5月も終わりが近づいていた。OWL試験までとうとう2週間を切った。
いよいよ5年生は追いこみの時期だ。教授達はとうとう課題を出さなくなり、試験の予想問題をより多く解かせるかに熱心だった。談話室には常に羽根ペンの音が響き、寮に入る時は誰もが余計な音を立てないよう神経を尖らせていた。情緒不安定になり医務室へと運ばれる生徒の数は片手では足りず、マダム・ポンフリーはお冠だ。噂では、パトリシア・スティンプソンはもう5回も入院したらしい。レイチェルは親友達と励まし合いながら試験勉強を進めていたので、幸いにもマダムのお世話にはなっていない。
授業と勉強の合間に食事や睡眠を取る生活は相変わらずだったが、ひとつ変わったことがあった。いや、変わったと言うよりも戻った、が正しいのかもしれない。以前のようにセドリックと一緒に授業を受けるようになったし、セドリックと勉強する時間をとるようになった。クィディッチシーズンが終わってセドリックの練習は一時休止しているし、バーベッジ教授がマグル学の教室を快く貸してくれたので、放課後に週2回ほど、一緒にマグル学の勉強をしたりわからないことを聞き合ったりしている。勉強するだけなら図書室でもいいのだが、このところ混み合っていてうまく席が取れるとは限らないし、何より例の女の子達とは一応和解したとは言え、やっぱりレイチェルはまたセドリックと2人きりで勉強しているところを他人に見られるのは気が進まなかったのだ。
レイチェルの向かいの席にセドリックが座って勉強をしている。つい半年くらい前までは当たり前だったその光景は、懐かしいような、どこかしっくり来るような、新鮮なような、何とも言えない、不思議な気持ちにさせられる。とは言え、学年1位の秀才との勉強会は願ってもない機会だし、やっぱりセドリックの側は落ち着くのは確かだ。レイチェルは真剣な顔で羊皮紙へと向き合っているセドリックの顔をじっと見つめた。
「好きって何なのかしら」
男の子として好きなのは、ウッドだと思う。ウッドが好きだ。
けれど、側に居たいのは────ウッドとセドリック、どちらが大切なのと聞かれたら────それはたぶん、セドリックで。感情の種類と、感情の大きさと。どちらを優先するのが、正解なのだろう。
「セドは、私を見てて、抱きしめたいとかキスしたいとか思う?」
レポートに何事か書きつけているセドリックにそう問いかければ、ガリ、とペン先が羊皮紙に引っ掛かった嫌な音がした。動揺したらしい。
ややあって緩慢に視線を上げたセドリックは、困ったように眉を下げた。
「……それ、何て答えても僕は損をするんじゃないかな?」
そう言って苦笑するセドリックに、確かに少し意地の悪い質問かもしれないとレイチェルは思った。キスしたいと答えられたら、嬉しいと思うよりも、今後セドリックと二人きりになる時はちょっと警戒してしまうだろうし、したくないと言われたら自分に魅力がないと言われたみたいで落ち込むかもしれない。まあいい。別に答えがほしいわけじゃないのだ。
「私はね、思わないの」
セドリックと2人で出掛けるのは楽しい。一緒に居ると落ち着く。自然体の自分で居られる。
ウッドと居るときみたいに、心臓が急におかしくなったり、目が合っただけでドキドキしたりはしない。
たぶんそれはセドリックも同じだろうと、何となくだけれど思う。
「セドが私以外の女の子と仲良くしてたら、ちょっと寂しい。ちょっとだけね。クロディーヌがセドの腕に抱きついて頬にキスしたときには、イライラした。やめてよって言いたくなった。でも」
あの感情に名前をつけるとしたら────やっぱり、嫉妬、なのだろうと思う。
嫉妬するってことは、やっぱり好きなんじゃないかと。そう周囲に誤解されても仕方ない。レイチェル自身、自覚がないだけなのだろうかと考えた。考えてはみたけれど。
「でも、クロディーヌの代わりに私がキスしたいとかは、思わないの」
セドが他の女の子を好きになるのは嫌。でも、別に自分がセドリックの恋人になりたいわけじゃない。
自分でも身勝手な言い分だとは思うけれど、それがレイチェルにとっての正直な気持ちで。
例えるなら、エリザベスやパメラが、クロディーヌと楽しそうにしているときに似ている。そんな子と仲良くしないで、あなたの親友は私よね? セドにとって1番大切なのは、私でしょう?
「……僕も、似たようなものかな」
幼稚な独占欲と言われてしまえば、それまでだ。ずっと一緒に居たから。ずっと一緒に、居過ぎたから。セドリックの隣はいつだって、自分のために空けられていたから。だから、そこに誰か別の人が居ることが、受け入れられない。慣れない。どうしようもない、違和感。
「ウィーズリーとか、デイビースとか……レイチェルが他の誰かと喋ってると、何喋ってるんだろうって気になる。でも、レイチェルを抱きしめたいとか、キスしたいとか、そう言うんじゃないんだ」
この感情を、何と呼べばいいのかわからない。
家族みたいなものだと思う。でも、純粋な家族愛だと言い切るには、レイチェル達は相手を異性だと意識し過ぎているようにも思えた。かと言って、友情と呼ぶのは何か違う気がする。そして、恋と名付けるには、あまりにも穏やか過ぎるように思えた。
もしかしたら全て当てはまっているのかもしれないし、もしかしたら全て違うのかもしれない。2人の間では確かに共有しているこの感情に、しっくり来る言葉が見つからない。
「小さい頃、約束したわよね。大きくなったら結婚しようって」
いつも一緒。一番の友達。優しくて照れ屋なレイチェルだけの王子様。大好きなセディ。
2人でこっそり行った村のはずれのマグルの教会。そこで見た、花嫁さんの真っ白なドレスがとても綺麗で、羨ましくて。誰も居ない礼拝堂で、置き忘れてあったレースのショールをヴェールに見立てて、2人きりで誓いのキスをした。
「私たぶんあの頃、セドのこと、男の子として好きだった」
あの感情は、恋と呼べるものではなかったのかもしれない。ただ純粋に、幼い好意を煮詰めただけのもの。それでも、好きだった。子供なりに、精一杯。恋だと、思っていた。
世界でただ1人、セドリックだけを見つめていた。セドリックだけが大切だった。
「たぶん、僕もだ」
大好きだから、大切だから、ずっと一緒に居たかった。10年先も、20年先も、50年先も、ずっと。
ずっと仲良しで居たかった。離れたくなかった。
セドリックが隣に居てさえくれれば、他には何もいらないと思っていた。
「僕も、レイチェルのこと、女の子として好きだった」
セドリックもきっと、それは同じだった。
手を繋いで、大好きだよと笑い合う。互いの瞳に、互いの笑った顔だけが映っている。
繊細な飴細工みたいに、甘くて、透き通っていて、綺麗で、脆い。2人きりの優しい世界を壊したのは、レイチェルだった。
「じゃあ、今は?」
他に王子様を見つけたから、セディはもう王子様じゃない。そんな自分勝手な言葉で、レイチェルは自分もセドリックのお姫様で居られる権利を手放した。小さな王子様とお姫様だった2人は、もう居ない。
温かで優しい感情は、恋に似ている。だって、かつては恋だったから。
もう終わってしまったけど、ままごとみたいなものだったかもしれないけれど。初恋と名付けるのも、躊躇うようなものだったけれど。それでも、確かに恋だったから。
「……わからない」
「私も」
壊れた恋の破片を拾い集めて、繋ぎ合せて。そうして、今に繋がっている。
何もなかったことにはできなかった。だって、まだ忘れていない。あの日々を、あの約束を覚えている。
あの感情がまだ、胸に焼きついている。
『いつまでも一緒に居てね』
『いいよ』
『お嫁さんにしてね』
『いいよ』
幼い日の、他愛もない約束だ。15歳のレイチェル達が縛られる必要なんてない。わかっている。
けれど、それを子供の戯言だと切り捨ててしまうことは、どこか後ろめたくて、寂しい。花嫁のヴェールよりも真っ白だったあの頃への憧憬なのかもしれない。
幼いレイチェルが結んだレースのリボンが、今もまだ巻きついたままになっている。過ぎた季節の分だけ色褪せて、繊細な糸は更に脆くなった。そのうち自然に解けるだろうと思っていたけれど、結び目はまだ固い。もういい加減外してしまいたいのに、自分の手で切ってしまうのは躊躇われる。
だって、今のレイチェルにとってはただの古ぼけたリボンでも、あの頃のレイチェルにとっては世界で1番大切な宝物だったから。その気持ちを、覚えているから。千切れないようにそっとほどければいいけれど、その方法がわからない。
好きだったの。本当に好きだった。大切だった。今でも、大切なの。
あの日のレイチェルと、今のレイチェルは違う。けれど、過去の自分も、確かに自分の一部なのだ。
だから、わからなくなる。自分は本当に、セドリックのことなんて、何とも思っていないのか。家族みたいなもので、お兄ちゃんみたいで、だから男の子としては、異性として見ていない。────本当に?
自分の心のはずなのに、自分でも確かな自信は持てなくて。確かめる方法もわからない。
キスしたら、わかるのだろうか?
セドリックの顔を見ていたら、ふいにそんなことを考えた。いつだったか、同級生が「その男の子と付き合えるかどうか、キスできるかどうかを考える」と言っていたのを思い出したからだ。でもまあ、好きかどうか確かめるためにキスをするって何だか本末転倒な気がする。レイチェルが小さく溜息を吐くと、ガシャンと大きな音がした。
「今、何て……?」
音の出どころは、床に落ちて割れたインク壺だった。セドリックが手を滑らせてひっくり返してしまったようだ。そして、目の前には、戸惑った表情のセドリック。考えただけのつもりだったが、どうやら声に出ていたらしい。セドリックは床へと屈んで黙々と破片を杖で片づけはじめたが、髪の間から見えるその顔は少し赤い。
「え、っと、その……キスしたら、好きかどうかわかるのかなあって」
レイチェルもそれに倣って椅子から立ち上がると、インクの水溜りへと杖を振る。自分の発言をそう補足して、レイチェルはばつの悪さに視線を泳がせた。セドリックがそんな反応をするから、何だかこっちまで恥ずかしくなってくる。「……レイチェル、男に対して、気軽にそう言うこと言ったらダメだよ」
「別に、誰にでもこんなこと言ってるわけじゃないわよ……」
セドリックが窘めるかのような口調でそんなことを言うので、レイチェルはムッとした。
確かにレイチェルの発言にも問題があったと思うけれど、そこまで過剰反応することないじゃないか。
周りの女の子達は気軽に誰それとデートしたとか、キスしたとか言っている。もう15歳なんだから、キスの1つや2つくらい大騒ぎすることじゃない。それに、とレイチェルは言葉を切った。
「セドなら後悔しないもの」
セドリックの言う通り、どうでもいい相手と気軽にキスをしたら後悔するだろう。けれど、セドリックはどうでもいい相手なんかじゃない。まあ、恋愛感情がない相手と言う括りでは似たようなものかもしれないけれど。5歳の頃のあのキスをノーカウントとしたら、一応────ファーストキスなわけだし。
「セドが私じゃ嫌だって言うなら、しょうがないけど」
「そ、……んなことは、言ってないじゃないか」
それに、セドリックにも選ぶ権利はある。冗談めかしてレイチェルが言えば、本気にしたのかセドリックがまごついた。
セドリックの呪文で、硝子片が元通り瓶の形を作る。レイチェルも杖を振り、空中で球体になっていたインクをその中へと注いだ。何事もなかったかのようになったインク瓶に栓をして、ふいに顔を上げると、セドリックと至近距離で目が合った。
「本当に、後悔しない?」
灰色の瞳が、真っ直ぐにレイチェルを見つめる。
レイチェルはそこで初めて、窓を叩く雨の音に気がついた。
レイチェル、と名前を呼ばれた気がしたけれど、気のせいだったかもしれない。
セドリックの手がレイチェルの頬に触れる。長い指が、顔へかかっていた髪を耳へと流す。まるで他人事のように、レイチェルはその動作の間、ただぼんやりとセドリックの顔を見ていた。頬に感じる手のひらの熱が、やけに生々しい。
伏せた睫毛が長いなあとか、セドリックも緊張してるのかな、とか、昼食にタマネギは食べなかったはずだけど、とか。そんなことを考えているうちに、整った顔がふいに近づいてくるのがわかった。思わず視線を下へと逸らせば、セドリックの唇が目に入って意識してしまう。流石に気恥ずかしいのと、どこを見ればわからなくなって、思わず目を閉じた。
唇に、音もなく柔らかなものが触れて、離れる。
意識していなければ気のせいかと思ってしまいそうな、一瞬のことだった。レイチェルはそろりと瞼を上げる。鼻先が触れ合いそうな距離に、セドリックの顔がある。その目の中に、自分の顔が映り込んでいるのがわかる。
「……ドキドキする?」
「うん」
囁くようにしてレイチェルが問えば、セドリックが真顔のまま答える。真面目くさったその答えが、この状況には似つかわしくないように思えて、レイチェルは思わず小さく笑い声を漏らしてしまった。不思議そうに目を丸くするセドリックへと、額を合わせた。
「私も」
瞬きするみたいな、子供じみたキスなのに。ドキドキする。心臓が、きゅっと締めつけられる。
キスをしたことに対してなのか、それとも相手がセドリックだから、なのか。それとも、ただ、秘密のことをしていると言う高揚感なのだろうか。
────もう1回。
そう、どちらかが口にしたわけではなかったけれど。視線が絡んだら、また自然と距離が近づいていく。今度は、瞬きの間だけでは終わらなかった。
唇を啄ばむだけだったそれが、段々と深くなっていく。足りない酸素を求めて、鼻から抜けるように甘えた声が漏れるのが、たまらなく恥ずかしい。
されるがままのレイチェルと違って、セドリックは何だか────慣れているように思えた。慣れていると言うと語弊があるかもしれないけれど、少なくともこれが初めてではないような気がした。とは言っても、レイチェルにとってはこれが初めてなのだから正直それすらよくわからないのだけれど。レイチェルが知らないだけで、もしかしたら他の誰かとキスをしたことがあるのかもしれない。セドリックに好きな女の子が居るとか、そんな話は聞いたことがないけれど、セドリックにだってレイチェルには言いたくない秘密の10個や20個あるだろう。何でもかんでもレイチェルに言う必要はないのだし、報告されても困る。
5歳のあの頃は、自分がセドリック以外の誰かを好きになる日が来るなんて思いもしなかった。
自分はこの先もずっとセドリックだけが大切で、セドリックだけを見つめているのだと思っていた。セドリックと同じハッフルパフに入って、いつだってセドリックと一緒で。今くらいの年齢になったら、恋人同士になって、デートをしたり、こんな風にキスしたりして。自分はずっと、一途で純粋なお姫様で居られると思っていた。
────もしも。もしもあの日、あの青年に出会いさえしなければ、今でもセドリックを好きだっただろうか。
そんなことを考えているうち、いよいよ酸素不足で頭がぼうっとしてきたので、レイチェルはセドリックの肩を軽く押した。それに気づいて、セドリックがようやく唇を離す。キスするときって、どうやって呼吸をしたらいいんだろう。誰かに聞いておけばよかった。皆、どんなにロマンチックなシュチュエーションだったのかは教えてくれても、そう言った具体的なことはなかなか話題には出ない。
濡れた唇を、指で拭う。浅い呼吸を繰り返すレイチェルに、セドリックは「ごめん」と呟いた。それが何に対する謝罪なのか、レイチェルにはわからない。最初にキスをしようと────いや、しようと明確に口にしたわけじゃないけれど────言ったのはレイチェルだし、謝られる心当たりはないけれど。
沈黙が落ちる。破ったのは、セドリックが先だった。
「僕達、たぶん……」
「……もっと、世界を広げたほうがいいと思う」
言い淀んだセドリックの言葉をレイチェルが引き継げば、セドリックが頷いた。
キスをしてみてわかったのは、やっぱりレイチェルは自分がこの幼馴染をどう思っているのか、よくわからないと言うことだ。キスをして不快でなければ付き合えると言う理論に基づけば、レイチェルはセドリックと付き合えるだろう。でもそうすることは────何と言うか、あまりにも安易に思える。
「無理に距離を置く必要はないと思うんだ。誰に何を言われたって、これが僕達にとっての普通なんだから。でも、これが楽だからって甘えてないで、もっと積極的に他の人とも関わってみるべきだ。二人っきりの世界に閉じこもらないで」
たとえば、明日からレイチェルとセドリックが恋人同士になると決めたとして────それはたぶん、そう難しいことじゃない。皆が言うような、相思相愛の恋人にはなれないかもしれないけれど、たぶん、レイチェル達はそれなりに上手くやっていける。だけどその理由はお互いを好きだからとかじゃない。単に、それが一番楽だからだ。ずっと一緒に過ごして来て、そこが居心地が良いと、知っているから。
「お互い、もっと色々な人と付き合ってみるべきよね。私達、お互いをどう思ってるのかすらわからないんだもの」
それは別に、恋人同士としてである必要はないだろうけれど。少なくとも、今みたいにセドリックとばかり過ごしていたままではわからないことは確かだろう。今はまだ、セドリックより大切な人は見つからないけれど────もしかしたら、この先、そんな人が見つかるのかもしれない。そしてそれは、セドリックにも言えることだ。探しもしないうちから諦めてお互いで手を打つと言うのは、それこそ怠惰に他ならないだろう。
「とは言っても、居ないのよねー。デートに誘ってくれる男の子なんて。セドはよりどりみどりだろうけど」
深く溜息を吐き出して、レイチェルはセドリックの肩へと凭れかかった。セドリックは、その気になれば明日にでも恋人が見つかるだろう。そうなりたいと願っている女の子は、ホグワーツ中にいくらでも居るわけだし。レイチェルが当てこすれば、セドリックは困ったように眉を下げた。
「でも、よく知らない相手と付き合ったりする気はないよ。相手にも失礼だ」
真面目な顔をしてそんなことを言う様子に、セドらしいなとくすくす笑った。
ローブの胸へと寄せた耳から、セドリックの鼓動が聞こえてくる。規則正しいその音に安心して、レイチェルはそっと目を閉じた。
もしもあの日、レイチェルがあの青年と出会わなかったら。たぶん、今でもセドリックを好きだっただろう。
いつだったか、前にも同じことを考えた。そしてやっぱり、今も結論はそのときと同じだ。
たとえ、レイチェルが今でもセドリックを男の子として好きだったとしても。それでも、きっと終わりの日は来た。2人きりの世界は優しくて居心地がよかったけれど、同時にあまりにも不自然で歪だったから。
恋に似ている。かつては恋だったから。もしかしたら今でも恋かもしれないし、恋じゃないかもしれない。
セドリックに対するこの感情が、5歳のレイチェルの残したものなのか、それとも15歳のレイチェル自身のものなのか。今のレイチェルにはまだわからない。けれど、焦って結論を出す必要はないのだとも思う。納得していないのに、無理に急いで結論を出すのは、セドリックに対してもセドリックを好きな女の子達に対しても失礼だ。
ゆっくりでいいから、考えよう。長い時間をかけて、たくさんのものを見て、たくさんの人と話をして。もっともっと、大切な物を増やしていこう。それでもやっぱりセドリックが1番大切だったら────そのときまた考えよう。
この人が大切だと。側に居るのに、今はそれだけわかっていればきっと、十分だ。