしで行けるよ」
「ありがとう」

どうやらレイチェルをマグルの女の子だと思ってくれたようだ。親切な紳士にお礼を言って、レイチェルは教えてもらった方向へ歩き出した。
が、10メートルほど進んだところで、早速────えっとそうだ、『信号』だ────に引っ掛かってしまった。

「……確か、これって、青にならないと渡っちゃいけないのよね?」

そう教科書に書いてあったはずなのだが、周りのマグルは涼しい顔で横断していく。教科書が間違っていたのだろうかと首を捻りながら、それでもレイチェルはランプが青に変わるまで大人しく待った。
しばらく歩くと、地下へと続く階段を見つけた。2本の街灯に渡された紺色の看板には、紳士が教えてくれられたとおりの駅名が書かれている。レイチェルは階段を下りて、地下鉄の駅へと入っていった。
えっと、地下鉄に乗るには、まず切符を買わなければいけないはずだ。どうにかこうにか券売機を探しあてたレイチェルは、じっとその上に設置されている路線図を睨みつけた。さっきの紳士が言っていたのは何だったっけ。ベーカールー線……あった。どうやらパディントン駅はここからそう遠くないようだ。
財布からマグルの硬貨を取り出し、券売機の中へと押し込む。液晶画面のボタンを案内に従って押していけば、代わりに紙の切符が出てきたのでレイチェルはほっと息を吐いた。
改札をくぐり、階段を下りてホームへと進む。平日の昼間だからか、さほど混雑はしていない。行き先を念入りに確かめてから電車に乗り込めば、やがてゆるやかに電車が動き出した。
いくつかの駅を通り過ぎて、パディントン駅へと到着すると、さっきまでの文字は消え、今度はこんな文章が浮かんだ。

『売店で何か買え』

これが次の課題だろうか。レイチェルは周囲を見回してみる。ホームには自動販売機はあるが、売店と呼べそうなものはない。となると、一度また外へ出なければいけないのだろうか?
立ち尽くすレイチェルの横を、急ぎ足のマグルが通り過ぎて行く。今度こそ、正真正銘初めての場所なので、レイチェルは急に心細い気持ちになった。なるべく駅から離れないようにしようと思いながら、見よう見まねで改札をくぐる。出てすぐ側に売店を見つけて、レイチェルは何だか肩の力が抜けた。
あそこで何か買えばいいのだろう。けれど、何かって、いくら何でも指示が大雑把な気がする。
レイチェルはポケットに入れていた財布の中身を確かめた。指でかき混ぜると、硬貨がチャラチャラと鳴る。ええっと……元々入っていたのが15ポンド。さっき切符を買うのに確か大体5ポンドくらい使ったから……残っているのは10ポンドと少し。帰りもまだ電車に乗るかもしれないからまだ全部使い切らない方がいいだろうし、となると使えるのは大体2ポンドか3ポンドくらい。

「すみません。これください」
「はい。2.5ポンドだよ」

そうしてレイチェルが買ったのは、ペットボトルのレモネードだった。と言うか、飲み物かガムくらいしか選択肢がなかったのだ。5ポンドの紙幣を渡して、お釣りを受け取る。思ったよりもスムーズに買い物ができたことにほっとしながら、レイチェルは店を出た。
さて、買ったはいいけれど、これって飲んでもいいのだろうか? ドッグタグに指示が出ていないだろうかと見てみると、また別の文章が浮かんでいた。

『レシートの裏を見ろ』

レイチェルは、財布を開けて、中にしまったレシートを取り出した。裏返してみると、黒いインクで数字の羅列が並んでいる。087 1223────全部で11桁だ。一体何の数字だろう。きっと、何かの暗号か、これ自体意味のある番号だろうけれど────番号───?

「あっ」

────これ、きっと電話番号だ。レイチェルはきょろきょろと辺りを見回した。少し離れた壁際に、電話ボックスがあった。タイミングのいいことに、今は誰も使っていないようだ。
急いで駆け寄り、ドアを引っ張って中へと入る。どうやって使うんだっけ。確か、この受話器って言うのを持ちあげて────電話をかけるのにいくら必要なのかわからなかったので、財布の中に残っていた硬貨を、手当たり次第に投入口へ入れる。レシートの裏に書かれた番号の通り慎重にボタンを押すと、受話器からコール音がして、明るい女性の声へ切り替わった。

「こちら魔法試験局です。お疲れさまです。ミス・グラント。これで試験は終了となります。帰りの移動キーの場所をご案内します。その電話ボックスを出て、突き当たりの角を────」

電話ボックスを出て、言われた通りの場所に行くと、ベンチの下にボロボロの空き缶が置かれていた。
たくさんのマグルが行き交っているが、誰も気にしていないようだ。
レイチェルは売店で買ったペットボトルの栓を開けた────念のため電話で確認したら飲んでいいと言われたのだ。冷えたレモネードの甘酸っぱさが喉を潤していく。
筆記試験はいまいちだったかもしれないが、実技試験は結構うまくいった気がする。少なくとも、魔法は使わなかったし、時間にも余裕がある。その証拠に、移動キーが発動するまで、まだ20分ほどある。せっかくだからマグルの町を堪能しようと、レイチェルはベンチへ座って、興味深く周囲の様子を眺めた。

 

 

「お疲れさん、ミス・グラント! お帰りなさい!」

移動キーでホグワーツへ戻ると、トフティ教授が迎えてくれた。どうやら学校に戻る時間も1人1人ずらして設定しているのか、周囲にはレイチェル以外の5年生の姿はない。制限時間の1時間と言うのは、移動キーの発動時間の関係だったのかもしれない。

「課題は全て合格。魔法の使用もなし。それに、随分早く試験が終わったようじゃな。結構、結構」

どうやら、あの電話の時間が、試験の終了時間として記録されているらしい。レイチェルが配られたドッグタグと財布を返すと、トフティ教授は手元の羊皮紙に何かを書きつけた。たぶん、試験の評価とか、そう言った類のことだろうけれど────残念なことにそれが何のアルファベットまでかはわからなかった。

「これで試験は終了じゃな。行ってよろしい」

そう言って送り出されたレイチェルは、さてどうしようかと考えた。試験はこれで全て終わったのだから、もう焦って試験勉強をする必要はない。となれば、夕食の時間までのんびり過ごしたいところだが────パメラやエリザベスはどうする予定なのだろう? 試験はもう終わっただろうか?

レイチェル!」
「パメラ!そっちも終わったの?」
「ついさっきね! 今はエリザベスを待ってたとこ」

そんなことを考えていたら、向こうからパメラがやって来た。どうやら、占い学の試験が終わったようだ。
レイチェルが試験に行く前ほど暗い顔をしていないことに気がついたのか、パメラがからかうようにニヤッと笑ってみせる。

「その様子だと、実技試験はうまくいったみたいね」
「自分ではまあまあだったと思わ。そっちは?」
「愚問ね」

レイチェルが聞き返せば、パメラは馬鹿馬鹿しいと言いたげにフンと鼻を鳴らした。
パメラは3年生のときにトレローニー教授に死亡宣告を受けてからと言うものの、すっかり占い学と言う科目自体に懐疑的になっていた。

「私の水晶玉に、鼻にイボがある男が映ってたの。だから、その男について、詳しく描写してみせたわ。どんなに不気味で、陰気な表情をしてるか……。で、説明し終わって顔を上げたら、その不気味な男って、どうやら試験官だったみたいなのよね」

真面目な表情でパメラがそんなことを言うので、レイチェルは思わず噴き出してしまった。
それってつまり、水晶玉の向こう側が映り込んでいただけだってことだろうか。他にも、手相を見る課題で知能線と生命線を取り違えて、試験官が先週死ぬはずだったと告げてしまったと肩を竦めるので、レイチェルはますます笑いが止まらなくなってしまった。

レイチェルの方は? マグル学の実技ってどんなだったの? やっぱり難しかった?」
「あー……私やエリザベスからすると、難しいけど。パメラにしたら、簡単すぎてつまらないかも」

パメラもマグル学の試験がどんなだったか気になったようだったので、レイチェルはさっきの試験のことをパメラに話して聞かせた。地下鉄での移動のこと、マグルのお金で買い物をしたこと、それから公衆電話で電話をかけたこと────試験だからと緊張していたせいであまり楽しめなかったが、どれもレイチェルにとっては滅多にないような、新鮮な体験だった。

「何それ! 超簡単じゃない! 私、やっぱりマグル学を取ればよかった!」

全部聞き終えたところで、パメラが嘆いた。わかってはいたが、やっぱり、あの試験内容はパメラにしてみれば何でもないことらしい。それでも、レイチェルにとってはちょっとした冒険だったし、1人でそれをやり遂げたことは少し誇らしかった。マグル生まれのパメラにとっては簡単でも、魔法族の子供の中には────大人でさえも────今日のレイチェルと同じことができる人は、そう多くないだろう。
そう言えば、セドリックやフレッドとジョージ、それにロジャーもあの試験を受けたはずだけれど、結果はどうだったのだろう。レイチェルとまるきり同じ課題だったのだろうか。今度、詳しく聞いてみよう。

「ね、それより、レイチェルはこの後どうするつもり? 寮に戻る?」
「うーん……でも、せっかく天気がいいのに、ちょっともったいないわよね」
「それじゃあ、箒にでも乗る? それか、湖に行ってもいいけど」

それはいい考えだ。ここのところ、ずっと城の中に引きこもってばかりだったから、たっぷりと太陽を浴びたい気がする。ああ、でも、久しぶりにのんびりお茶をすると言うのも捨てがたい。そんなことを話していると、ちょうど、大広間からエリザベスが出てくるのが見えた。どうやら試験が終わったようだ。

「あ、エリザベス!お疲れ! こっちよ!」
「ねえ、今、レイチェルと話してたんだけど、湖に行きましょ! 今日は晴れてて気持ちがいいもの!」

レイチェルとパメラが手を振れば、こちらに気づいたエリザベスも微笑んだ。
結局湖の側でお茶をしようと意見がまとまったので、その準備をするためにレイチェル達は一度寮に戻ることにした。まだ、他の学年は試験中なのかもしれない。静かな廊下に、3人分の足音だけが響く。

この1年、散々苦しめられたOWL試験が終わった。

全てが満足いく結果だったわけじゃない。自分の全力を出して、努力できたかと言われると────正直、自信を持ってはいとは言えない。もっとああしておけばよかったとか、もっとこんな風にするべきだったかもとか、反省することや、後悔することもたくさんある。
試験の結果が返って来るのは、まだ1ヶ月も先のことだ。もしかしたら、思ったような結果が出ないかもしれないし、自分の将来への道が閉ざされてしまうこともあるかもしれない。
それでも、レイチェル達は今日、無事にOWL試験を乗り切ったのだ。
これがゴールじゃないことはわかっている。次の9月が来ればレイチェル達は6年生になって、7年生になればOWLよりもさらに難しいと言われるNEWTが待ち受けている。ホグワーツ生活と言う点においても、自分の人生においても、OWL試験はただのひとつの通過点に過ぎない。それでも、この1年、レイチェル達はOWLを目標にして頑張って来たのだ。
だから、試験の結果も、その先の進路への不安も。今だけは、忘れてしまおう。

試験が終わった。今はただ、それだけを喜ぼう。

OWL試験(後編)

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