学年が上がるにつれて、比例するように課題の量は増えていく。けれど、レイチェルの気力や体力はそこまで目覚ましく右肩上がりと言うわけにはいかない。
そんなわけで最初の週末は、溜まった疲れを取ることと、手紙を書くことによって終わってしまった。宛先はディゴリー夫妻、母親、父親、そしてチャーリーだ。学校が始まってまだ1週間しか経っていないのに、幸か不幸か書くことには困らなかった。キングズクロス駅でマルフォイ夫人と話したこと(『とても優雅で上品で素敵な人でした』)、空飛ぶ車で登校したハリー・ポッターのこと(『新学期初日からあんな騒ぎを起こすなんて、本当に信じられないわ』)、ロックハート教授の授業のこと(『ママの言っていた通り、あの人は鏡に映る自分に向かって授業をするのが1番幸せなんじゃないかなって思います。教室の内装もすごいのよ』)、そして、チャーリーに頼まれていたジニーのことだ。
結論から言うと、たぶん、チャーリーの心配は杞憂だったのだと思う。ウィーズリー家の子供達に共通する燃えるような赤毛は、2つ離れたレイブンクローのテーブルからでもすぐに見つけることができる。豊かな赤毛を揺らして笑うジニーは、グリフィンドール寮内でとても上手くやっているようだった。わざわざレイチェルが手を差し出す必要なんてないほどに。
せっかくなので少し話してみたかったけれど、ジニーはいつも大勢の友達に囲まれていたし、いきなり面識のない他寮の上級生から話しかけられたら萎縮させてしまうだろう。
────あなたの可愛い妹は、皆からとても好かれているようです。
手紙をそう締めくくって、レイチェルはふくろう小屋へ向かった。いつもなら、週末のふくろう小屋ではドラコと会うことが多いのだけれど、どうしてかドラコは現れなかった。まあ、元々待ち合わせの約束をしていたわけでもないので、別に来なくても何も不思議じゃないのだけれど……筆まめなドラコにしては珍しい。
最初の週末だから、ドラコもゆっくり寝たいのかもしれない。そう考えて、レイチェルはあまり気にしなかった。そのときはるか数十メートル下のクィディッチ競技場で何が起こっているかなんて、知るはずもなかったから。

「ニンバス2001?」

週明けの朝食の席で、レイチェルはかぼちゃジュースのゴブレットを片手に首を傾げた。パメラやエリザベスも似たような反応だ。オウム返しに繰り返したレイチェルに、ロジャー・デイビースは深刻そうに頷いてみせると、食べかけのトーストも放ったらかしのまま、ぐしゃぐしゃと頭を掻き毟った。

「そう! あー、マジ、ありえねーって! 1本でも厄介だってのに何で7本もあるんだよ!」

ロジャーが聞いた話によると、スリザリンの選手の誰かの親が、チーム全員にニンバス2001を寄付したらしい。言わずと知れた、この夏発売されたばかりの最新の箒だ。つまりは、それなりに高価だと言うことである。それを7本もポンと買ってしまうなんて、さすが名家のご子息だらけのスリザリンと言うか……ものすごく太っ腹な話だ。

「エリザベスの家なら、それくらい買えるんじゃないの?」
「お父様、クィディッチはお嫌いなの。お兄様がクィディッチの虜だから」

パメラの言葉に、エリザベスへと視線が集中する。レイブンクローで寮チーム全員分の箒を寄付できそうな家と言えば、真っ先に思いつくのはエリザベスのプライス家だ。勿論パメラの冗談なのだけれど、ロジャーは少し期待したらしい。静かに首を横に振ったエリザベスにがっくりと肩を落とし、そのまま机の上へと突っ伏した。

「試合の前に箒に細工しといた方がいいかもな。スリザリンチームが乗ったら振り落とされるように」
「ロジャーったら。それじゃ、2度とスリザリンチームが卑怯だなんて言えなくなるわよ」

生気のない目をして呟くロジャーに、レイチェルは溜息を吐いた。気持ちはわからなくもないけれど、それはどう考えても問題行為だ。それに、ロジャーは随分と悲観しているけれど、レイブンクローチームで使っているコメット260だって悪くはない。まあ、ニンバス2001に比べれば性能が多少劣ってしまうことは否めないだろうけれど。

「結局は実力だと思うわ。いくら箒が良くても、乗り手が使いこなせなければ意味がないもの」

チョウがきっぱりとそう言った。レイブンクローチームでシーカーを務める彼女の口がそう言ってくれることはとても頼もしい。周囲もそうだそうだと同調し、歓声と拍手が沸き起こった。レイチェルもチョウの言う通りだと思う。レイブンクローの寮チームは、優秀な選手ばかりだ。クィディッチは、ただ速く飛べばいいだけの競技じゃないのだから、レイブンクローの得意とするチームプレーを徹底すれば、ニンバス2001が相手だったとしても十分に勝利の可能性はある。

「ただ問題は、スリザリンの選手は普通に実力もあるってことよね」

マリエッタの呟きに、しん、と重たい沈黙が落ちた。
いくら反則やラフプレーが多いとは言っても、去年優勝したのはスリザリンチームだ。それに、あの誰よりもクィディッチに情熱を注ぐオリバー・ウッド率いるグリフィンドール。夏休みのチャーリーの特訓でシーカーとしての腕をめきめき上げたセドリック。そして、我らが戦略のレイブンクロー。
今年のクィディッチ杯は荒れそうだ。

 

 

 

ニンバス2001の影響は、思いも寄らないところまで及んでいた。
レイブンクローの午前最初の授業は魔法薬学だった。つまり、ハッフルパフとの合同授業だ。授業が始まる前の休み時間に、シーカーであるセドリックの口からニンバス2001の話題は出るのは当然として、そこにロジャーや他の男の子達が加わるのもまあ妥当だろう。しかし、実のところ誰よりも箒のことが気になっていたのは、レイチェル達にとっては予想外の人物だったらしい。

「ねえ、セド」
「何?」
「機嫌が悪いとすっごく困るけど……機嫌が良くても、それはそれで、困ったことになるみたいね?」

鍋の中でふつふつと煮立っている魔法薬をかき混ぜながら、レイチェルは隣で作業しているセドリックにこっそり囁いた。セドリックが丁寧に刻んでくれた雛菊の根を入れると、液体はトロリと艶のある勿忘草色へと変わる。ここまでは教科書通りだ。

「私語はダメだよ、レイチェル

セドリックが困ったように苦笑して、自分の鍋をかき回し始める。模範生そのものの発言に肩を竦めて、レイチェルはちらりとセドリックの鍋の中を盗み見た。そして、こっそりと心の中で拳を握りしめる。レイチェルの薬の方が、教科書の写真の色に近い。沸騰している鍋を1度火から下ろし、レイチェルは教室の中を見渡した。
大鍋爆発の常習犯であるパメラ曰く『性悪の大コウモリ』のスネイプ教授は、いつものように滑るように静かに移動して地下牢を監督していたが、その口元はほんの少し緩んでいるように見える。生徒達の作業を注意する声も、いつものネチネチした口調ではなく、どことなく柔らかい。レイチェルは教科書のページを捲りながら、スネイプ教授の声って実はかっこいいんだなあなんて呑気な感想を抱いた。しかし、魔法薬学を苦手とする生徒達からすると、今日のスネイプ教授の様子は却って不気味らしく、部屋の中には何とも言えない奇妙な緊張感が漂っていた。いつもニコニコしているセドリックが黙り込んでいると心配になるのと同じで、いつも不機嫌そうなスネイプ教授が上機嫌だと、それはそれでを不安を呼んでしまうものらしい。

「ウィーズリー。あなた方は、顔を突き合わせるとカナリヤのことしか考えられないようですね」

その一方で、マクゴナガル教授はピリピリと苛立っていた。いや、表向きはいつも通り振る舞おうとしていることは見て取れたのだけれど、いつも以上に唇が真一文字に引き結ばれてしまっている。とは言え、それはマクゴナガル教授が教室に入る前に「実は自分もアニメ―ガスになることくらいお茶の子さいさい」とか言っていた────事実なら未登録なので法律違反だ────ロックハート教授のせいかもしれないので、箒のせいだけとは言い切れないけれど。しかし、ウィーズリーの双子がふざけて───まあこれはいつものことだ───白いハトに変えるはずの花瓶を何度やってもカナリアへと変身させてしまうのにこめかみを引きつらせたマクゴナガル教授の唇が、確かに「クィディッチ!」と形作ったのをレイチェルは見た。
水色にピンク、レモンイエロー。色とりどりのカナリヤが飛び交う教室は華やかだったけれど、マクゴナガル教授の視線はダイアモンドダストもかくやと言うほど冷えていた。自分が変えたハトを撫でてやりながら───ちょっと羽根の先に陶器の質感が残っているけれどまあまあの出来だ───レイチェルはあの双子はなぜ才能があるのに真面目に伸ばす気がないのだろうと首を傾げた。元が白い花瓶なのだから、ピンクや水色のカナリヤに変えるよりも白いハトに変える方が、ずっと簡単なはずだ。
午後の授業の呪文学でも、フリットウィック教授は去年の復習である元気の出る呪文を失敗してしまったロジャーに、頑張りなさいとバシバシ肩を叩いて激励した。やっぱり、先生達もニンバス2001のことが気になっているらしい。ことクィディッチの話題となると、ホグワーツの人々は目の色を変えるものなのだ。

「あ、レイチェル!」

全ての授業を終えて図書室へと向かっていると、後ろから誰かに名前を呼ばれた。聞き覚えのある声に振り返れば、そこには仲良しの友人達が居た。アンジェリーナ、それにアリシアだ。2人とも制服からラフな普段着へと着替え、片手には箒を持っている。きっとこれからクィディッチの練習なのだろう。

レイチェルったら、また図書室?」
「ええ、まあ。2人はこれから練習でしょ? 頑張ってね」
「そう。ここのところほとんど毎日よ」
「去年はほら、優勝を逃しちゃったでしょ? 今年こそはってオリバーが張り切っちゃって」
「ああ……」

そう言えば、去年グリフィンドールは惜しくもクィディッチリーグの優勝を逃したのだ。最終試合の日に、ハリー・ポッターが医務室で寝込んでしまっていたのが原因で。レイブンクローは勝利したけれど、チョウやロジャーはこんな勝ち方じゃ意味がないと納得していない様子だった。レイチェルがそんなことを思い出していると、アンジェリーナが長い溜息を吐いた。

「その上、スリザリンチームがニンバス2001が手に入れちゃったから、オリバーったらもう手がつけられないの」
「ああ。聞いたわ。スリザリンチームの誰かの家の寄付だって」
「ルシウス・マルフォイよ! あの嫌味な!」

アリシアが顔を顰める。ルシウス・マルフォイ。レイチェルは直接会ったことはないけれど───そう言えばキングズクロス駅でも見なかったような気がする───、ドラコの父親だ。大変な資産家で、確かホグワーツの理事もしているくらいだから、彼にとっては箒の数本くらいレイチェル達がハニーデュークスで蛙チョコレートを買うくらいの感覚なのかもしれない。しかしだ。

「マルフォイって……え、でも、ドラコはクィディッチチームじゃ……」
「シーカーになったのよ、ヒッグズの代わりに。私達も、この間の土曜日に知ったばっかりなんだけど。マルフォイの教育のためとか言って、うちが競技場の予約してたのに横入りしてきて、ウッドはカンカンよ」
「……シーカー? ドラコが?」

確か、寄付をしたのは選手の誰かの親と言う話だったはず。そう思ってレイチェルが首を傾げると、アリシアがその疑問に答えてくれた。それで、土曜日はふくろう小屋に来なかったのかと納得する。ドラコがシーカー。そうだ、そう言えばドラコもクィディッチをやると言っていた。2年生になったのだから、ドラコも選手に立候補できる。しかもシーカーだなんて、すごいことだ。今度会ったら、おめでとうと言わなければ。

「にしても腹立つわよね、マルフォイの奴!思い出したらむしゃくしゃしてきたわ」

友人の快挙を素直に嬉しいと感じたレイチェルだったけれど、アンジェリーナの呟きによってその感動からは引き戻された。グリフィンドールの彼女達がスリザリンを毛嫌いするのは、今に始まったことじゃない。けれど、それが何と言うか、あまりにも深刻そうな響きを持っていたからだ。

「何かあったの?」

レイチェルが尋ねると、アンジェリーナとアリシアは気まずそうに顔を見合わせる。
2人の表情に、何だか嫌な予感で胸がざわついた。そんな予感、できれば当たってほしくはなかったけれど。

 

 

「ドラコ!」

大広間。クィディッチ競技場。ふくろう小屋。スリザリン寮の近くの廊下。心当たりのある場所を探し回った結果、ドラコはレイチェルの最初の目的地だった図書室に居た。窓から離れた通路は、背の高い本棚によって光が遮られてしまうせいで、まだ夕方だと言うのに夜のように薄暗い。階段を駆け上がったせいで息を切らしているレイチェルに驚いたのか、ドラコはアイスブルーの瞳を一瞬見開いた。

「ハーマイオニーに、『穢れ……』……ひどいことを言ったって、本当?」

いきなり問い詰められても、きっとドラコにはわけがわからない。だから、自分が今何について話をしようとしているのか、きちんと口にしようと思ったけれど、やっぱりどうしても躊躇ってしまう。日常では、ほとんど聞くことのない言葉だ。そして、絶対に使ってはいけないときつく言い聞かせられた言葉でもある。それくらい、ひどい言葉だ。けれど、ドラコはそんなことかと言いたげに小さく鼻を鳴らした。

「ああ。言った。それが、君に何の関係が?」

突き放すようなドラコの口調に、思わず怯みそうになる。レイチェルはギュッとスカートの裾を握り締めた。確かに、ドラコの言う通りなのかもしれない。ドラコとハーマイオニーの間に何があろうと、それは2人の問題で、レイチェルが口を出すのはきっと筋違いだ。まして、今のレイチェルは、友達同士が喧嘩してしまうのは悲しいなんて言う正義感で動いているわけでもない。けれど────けれど、この件に関しては、無関係を貫くことはできそうになかった。

「ハーマイオニーは……私の、友達だわ」

ドラコがそうであるように、あまり感情的にならないよう────毅然と振る舞おうと思うのに、喉の奥で勝手に声が震えてしまう。泥のように、重たいものが胸に積もっていく。何が言いたいのか、自分でもよくわからなかった。頭の中がぐちゃぐちゃだ。喉がつかえて、言葉が上手く出て来ない。

「それに、私の親友の1人は、彼女と同じマグル生まれよ」

そうだ。だから、大切な友達を侮辱しないでほしい。そんな人とは、仲良くできない。そう続けようとして、レイチェルは口をつぐんだ。そもそも、ドラコとレイチェルは友達なのだろうか? いつも、週末にはふくろう小屋で会っている。顔を合わせれば、会話もする。けれど、待ち合わせて一緒に居るわけじゃない。また会おうと約束しているわけでもない。
そもそも今、ドラコに抱いている感情は何なのだろう? 失望した? 見損なった? こんな人だと思わなかった? 嘘だ。確かにレイチェルは、ドラコが『穢れた血』と口にしたと聞いて驚いた。けれど、「ドラコがそんなことを言うはずがない」とは言えなかった。ドラコなら言うかもしれないと、そう思ってしまった。レイチェルは知っていたのだ。ドラコなら、あのマルフォイ家の人間なら、そう口にすることを躊躇わない可能性に。

「ドラコ」

目の前に居るのは、レイチェルよりも背が低くて、まだあどけなさの残るような年下の男の子なのに、冴え冴えとした視線はレイチェルを容赦なく射抜く。ドラコはスリザリン生なのだと、今更に実感した。スリザリン生にだって、純血主義じゃない生徒は居る。家の都合で、そうしなければいけない子供が居ることを、両親に失望されたくないと、スリザリンを選ぶしかなかった生徒が居ることだって知っている。けれど、ドラコはきっとそうじゃない。

「貴方が私とこうして会話をしてくれるのは……私が、貴方達の言う『純血』だから? 私が……もしも、ママがマグル生まれの魔女で、私がその娘でも、貴方は同じように接してくれた?」

レイチェルはドラコやエリザベスのような名家の生まれじゃない。けれど、両親も、祖父母も、その先祖も、皆魔法使いだ。彼らの言う『純血』の魔女だ。どんなに「生まれなんて関係ない」と主張したところで、今の魔法界では純血が得をして、マグル生まれが損をすることがたくさんある。そのことに気づかずにいられるほど、もうレイチェルは幼くもないし、無垢でもない。
レイチェルの母親がマグル生まれだったら、ミセス・マルフォイはその本を手に取ってくれただろうか? 今までずっと、蓋をしていた疑問だった。考えてしまったら、穿った見方をせずには居られないから。差し伸べられる手が、「自分が純血だからなんじゃないか」なんて疑うよりも、相手が親切な人だからなのだと思いたかったから。
重たい沈黙が立ち込める。「そんなことはない」とドラコが言ってくれるのを待った。言ってほしかった。そうしたらきっと、レイチェルはまだドラコの友達で居られる。ただカッとなって口が滑ったんだと、言い負かされそうになったのが悔しくてつい、言うべきではない言葉を使ってしまったんだと……たった一言、「ごめん」と言ってくれれば、ドラコは本当は優しい男の子なのだと、そう信じることができる。けれど、ドラコは何も言わない。戸惑った様子も見せず、ただじっと、冷たい青い目でレイチェルを見返しているだけだ。その事実が、レイチェルの胸を刺した。

「……そう」

レイチェルはそっとドラコから視線を外した。「わかったわ」震える声で呟き、踵を返して図書室を後にした。壁一枚向こうの静けさが嘘のように、廊下は生徒達の笑い声で溢れている。滲んで来る涙を見られないように、レイチェルは俯いて早足で廊下を急いだ。
最低だ。そう思った。ドラコにじゃない。自分に対してだ。
『穢れた血』。ハーマイオニーならきっと、それがどんな意味かに気づいた。言葉の重みも、その裏の嘲笑も。どんなに、傷ついただろう。彼女は、誰よりも努力している、賢くて優秀な魔女なのに。
胸が苦しい。けれど、今のレイチェルに傷ついたなんて被害者ぶる資格はないように思えた。
アンジェリーナ達から話を聞いた時、レイチェルはドラコを疑った。ドラコがそんなことを言うはずがないとは、言えなかった。この間の中庭での一件が頭をちらついて、ドラコを信じられなかった。
もしもこれがドラコじゃなくエリザベスだったら、レイチェルはきっと言っただろう。エリザベスがそんな言葉を口にするはずがない。大切な親友の名誉を傷つけるような無責任な発言は許さないと。
言えなかった。庇えなかった。ドラコなら言ってもおかしくないと、心のどこかできっとわかっていたのだ。
ドラコがハーマイオニーを見下していると知っていて、見ない振りをしていた。どちらにも、いい顔をしていたかっただけだ。ハーマイオニーがマグル生まれだと言うことも、ドラコが純血主義の家の子供だと言うことも。2人が相容れない立場に居ることなんて、もうずっと前から知っていたのに。
去年ハーマイオニーと喧嘩した時、彼女は「レイチェルと友達になれてよかった」と言ってくれた。笑ってくれた。けれどきっと、今のレイチェルはハーマイオニーの友達には相応しくない。
自分の不誠実さに、偽善に、腹が立った。情けなかった。今すぐ、どこかへ消えてしまいたい。
レイチェルはハーマイオニーの友達で居たい。パメラの親友だ。ペネロピーに憧れている。彼女達と、胸を張って付き合いたい。そのためには、純血主義は許してはいけないものだ。純血主義は、彼女達の聡明さを、人格を、全てを否定して踏みにじるものだから。
だから、ドラコ・マルフォイも、ナルシッサ・マルフォイも、遠ざけなければいけない。彼らが悪い人でないことは知っている。彼らが、彼らが引いた輪の内側の相手には、とても親切だと言うことも。けれど、その輪の外側の人には驚くほど無関心で、残酷だ。どんなに彼らがレイチェルに優しく接してくれたとしても、レイチェルだけに優しいのでは意味がない。
ハーマイオニーもパメラも、レイチェルにドラコとは付き合うななんて言わない。ドラコと友達だから、レイチェルも純血主義なんだなんて誤解したりもしない。けれど、彼女達に誠実でありたいのなら、ドラコとは距離を置くべきだ。自分の友達を馬鹿にしている人間の隣で平気で笑っていられるような、無神経な人間にはなりたくない。ドラコの冷酷さから目を逸らすことも、今のレイチェルにはもうできない。

数日後、ディゴリー夫妻、母親、父親、それにチャーリー。レイチェルの元には、送った手紙の返事が返ってきた。けれど、次の週も、その次の週も。レイチェルは、ふくろう小屋へと足を運ぶことはなかった。

土曜日の歪み

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