大切にするって、言葉にするよりもずっと難しい。
例えば、小さな子供がテディベアをもらったとして。ふわふわで可愛い、お気に入りの友達。いつだって、一緒に居たくて。どこへ行くにも連れて行って、おままごとをして、おもちゃの箒に乗せて、大好きだよと抱きしめて、夜はおやすみなさいのキスをして同じベッドで眠る。だって、大切だから。大好きだから。けれど、そうして連れ回すほどに、細い糸が擦り切れて、柔らかい腹は裂けて、ほつれた綿が溢れて、大切な友達はぼろぼろになってしまう。
テディベアなら、子供のおもちゃなら、それでいいのかもしれない。そのために、作られたものだから。
大切だから、ずっと側に置いておきたい。肌身離さず、いつも。けれどそうすれば、一緒に居られる時間は短くなる。1日1日、1秒1秒、空気に触れて、手垢がついて、気づかないうちに損なわれていく。
大切にしたいなら。少しでも長い時間、美しいまま留めておきたいと願うのなら。きっと、自分勝手に触れてはいけないのだ。宝石箱の中の指輪や、ガラスケースの中のビスクドールみたいに。
ただそっと、見ているだけ。

レイチェル
「……ごめん、セド。悪いんだけど、急いでないなら後にして」

今は急いでるのと、愛想笑いにも似た苦笑を顔に貼りつける。振り切るために早めたはずの足は、レイチェルよりもコンパスの長い幼馴染にとっては何の障害にもならないらしい。慣れた気配が追いかけてくるのを背中に感じて、レイチェルはふうと息を吐いた。

レイチェル

今度は、さっきよりもしっかりとした響きで紡がれる。ほんの僅かの苛立ちと、焦りを滲ませた声。
気づかない振りを決め込もうにも、腕を取られてしまえば物理的に足は前へと進まなくなってしまうわけで。仕方なく振り向いたレイチェルは、渋々セドリックと向き合う。声色とは裏腹に、その表情はどこか不安げだった。

「何があったの」

────何がって、何? 確信を持ったような口調に、レイチェルは思わず眉根を寄せた。一体何が言いたいのかと、怪訝な視線を向ける。セドリックは一瞬躊躇うような素振りを見せたが、意を決したように口を開いた。

「最初はOWLに集中したいからかなって思ったけど……僕を避けてる」

灰色の瞳が、レイチェルを真っ直ぐに見つめる。レイチェルはぐっと言葉を飲み込んだ。
やっぱり、勘付かれていた。自分でも露骨だと言う自覚はあったので焦りや驚きはなかったが、ほんの少しだけ胸に重たいものが落ちる。できれば、セドリックが気づかなければいいと思っていた。ただの自分の気のせいだと考えてくれればと、そんな風に。

「また、誰かに何か言われた?」
「……何も」

表情を曇らせるセドリックに、短く答える。気遣い屋の幼馴染は、心配しているのだろう。また、あのときみたいに──── 自分の知らないところで、何か嫌な思いをしたんじゃないか、と。それは事実だ。けれど、セドリックに言う必要はない。口にすればきっと、また気に病むに決まっている。

「何も、言われてないわ」

セドリックと離れるべきだと言われたのは確かだった。けれど、それだけじゃない。
そう言ったのはあの子達でも、実際にを行動に移したのは、レイチェルだ。レイチェル自身、そう思ったから。誰かにそう言われたから仕方なく、なんて言い訳するつもりはない。レイチェルも、離れるべきだと思ったのだ。セドリックと顔を合わせたくなかった。
セドリックと話をするのが、怖かった。

「嘘だ」
「嘘じゃないわ」

だって、顔を合わせたら甘えてしまう。また、わがままを言ってしまう。自分の身勝手な感情を、セドリックに押し付けて、背負わせようとしてしまう。
外国になんて行かないで。クロディーヌを好きにならないで。そんなこと言う権利なんてない。わかってる。ただのわがままだ。わかっているから口には出さない。口には出せない。

「別に、何も不自然じゃないでしょ。子供じゃないんだから、いつまでもベタベタするのはおかしいもの」

できるだけ毅然と見えるよう、セドリックを真っ直ぐに見返した。
私達もう、15歳になったのよ。もう子供じゃないの。いつまでも、5歳の頃と同じにおままごとやおもちゃの箒で遊んでばかりいられない。
年頃の異性同士が、恋人でもないのに2人きりで勉強したりホグズミードに行ったりするのは「普通」じゃない。「家族でもないただの幼馴染」なら、理由もなく人前でベタベタしたり、気安く部屋に入ったりするのはよろしくない。そうでしょ?

それが、正しいはず、でしょ?

どうせいつかは、離れることになるのだ。5年先か、10年先か、あるいは1ヶ月後か。セドリックに恋人ができれば、レイチェルの存在は邪魔になる。ただの幼馴染のレイチェルは、いつまでもセドリックの隣には居られない。いつかは、この場所を誰かに明け渡さなければいけない。それが、少し早まっただけ。とりたてて騒ぎたてるようなことじゃない。そう、自分に言い聞かせているのに。

「それでも僕は……レイチェルと一緒に居られなくなるのは、寂しいよ」

飾り気のない真っ直ぐな言葉が胸を刺して、レイチェルはぐっと喉が詰まった。
レイチェルだって寂しい。寂しいに決まってるじゃないか。けれど、これが セドリックにとってもいいことのはずだ。
セドリックの重荷にはなりたくない。ただ偶然家が隣だっただけの、ただの幼馴染の女の子のわがままに、いつまでもセドリックを付き合わせてはいけない。そんなのは、セドリックが可哀想だ。
あの子達の言うことは、正しい。一緒に居るのが当たり前だったから、セドリックは気がついていないだけで────レイチェルと一緒に居ることは、セドリックのためにならない。

 

 

静寂が辺りに満ちる。
返す言葉が見つからないまま、レイチェルはただ灰色の石のタイルの上に視線を滑らせた。
レイチェルだって、寂しい。寂しくないわけがない。レイチェルだって、セドリックと一緒に居たい。けれど、素直に口に出せば、きっとまたこれまでと同じになってしまう。

「私は……」

「私は寂しくなんてない」と、そう言ったらセドリックはどうするだろう。
そうしたら、きっと、セドリックはもうレイチェルに近寄ってこないだろう。嘘を吐いてしまえばいい。そうしたら、もうレイチェルのわがままでセドリックを振り回すことはない。
けれど、そう言えばきっと────この優しい幼馴染を傷つけてしまう。

「僕のこと、嫌いになった?」

ぽつりと小さく漏れた言葉に、思わず顔を上げる。瞳を伏せたセドリックとは、視線が合わない。けれどその表情は悲しげで、まるで、母親に手を振り払われた子供みたいで。不安に揺れる瞳に、罪悪感が胸を締めつけた。

「そんなこと、あるわけないじゃない!」

反射的に叫んで、レイチェルはぐしゃりと前髪をかき混ぜた。ああ、もう。どうしてそうなるのと、泣きたくなる。苛立ちと焦りが胸の中で混ざり合って、急速に膨らんでいく。レイチェルがセドリックを嫌いになるなんて、そんなはずないのに。

「私は……私が、……っ」

悪いのはレイチェルなのに。だから、離れようとしてるのに。セドリックを解放してあげようと思ったのに。
どうして、そんな風に自分ばかり傷つけるの。セドリックは何も悪くないのに。どうして、怒らないの。どうして、レイチェルを責めないの。
どうして、いつも、そうやって、

「……セドこそ」

絞り出した言葉は震えていた。理由もわからないのに、胸がじくじくと痛む。
どうしてこんなときにまで、そんな風にお利口さんなの。いつだってセドリックは清廉潔白で、レイチェルばかりが醜悪だ。セドリックが側に居ると、余計に自分の醜さを突きつけられる。セドリックを避けていたのだって、きっと本当はセドリックのためなんかじゃない。ただ、自分が傷つきたくないからだ。

「セドこそ、うんざりしてるんじゃないの。私が、わがままだから。本当は、鬱陶しいって、離れてほっとしてるんじゃないの」

自分で言っていて、ひどい八つ当たりだと思った。セドリックに限って、そんなことはあるはずない。
けれど実際、嫌われるとしたら、むしろレイチェルの方だとも思う。レイチェルがセドリックを嫌いになる理由なんてないけれど、逆はいくらでも思いつく。
いい子のセドリック。悪い子のレイチェル。小さい頃からいつもそう。悪戯をして怒られるのはレイチェルで、庇ってくれるのがセドリック。わがままに振り回されるのも、一緒に叱られるのも。
本当に、レイチェルと一緒に居ることで、セドリックにとってメリットって何があるだろう?

「誰がそんなこと言ったの」

強い口調に、びくりと肩が震える。声を荒げてこそいないものの、その声は聞いたこともないほど険しくて、温度がなくて────いつもの、セドリックじゃないみたいだ。ピンと糸を張ったみたいに、空気が張りつめる。セドリックは珍しく、本気で怒っているようだった。本気で、怒らせてしまった。

「……違う。誰かに、言われたんじゃなくて……私がそう思ったの」
「どうして」
「だって……私……」

続けようとした言葉は、喉奥でつっかえて出て来てくれない。
何をやってるんだろう。どうして、こうなるのだろう。大切な幼馴染だと、大切にしたいと、そう思うのに。傷ついた顔をさせて、怒らせて。何をやってるんだろう。
ぎり、と唇を噛んで俯けば、セドリックの溜息が降って来た。

レイチェルはいつもそうだ」

そう紡ぐ声は、もう、いつものセドリックで。そろそろと視線を上げれば、声色と同じに、仕方ないなとでも言いたげな表情がレイチェルを見返していた。張りつめていた空気は霧散して、そこに居るのはいつもの優しい幼馴染だった。

「こうやって無理矢理問い詰めないと、何も話してくれない」
「そんなこと……」
「去年の継承者のことだって、嫌がらせのことだってそうだった」

それは、確かにそうだけれど。だって、あれは、セドリックに心配をかけたくなかったからで。嫌がらせのことだって、セドリックが気にすると思ったから。けれど、そんな押し付けがましい言い訳を口にするのは気が引けて視線を泳がせれば、セドリックは困ったように眉を下げた。

「僕はそんなに頼りにならない? 相談する価値もない?」
「そんなこと思ってない!」

セドリックが頼りにならないなんて、そんなことあるはずない。
レイチェルに原因があるときはそれに気づかせてくれて、悪いことをしたら窘めてくれて、落ち込んでいたら慰めてくれて。いつだって親身になって、まるで自分のことみたいに真剣に考えてくれる。
だから、だ。

「だって、私……セドに甘えすぎだから……」

相談に限ったことじゃない。セドリックは、誰かに頼られたら絶対に嫌だとは言わない。いいよって笑って、今みたいに仕方ないなって困った顔をして、何でも受け入れてしまう。だから、甘えてしまう。頼ってしまう。まるでそれが当然みたいに、セドリックに自分の重荷を背負わせてしまう。

「セド、優しいもの。いつも、周りの人のことを気遣って、誰かのために自分ができることはないかって考えてる。なのに……私は、いつも、自分のことばっかり……! 私、セドの隣に居ても、何もセドを助けてあげられないもの」

こらえきれなかった涙が、今度こそ瞼の上から零れ落ちていく。
ああ、ダメ、泣きたくなんかないのに。感情的になんてなりたくないのに。冷静でいたいのに。自制が効かなくなる。どうしよう。また、言うべきではないことを言ってしまう。
セドリックの優しさにつけこんで、感情をぶつけてしまう。

「セドは監督生で、クィディッチのキャプテンで……皆の憧れで、頼りにされてて。それに比べて私は、すごく平凡だもの。ちょっと魔法薬学が得意って以外、何の取り柄もない。それだって、学年で1番ってわけじゃない……。私じゃ、セドの隣に並ぶには相応しくない。釣り合わない。何で、セドリックの1番近くに居るのがあれなんだって、皆思ってる」

あの子達に言われなくても、感じていた。周囲の視線で、態度で、わかっていた。
「あのセドリックが幼馴染なんて羨ましい」。そう言われるたび、幼馴染だから仲良くしてもらえるのよねと────幼馴染じゃなかったらあんたなんか相手にしてもらえないのよと、暗に言われているようで。
それは、きっと、その通りで。幼馴染じゃなかったら、ただのレイチェルとしてホグワーツで出会っていたら、きっとこんな関係じゃなかった。自分でも、そう思うから。

「小さい頃は、一緒に居るのが当たり前だったけど……もう、あの頃とは違うもの。セドはもう、何だって自分1人でできちゃう。もう、私なんて、必要ないでしょ?」

遊び相手はお互いしか居なかったから。だから、仲良くなったのは必然で。けれど、もう、あれから10年もの月日が経った。もう、全てが、あの頃とは違うのだ。
セドリックはもう、レイチェルだけの小さな王子様じゃない。背が伸びて、穏やかに話すようになって、監督生で。レイチェルを置いて、セドリックだけがどんどん大人になっていく。今のセドリックの隣には、レイチェルはもう相応しくない。

小さい頃はいつだって、手を繋いで歩いた。同じ景色を見て、同じ速さで。
でも、今はもう、あの頃とは違う。もう、あの頃と同じには歩けない。

歩幅が違うから、手を繋いで歩こうとすればどちらかが転んでしまう。一緒に歩くのなら、どちらかが合わせなければいけない。レイチェルはもう、セドリックと同じ速さでは歩けない。セドリックも、レイチェルに急がせようとはしない。何も言わずに、自分がレイチェルの速度に合わせてくれる。もっと速く歩けるのに。もっと先に進めるのに、レイチェルに合わせてくれる。レイチェルを待っていてくれる。
それが嫌なのだ。耐えられない。だから、手を離すしかない。置いていかれるのは寂しい。でも、レイチェルを待ってくれなくていい。足手まといになるくらいなら、先に行って。

 

 

レイチェル

セドリックの長い指がレイチェルの頬に触れて、涙を拭う。赤ちゃんじゃないんだから、それくらい自分でできる。ごしごしと手の甲で目元を拭うと、赤くなるからとその手をとられて制された。レイチェルの手を握ったまま、セドリックは真剣な表情でレイチェルを見つめた。

「僕にはレイチェルが必要だよ」

その声があまりにも優しいから、また心を揺るがされる。真に受けてはいけない。きっと、また、レイチェルを気遣った優しい嘘だ。信じちゃダメだ。そうやって今まで、セドリックの優しさにずるずると甘えてきたから、こんな風になってしまったのだから。

「小さい頃、僕が庭の木の上から落ちたことがあったの、覚えてる?」

唐突にそんなことを言いだすセドリックに、レイチェルは怪訝な視線を向けた。
今となってはよく覚えていないけれど、そんなこともあった。セドリックは怪我をしたのに呆然としていて、落ちてもいないレイチェルが大泣きした。けれど、それがどうしたと言うのだろう。

「あのとき、レイチェルは僕のために泣いてくれた」
「そんな昔のこと……!」

セドリックにとっては印象深い思い出なのかもしれない。けれど、それは所詮は幼いレイチェルがしたことだ。15歳のレイチェルが、15歳のセドリックに必要だと言うことはならない。セドリックにとってレイチェルが必要な根拠がそれだけなら、やっぱり今のレイチェルはいらないじゃないか。

「それだけじゃないよ。ハリーポッターがシーカーに選ばれたとき、レイチェルは僕のために怒ってくれただろう」

────それに、スリザリンチームに僕がクアッフルをぶつけられたときも。
続けられた言葉に、レイチェルは戸惑った。だって、それは、セドリックが理不尽な扱いをされても、何でもない顔をしているから、苛立って。無関係のくせに、レイチェルが勝手に怒っていただけで。

「いつだってそうだよ。レイチェルが僕より先に、僕の代わりに泣いたり怒ったりしてくれるから。だから、僕は皆の言う『優しいセドリック』で居られる」

僕だって怒ることもあるし嫉妬もすることもあるよと、セドリックが苦笑した。
そんなの、別にセドリックのためじゃない。自分が悲しかったから、泣いただけだ。自分が腹が立ったから、怒っただけだ。別に、セドリックのためなんかじゃない。そんな風に言ってもらえるようなことじゃないのに。

「皆、僕を買いかぶってるんだ。僕は皆が思うほど、完璧な人間じゃない」

ぽつりと呟かれた言葉に、レイチェルは眉根を寄せた。ああ、まただ。
ハンサムで背が高くて、監督生で、クィディッチチームのキャプテンでシーカーで。誰にでも優しい、王子様みたいなセドリック。レイチェルの自慢の、幼馴染。
他人から見たセドリックは非の打ちどころがないくらい完璧なのに、どうしてかセドリック本人は自分の価値をわかっていない。
自分は特別でもなんでもない、ごく普通の男の子なんだと。そんな風に思いこんでいる。

「時々、たまらなく怖くなる。僕はそんなに素晴らしい人間じゃない。けど、皆の目に映ってるのは、きっと……実際よりも、何倍も美化されてるんだ。皆が見てる『僕』は、本当の僕じゃない」

隣で見てきたレイチェルには、それがたまらなくもどかしい。もっと自分を誇っていいのに、と。
けれど、それは同時にセドリックの美点でもあるのだ。自分が普通だと思っているからこそ、努力できる。自分が普通だと思っているから、周囲に対しても驕らない。

「怖いんだ。いつか、ガッカリされるんじゃないかって……風船みたいに、どんどん浮き上がっていくんだ。そのうちきっと、割れて落ちる。そのとききっと、周りは僕のことなんか見向きもしなくなる」

そう呟く声は、いつになく頼りなげだった。
そんなことはない、と思う。だって、セドリックは別に不必要に過大評価をされているわけじゃない。セドリックが今向けられている羨望は、肩書は、セドリックの努力に対する正当な評価だ。
セドリックは本当に、皆が憧れるのも当然だと思えるような、素晴らしい人間だ。虚像なんかじゃない。誰よりも近くに居たから、レイチェルは知っている。

レイチェルは僕のことを『お利口さん』って言うだろう」

透き通った硝子玉のような瞳に、レイチェルが映っている。レイチェルの手を握る手は、レイチェルのものよりも大きくて骨ばっていて、視線の高さも、声の低さもあの頃とは違う。それでも、その瞳の色は、名前を呼ぶ響きは、あの頃と同じだ。

「ああ言われるたび、安心する。僕はただ……人より少し『お利口さん』なだけなんだって。レイチェルは僕を、ただのセドリックとして見てくれる。レイチェルなら、きっと、僕が何をしてもガッカリしないでいてくれるって。僕がみっともなく転んでも、馬鹿だなって笑ってくれる。レイチェルが糸を持っていてくれるから。だから、僕は宙に浮かんでいても、何とか大丈夫で居られる」

背が伸びて、雰囲気が大人っぽくなって、監督生になって、クィディッチのキャプテンになって。
セドリックが知らない男の子みたいで、どんどん遠い人になっていくようで。自分だけが取り残されていくようで、寂しかった。不安だった。けれど、それは、もしかしたら、セドリックも同じだったのかもしれない。セドリックも、不安だったのかもしれない。

「僕だって、レイチェルに甘えてるんだよ」

レイチェルは知っている。小さい頃から、ずっと一緒に居たから。
5歳の頃からセドリックは優しくて、何でもできるから周囲には気づかれないけど、意外と不器用で、要領の悪いところもあって。自分よりも人のことを気遣って、損ばかりしている。損したくせに、役に立てたならよかったって、にこにこしている。馬鹿みたいにお人好しで、お利口さんで。
そう。お利口さんなところは、今も、あの頃と変わらないの。

「……セド、嫌じゃない?」

声が震える。滲んでくる涙で、視界が歪んだ。
わがままで、甘えたで、5歳の頃からちっとも成長していない。勉強も、何一つ、セドリックに勝てない。そんな自分が好きになれない。好きになれるはずがない。
でも────迷惑だけじゃ、なかったのだろうか。こんな自分でも、ほんの少しは、セドリックの支えになれているのだろうか?

「私、セドの重荷に、なってない?」

馬鹿げた質問だと思った。セドリックが何て答えるかなんて、わかっているくせに。子供っぽくて、馬鹿げていて、ずるくて、卑怯な質問だ。それでも、確かな言葉が欲しくて、聞いてしまう。セドリックの声で、言ってほしいから。

「そんなこと、あるわけないじゃないか」

溜息混じりに言って、セドリックが苦笑する。
もしかしたら、これはまた、レイチェルを気遣った嘘なのかもしれない。けれど、そうだとしても、もう疑うのはやめようと思った。
たとえ嘘でも、思いやりでも、セドリックはレイチェルが必要だと、そう言ってくれるのだから。

レイチェルの言う通り、僕達はもう子供じゃない。いつまでもこのままでは居られないかもしれない。でも、だからこそ……今は、一緒に居ようよ。僕は、レイチェルに側に居てほしい」

その言葉にまた涙腺が緩んできたので、レイチェルは泣き顔を見られないようにセドリックの肩口へと顔を埋めた。泣きじゃくるレイチェルの背中を、セドリックがそっと撫でる。
遠くない未来に、離れてしまう日が来る。レイチェル達は、大人になる。それは、きっと、止められない。けれど、その日はまだ今日じゃない。
いずれ、離れてしまうなら。誰に何を言われても、このままで居よう。周囲の言葉よりも、幼馴染の優しい嘘を信じよう。

隣に居よう。セドリックが、レイチェルから離れたいと望むまでは。

きみがいないとさびしいよ

top


    お返事が早いのはこちら ⇒ Wavebox