イースター休暇は困惑のうちに過ぎて行った。
とは言っても、レイチェルはただぼんやりベッドに寝転がって物想いに耽っていたわけではない。そうしたいのは山々だったが、OWL生であるレイチェルには休暇中に仕上げなければならない課題がうんざりするほど用意されている。休暇中とは名ばかりの勉強漬けの日々だ。
空が勿忘草色に澄み渡り、その色を映した湖面がキラキラと輝く。青々と茂った芝が4月の風に揺れていても、レイチェル達5年生にはそれを満喫する権利は与えられていない。朝早くから図書室の席取り合戦は熾烈を極め、空き教室からは呪文の練習が聞こえてくる。あのピリピリした空気が嫌だと言うパメラの主張によって、レイチェル達は自室での勉強を選択したが、やはり1日中室内に引きこもって羊皮紙と向き合う生活は多少なりとも精神に支障をきたす。パメラは日に日にスネイプ教授への呪詛の語彙が豊富になり、エリザベスに至っては、家族からチョコレートの詰まったイースターエッグが送られてくるまで、今が何故休暇なのかすっかり忘れてしまっていた始末だった。娯楽らしい娯楽が少ないので、レポートがちょうど羊皮紙50センチで終わったとか、一度も誤字をせずに書き終えたとか、そんな些細なことでも喜びを見出すことができるようになる。
膨大な量の魔法史の主要な年号を書き出している間にも、レイチェルの頭の中を占めているのは先日での温室での一件だった。直接的に言えば、レイチェルが寝ている間に、ドラコが顔にキスをしたと言う疑惑についてだ。レイチェルにはそれが事実だと言う確信は持てないし、もう一人の当事者であるドラコは黙秘を貫いている。そして目撃者も証言してくれる第三者も居ないので、あくまでまだ疑惑だ。
仮にその疑惑が事実だったとして、その動機は何なのだろうか。
こう言っては何だが、寝ている人間相手に勝手にキスするなんて言うのは、あまり趣味がいいとは思えない。ロジャーならふざけてそう言うこともするかもしれないが、ドラコは違う。たとえ親しい友人が相手でも、気軽にキスをするようなタイプじゃない。パンジーとドラコを見ていると、そんな風に感じる。
だから、何らかの意図があって────キスした、とそう言うことになる。じゃあ、家族でもない異性にキスをしようと思うのはどう言う状況かと言えば、相手に好意を持っている、と考えるのが一般的だろう。だから、そう。つまり────ドラコはレイチェルのことが好きなのだ、と。

ドラコは、レイチェルが好き。

そう導き出された結論に、レイチェルはまたしても首を捻ることになった。何と言うか……それはないだろう、と思うのだ。正直、こんなことを自信を持って言いきるのはどうかと思うのだが────レイチェルには、ドラコに好かれるようなことをした記憶がない。本当にない。一切ない。
思い返すに、そもそも初対面からしてドラコはレイチェルの発言にムッとしていたし、それ以降も何かとレイチェルはドラコの神経に障る発言が多かっただろう。主にマグル関係のあれこれや、マグル生まれの友人のことなんかについて。ミセス・マルフォイがレイチェルの母親の小説の熱心なファンでなければ、レイチェルと積極的に関わりを持とうとは思わなかったに違いない。
顔を合わせるのはそう頻繁ではなかったけれど、意見が対立するのはしょっちゅうだったし、そんなときレイチェルは一度だって「ドラコが正しい」と自分の意見を引っ込めたことはなかった。口論と呼べるほど激しいものではなかったが、その些細な口喧嘩は、どっちかと言えばレイチェルがドラコを言いくるめてしまう事の方が多かったように思う。マグルに関して馬鹿にする発言を聞き流せないレイチェルにも原因はあったのだろうが、憮然とした顔で黙りこんだドラコが去ってしまうことが何度かあった。少なくともあの頃のドラコは、どちらかと言えばレイチェルを苦手に思っていたんじゃないだろうか。
友人と呼べるようになったのだってここ1年ほどのことだ。そして、その前には半年近く絶交状態が続いた。それだって、結局我を折ったのはドラコの方だ。まあ、あれに関してはレイチェルは自分が間違っていたとは今でも思わないけれど。そして友人になってからも、レイチェルはやはりドラコの機嫌を損ねている。笑顔を見た回数よりも、不機嫌顔を見た回数の方が確実に多い。
要するに、記憶をいくら掘り起こしてみても、レイチェルにはドラコが自分を好きになるようなきっかけが思い当たらないのである。
まあ、レイチェルが美人だったら話は違ったのかもしれないが、正直顔立ちだけならレイチェルよりドラコの方が整っている。たった2歳とは言え年上だし、何か共通の趣味があるわけでもない。価値観は合うどころかむしろ真逆だ。自分を言い負かしてばかりの可愛げもない人間を、はたして好きになるだろうか。
そう考えると、やはりドラコがレイチェルを好きだと言う結論は奇妙に思えるのだった。

そもそも、キスされたと言う前提が間違いなのかもしれない。

あのとき、レイチェルは目を閉じていたのだから、実際にドラコが何をしようとしていたのかはわからない。寝ぼけていて夢と現実が曖昧だった上に、何だか妙に夢の内容とリンクしていたから、キスをされたんじゃないかと思ってしまったけれど、事態はもしかしたらもっと単純で────例えば、そう。瞼にゴミがついていて、取ってくれようとしたとか。そんな感じなのかもしれない。
────でも、それならあんなに顔を近づける必要はある? それに、どうして何も言わずに逃げたりしたの? 誤解なら誤解だって言えば済むだけの話じゃない。
それは────えっと……きっと、顔を近づけないとよく見えなかったんだわ。ドラコって、実は目が悪いのかも。逃げたように見えたのは急に用事を思い出したとか。……だとしたら、ドラコの性格なら後から手紙の一通くらい寄こすでしょう? 約束をすっぽかしてそのままだなんて、ドラコらしくない。手紙を出せない事情があるとしても、いくら休暇中だって、食事の時間には顔を合わせないわけじゃないんだから。
……考えれば考えるほど、わけがわからなくなってくる。

「どうしたのよ、レイチェル。溜息吐いて」
「何でもないの……ちょっと、バーベッジ教授に質問に行って来る」

不思議そうな顔をするパメラに苦笑して、部屋を出た。ドアを後ろ手にしたまま、ふうと息を吐く。
こんなこと、誰にも相談できない。
ドラコってもしかして私のこと好きなのかも、なんて。勘違いだったら恥ずかしすぎるし、自意識過剰にも程がある。もしドラコの耳に入って、あのミセス・マルフォイによく似た顔立ちで軽蔑の視線を向けられたりしたら、立ち直れそうにない。第一、誰かに相談したところで答えがわかるような問題でもないのだ。聞くとすればドラコ本人に聞くしかないが────朝食の席でドラコを呼びとめて、「ねえドラコ、あの日もしかして眠ってた私にキスした?」なんて話しかけるのは、あまりにもハードルが高すぎるように思えるのだった。
直接問いただす気も、納得できそうな説明も思いつかないとなれば、これ以上どうしようもない。ぐるぐると思い悩んでいたところで解決するとも思えないし、なかったことにして忘れるのが一番なのだろう。

レイチェル

レイブンクロー塔を下りて、マグル学のある北塔へと向かっていると、ふいに背後から誰かに声をかけられた。それほど大きな声でなくても、人気のない廊下にはやけに響く。レイチェルはその場で足を止めて、振り返った。

「……ドラコ?」

今まさに考えていた人物の登場に、レイチェルは戸惑った。
もしかして、レイチェルを探していたのだろうか?いや、そんなわけない。だって、レイチェルがいつ寮から出てくるのなんてわからないんだから。きっと偶然だ。……偶然のはずだ。

「……少し、時間を貰っても構わないか」

そう言うドラコの表情が、あまりに深刻そうだったから。レイチェルは一瞬、頷くのを躊躇ってしまった。

 

 

 

ドラコが何も言わないので、レイチェルも話しかけられなかった。どこへ行くのかとも尋ねられず、ただ黙って少し前を行く背中を追う。以前もこんなことがあった。ああ、そうだ。クリスマス休暇の始まりの────仲直りした日のことだ。あのときよりも、ドラコは随分背が伸びた。あれももう、1年も前のことなのだ。
レイチェルがそんな感慨に耽る間にも、ドラコは振り返ることなく進んでいく。階段をいくつも下り、城の外へと出て、校庭の脇を横切り────そうして辿りついたのは、いつものあの温室だった。
ガラス扉を開ければ、噎せ返るような花の香りが漏れだす。いつものように奥に据えられたテーブルセットで話をするのかと思えば、ドラコは通路の途中で立ち止まり、レイチェルを振り返った。自然と向き合う形になり、レイチェルもその場で足を止める。ぎこちない沈黙が立ち込めて、レイチェルは気まずさに視線を泳がせた。どうすればいいものかと困惑していると、ドラコが口を開く。

「この間はすまない」

ぽつりと呟く。いきなりの謝罪に、レイチェルは虚をつかれた。この間、と言うのはこの間のことだろう。つまり、ここのところレイチェルが頭を悩ませていた、あの出来事のあった日のことだ。しかし、ドラコは一体何に対して謝っているのだろう。それがわからないことには返事のしようもない。

「この間、って……あの……」

……やっぱり、私にキスしたの?
とは、言葉にできずに口ごもる。そこを確認しなければ話が進まないとはわかっているのだけれど、勘違いだったらと言う不安がどうしても拭えない。戸惑いがちに見返せば、ドラコはふっと表情を緩めた。

「君が、眠っていると思って……魔が差したんだ。忘れてくれ……と言っても、難しいだろうな」

聞かなくても、それが答えだった。ああ。やっぱり、レイチェルの勘違いなんかじゃなかったのだ。自分の意識過剰じゃなかったことにほっとしたのも一瞬のこと。それは、つまり、あの仮定が事実かもしれないと言うことだろうか? 何か言わなければいけないと思うのに、何を言えばいいのかまるでわからない。はくはくと声にならない空気だけが酸素と共に逃げていく。

「こんな風に、言うつもりはなかったんだが」

動揺するレイチェルをよそに、ドラコは落ち着きはらっているように見えた。絹糸のようなプラチナブロンドの隙間から、アイスブルーの瞳がレイチェルを見つめる。その視線があまりに真っ直ぐだから、目が、逸らせない。

「僕は、君が好きだ」

その言葉は、予想していたことのはずなのに。ドラコの口を通して聞いても、レイチェルにはまだ信じられなかった。どこか他人事のようで、まるで現実味がない。
だって、そんなはずない。ドラコが、レイチェルを好きだなんて。好きになってもらえるようなことなんて、何もしてないのに。そんなはずはない。
レイチェルなんかを、好きだなんて、そんなはず、

「初めてだったんだ」

消え入りそうな声が、鼓膜を揺らす。耳を澄ませなければ、聞き逃してしまいそうだった。
青い瞳は伏せられて、長い睫毛が揺れる。俯きがちに視線を落とす姿は、どこか頼りなげだった。まるで、迷子になった子供みたいに。

「誰かと喧嘩をしたのなんて……初めてだった」

ドラコが言っているのは、あのときのことだろうか。
ハーマイオニーを「穢れた血」と蔑んだドラコが許せないと思った。問い詰めても、まるで後悔も反省も見せないドラコとは、もう友人で居られないと思った。ハーマイオニーの友人で居るために、レイチェルはドラコを切り捨てた。ドラコよりも、ハーマイオニーやパメラを選んだ。
それなのに、どうして。

「今まではいつだって……僕の周りは、僕の機嫌を取ろうとする人間ばかりだったから。僕は……僕はいつだって、正しかった。誰も、僕が間違ってるなんて、言わなかった。言って、くれなかった」

それは、レイチェルも感じていたことだった。ドラコの周りのスリザリンの「友人達」は、レイチェルの思うような「友人」とは少し違うように見えた。友情の形なんて人それぞれと言えばそれまでだけれど────何と言うか、対等じゃない。同級生だけでなく、上級生までも、ドラコの顔色を窺っている。スリザリンのコミュニティの中で、ドラコは唯一で、絶対の支配者だ。
大切にされる。いつだって尊重される。誰も、ドラコを否定しない。たとえ、ドラコが間違っていても。
だって、ドラコは「純血」で「マルフォイ家の嫡男」だから。

「父上よりも僕の考えを聞きたいなんて……そんなこと、言ってもらえたのは、初めてだったんだ」

だって、それは、当たり前のことじゃないか。レイチェルの友人は、ドラコなんだから。ルシウス。マルフォイが何を考えてるかなんて、レイチェルにはどうでもいい。
けれど、それはドラコにとっては当たり前じゃなかったのかもしれない。
大切に、大切に、守られている少年。ガラスケースの中の宝石みたいに。水槽の中の熱帯魚のように。雨に打たれないように、誰かに踏みにじられないように。その美しさが損なわれないように。温室で慈しまれて育てられる、薔薇みたいに。その棘で誰かが傷ついたとしても、誰もドラコを責めない。
もしかしたらそれは、レイチェルが思うよりもずっと、孤独なことなのかもしれない。

「君はいつだって、僕をただのドラコとして扱ってくれた」

そう言って、ドラコが見たこともない穏やかな笑みを浮かべるから。レイチェルは、ぎゅっと胸が締めつけられた。
そんな風に、笑わないでほしい。レイチェルは、ドラコが思ってくれるような、優しい女の子じゃない。ただ、わからなかっただけだ。家同士の付き合いなんて、どうすればいいのか知らなかったから。「マルフォイ家の嫡男」と、どう接すればいいのか。わからなかったから、ただのドラコとしか付き合えなかっただけだ。ただ、それだけなのに。

 

 

静寂が辺りを包む。ドラコの顔を真っ直ぐに見れないから、レイチェルはただ俯いて地面に散った花びらを見つめていた。
周囲に満ちる濃厚な花の香りで、頭がくらくらする。何か返事をしなければと思う。けれど、何を言えばドラコを傷つけずに済むのか、わからない。ドラコの言葉を聞いても、まだ信じられない自分もどこかに居た。けれど、だからって「本当に私のこと好きなの?」なんて素直に口に出すのは、それこそドラコに失礼だろう。ああ、もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。
その場しのぎの嘘や誤魔化しで、ドラコの気持ちを踏みにじることだけはしたくない。何でもいいから、きちんと考えて、レイチェルの言葉で返事をしなきゃ。今すぐが無理なら、少し考える時間をもらってでも。不誠実なことはしたくない。ドラコはレイチェルにとって、大切な友人だから。
……そう、大切な友人だ。レイチェルにはドラコと同じ気持ちは返せない。
だって、レイチェルが好きなのは────。

「抱きしめても良いか」
「……えっ?」

一瞬、何を言われたのかわからなかった。そして、理解したところでかあっと頬に熱が集まる。
どうしたらいいものかと視線を泳がせていると、ドラコは勝手にそれを肯定と受け取ったらしい。焦れたように腕を引かれて、バランスを崩したレイチェルはドラコの胸の中へと倒れ込む。思わず石のように体を固くすれば、ドラコが小さく笑いをもらしたので、無性に恥ずかしくなった。仕方ないじゃない、こう言うの慣れてないんだもの。
むっと眉を寄せたレイチェルは、そこであることに気がついた。薄い皮膚を通して伝わってくる、ドラコの体温が妙に熱い。そして、その下で脈打つ鼓動の早さに、レイチェルはようやく理解できた気がした。────ああ。この人は本当に、レイチェルのことを好きでいてくれているのだ。

「こんなことを言っておいて何だが……僕は、君とはずっと、友人のままで居たいと思っているんだ」

擦れた声が、耳朶を掠める。その言葉に、レイチェルは思わず目を見開いた。
好きだと告げられたからには、当然ドラコはその、レイチェルもドラコを好きになるとか、恋人同士になろうとか、そう言うことを望んでいるものかと思った。
ああ、でも、とレイチェルは思った。そうだ。好きだからって、誰もがそう望むとは限らない。レイチェルには、ドラコの言いたいことがわかる気がした。

「僕はきっと遠くない未来で、父上や母上の望む相手と結婚する。マルフォイ家に相応しい、純血の魔女と」

────その相手は、君じゃない。
声には出さなかったが、続く言葉がレイチェルにはわかった気がした。ドラコは家族が大切だから、家族が大切にしている家柄が大切だから────だから、その未来を受け入れるのだろう。たとえ、この先また、ドラコに好きな人ができたとしても。

「僕は……自分が恋をすることなんて、ないと思ってた」

それはきっとドラコにとって、家のために自分の恋を捨てたとか、諦めなければいけなかったとか、そう言う悲観的なことではなくて。大切な家族のために、ドラコは自分の意志でその選択をするのだろう。
大切な家族が大切にしているものを、守るために。

「覚えておいてほしい。僕が、普通に恋をしたこと」

肩口へと額を寄せたドラコが、囁く。
レイチェルは知っている。純血主義のマルフォイ家の一人息子で、高慢で、いかにもスリザリンらしくて────けれど、ドラコは、繊細なところもあって、家族想いで、優しい普通の男の子だ。
ふいにレイチェルの脳裏に、いつかドラコに言われた言葉がよぎった。

『君はいつも、そいつの話ばかりだな』

そう言われたのは、いつだっただろう。
いつからドラコは、レイチェルのことを好きで居てくれたのだろう。もしかしてあのときには、既にそうだったのだろうか。
わからない。レイチェルには、何もわかっていなかった。

「ごめんなさい……」

好きで居てくれたなんて、知らなかったから。レイチェルはきっと、どうしようもなく無神経だった。
きっと、知らないうちに、たくさんドラコを傷つけていた。
罪悪感に俯けば、ふっと耳元でドラコが笑う気配がした。

「謝らないでくれ」

ドラコの腕が、体温が、離れて行く。何事もなかったみたいに、また元の「友人」の距離へと戻る。
男の子にしては細い指が、レイチェルの髪に触れる。大人びた笑みが、優しいまなざしが、レイチェルを眩しそうに見る。

「君が僕のことを、ただの友人としてしか見ていないことなんて、わかっていた。だから、君を好きになったんだ……君は、僕に好かれようとしないから」

「ありがとう」も。「ごめんなさい」も。
そんな返事なんてなくても、ドラコはきっと、レイチェルの気持ちがドラコに向いていないことなんて、わかっているのだろう。ずっと前から、わかっていたのだろう。

「……あの幼馴染が好きなんだろう?」

そうして穏やかな声で紡がれた言葉に、レイチェルは戸惑った。まるで、それがごく当然のことだと言いたげな響きに。
────「あの幼馴染」。レイチェルにとって、その言葉が指し示すのなんて、ただ一人しか居ない。

「違う」

自分で思った以上に強い口調に、レイチェルははっとした。驚いたように目を見開くドラコから、気まずさに視線を逸らす。
そんなにむきになって否定することでもないのかもしれない。でも、違う。レイチェルが好きなのは、セドリックじゃない。
セドリックじゃない。レイチェルが好きなのは────。

「……違うの」

それは、自分を好きだと言ってくれるドラコへの遠慮だったのかもしれないし、もしかしたら、他の理由だったのかもしれない。
何にしろ、言葉は喉元で引っかかったまま出て来なくて。

自分は、ウッドが好きなのだと────何故か、言えなかった。

アクアリウムの孤独

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