「なんだか随分あっと言う間だった気がするわ」

壁に掛けられたカレンダーを見上げながら、レイチェルは小さく溜息を吐いた。
砂時計の砂が落ちていくみたいに、時間と言うのは着実に、そして確実に過ぎて行くものだ。教科書と羊皮紙とインクに埋もれているうちに、レイチェルのイースター休暇は気がつけば残りわずかになってしまっていた。カレンダーの一番新しい×印の横にはエリザベスの几帳面な文字が書かれている────「新学期」。明日からはまた、いつも通り授業が始まってしまう。

「ねえエリザベス、魔法史のレポートの〆切って明後日でいいのよね?」

座った状態のまま、重心を後ろへと移す。ギイと椅子の足が斜めに傾いだ。ちょうど書き終えたばかりのレポートを読み返しているところだったが、どうにも目が滑る。舌の上で転がるキャンディーが甘酸っぱい。集中を切らしてしまったレイチェルがそう質問を投げかけると、隣の机で何やら暗記をしていたらしいエリザベスがノートから顔を上げた。

「ええ、そうよ。……レイチェル、その後ろから7行目のところ、年号が間違ってるわ。グローガン・スタンプの『ヒトたる存在』を容認したのは1817年じゃなくて、1811年よ」
「え? ……あ、本当だわ。ありがとう、エリザベス」

どうやらレイチェルのレポートが見えたらしい。エリザベスの指摘に間違っていた箇所を修正し、レイチェルは今度こそ羽根ペンを置いた。これでどうにか休暇中に出されていた課題は終わりだ。魔法史はいまひとつ苦手な科目なせいで、ついつい後回しになってしまった。
結局ホグズミードに1回行った以外は、ほとんど毎日寮に引きこもって勉強漬けだった。せっかくの休暇なのにと思う気持ちがないわけではなかったが、実際そこまで悲観することもなかった。だって別にこの休暇で遊べなかったのはレイチェルだけじゃなかったからだ。それに、勉強漬けとは言ってもお茶をしたりゲームをしたり、ちょっとした息抜きをする時間はあったのだし、遊んでいたらいよいよ課題が終わらずに泣きべそをかくことになっただろう。そこまで考えたところで、反対側の隣側からバシンと大きな音がした。

「ああ、もう! 全然終わんない!」

振り向くと、どうやらパメラが教科書を投げ出した音だった。どうやら課題に行き詰ってしまったらしい。イライラと叫び上げたパメラに、レイチェルは苦笑し、エリザベスは心底呆れたと言う表情で溜息を吐いた。そんな二人の反応が気に入らなかったのか、振り向いたパメラがむっと眉を寄せる。

「笑わないで、レイチェル! それにエリザベスも、その顔やめてよ!」
「こんな顔をしたくもなるもの。だから、私、言ったはずだわ。遊びたいのなら、先に課題を終わらせてからにするべきだって」
「失礼ね、あとはこれだけよ! 他はちゃんと終わらせたわ! トレローニーが悪いのよ!こんな、こんな馬鹿馬鹿しいくせに時間ばっかりかかる課題を出すから!」

……ああ、また始まった。ヒートアップする2人の言い合いを聞きながら、レイチェルは床へ落ちてしまったパメラの課題を拾い上げた。羊皮紙には複雑な星座図と、そしてそこから読み取れるらしいパメラの運命が記されている。来月2回も階段から落ちることになっているようだけれど、大丈夫だろうか。

「大変ね」

レイチェルはマグル学選択なので占い学は受けていない。けれど、どうやら毎度毎度課題が大変そうと言うか、手間がかかりそうだなと言う印象だった。でっち上げでどうにかなるとアンジェリーナが言っていたけれど、でっち上げすらもそれなりに時間がかかりそうだ。少なくともパメラの目論見どおり「30分くらいでチャチャっと」は終わらなかったのだろう。そんな風に納得するレイチェルに、パメラが生気のない目を向けた。

「……マグル学の課題はどんななの?」
「えっと、『マグルと水の歴史』に関するレポートよ。ローマの水道とか、あとダムとか浄水場とか……」
「あー、もう!本当、マグル学にしとけばよかった!」

レイチェルにとってはとても興味深い課題だったのだが、やっぱりマグル生まれのパメラからすれば簡単なテーマらしい。頭を抱えて苦悩するパメラに苦笑しながら、レイチェルはふとあることを思い出した。マグル学と言えば。

レイチェル。どこ行くの?」
「バーベッジ教授のところ。試験範囲について質問があったの、思い出したの」
「まだ休暇中なのに!?」

信じられないと言いたげなパメラの言葉を無視して、レイチェルはマグル学の教科書とノートを鞄に入れ立ち上がった。確かに休暇中だとは言え、試験までそう時間はないのだ。ぼんやりしていられない。
今年こそセドリックに勝って、マグル学で1位をとる。それがレイチェルの目下の目標であり、野望だ。

 

 

「貴方のように熱心な生徒が居るとは、正直この職に就く前は期待していませんでした」

教授の私室と言うのは、基本的にはその担当授業が行われる教室と隣接している。つまり、バーベッジ教授の私室は他にはあまり主要な部屋や設備のない北塔に位置する。人気のないそんな場所を物好きにも訪れたレイチェルを迎えたのは、困惑したようなバーベッジ教授の言葉だった。

「あー……その……すみません。教授だって休暇中なのに」
「迷惑と言う意味ではありませんよ。だとしたら貴方が部屋をノックした時点で居留守を使っています」

遠回しに、いきなり部屋を訪ねたことの無礼を咎められているのだろうか。レイチェルはさっと顔を赤くして俯いたが、その可能性はバーベッジ教授自身によってあっさりと否定された。レイチェルの手にある教科書を取ると、慣れた手つきでパラパラとページを捲る。

「それで、質問の試験範囲ですが、貴方の考えた通り13章は入りません。授業では一応軽く説明はするつもりですが」
「ありがとうございます」
「……本当に、貴方とディゴリーは熱心ですね。まあ、ディゴリーの場合は性格もあるんでしょうが」

バーベッジ教授は不思議そうに呟いた。その読みは当たっている。マグル学だけに力を注いでいるレイチェルと違って、セドリックはどの科目に対しても全力を注いでいる。しかし教授の前で自分に手抜きの教科があると認めるのは躊躇われたので、レイチェルは曖昧に笑みを浮かべた。バーベッジ教授が溜息を吐く。

「私自身はマグルの文化は個人的には非常に学ぶ価値のあるものだと思っていますし……まあ、だからこそこの職を引き受けたんですが……正直、単位を取るのが楽そうだからと受講した生徒が多いでしょう」
「あー……それは、そうかもしれません」

多くの生徒にとっては、マグル学こそがその手抜き科目だ。バーベッジ教授の授業が面白いから興味が出てきたと言う同級生も多いようだけれど、元々レイチェル達が授業を選択したときは2年生のときのイースター休暇で、そのときはまだこの科目はクィレル教授の担当だった。生徒間でのマグル学の認識が、マグルに近しい生徒にとっては「退屈な科目」、そうでない生徒にとっても「簡単に単位を取れる科目」だったことは否定できない。

「純血主義の風潮は廃れてきているとは言っても、マグルを本当に対等に見ている魔法使いはまだまだ少数派ですからね。まあ、『魔法があれば必要がないものだ』と言うのももっともなので、仕方がないと言う側面もありますが」

バーベッジ教授の声は、何だか少し寂しそうな響きを持っていた。確かに、マグルを蔑むまではいかなくても、多くの魔法使いは無意識のうちにマグルを自分達より下に見ている。こちら側の世界の存在に気づかない、無知な存在。ドラゴンやケルピーなど、あらゆる危険なものから保護してやらなければいけない存在。魔法が使えない、哀れな存在。でも。でもだ。

「私は……魔法が使えないのに、魔法と同じくらい、いえ、もしかしたら魔法以上に文化を発展させているところがすごいと思います。今回のレポートをまとめていても思いましたけど、どうしてこんなことを考えつくのかしらって感心するような素晴らしい発明がたくさんあるもの」

頭の中に、クリスマスに見たマグルの町のイルミネーションの残像が煌めく。電車の自動改札機。夏に見た、舗装されたアスファルトの道路に行き交う様々な自動車。レイチェルにはあんな素晴らしいものは考えつかない。あんな風に、形にできない。魔法は使えなくても、マグルには魔法使いには見えないものが見えている。魔法以外の方法で、魔法使いと同等に自分達の生活を豊かにしている。魔法使いの知らない知識を持っている。自分達がマグルより優れているなんて言うのは、魔法使いの思い上がりだ。
にっこり笑ったレイチェルを、バーベッジ教授は驚いたように見つめていたが、やがてふと思い出したように言った。

「ミス・グラント。マグルの家庭にホームステイすることに興味はありますか」
「ホームステイ?」

レイチェルがおうむ返しに呟くと、バーベッジ教授は頷いた。本棚に向かって軽く杖を降ると、数枚の羊皮紙がこちらへと呼び寄せられる。どうやら、パンフレットのようだった。マグルの住居の一室らしき空間を背景に、目覚まし時計を分解する青年が写真の中で満足そうに笑っている。

「そうです。例年、夏休みに希望する生徒に実施していて……マグル生まれの卒業生の家族などに協力してもらって、2週間ほどのホームステイがあるんですよ。一般的なマグルの家庭に滞在して、マグルの生活様式を体験させるのが目的なのですが。昨年までは、マグル学のOWLを修了した生徒が対象だったのですが、やはりもっと早い時期に触れた方がいいのではないかと対象を広げようと動きがありましてね。貴方ならば、推薦しても大丈夫でしょう。勿論、費用はある程度かかりますが……」
「勿論です!」

レイチェルは身を乗り出し、バーベッジ教授の言葉を遮った。教授が驚いたように目を見開いたけれど、レイチェルには気にならなかった。マグルの家に行けるなんて、信じられない。パメラの家に泊まりに行ったことはあるけれど、知らないマグルの家と友達の家は全然別物だ。信じられない。夢みたい。胸がドキドキして、頬が段々と熱くなる。

「是非……是非、行きたいです」

行きたい。行ってみたい。だって、こんな機会二度とないかもしれない。たとえ100ガリオンかかると言われても、母親や父親に借金をしてでも絶対に行きたい。レイチェルが即答したことに気分を良くしたのか、バーベッジ教授がにっこりした。

「ゆくゆくは、1年生や2年生でも体験できるようになればと思っているんですよ。早いうちにマグルの生活様式を体験することは、大いに刺激になるでしょうし。……まあ、受け入れられる家庭の数に限りがあるので、現実にはなかなか難しいのですが」
「実現する日が待ち遠しいです」

レイチェルは頬が緩むのを抑えられなかった。なんて素敵な考えだろう。下級生のうちに、マグルの文化に触れられるだなんて。そして、レイチェルがマグルの家に行けるだなんて! それに、バーベッジ教授がレイチェルにこの情報を教えてくれたことも嬉しかった。レイチェルにだ。あのセドリックをさしおいて、レイチェルに!
丁寧にお礼を言って部屋を出ようとしたレイチェルの背中を、バーベッジ教授の声が追いかけてきた。

「……ああ、そうだ、ミス・グラント。ディゴリーにも、興味がないか聞いておいてもらえますか。休暇が明けたら、伝えようとは思っていたのですが」

ドアノブを回そうとした手が止まる。風船みたいに膨らんでいた気持ちが、針でつつかれたみたいに夢見心地から醒めていく。浮かれるあまりふわふわしていた足元が、途端にぺたりと地面についたような気分だった。

「……はい、勿論です、教授」

レイチェルは力なくそう返事をした。世界はそうレイチェルに都合よくは回らない。

 

 

「へぇ。ホームステイ」
「そう!とっても素敵だと思わない?」

マグル学の教室を出て5分、レイチェルは早速今聞いたばかりのホームステイについて聞かせていた。正直、やっぱり嬉しすぎて、誰かに話したくて仕方がなかったのだ。話し相手は勿論セドリック────ではなかった。

「まあ、興味はあるな。マグルの道具って案外便利だし、それに────」
「……悪戯にも使える?」
「まあね」

ニヤッと笑うジョージ────セーターにイニシャルが書いてあるのでそう判断した────に、レイチェルは小さく溜息を吐いた。今でさえ厄介なのに、フレッドやジョージがマグルの道具まで手に入れてしまったら、一体どんな悪戯グッズを発明するのだろう。想像もしたくない。

「できるなら、貴方のホームステイは来年にしてね。貴方やフレッドを受け入れたお家は次からホームステイをやめちゃいそうだもの」
「おいおい、俺達だってマグルの家に行ったら大人しくするぜ。お行儀よくする才能がないわけじゃないんだ」
「……夏休み、あの空飛ぶ車でマグルの家の窓を破壊したってアンジェリーナから聞いたけど」
「訂正、『善良な』マグルの家に限るな」

確かハリー・ポッターを迎えに行って、助けるために必要だったとか何とか。それにしたって過激だ。レイチェルの言葉に悪びれた風もなくそう返して来たジョージだったが、ふいに何かを思い出したかのように、難しい顔をして黙りこんでしまった。

「…………どうかしたの?」

珍しい表情に、レイチェルは戸惑った。と言うか、ジョージが会話の途中で黙りこむことからしてそもそも珍しい。何か変な事を言ってしまっただろうか。気まずい沈黙が辺りに満ちる。ジョージは少し躊躇ったような様子を見せたが、やがてゆっくりと口を開いた。

「ジニーの様子が最近おかしいんだ」
「え?ジニーが?」
「ああ。君、ジニーと仲良いだろ?何か聞いてないかい?」
「……初めての試験だから、不安なだけじゃないの?」

お互いに試験勉強もあるので以前ほど頻繁ではないけれど、ジニーとはちょくちょく顔を合わせている。確かにちょっと元気がないように見えたけれど、そんなの試験前の1年生には珍しいことじゃない。レイチェルが考えすぎじゃないかと口にすると、ジョージは顔を顰めた。

「飯も喉を通らないほどってか?」
「そんなに?」

レイチェルは驚いて目を見開いた。いくら試験が不安にしたって、確かにそれはちょっと尋常じゃない。第一、話している限りジニーは頭の回転がとても速い。そんなに勉強が好きじゃないようだけれど、そう落ちこぼれていると言うこともないだろう。確かに少し不自然だ。

「何か塞ぎこんでて……俺達に隠し事でもしてるみたいなんだ」
「ああ」

深刻なジョージの声に、レイチェルは思わずくすくすと笑ってしまった。そう言えばジニーの「隠し事」には心当たりがあった。たぶん────たぶん、この間のパーシー・ウィーズリーとペネロピーについての一件だ。勉強一筋で真面目な兄に彼女ができた事実はジニーを大いに動揺させたようだった。

『パーシーったら、蛙チョコレートなんて寄こすのよ。そんなものもらわなくたって、言いふらしたりしないのに』

そんな風にぼやいていたのも記憶に新しい。ジニーと言い、今のジョージの言葉と言い、本当に兄妹仲が良いんだなとレイチェルはなんだか微笑ましくなった。まあ、同じ感想を先日ジニーに伝えたときは「全然!」と顔を顰められたのだけれど。

「それなら、大したことじゃないわよ」
「知ってるのかい?」
「ええ。でも、言えないわ」

ジニーにも秘密にしてほしいとお願いされたし、あの後ペネロピーにも口止めされた。もしもレイチェルが当事者だったらと考えてみても、面白おかしく人に話されるのは気分が悪いだろう。だから、誰にも言うつもりはない。言えないが、そんなに深刻に心配する必要はないと伝えたかったのだが、ジョージは不満そうだった。

「おいおい、知ってるなら話してくれたって良いんじゃないか?」
「ダメよ。誰にも言わないって約束したんだもの。特に、あなたとフレッドには」

ジョージ達に知られようものなら、翌朝の大広間に大きく引き伸ばされた2人のツーショットが張り出されてしまいそうだ。パーシー・ウィーズリーが真っ青になるのが目に浮かぶようだった。俯いてくすくす笑っていると、ふいに視界が暗く翳った。

「……何を隠してる?」

思わず顔を上げると、ジョージの視線がレイチェルを見下ろしていた。レイチェルを真っ直ぐに見る薄い色の瞳は、普段からは考えられないくらい真剣だった。はぐらかすことはできそうにない。壁を背にしていたことが徒となってしまったのだろうか。顔の横に突かれた手が、レイチェルの逃げ場を塞いでしまっている。そして何より、張り詰めた空気がいつものジョージからは想像がつかなくて、レイチェルは戸惑った。何か言わなければと思うのに、声が喉に詰まって出て来ない。どうしてか目を逸らすこともできなくて、ただジョージの目を見返すことしかできない。そんなレイチェルの動揺は、ジョージにも伝染してしまったようだった。

「あー……ごめん」

そう呟いて、ジョージはばつが悪そうに視線を逸らした。壁に突かれていた手が、段々と下がっていく。今更ながらに、気恥ずしさが這い上がって来て、レイチェルも俯いた。いつもよりもずっと距離が近い。きっと今、自分の顔は赤いだろう。

「本当に、大したことじゃないのよ」

床のタイルへと視線を落とす。ようやく口にした言葉は随分と言い訳じみて響いてしまったけれど、真実だ。確かにジニーにとってはちょっとした事件だろうけれど、そんなに深刻に心配するような出来事じゃない。

「でも……その……あんまり、人に言いふらすようなことじゃないから……」

今ここで理由を話してしまうことは簡単だ。そうしたらきっとジョージも安心するだろう。けれどやっぱり、レイチェルの口から打ち明けてしまうのは躊躇われる。舌の上に苦いものが広がったような気がした。いっそ心当たりがないととぼければよかったのかもしれない。中途半端に知っているなんて言ってしまったから、お互いにきまりの悪い思いをするのだ。

「……ごめんなさい」
「別に君が謝ることないだろ」

ジョージが素っ気なく呟いた。さっきまでうるさく騒いでいた心臓は、ようやく落ち着きを取り戻そうとしていた。隣を歩くジョージをちらりと見上げてみたけれど、気だるげな表情で前を向いたまま、視線を寄こそうともしない。気まずい沈黙に、レイチェルはジョージに気づかれないよう小さく溜息を吐いた。
ジニーの「隠し事」についてはそのうち彼女の中で折り合いがつくか、あるいは何らかの形でジョージ達の知るところになるだろう。そもそも、ペネロピーのような素敵な恋人をわざわざ秘密にしておく必要なんてないだろうに。秘密の関係、と言うものにスリルやロマンを感じているのならともかく、あのときのパーシー・ウィーズリーの顔を見るに本当に付き合いがバレるのを恐れているようだった。まあ、たぶん、きっと、フレッドとジョージに知られてからかわれるのを恐れているのだろうけれど。気持ちはわからなくもないけれど、やっぱりペネロピーが気の毒な気もする。まあ、当事者同士の問題だからレイチェルが口出しするようなことじゃないけれど。
分かれ道に差しかかると、ジョージはクィディッチの練習があると言って競技場の方向へと向かった。その背中を見送って、レイチェルは知らず入っていた肩の力を抜いた。
窓の外の空は、夕焼けの色へと変わってきていて、いよいよもう休暇が終わってしまうことを示していた。特別楽しい休暇なわけでもなかったが、終わってしまうとなるとやはり何となく寂しさに似たものを覚える。結局、勉強漬けなだけの単調な日々だった。そして明日からもきっと、単調な毎日だ。試験が終わるまでは、ずっと。時計の針に急き立てられているようで窮屈だが、仕方がない。勉強をしなきゃいけないのも、余裕がないのも皆同じだ。ああ、そうだ。夕食の時にでもセドリックにバーベッジ教授の話を伝えなければ。

とりあえずは試験勉強に戻るため、レイチェルはレイブンクロー寮へ向かって歩き出した。とりあえず目標が出来た今、マグル学の勉強は頑張れそうだ。

 

薄氷の上の平穏

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