雪の季節のホグワーツはとても綺麗だ。地面を優しく覆う粉雪は、雲間から差し込む柔らかな日差しに照らされてキラキラと輝いている。薬草学や魔法生物飼育学など、屋外で行われる授業のとき遠目に眺めるホグワーツ城は、まるでマグルの絵本に出てくるお姫様の住むお城のようだった。
けれど、そんな美しい城の中で生活する生徒達は、お姫様のように幸福感で満たされていると言うわけにはいかない。「50年前に秘密の部屋が開かれたときには死んでしまった生徒が居たらしい」とか、「ハグリッドが世話をしているニワトリが誰かに殺されていたらしい」とか。そんな暗い噂ばかりが流れてくるせいもあって、誰もが神経を尖らせていた。そんなある日、大広間の前の廊下に1枚の羊皮紙が貼りだされた。

「決闘クラブ?」
「そう。今夜からだって! 行ってみましょ!」

パメラの提案には、レイチェルも勿論同意した。きっと、生徒達の不安を解消するために学校が気を利かせてくれたか、そうでなければ生徒の誰かがこう言う場を設けてほしいと頼んだのだろう。秘密の部屋に潜んでいると言う怪物に魔法使いの決闘が通じるかどうかはわからないけれど、正しい作法は知っておいて困るものじゃない。まあ、きっと実際に使う機会はないだろうけれど。
決闘クラブが始まる夜8時ごろ、明後日〆切のレポートの見直しをしたいから寮に残ると言うエリザベスを引きずって、レイチェル達は決闘クラブが行われる大広間へ向かった。中に入ると、そこはいつもレイチェル達が食事をするときとは随分様子が違っていた。壁に沿って金色の舞台が設置され、空中に浮かぶ蝋燭の灯りに照らされて鈍く光っている。その前には大勢の生徒が並び、興奮気味に囁き合っていた。

「随分と本格的なのね」

凝った細工のされている舞台をしげしげと眺めながら、エリザベスが感心したように言った。が、レイチェルは何と言うか……嫌な予感がした。本格的と言う意見もその通りだけれど、ものすごく派手だ。こんな派手な装飾を好むのは────と、考えたところで、わあっと歓声と拍手が沸き起こった。白い歯を輝かせながら登場したのはやっぱりレイチェルが今頭に思い浮かべていた通り、ギルデロイ・ロックハートその人だった。

「帰らない?」
「そうしたいけど……この混雑じゃ、出口まで辿りつけないわ」

うんざりしたように顔を顰めたパメラに、レイチェルは肩を竦めた。正直なところ、ロックハート教授から学べる物はあまりなさそうな気がする。それどこか、また何かトラブルが起きそうな予感さえする。来なければよかったかもしれない。……まあ、でも、魔法使い相手の決闘は本の中にも何度か出て来ていたはずだし、これこそが本領発揮と言うこともあるのだろうか? そんなことを考えていたレイチェルは、そこでようやくロックハート教授の影に隠れて見えなかったもう一人の講師の存在に気づいた。けばけばしいロックハート教授のローブとは対照的な、飾りのないシンプルな漆黒のローブを翻し、苦虫を噛み潰したような表情で歩いているのはスネイプ教授だった。

「相討ちでどっちも医務室送りになればいいのに」
「パメラったら!」

小さく呟いたパメラに、レイチェルは眉を寄せた。けれどどうやら、一部────主にロックハート教授のファンの下級生達────を除けば、大広間に居る生徒の大半がそう考えているらしいことは明らかだった。そして、今のスネイプ教授の表情や雰囲気は、本当に相手を医務室送りにしてしまいそうだ。生徒達が緊張して見守る中、2人は決闘の作法に従って向かい合って礼をした。そして────。

「スネイプ教授って……本当に、本当に優秀な魔法使いなのね」

そんなレイチェルの呟きは、歓声と悲鳴に掻き消されてしまった。けれど、正直な感想だった。いや、それとも……ロックハート教授があまりに弱すぎるのだろうか?そんな疑問が頭をもたげものの、とにかくスネイプ教授が放った武装解除呪文は凄まじかった。バーンと大きな音がしたかと思うと、ロックハート教授は杖を取り上げられるどころか、その体ごと背後の壁に叩きつけられていたのだ。長年、闇の魔術に対する防衛術の教授の座を狙っていると言う噂も納得の威力だった。スネイプ教授ってすごい。そして────そんな、何と言うかあまり格好のつかない姿を生徒達に晒したにも関わらず、「見え透いた手だったけれど、あえて呪文を受けた」なんて言ってのけるロックハート教授のメンタルの強さもすごい……。

「武装解除……去年試験前に練習したわね、そう言えば……怪物相手に効果があるとも思えないけど。だって、怪物は杖を持ったりしないでしょ?」
「まあでも……復習になるんじゃないかしら? 使えて困る術ではないですもの」

それからスネイプ教授とロックハートが生徒達の間を歩いて回って、それぞれの力量を調整しながら2人組を作っていった。レイチェルはスネイプ教授の裁量によって、エリザベスとペアになった。全員が2人組になったところで、ようやく武装解除呪文の練習が始まったのだけれど────レイチェルとエリザベスはお互いに向かって杖先を振ることはなかった。あちこちから飛んでくる呪文を避けるだけで、精一杯だったからだ。

「……決闘クラブって言うより、乱闘クラブって感じね」

そう言えば、「武装解除をやりなさい」と言われただけで、杖の振り方や呪文の発音のコツも説明されていないのだ。初めて呪文を知った下級生には難しいだろう。既に呪文を知っている上級生はまともに武装解除をやっているようだけれど、下級生達はもはや自分の知っている好き勝手な呪いをかけ合っている。レイチェルは、壁にぶつかって跳ね返って来た呪文に当たらないよう1歩脇へと退いた。あれはたぶん、くらげ足の呪いだろう。妙な呪いの被害に遭わないよう、レイチェルはエリザベスと一緒に壁際へと移動することにした。交錯する色とりどりの光線。笑い転げる生徒や、鼻や手足がおかしなことになっている生徒。混沌と化した大広間に、この様子だときっと第2回は開催されないんだろうな、とレイチェルは小さく溜息を吐いた。

 

 

 

それから30分後、レイチェル達は大広間を出て廊下を歩いていた。同じようにレイブンクロー塔に戻る生徒達の話し声で、辺りはざわついている。人が多いと言うのを差し引いても、ここまで騒がしくなってしまうのには理由があった。重なり合うおしゃべりの声はたくさんあっても、その話題は1つきりだった。さっきの決闘クラブで起こった奇妙な出来事についてだ。

「ねえ、レイチェルはどう思う? さっきの」
「わからないわ」

パメラの問いに、レイチェルは静かに首を横に振った。そして、パメラの言う「さっきの出来事を思い返してみる。あの後、模範演技として、なぜかまだ2年生のハリー・ポッターとドラコが指名された。2人はまあ、2年生だと言うことを考えるとものすごく優秀で、それなりに決闘らしい呪文の応酬をしていたのだけれど───ドラコが呪文で出した蛇に対してハリー・ポッターが取った行動は、誰の目から見てもあまりに異質だった。シューシューと空気の擦れるような奇妙な音を出して、蛇と話をしたのだ。そして、近くに居たハッフルパフの男の子────パドマやリサの話によると、彼女達と同じ学年でマグル生まれらしい─────に、蛇をけしかけた。実際ハリー・ポッターが蛇とどんな会話をしたのかも、本当に蛇と話をしていたのかもわからないけれど、少なくともレイチェルにはそう見えた。

「って言うか、蛇語喋れるってそんなにマズいことなわけ?」

パメラが怪訝そうに首を傾げた。エリザベスは信じられないと言いたげに眉を顰めたが、確かにこれに関しては魔法使いの間の常識なので、マグル生まれのパメラに怒るのは理不尽だと考え直したらしい。1度深く溜息を吐き出すと、苛立ちを抑えた声で静かに呟いた。

「スリザリンのシンボルがどうして蛇なのか知っていて?」
「サラザール・スリザリンがパーセルマウスだったからよね?」

どうやらそれもやっぱり知らないらしいパメラの代わりに、レイチェルが答えた。秘密の部屋の伝説なんて細かい部分は覚えていなかったけれど、有名な話だしこれくらいは知っている。マーミッシュ語やゴブルディクック語とは違って、勉強して習得することはかなり難しいらしい。全く不可能ではないらしいけれど……大抵は、生まれつきの才能だ。つまり、ものすごく珍しい。1番有名なのはやっぱり、サラザール・スリザリンだ。スリザリンが、闇の魔術に傾倒していたと言われていたせいなのか、お年寄りはパーセルマウスを気味悪がる人が多い。小さい頃セドリックと一緒に庭で蛇を見つけて観察していたら、おじさんやおばさんにはまさか蛇と話をしていたんじゃないかと驚かれた記憶がある。

「ええ、そう。そうよ。だから……もしかしたら……もしかしたら、ハリー・ポッターは、スリザリンと何か関わりがあるのかもしれないわ」
「まさか!」

要するに、エリザベスはハリー・ポッターがスリザリンの継承者なんじゃないかと疑っているのだろう。レイチェルは思わず笑ってしまったけれど、エリザベスの表情は真剣だった。レイチェルは笑ってしまったことが気まずくなって視線を逸らした。確かに、パーセルマウスが希少なのは事実だけれど────だからと言って、歴史上にサラザール・スリザリンただ1人と言う訳じゃない。それに、何より。

「だって……ハリー・ポッターはグリフィンドール生じゃない。それに、確か……リリー・ポッターはマグル生まれのはずでしょ?」

だとすれば、ハリー・ポッターは半純血のはずだ。サラザール・スリザリンのように、マグル生まれを排斥しようとするのは純血主義者の考え方だろう。自分自身が純血じゃないのに、純血主義なのって矛盾している気がする。だってそれだと、自分の生まれや家族を否定することになってしまうじゃないか。レイチェルがそう言うと、パメラが納得したように頷いた。

「そうよね。グリフィンドールとスリザリンって仲が悪かったんでしょ? それなのにグリフィンドール生がスリザリンの継承者だなんて、変じゃない?」
「いいえ。かつてはグリフィンドールとスリザリンは親友同士だったのよ。それに、ポッター家は純血の家系ですもの……スリザリンの子孫と言う可能性もゼロではないでしょう? それに、1000年も前の人だもの。もしかしたら、ハリー・ポッター自身がスリザリンの生まれ変わりかも……」

しかし、エリザベスの疑惑を晴らすには足りなかったらしい。真剣な表情でそんなことを言い出したエリザベスに、レイチェルは何と返事をしていいものかわからなかった。確かに可能性はゼロじゃないかもしれないけれど、いくら何だってこじつけと言うか……話が飛躍しすぎている気がする。

「馬鹿馬鹿しい! そんなこと言ったらエリザベス、あなたやレイチェルだってスリザリンの子孫になっちゃうわよ!」

パメラも同じことを思ったらしい。呆れたような声に、エリザベスはようやく自分の考えが極端だと言うことに思い当たったらしかった。確かに、その理論でいくと魔法族の家系なら誰でもスリザリンの子孫かもしれないことになってしまうし、生まれ変わりと言うのなら血筋も関係なくホグワーツの生徒全員に可能性がある。青白かったエリザベスの頬にほんのりと赤みが差し、恥じ入るように俯いた。

「ええ……そうね……そう……馬鹿な事を言ったわ……忘れて頂戴」
「まあ、確かにパーセルマウスって言うのは私もびっくりしたわ。そもそも、スリザリンが蛇と話ができたなんて、本当かしらって思ってたもの」

エリザベスの肩をポンポンと叩いて、レイチェルは慰めの言葉を口にした。ハリー・ポッターがパーセルマウスだと言うことは驚くべきことだし、あまり魔法界では歓迎されないのも事実だけれど……それだけで、猫や下級生を襲って石にした犯人だと決めてかかるのはあまりにも気の毒だ。
よりによって、生き残った男の子がスリザリンの継承者だと疑うなんて。全くもって、馬鹿げた話だ。

 

 

 

ところが翌朝になって、レイチェルはどうやらエリザベスと同じように考えた人が決して少なくなかったことを知った。朝食のとき、大広間にハリー・ポッターが姿を現した瞬間、生徒達はまるで水を打ったように静まり返り、ひそひそと囁き始めたのだ。ほんの1ヶ月前までは、ブラッジャーの暴走の件で素晴らしいシーカーだとちやほやしていたのに。ホグワーツの人々はよくこうも頻繁にハリー・ポッターに対する態度を変えられるものだと、レイチェルは半ば感心、半ば呆れのような感情を抱いた。

「でもさあ、俺、正直ポッターならできるかもなあって気がするんだよな」

ロジャーもどうやらその考えを持つ1人らしい。額にかかる前髪の角度を気にしながら、ロジャーはそんな風に呟いた。あっけらかんとした口調からすると、ロジャーの場合は、他の人達のようにハリー・ポッターのことを怖がっていると言うわけではなさそうだったけれど。

「ほら、去年のトロールとかの件もあるしさ。いくら1対1じゃなかったって言っても、大の大人でも手こずるトロールを1年生が倒すなんて普通じゃないだろ?」
「……運が良かっただけじゃないの?」
「それに、他にも色々と目立つことやってるしなー。赤ん坊のとき、どうやって例のあの人を倒したかって言うのもわからない。それに、赤ん坊の時だけじゃない。去年もだ。闇祓いが束になったって敵わなかって魔法使い相手に、2度もだぜ。何て言うか、色々な意味で規格外だよな。だろ?」

ようやく納得いく角度になったらしい。整った顔がレイチェルを振り向いた。別に、ロジャーがハリー・ポッターを継承者だと考えるのはロジャーの自由だ。それについてレイチェルに意見を求めてくるのも、まあ構わない。だが、それはタイミングが今じゃなければの話だ。

「…………あのね、ロジャー。忘れてるみたいだけど、今は一応授業中なのよ」

レイチェルは鞄の中にペンケースを詰め忘れたことを後悔した。レイブンクロー塔まで取りに行っていて始業ギリギリに駆け込んだせいで、同じく遅刻ギリギリだったロジャーの隣しか席が空いていなかったのだ。じとりと冷たい視線を向けたレイチェルに、ロジャーはちらっと教壇に視線を向けて肩を竦めてみせた。

「これは授業って呼ばないだろ? レイチェルだって、今開いてるのは呪文学だし?」
「……まあね」

ギルデロイ・ロックハートの授業は、最近ではレイチェル達レイブンクロー生にとってはすっかり自習時間として扱われていた。正確に言えば、本人は教壇に立って朗々と声を張り上げ、アイコンタクトや身振り手振りで熱心に生徒達に向かって講義を行っているのだけれど────その内容はと言えば、毎回自分の冒険活劇をドラマチックに語るだけのものだったので、今となっては真剣に聞いている生徒はごく少数だった。

「そこで、私が一体何の呪文をかけたか……わかりますか、ミス・フォーセット?」
「あっ、すみませーん。先生の声に聞き惚れていて、内容まで耳に入ってませんでした」
「そうですか。それは仕方がありませんね。では、ミス・ヴォーボワール!」
「私もです。すみません、教授」

耳塞ぎ呪文をかけて自習するか、おしゃべりをするか、面白がってロックハートの演劇を鑑賞するかのどれかだ。レイチェルは大体自習なのだけれど、今日はロジャーが話しかけてきて集中できないから無理そうだ。向こうの席ででガリガリと羽根ペンを動かしているエリザベスを羨ましく見つめながら────たぶんあれは魔法史のレポートだろう────レイチェルは観念して羽根ペンをペンケースにしまった。ロジャーがニヤッと笑い、会話を続ける。

「それにさ、昨日の決闘クラブのこともあるし。レイチェルも居たよな?」
「エリザベスもそれで不安がってたけど……パーセルマウスってだけで継承者だって決めつけるのは、いくら何でも無理があるんじゃない?」
「でも、あの蛇、けしかけてるみたいに見えただろ?」
「ええ、まあね。確かに、そう見えたけど……でも、本当のところはわからないわ。私は蛇語がしゃべれないもの」
「でもさ……」

ハリー・ポッターがあの蛇に対して「襲え」と言っていたのか、それとも「今日はいい天気だね」と話しかけていたのかなんて、レイチェルにはわからない。実際、あの男の子は蛇に襲われはしなかった。肩を竦めたレイチェルにロジャーが何か言いかけようとした、その時だった。

「襲われた!襲われた!またまた襲われた!」

この声はピーブズだ。しかも、声の響き方からして、ここからかなり近い。どうやら、廊下の方だ。バタンバタンと、あちこちの教室の扉が開く音がする。レイチェル達のクラスも同じで、廊下側に座っていた誰かが、ドアを開けて勢いよく外に出て行った。他の同級生達もそれに続く。ガタガタと椅子から立ち上がり、何があったか見ようと廊下へと走って行った。

「大丈夫です、皆さん! この私が一緒なのですからね! 落ち着いて! 落ち着いて!」

ロックハートがそう言って杖を振り回していたけれど、教室に残っている生徒は少なかったし、そもそも1番騒いでるのはたぶんロックハートだ。レイチェルは呆然と椅子に座りこんだまま、動けずに居た。何が起こっているのか、全くわからない。「襲われた」────ピーブズの言うことだから、嘘かもしれないけれど……本当だとしたら、今度は一体誰が? 廊下に出てみれば何かわかるのかもしれない。けれど、レイチェルとロジャーの座っている位置からでは、ドアに群がって廊下を覗きこんでいる同級生達の背中しか見えない。
廊下はしばらく混乱していたようだったけれど、どうやらマクゴナガル教授がその場を収めたらしい。教室に戻ってきた同級生の話によって、レイチェルは大体の状況を把握することができた。マグル生まれのハッフルパフの2年生と、そして首ほとんどなしニックが襲われたらしい。そして、その場にはハリー・ポッターが居合わせたと言う。

「……なあ、やっぱり、ハリー・ポッターが継承者なんじゃないか?」

困惑したように首を傾げたロジャーに、レイチェルは何も言葉を返すことができなかった。
こんな、明るいうちから事件が起こるだなんて。しかもこんな、たくさんの人が居る教室の目と鼻の先で。ミセス・ノリスもコリン・クリービーも、襲われた場所は人気のない廊下だったし、どちらも夜だった。それに、ゴーストが石にされるだなんて……一体、どんな闇の魔術を使ったらそんなことが起きるのだろう。ゴーストに、生きていない人間さえも石にしてしまうなんて。背筋がゾッとして、レイチェルは寒気に思わず腕を擦った。鳥肌が立っている。
ロックハートは授業を再開しようと努力していたけれど、生徒達はすっかり落ち着き失ってしまったせいでそれは不可能に近かった。レイチェルも、ぼんやりと開いたままの教科書の文字を追うしかできなかった。内容は頭に入って来ない。
不安げな囁き。誰かの泣き声。悲鳴。悲痛な響きばかりが耳に残る。これで、事件が起こったのは3度目だ。1度目は猫。2度目は人間。そして、今度は2人も同時に襲われた。どんどんエスカレートしていることは、明らかだ。恐怖が、じわじわと背後に迫って来ているのを感じる。────怖い。

「……早くクリスマス休暇になればいいのに」

ぽつりと呟いて、レイチェルは窓の外を見た。大好きな景色。大好きな場所。大好きな人達。温かで楽しい思い出がたくさん詰まった、美しい城。4年間過ごして来た、レイチェルのもう1つの家。けれど────今のホグワーツは、レイチェルの知っているホグワーツじゃない。

オッタリー・セント・キャッチポールに、帰りたい。

美しい鳥籠

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