「ねえ、ジニー」
「何? レイチェル

さっきからちょっと様子が変よと、隣に座るジニーが怪訝そうな顔をする。自分でも挙動不審だと言う自覚はあったので、レイチェルは苦笑した。聞きたいことがあったのだが、なかなか切り出せなかったのだ。レイチェルは躊躇ったが、とうとう聞いてみることにした。ジニーにこんなことを聞くのは気が進まなかったのだが、仕方ない。

「ジニーは、お兄さんに恋人ができたときって、祝福できた?」

唐突な質問に驚いたのか、ジニーはぱちぱちと瞬きをした。その顔を見て、やっぱり急にこんなことを聞くのは奇妙だろうと、レイチェルはどこか後ろめたいような気持ちになった。しかし、他に聞けそうな人が居なかったのだ。

「ビルの彼女が初めて家に遊びに来たときは、ちょっと嫌だったなあ」
「ビルって……一番上のお兄さんだっけ?」
「そう。確か、ビルが6年生のときだったと思うけど、付き合ってた彼女を夏休みに家に招待したの」

それが嫌だったと溜息を吐くジニーに、レイチェルは少しほっとした。ジニーはレイチェルの質問の意図を詮索するつもりはないらしい。そして、どうやらレイチェルが求めていた答えが返って来そうな気がした。

「どうして嫌だったの?」
「何だろう、別に……意地悪されたとかじゃないの。むしろビルの妹だからって優しくしてもらっけど。何て言うか……それに対しても、馴れ馴れしくしないでよって思ったし……だって、まるで私がちっちゃな赤ちゃんみたいな態度なんだもの!」

ジニーがキッと目を吊り上げる。レイチェルはビルが何歳なのかよく知らないが、チャーリーがジニーと大体10歳離れていて、ビルはその上で、そのビルが6年生────と言うことは、そのときジニーはせいぜい5歳くらいだったんじゃないだろうか。10歳も下の女の子なら、つい子供扱いしてしまいそうな気がするけれど。レイチェルが何とも言えず曖昧に笑みを浮かべると、それに、とジニーは続けた。

「彼女の前だと、ビルが知らない人みたいで嫌だったな。今思うと、ビルを取られそうな気がして寂しかったんだと思う。そんなことないって、今ではわかってるけどね」

ああ、何だか、わかる気がする。
レイチェルはほっとした。実はエリザベスにも同じ質問をしてみたのだけれど、エリザベスは兄の恋人の存在は全く気にならなかったと言うのだ。兄妹と言うのはそんなドライなものなのかと不安になったが、やっぱり個人差があるものなのだ。

「まあ、単純にその人が気に入らなかったってのもあるわ。もしかしたら、自分の姉になるかもしれない人なのよ? 私が認められる人じゃなきゃダメ。これからだって、ビルがロクでもない女を連れてきたら、叩きだしてやるわ」

ビルはハンサムだから変な女に騙されたら困る、とジニーが眉を寄せる。お兄さんが好きなんだろうなと微笑ましくなるのと同時に、何だか引っ掛かるものがあった。まるで、兄はビル1人しか居ないような言い草だったからだ。

「……チャーリーは?」
「チャーリーが雌のドラゴンを連れてきたらって話? そもそも家に入れないわよ、燃えちゃうじゃない」

しれっとそう返すジニーに、レイチェルは一瞬ぽかんとした後、おかしくなってくすくす笑ってしまった。笑っちゃチャーリーに悪いような気はするけれど、こう言う時、やっぱり、ジニーってフレッドとジョージの妹だと感じる。

「ビルの3人目の彼女は優しい人だったから好きだったな。ビルがエジプトに行くことになって、別れちゃったけど」

残念だった、とジニーは溜息を吐く。
ジニーの言葉で、レイチェルは今の自分の感情が整理されていくような気がした。
恋人と言う大事な存在ができることで、自分がないがしろにされるんじゃないかと寂しい。
自分も好きな相手なら祝福できるけれど、自分が嫌いな相手だと嫌な気持ちになる。
結局、そう言うことなんだろう。だから、そう─────このもやもやは、たぶんごく自然なことなのだ。だって、セドリックはレイチェルにとって兄妹みたいなものだ。それに、セドリックに今まで親しい女の子が居たことはないし、レイチェルだって彼女のことは元々苦手だったのだから。もしもこれが彼女ではなくエリザベスだったりしたら、また話は違っただろう。それだけの話だ。何もおかしなことはない。

────もしも、クロディーヌがセドリックの恋人になったら。

そう考えると、何とも言えない嫌な気持ちが胸に渦巻く。想像だけでこんな気持ちになるのは自分でも不思議な気がした。
まだそうなると決まったわけじゃないと、自分に言い聞かせてみる。そうなってから、考えればいいじゃない。それに、たとえクロディーヌがセドリックを本気で好きになったとしたって、恋人同士になるかどうかはまた別の話だ。そう思うのに、もやもやは消えてくれない。
セドリックがクロディーヌを好きになったらどうしよう。そうして、ある日、はにかんだ表情のセドリックに、僕の恋人なんだと紹介されたら?
そう考えるとたまらなく、不安になるのだ。

 

 

 

そんなレイチェルの憂鬱も、週末には少し浮上した。楽しみにしていたクィディッチの試合があるからだ。レイチェル達レイブンクローとグリフィンドールの試合。レイブンクローはスリザリンに次いで現在2位だが、この試合でグリフィンドールに勝てば優勝が近づく。グリフィンドールは勿論手強い相手だが、前回の試合でシーカーのハリー・ポッターの箒が折られて以来まだ箒を新調していないと聞くし、学校の流れ星や借り物の箒で済ませるのならば、レイブンクローの勝利は間違いないだろう。
うきうきしながら大広間へ朝食を食べに行くと、なぜか、グリフィンドールのテーブルの周りに人だかりができていた。

「すっごいよ! 僕、本物見たの、初めてだよ!」

一体何があったのかと先に来ていた下級生に尋ねてみれば、頬を紅潮させてそんな返事が返って来る。どうやら、ハリー・ポッターがニンバス2000に代わる箒を新調したのだと言う。その箒と言うのが何と、ファイアボルトだと言うのだ。

「ファイアボルト? 何それ?」
「お兄様が使ってるわ。最高級って言われてる箒よ」

訳がわからないと言う顔で首を傾げるパメラに、エリザベスが答える。
ファイアボルトって、あのファイアボルトだろうか? 夏休みにセドリックやウッドが称賛していた、あの箒?
……ああ、うん、あの箒らしい。人垣の中心でセドリックがハリー・ポッターと話していた。その表情は、確かにあのときと同じだ。

「よくわかんないけど、要するにプロ用ってこと?」
「私、ダイアゴン横丁で見たわ。すっごく高価だったはず。えっと……確か500ガリオンとか……」
「たかが箒一本に!?」

いまいちピンと来ないらしいパメラにレイチェルも補足すると、パメラがぎょっとしたように叫ぶ。500ガリオンなんて大金を箒に使うなんてレイチェルの感覚ではちょっと信じられないが、ハリー・ポッターの家ってお金持ちなんだろうか。あれ、でも、確かフレッドとジョージが、ハリー・ポッターの親戚は彼を冷遇していると聞いたような────。

「いいよなー、ファイアボルト。俺だって欲しい。一度でいいから乗ってみてーよ」

そんなことを考えていると、レイチェルの前の席に誰かが座った。ロジャーだった。どうやら、ファイアボルトを近くで見て来たらしく、非の打ちどころのない箒だったと悔しそうに呟く。ファイアボルトの存在で忘れていたが、レイブンクローはあと30分後にはその素晴らしい箒を相手に戦わなければいけないのだった。

「学生のクィディッチリーグにファイアボルトって、反則だろ。ニンバス2001どころの騒ぎじゃねーよ」
「……あの、でも、ほら、クィディッチは箒の性能だけで決まるわけじゃないし……」
「乗ってるのがあのハリー・ポッターだぜ?」

レイチェルの慰めにも、ロジャーは険しい表情だ。ロジャーの深い溜息に誰も何も言えず、レイブンクローのテーブルには沈黙が落ちた。
今となってはあまり話題にならないが、ハリー・ポッターは100年ぶりに例外的に1年生でシーカーに抜擢された類まれな才能を持つ選手だ。それが、現時点で最高と言われる箒に乗るなんて。

「とは言え、勝機が全くないわけじゃないわ。スピードで勝つのが難しいのなら、そのスピードを出させなければいいんだもの。見てて」

ロジャーの隣に座ったチョウが、ニッコリ笑ってみせた。
そう言えばチョウとハリー・ポッターが直接対戦するのって初めてなんじゃないだろうか。一昨年はハリー・ポッターはレイブンクロー戦には欠場していたし、去年は継承者騒動で試合そのものがなくなってしまった。一体どんな試合になるのか、楽しみだ。

「さて始まりました、グリフィンドールVSレイブンクロー! 毎度のことながら実況は私、リー・ジョーダンでお送りします!」

大勢の観衆が見守る中、試合は始まった。客席にはほんのわずかな隙間すらないほどに混雑している。ファイアボルト見たさに、全生徒が見に来ているのではないかと思うほどの賑わいだった。レイチェルもレイブンクローの生徒達に混ざって、熱心に応援の旗を振る。
ファイアボルトの性能は確かに素晴らしいのだろう。地面を蹴ったときの上昇、上空での旋回。競技場の端から端までの横断。どれを取っても、明らかに速い。そして動きも美しく、滑らかだ。
しかし、レイブンクローも健闘していた。試合が始まってから15分ほど経ったが、さっきからチョウは上手くハリー・ポッターの進路へと入り込み、その飛行を妨害している。方向転換と加速を同時にやるのは難しい。せっかくのファイアボルトだが、ハリー・ポッターはチョウの動きによって自分の思うように飛べていないようだった。加えて、ビーターもハリー・ポッターを集中的に妨害しているようだ。そして、どちらかのシーカーがスニッチを捕まえるのを長引かせ、チェイサーができるだけ点を稼ぐと言う作戦らしい。とは言え、アンジェリーナ達グリフィンドールのチェイサー陣の実力も確かなので、得点板の数字はさっきから目まぐるしく変わっている。グリフィンドールがリードとしたと思ったら、レイブンクローが巻き返し、レイブンクローが20点入れたら、グリフィンドールも入れ返す。シーソーゲームだ。

「あれは一体何なんだ?」

そんなとき、誰かが叫んだ。レイチェルもつられて視線を向けた。レイブンクローの応援席から見て、競技場の真下に何か────何か、としか言いようがない。ゴールポストよりも手前の地面に、何か、3つの黒い影のようなものが蠢いている。

「またディメンター?」
「それにしては、何か変だ」

周囲も気づいてざわめき出す。黒い頭巾を被った、背の高い影は確かに遠目には吸魂鬼のように見える。けれど、こんな近くに吸魂鬼が居る割には、あのゾッとするような寒気もないし、気分も悪くない。不可解だと首を捻っていると、誰かが叫んだ。

「ポッターがスニッチを見つけた!」

上空に金色のものが光っていた。ハリー・ポッターが急加速で上昇し、チョウもそれに続く。けれど、追いつけそうにない。あまりにもファイアボルトが速すぎる。
ふいに、ハリー・ポッターはローブから杖を取り出して、何か唱えた。杖から飛び出した銀色の大きな靄のようなものが勢いよく競技場を横切ったかと思うと、黒い影らしきものへと向かった。そしてその直後、試合終了のホイッスルが鳴り響いた。グリフィンドールの勝利だ。
競技場は大歓声に包まれた。レイチェル達レイブンクローの応援席からは思わず溜息が出たが、それでも誰もが惜しみない拍手を送った。素晴らしい試合だった。悔しいけれど、誰が見ても文句なしの、完璧な勝利だ。
競技場にはグリフィンドールの応援団がなだれこみ、ハリー・ポッターを取り囲んでいる。手が痛くなるまで拍手をしたレイチェルは、ふうと息を吐いた。そうだ、先ほどの吸魂鬼らしき影はどうなったのだろう。

「おい、あれ、フリントじゃないか?」
「他にも居る。皆スリザリンの奴らだ」

周囲も同じことを考えたらしく、口々にそんなことを言い合っていた。どうやらあの黒い影は本物の吸魂鬼ではなく、吸魂鬼の振りをした人間だったらしい。
ハリー・ポッターの魔法で驚いたのか、転んで折り重なっている。ローブももつれたらしく、何とか脱ごうともがいていた。その姿がまるでコメディのようだったので、周囲は笑いに包まれた。が、レイチェルは嫌な予感がした。ローブの中でもがいているプラチナブロンドに、見覚えがあったからだ。

レイチェル?大丈夫? 顔色が真っ青だわ」
「ええ……」

マクゴナガル教授の怒声が、観客席にまで響き渡る。ローブから這い出てきたのは、やっぱりドラコだった。ふてくされたようにマクゴナガルの言葉を聞いている。レイチェルは一瞬、ドラコと目が合った。ドラコは驚いたように目を見開いたが、すぐにニヤッと笑ってみせた。しかし、レイチェルが笑い返さずにいると、ばつが悪そうに目を逸らした。
ドラコは、何をする気だったのだろう。ただの悪ふざけかジョークのつもりだろうか? 前回の試合で、ハリー・ポッターが吸魂鬼のせいで箒から落ちたのを知っていて?
スーッと胃のあたりが冷えていく。周囲の歓声が、やけに遠いような気がした。

 

 

 

試合後の競技場は興奮に包まれ、生徒達が城に戻ってもそれは続いていた。
グリフィンドールがまた優勝候補に返り咲いたこと。ファイアボルトの素晴らしさ。そして、それを見事に乗りこなしていたハリー・ポッターへの称賛。
そして、ハリー・ポッターに妨害工作をしようとして返り討ちにあった馬鹿なスリザリン生達。その上、皆の嫌われ者のスリザリンが50点も減点された!
周囲は楽しげな笑い声で溢れていたが、レイチェルはとても楽しい気分にはなれそうになかった。

レイチェル。待ってくれ」

早足で歩くレイチェルを、ドラコが追いかけてくる。どうやら、マクゴナガルのお説教は終わったらしい。聞こえてはいたけれど、レイチェルは返事をしなかったし、足を止めることもしなかった。今は、ドラコと話したくなかった。口を開いたとして、冷静で居られる自信がない。

「待てよ」

ドラコがレイチェルの腕を乱暴に掴む。思わず痛みに声を上げると、その力は少し緩んだ。けれど、手を離してはくれなかった。その場へと縫い止められてしまったレイチェルは、渋々ドラコを振り返る。けれど、目は合わせなかった。顔を見ればあらゆる感情が溢れだしてきそうだったからだ。

「私……私、貴方のこと友達だって思ってたわ」

レイチェルはドラコが好きだった。以前はよそよそしかった母親との仲が、今のように────簡単にでも進路を相談できるような関係になったのは、ドラコのおかげだから。感謝していた。たとえドラコが、レイチェルの最も嫌う価値観を持っていたとしても。

「貴方は、少し人に誤解されやすい……傲慢な振る舞いをするけど、貴方が家族想いで、優しいところがあるって知ってるから。そんなところが、好きだなと思ったから。貴方が……貴方が純血主義なのは、そう言う価値観が正しいって教えられたからだって、知ってたから」

優しいところもあると知っていた。自分の決めた枠の外の相手には残酷だけれど、その中に居る相手には、優しいのだと知っていた。
ドラコの純血主義をレイチェルは認められない。けれど、レイチェルだって、ドラコのような環境で育ったら、そうなったかもしれないと思った。何より、一度仲違いをしたとき、ほんの少しでもドラコが歩み寄ってくれたのが嬉しかったから。だから、目を瞑ろうと思った。悪いところには目を閉じて、ドラコの良いところに目を向けようと思った。まだ、友達で居ようと思った。

「貴方が何を思ってこんなことをしたか、私は理解できないし、したくない」
レイチェル
「貴方がハリー・ポッターを嫌いなのは知ってたけど、いくら何だってあんまりよ」

けれど、これは────これは流石に、見なかったことにはできないと思った。今度こそ、限界かもしれない。魔法使いだとか、マグル生まれだとか、価値観がどうこうの問題じゃない。
レイチェルは顔を上げて、戸惑った表情のドラコを真正面から睨みつけた。

「ハリー・ポッターを笑いものにしたかった?グリフィンドールが負けて、彼が恥をかけばいいって?そのために、あんなことを?箒から落ちて死ねばいいって、本気でそう思ったの?」

ぶかぶかのローブの中でもがいているのがドラコだと気づいたとき、レイチェルは血の気が引いた。
何事もなかったから皆笑っていたけれど、ひとつ間違えたら死んでいたかもしれなかった。あまりにも卑劣で、最低だ。怒りもあったけれど、失望の方が大きかった。
レイチェルだって以前はハリー・ポッターを嫌っていたのだから、彼にもいいところがあるなんてドラコに説くつもりはない。けれど、いくら嫌いな相手だからって、ドラコのしたことは許されないことだ。

「そうならあなたは最低だし、そうじゃないならあまりにも考えなしすぎる」

これでドラコが離れていったとしても、それでいいと思った。
結局ドラコは何も変わらないのかもしれない。
謝罪をしてくれたから。歩み寄ってくれたから。だから、仲直りしようと思った。あれはきっと、ドラコにとってはとても大きな一歩なのだろうと、わかったから。だから、応えたかった。レイチェルの価値観に理解を示そうとしたドラコを、拒絶するなんてできなかった。踏み出したことを、無駄だとは思ってほしくなかった。
いつか、ドラコが純血主義なんて馬鹿げていると気づいてくれることを期待していた。けれどそんなのはレイチェルの馬鹿げた夢で、きっとどれだけ待ったところでそんな日は来ないのだろう。

「……泣いてるのか」
「泣いてないわ」

かろうじて涙が零れてはいないが、泣きそうなのは事実だった。滲みそうになる涙を、瞬きで追いやる。顔を見られたくなくて、俯いた。泣いてしまえば、ますます冷静で居られなくなると、レイチェルはぎゅっと唇を噛みしめる。

「……ごめん」

ドラコがぽつりと呟いた。まさか謝罪が降って来るとは思わなかったので、レイチェルは思わず顔を上げた。聞き間違いだろうか?それとも、自分の都合のいい妄想? けれど、真正面から見つめたドラコの表情は真剣だった。緊張の糸が切れて、引き締めていたはずの表情がくしゃりと歪む。

「……私に謝られても困るわ」
「でも、泣かせた」

ドラコが謝るべき相手は、レイチェルではない。レイチェルがドラコの言動で傷つこうが泣きわめこうが、ドラコのしたことに比べたら何でもない。自分の非を素直に認めることができるのならば、レイチェルよりもハリー・ポッターに謝るべきだ。

「ごめん」

腕を掴んでいた手が離れる。そうして不器用な手つきで、レイチェルの髪を撫でた。
こんな風に、レイチェルには優しいから。本当は優しい男の子なのだと、知ってしまったから。だから、どうしていいかわからなくなる。

きっと、この先も、ドラコと分かり合えることなどないのだろう。

レイチェルはマグルが好きだし、マグルの文化も好きだ。マグル生まれの友人が居て、親友も居る。ドラコのように、純血主義の思想を持つことはきっとない。
一方、ドラコはマグルを蔑んでいる。この先も純血名家の出身ばかりのスリザリン生の中心であり続けるのだろうし、あの純血主義の父親の背中を追うのだろう。
目をつぶって見ない振りをしていれば、友人で居ることはできる。今までが、そうだったように。けれど、それでも、こうして軋轢が生じてしまう。いずれまた、同じことが起きるだろう。そのときは今度こそ、終わりかもしれない。そうでなくとも、きっといつか、別れの時が来るだろう。レイチェルとドラコは、お互いが見ている世界が、目指すものが、あまりにも違いすぎるから。
お互いがお互いの我を通そうとするのなら、いつまでも友人では居られない。いや、そもそもこんな関係は、本当の友人とは呼べないのかもしれない。どちらかが折れるか、そうでなければ離れるしかない。一緒に居たって、お互いに傷つくだけだ。

わかっているのに。それでも、嫌いになれない。

空の魚、海の鳥

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