あの日以来、前にもましてセドリックを避けてしまう。
授業の終わりを告げる鐘が鳴る。教室の中ぶ楽しげな話し声が満ちていく。とは言え、後ろの方の席で一人授業を受けていたレイチェルは、その輪に加わることもなく、一人黙々と机の上を片付けていた。鞄の中のわずかな隙間に、何とか教科書を詰め込む。立ち上がって持ち手を肩に食い込ませたところで、誰かがレイチェルの名前を呼んだ。もっとも、「誰か」なんて回りくどい言い方をしたところで、声を聞いた瞬間わかってしまう。
「シャールのところに行く? もしそうなら、僕も……」
「あ……えっと……ごめんね、セド。私、フリットウィック教授に質問があって……」
────今は、ちょっと、無理なの。
視線も合わせないまま。歯切れ悪くそう呟くと、レイチェルはそそくさと踵を返した。何か言いたげなセドリックの様子には気づかない振りをして、急ぎ足で教室を後にする。そうして、ローブの裾が翻るのも気にせずに、まだ誰も居ない廊下を駆け抜けた。
教室のざわめきが遠ざかっていく。自分の足音と心臓の音以外、何も聞こえない。そうして突き当たりの角を曲がったところで、ようやくその速度を緩めた。辺りに響く自分の足音が段々と遅く、小さくなる。立ち止まって、弾んだ息を整えるように長く息を吐き出した。
……さっきの態度は、あまりにも露骨すぎただろうか。さすがのセドリックでも、不審に思ったかもしれない。おまけに、セドリックに嘘を吐いてしまった。
……いや、まあ、100%嘘なわけじゃない。フリットウィック教授に質問があるのは本当だ。授業が終わったら聞きに行こうと思っていたのも本当。本当だけれど、別にそんなに急いではいない。少なくとも、愛犬に会いに行って、幼馴染の世間話に付き合う程度の時間の余裕はあるはずだった。それに、さっきの授業だって、わざと予鈴のギリギリに教室に入って後ろの席を選んだりする必要はなかったかもしれない。いつもなら、マグル学の授業はセドリックと一緒に受けているのに。こんな態度をとっていたら、セドリックだってそのうち気がつくだろう。
こんなのはよくないと、頭ではそう思うのに避けてしまう。逃げてしまう。一人でもやもやと悩んでいるくらいなら、ちゃんと話をするべきだとも思う。でも────顔を合わせたくない。
セドリックの顔を見ると、あの日の寄り添う2人の姿を思い出してしまう。セドリックの頬にキスするクロディーヌの横顔を。余裕を滲ませた微笑を。だから、話したくない。
いや、話したくないと言うのは違うかもしれない。聞きたくないのだ。聞きたくないし、知りたくない。
セドリックの進路のことも。クロディーヌのことも、何も。
「クロディーヌが好きなんだ」と。もしも、セドリックにそんな風に打ち明けられたら、どうしたらいい?
────決まってる。応援するのだ。頑張ってね、と。それしか、レイチェルに選択肢はない。いつか、セドリックに好きな人ができたら、そうしようと決めていたじゃないか。
それに、反対する理由だって見つからない。クロディーヌは、美人だし、頭も良いし、おしゃれで、社交的で、女の子達の憧れで────お似合いの2人だと、皆が噂している。
理由なんて、「レイチェルがクロディーヌを嫌いだから」。それだけなのに。
聞きたくない。だって、聞いたら応援しなけなければいけないから。レイチェルにはまだ、その心の準備ができていない。応援できない。クロディーヌと上手くいけばいいなんて、思えない。
セドリックがもし、クロディーヌを好きなら。状況は、本当に簡単で。どちらかが相手の好意に気がつく、それだけでいい。たったそれだけで、クロディーヌが、セドリックの恋人になる。何の障害もない。何の遠慮もいらない。今まではレイチェルのものだった場所に、クロディーヌが当たり前のように立つのだろう。あの、優雅な笑みを浮かべて。そう考えると、心臓を爪で引っ掻かれたみたいな痛みが走る。
そんなのはダメ。そんなのは、嫌。
ひどく身勝手な話だと思う。自分だって好きな人が居るくせに、セドリックがクロディーヌを好きになるのは嫌だなんて。
レイチェルの身勝手。結局は全部、それに尽きるのだろう。セドリックは何も悪くない。セドリックが誰を選んだって、そんなのはセドリックの自由だ。「ただの幼馴染」のレイチェルが口を出す権利なんてない。進路のことだってそうだ。何も言ってくれなかった、なんて不満に思ったけれど、自分だってセドリックに相談なんてせずに勝手に決めた。進路のことも、好きな人のことも、セドリックに話なんてしていない。
そもそも、セドリックがレイチェルに相談したいと思ってくれていたとしても、できなかったはずだ。レイチェルが、セドリックを避けていたんだから。
セドリックは何も悪くない。わかっているのに、溢れ出てくる感情は消えてくれない。
ルーマニアなんて行かないで。
クロディーヌを好きにならないで。
クロディーヌを、選ばないで。
ただの、わがままだ。取るに足らない、くだらない独占欲。小さな子が、おもちゃを取り上げられて泣くのと大差ない。ずっと一緒に居られると信じていた、お気に入りのテディベア。それと同じだ。今まで、近くに居過ぎたから、離れるのが寂しいだけだ。それだけ。
ただの、レイチェルのわがままだ。こんなの絶対、セドリックには言えない。セドリックを困らせるだけだ。いくらセドリックが優しくたって、呆れるだろう。
いや────呆れて、諫めてくれるなら。軽蔑して、距離を置かれる。でも、それならまだいい。
レイチェルの身勝手な言い分を、セドリックが気に病んでしまうのが怖い。
外国なんて行かないでほしい。クロディーヌを恋人にしてほしくない。確かに、それがレイチェルの願いだ。けれど、レイチェルはセドリックを自分の思い通りにしたいわけじゃない。
ずっと一緒に居たい。けれど、セドリックを自分の元に縛りつけたいわけじゃない。
レイチェルがその願いが、セドリックの枷になってしまうのが怖い。セドリックはいつだって、自分よりも他人の気持ちを優先するから。セドリックは、本当に、優しいから。レイチェルが行かないでと縋ったら、夢を諦めてしまうかもしれない。クロディーヌが嫌いだとレイチェルが泣いたら、自分の気持ちに蓋をしてしまうかもしれない。それが怖い。そんなことになったら、絶対後悔する。わがままだって怒ってくれていい。呆れてくれていい。でも、きっとセドリックは、レイチェルの願いを無視できない。セドリックは本当に馬鹿みたいに、優しくて、お人好しで────「お利口さん」だから。
だから、セドリックには何も言えない。何も、知られたくない。
何だか、妙な場面に出くわしてしまった。
つい5分ほど前のこと。レイチェルは図書室に向かおうと廊下を歩いていた。そうしたら、向こうの曲がり角からクロディーヌがこちらへやって来るのが見えた。何となく顔を合わせたくなかったので、思わず隠れるように柱の影へと身を寄せた。そのままクロディーヌが行ってしまうのをやり過ごそうと思ったのだが、クロディーヌはレイチェルとすれ違うことなく、ルーン文字の資料室の中へと入っていった。
それだけならば別にとりたてて気にすることでもないのだろうけれど、クロディーヌは何人かの女の子達と一緒だった。その女の子達と言うのが、あの────セドリックを好きな────レイチェルを目の敵にしている子達だったので、少し気になったのだ。勿論彼女達とクロディーヌが親しい友人だと言う可能性もある。けれど、その表情はとても打ち解けた友人同士には見えなかったし、友達と話をするのにわざわざ人気のない空き教室を、しかも扉に鍵をかけた上に邪魔よけ呪文を使うと言うのは考えづらいように思えた。
もしかしたら、クロディーヌも彼女達に何か言われるのかもしれない。つまり、そう、レイチェルが言われたような、セドリックとベタベタするなとか、そう言うことを。
レイチェルはクロディーヌが嫌いだ。嫌いだけれど────やっぱり1対多数で文句を言う彼女達のやり方は卑怯だと思ったし、万が一魔法の応酬なんかになってしまったら誰かが怪我をする可能性もある。そう考えると、無視して立ち去るのは気が引けた。
「───て───でしょ?」
「あのときの────だから、───して───」
教室の扉を背にして様子を窺う。邪魔よけ呪文のせいで、中の声が聞こえづらい。閉じ切られた扉には窓もついていないから、何を話しているのかさっぱりだ。何だか盗み聞きみたいで気が進まなかったが、状況がわからなければどうしようもない。レイチェルは扉に耳をくっつけるようにして、話し声に集中した。
「セドリックと付き合ってるの?」
リーダー格のグリフィンドール生のその言葉は、何とか聞きとることができた。苛立ちを含んだような響きに、レイチェルは確信した。やっぱりそうだ。クロディーヌもレイチェルと同じで、セドリックの件で彼女達に呼ばれたのだ。
「今はまだかしら。私の予定だと、そろそろそうなるつもりだけど」
対するクロディーヌの声は、落ち着き払っていた。クロディーヌの表情はレイチェルにはわからないが、たぶん、いつも通り、あの美しい笑みを浮かべているのだろう。何となくだけれど、そんな気がした。
また、誰かが何かを話しているようだ。けれど、扉からは距離が離れているのかよく聞こえない。けれど、あまり友好的な雰囲気ではなさそうだと言うことだけは、何となくわかった。
「やめてよ!セドリックは、あなたが今まで付き合って来たような人とは違うの!」
突如、悲鳴のような叫び声が、辺りに響き渡った。どう言った会話の流れかはわからないが、どうやら、クロディーヌの言葉が、彼女達を逆上させてしまったらしい。
先生を呼びに行った方がいいかもしれない。そう考えて、レイチェルは廊下を引き返そうと踵を返した。
「違う?何が?貴方達、彼の何を知ってるの?」
その足が思わず止まってしまったのは、そんなクロディーヌの声が耳に届いたからだった。怒りを押し殺しているわけでもなく、泣きそうに震えているわけでもなく、余裕すら感じさせる声色。無関係のレイチェルでさえ不思議に思うほど、クロディーヌの声には何の動揺もなかった。
「本当に、くだらないわよね?」
レイチェルなら────レイチェルなら、あんな風に一方的に責め立てられたら、理不尽だと怒りを感じる。悲しくなる。悪意のある言葉をぶつけられたら、悲しくて泣きたくなる。けれど、今。クロディーヌの声にはそんな怒りも悲しみも感じられない。嘲り。軽蔑。凛と響く声に滲んでいるのはむしろ、そんな感情だ。「『彼が好き』って、それさえ言えば、全ての免罪符になるとでも思ってるの? それに、何だったかしら……『私と違って、 本気で好き』? それなのにこんな姑息な真似をするなんて、貴方達の本気って随分安っぽいのね。それに、自分達で思ってるほど、綺麗なものでもない。今の顔、鏡で見てみたことある? どれだけご大層な恋心か知らないけど、そんなものを振りかざして、私に指図しないで。何もせずにただ見てるだけしかできないのなら、最後まで大人しく観客で居なさいよ」
息苦しいほどの沈黙が訪れる。痛烈な、けれど残酷なまでの正論に、誰も言葉もないようだった。
レイチェルは、無意識のあたりに胸のあたりに爪を立てていた。それは、レイチェルの中でも燻っていたものだ。レイチェルが言いたかったことだ。でも、レイチェルは言えなかった。
いつだってそうだ。クロディーヌは、レイチェルが飲み込む言葉を容易く口にする。
「小バエみたいに飛び回って他の女を牽制してる暇があるのなら、自分を磨く努力をしたら?」
温度のない声が、淡々と紡がれる。今度こそ、決定打だった。
扉の向こうから、誰かの嗚咽が聞こえる。レイチェルはそれを他人事のように聞いていた。自分に嫌がらせをしていた女の子達がやりこめられていても、何故かむなしさを覚えた。
『セドが好きだからって、何でもしていいわけじゃない』
『私を責める理由に、セドを使わないで』
『邪魔者の私が居なくなったって、セドが貴方達のことを好きになるわけじゃない』
『本当にセドを好きなら、自分が頑張ればいいでしょう』
クロディーヌだから、言えるのだ。美人で、頭が良くて、いつだって自信に溢れているクロディーヌだから。
クロディーヌの言葉だから────きっと、彼女達にも響くのだ。レイチェルではきっと、ダメだった。
────まずい。外に出てくる。バタバタと慌ただしい足音が近づいて来たので、レイチェルは急いで扉から離れた。死角になるだろう近くの柱の影へと身を寄せると、間髪入れずに勢いよく扉が開く。中から飛び出してきた女の子達は、誰もが泣きそうに────あるいは涙でぐちゃぐちゃに歪んでいた。今の喧嘩───と言う表現が正しいのかはわからないが────において、どちらが勝者でどちらが敗者なのかは、あまりにも明らかだった。
走っていく後ろ姿を見送ったレイチェルは、ふうと肩の力を抜いた。結局、何もできずにただ立ち聞きしただけになってしまった。いや、先生を呼ばなければいけないような事態には発展しなかったのだし、よかったのだろう。レイチェルの心配なんて、クロディーヌには余計なお世話だったのかもしれない。
「ねえ。そこに居るんでしょう?」
気づかれないようにその場を立ち去ろうとしたレイチェルの背中に、そんな声が聞こえた。声の主はもちろん、クロディーヌだ。きょろきょろと辺りを見回してみるも、確認するまでもなく辺りにはレイチェルしか居ない。
まさか、気づいていたのだろうか。いや、当てずっぽうで言っているだけかもしれない。
どうしようかと逡巡したが、気づかれていたのなら逃げたところで無意味だろう。踵を返して教室の中へと足を踏み入れると、気だるげに壁へと凭れかかったクロディーヌが、レイチェルを見返した。
「助けに入ってくれないのね」
ブルーグレーの瞳に真っ直ぐに見つめられて、レイチェルはぐっと押し黙った。大事になりそうだったら邪魔に入るつもりだったとか、先生を呼びに行くつもりだったとか言っても、言い訳にしかならないだろう。結果として、レイチェルが何もせずにただ突っ立っていただけだったのは事実だ。
「……ごめんなさい」
「冗談よ。必要ないしね」
素直に謝罪を口にしたレイチェルに、クロディーヌがくすくす笑う。
必要ない────確かに、そうだった。レイチェルには声だけしか聞こえなかったが、あの子達に囲まれても、クロディーヌは気弱になったり、取り乱したりしていなかった。女王のように、悠然と構えていた。
「嫉妬されるのって、そんなに悪い気分じゃないの」
艶やかなコーラルピンクの唇が、弧を描く。
それは、皆に羨まれることに慣れている人の────恵まれた人の言い分だと思った。物語の主人公みたいに、世界の中心に居る人の。同じようにあの子達から責められてもクロディーヌとレイチェルでは違う。「幼馴染だからって特別扱いされているから」「釣り合わないから」そんな理由で責められた自分と、クロディーヌは違う。
レイチェルが黙りこむと、「ああ。そうそう」とクロディーヌは思い出したように言った。
「この間は、ごめんなさいね?」
『この間』。そう言われて思い当たることなんて、レイチェルには1つしかなかった。あのとき────あの日、レイチェルは確かにクロディーヌと目が合った気がした。目が合って、クロディーヌは微笑んだ。あれは、やっぱり気のせいなんかじゃなかったのだ。
「……どうして、謝るの?」
だとしても、クロディーヌが謝るのは不思議だった。だって、別にクロディーヌが謝る理由なんてない。レイチェルはセドリックの幼馴染であって、セドリックの恋人でも何でもない。クロディーヌがセドリックと抱き合おうがキスをしようが、レイチェルへの許可も、遠慮も、何もいらない。
「必要、ないでしょう」
「ええ、そうね。でも、怒ってるみたいだから」
────だから、気に障ったなら謝っておこうと思って。
綺麗な微笑みに、レイチェルは思わず眉根を寄せた。気に障った? それは確かだ。でも、それは───本人の前では言えないが───クロディーヌのことが、苦手だからで。クロディーヌはたぶん、誤解している。
「私……私は、別にセドのことを好きなわけじゃないから」
たぶん、クロディーヌはこう考えているのだろう。レイチェルは、臆病で────あるいはその方がセドリックの側に居られると言う打算で────口に出さないだけで、本当はセドリックのことが好きなのだ、と。あの子達と同じだ。だから、クロディーヌに嫉妬しているのだと、そう考えているのだろう。でも、そうじゃない。それは違う。
「他に、好きな人が居るの」
口の中が妙に乾いている。親友のパメラにもエリザベスにも打ち明けていないことをクロディーヌに告白していると言うのは、何だか不思議な気がした。
そうだ。だから、これは嫉妬なんかじゃない。嫉妬なんてするはずがない。だってレイチェルはウッドが好きなんだから。レイチェルが好きなのは、ウッドなんだから。
「ふぅん」
いかにも信じてなさそうな様子に、レイチェルはぎゅっと拳を握り締めた。手のひらに爪が食い込む。
強情ねと言いたげな、哀れむような視線が不愉快だ。
嘘なんかじゃない。強がりでもない。レイチェルは、幼馴染としてセドリックが大切なのだ。そしてそれは、セドリックもきっと同じで。他人が邪推するようなことなんて、何もない。
「だから……別に、セドに恋人ができても、私には関係ないわ」
「関係ないって顔には見えないけど」
からかうような響きの声に、レイチェルはかっと頭に血が上るのを感じた。思わず感情的に声を荒げそうになって、落ち着けと自分に言い聞かせる。
クロディーヌを前にすると、いつもこうだ。彼女の些細な言動に、感情をかき乱される。胸の奥がじりじりと焼け焦げていくようだ。だから、レイチェルは彼女が嫌いだ。
「まあ、いいわ。後で、文句言わないで頂戴ね?」
クロディーヌが肩を竦める。文句なんて、言うつもりはない。そう言い返そうとして、やめた。別にクロディーヌとの会話をこれ以上続けたいわけじゃない。
文句なんて、言うはずない。レイチェルは確かにクロディーヌが嫌いだけれど、応援なんてできないけれど、セドリックがクロディーヌを好きになったのならそれにとやかく言うつもりなんてない。
クロディーヌがレイチェルの横を通り過ぎる。キラキラ光るプラチナブロンドが、さらさらと肩を流れる。自信に溢れたその横顔を見たくなくて、レイチェルはじっと床を睨みつけた。バタンと扉が閉まる音を耳が拾う。
「何なのよ……」
ぐしゃりと前髪をかき混ぜる。もうクロディーヌは居ないのに、残った彼女のトワレがふわりと香る。胸の中に、濁った感情が渦巻いていた。やり場のない苛立ちに、ぎりと唇を噛む。
どうして、誰も彼もがレイチェルの感情を決めつけるのだろう。大切な幼馴染だと言う関係を、言葉を否定するのだろう。嘘なんて、吐いてないのに。強がりなんて、言ってないのに。
私達のことは、私達にしかわからない。セドと私のことを、勝手に決めつけないで。
────貴方が決めつけないでよ、クロディーヌ。
ささくれ立った気持ちを落ち着かせるように、ふうと息を吐き出す。
……やっぱり、ちゃんと言い返せばよかった。あそこで黙りこんでしまったら、まるでレイチェルがクロディーヌに図星をつかれたみたいだ。少なくとも、クロディーヌはそう思っただろう。
あれじゃあ────あれじゃあまるで、レイチェルがセドリックのことを好きみたいじゃないか。